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7/10

砂のように消えたい



 「やめたいですよ。こんな死に方なら。だってこれのどこが安楽死なんですか!!」

 

 ──決めた。俺も執行者を辞める。ガスの出るボタンを押すくらいならと思っていたが、こんな人殺しやってられるか!


 「よし。逃げよう」

 「・・・え?」

 「一緒に逃げるんだよ。あ、一緒じゃなくても良いけどさ」

 「でも、ボーナスが──」

 「んなもんいるか! この状況から逃げ出せるなら喜んで捨てるわ!」

 「い、1千万ですよ!?」

 「う、うるせえな! 確かに1千万はほしいよ! 100万でもな!だけど俺には無理だ」


 刀をふるだけでも、引き金を引くだけでも、爆弾を投げるだけでも。人を、それも子供を殺すなんてやってられるか!


 それよりかこんな物を用意できるヤツが怖い。安楽死ボタンの管理人?運営?は何者だ。きっとそいつらなら俺たちも今すぐ殺せるんだろう。余計にこんな恐ろしいアプリに関わりたくない。


 「あなたが執行者で良かったです」

 「は、はあ」

 「今更になって生きたいと思えてきました」

 「俺だって死にたくなる日はある。もしそんなボタンがあったら、つい押したくなるよな」

 「でも、逃げられますかね」

 「とりあえず残り20時間弱は大丈夫だ。俺が執行者だからな」


 問題はその後。安楽死ボタンのルールだと、俺が執行に失敗したら俺の安楽死ボタンが作動する。そして執行者が新たに決まる。もしそいつを説得できればもう1日逃げられるか。

 

 そう。理想はそうやってどんどん逃げる仲間を増やしていけば・・・安楽死ボタンから逃げられるんじゃないか?


 「なんだか急に頼りがいがありますね」

 「そ、そうか?」

 

 そっちこそ急に子供になりすぎだ。確かに子供だけど。ちょっとは俺の足りない頭を助けてやってくれ。


 「そういえばお兄さん名前は?」


 とりあえず今日、というか制限時間が過ぎるまではここに居れば良いか?俺の家に行くのはちょっとな。彼女はどうせ、居場所がないんだろうし。


 「お兄さん?」 

 「なんだ?」

 「......いや、なんでもない。てか眠いから寝るね」


 すごい自由人だな最近の・・・って、俺も老害だな。こんな言葉は言いたくない。


 「じゃあ俺は向こうの部屋に戻るよ」

 「うん。分かった」


 スライド式の扉はぱっと見は分からない。どういう意図で作ったのか知らないがカモフラージュになる。もし別の執行者が来た時、俺がこっちの部屋で待ち伏せていれば不意を打てる。


 「なんで日本刀を持って行くの?」

 「護身用だよ。もしものための」 

 「私を殺すの?」

 「まさか。300万は安すぎる」

 「お兄さんお金持ちなんだ」

 「・・・おやすみ」

 「おやすみ~」


 出会ったばかりなら最後の言葉は皮肉に聞こえた。今だって確かに出会ったばかりだが、なんとなく彼女のことが分かって来た。つもり。

 

 あの子は純粋。天然。素直。だから生き辛いんだろうな。俺みたいなのと打ち解けられそうなのは、結局俺もそういう人間なんだろう。


 消えたいって願ったことはあった。今でもある。ボタンを押したら、風に飛ばされる砂のように消えられたら良いなって。もし俺が10代で安楽死ボタンと出会っていたら、あっちの部屋で寝ていたかもしれない。


 ・・・いや、俺なら今頃爆弾を投げられて死んでいるか。

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