殺し方とボーナス
「だから別にあなたは私をレイプしても良いわけ」
その単語を言うことですら、彼女は恥を感じていた。どんなに大人の振りをしていても子供だ。いくらなんでも犯罪だ。しかしそんなことも、この安楽死ボタンのルールでは認められているのか。
俺だって男だ。一瞬理性が揺らいだ。でも当然やらない。こいつから報酬をもらったら俺はその時、彼女を殺さないといけなくなる。
「悪いけどガキには興味ない」
「嘘!男なら──」
彼女がワイシャツを脱いでブラジャーが顔を出した時、俺たちのスマホが震えた。遅れてピロンと、アプリの通知音。まるでこのやり取りを見られていたかのようで、ドキッとする。
そのまま、お互いスマホを見たまま固まってしまう。スマホには『殺し方とボーナス』という表示が出ていた。
『殺し方とボーナス』
●すっぱーん 300万円
●どどどどどん 700万円
●たーまやー 1,000万円
気の抜けるような日本語の真横には、頭を悩ませる大金の数字。
ボーナスっていうのはお金の方だよな。じゃあ、殺し方っていうのは──このわけわからん日本語のことか!?
「なあ」と、彼女に話しかける。返事はない。意識はスマホに取られている。手は震え、口元を抑えていた。
「なによこれ。なによこれなによこれ。なによこれ!」
彼女のスマホが手から落ちた。いや、投げようとして叩きつけられたのか。その、得体の知れない恐怖を俺は拾った。
『死に方とボーナス』
●飛び込み 100万円
●飛び降り 400万
●入水 2,000万
それが彼女に恐怖を与えたものだった。死に方とボーナス。俺の画面に表示された文言と異なるのは死に方の部分か。それと内容も違う。ボーナスの金額はもちろん。彼女の場合は死に方が具体的だ。それにしても死んだ彼女にもボーナスが──
「なんで!? 安楽死って楽に死ねるんじゃないの!? ねえ!」
「わ、わかんないよ俺だって」
──それに俺の画面と違うと言って俺のスマホを見せると、彼女は何故か落ち着いた。
「・・・なんだ。ちゃんとあなたが私を殺してくれるんですね」
ああ、彼女は本当に死にたいんだ。痛いのは嫌。怖いのは嫌。苦しいのは嫌。でも、安楽死なら良いんだ。でも、俺の画面に表示されたあの殺し方は本当に安楽死なのか?
「すっぱーん。どどどどどん。たーまやー」
「な、なんですか? おかしくなったんですか?」
「これ、殺し方なんだけど、なんだと思う?
花火は枝垂桜みたいな金色のやつが好きです