逃れられない執行者
「ねえ、早く殺してよ」
そう言った彼女は笑っているように見えた。俺を馬鹿にしているような目だった。
「死にたいなら自分で死ねばいいだろ! 俺を巻き込むなよ!」
本気で怒鳴ってから後悔。こんな子供にキレてしまった。「私だって巻き込みたくないよ! 1人で死にたいよ!」と怒鳴り返されて後悔が深まる。
俺は死にたい人に対して言ってはいけないことを言ってしまったんだな。そうだよな。それが出来たらこんな安楽死ボタンなんて、彼女は使わない。1人で死ねないから、これに頼るしかなかったんだ。
「ごめん」
「いいよ。みんなそう言うし」
「みんな?」
「死にたいなら1人でしね。ってTwitterでよく言われる」
「・・・そうか」
「でも1人で死ぬより、誰かを巻き込んだ方が楽じゃん」
「それで安楽死ボタンか」
「電車とか首吊りとか絶対無理。怖いもん」
「安楽死は怖くないのか」
「だって安楽死じゃん」
もし俺が彼女の執行者でなければ、この安楽死ボタンを画期的な何かだと勘違いしたままだっただろう。こんなものなければ。せめて俺が執行者に選ばれなければ。俺は昨日と同じ明日を待てたのによ。
「生きてくれないか」
「無理でしょ。キャンセルできないっぽいし」
「次の、別の執行者が決まるまで生きれば良い」
「それでどうするの?時間稼ぎにしかならない」
時間稼ぎ──それだ!全執行者が安楽死を執行しなければ良い。安楽死ボタンは次々に執行者を選ぶだろうが、彼女は生き続けることもできる。
「執行者を説得して──」
「無理よ。だってボーナスがあるもん」
「ボーナスってあれか?執行者が受け取る対価か」
執行者が受け取れる対価は安楽死ボタンを押した相手の物すべて。確かにそう書いてあった。でも相手の物すべてって──
「だから別にあなたは私をレイプしても良いわけ」
報酬がもらえたら・・・そう考えると揺らぐかもしれません




