死にたいんだもん
バカ広い屋内を想像していたのにそこはワンルーム。家賃4万円の俺の家みたいだった。そこにいたのは1人の制服を着たままの女性。高校生だった。
「意外と普通の人が来るんですね」
コートを脱いだ俺を見た彼女は、座ったまま。タイムリミットは残り23時間28分
***3.死にたいんだもん***
「よろしくお願いします」
この状況で挨拶をする彼女は礼儀正しいだろう。対する俺は無言で頭を下げた。
「なあ」
話しかけても返事はない。仕方なく「これってマジなのか」と単刀直入に言わせてもらった。しかし彼女は「はい。私押しましたもん」とあっさり答えた。覚悟ができているのか。それとも俺のようにイタズラだと考えているのか。今どきの10代は肝がもはや地に足ついている。
「じゃ、じゃあもし! 俺が君を殺さなかったら──」
「殺すと言っても安楽死ですよ?」
かすかに笑った彼女が、俺に冷静さを思い出させた。
「そ、そうだ。安楽死だったな」
「うん。だからやばくないでしょ?」
それでも、いよいよ安楽死ボタンが聞いていた通りのものなんだと、考えを変えなければいけない。だって彼女はそう俺に安楽死させてもらえると、期待しているんだから。ゲームでも、ドッキリでもない。これはリアルなんだ。
「これお兄さんですよね?」
見せてくれた彼女のスマホに俺の顔写真と名前が出ていた。名前の左横には〝執行者〟と肩書が書いてある。
「それ、どこで見るんだ」
「執行者の画面なら・・・この左上のターゲットってところじゃないですか?」
アプリを開いて言われた通りそこをタップする。俺の場合は目の前にいる彼女の写真が表示された。肩書は〝ターゲット〟。
「黒野陽・・・まだ17歳かよ」
「お兄さんは?」
「アプリで見ればいいだろ」
「執行者の情報は書いてないんだよね」
「ターゲットと違って公開する必要がないからか」
「でもお兄さん若そう。大学生?変なおっさんに殺されなくて良か──」
「ふざけんな!!」
「は、は!?」
「お前のせいで俺は、こんなことしなきゃいけないんだぞ!」
「・・・それは申し訳ないと思ってる。今、そう思った」
「じゃあ、生きろよ」
「嫌だ。私、死にたいんだもん」
やはり彼女はそのつもりで押した、のか。せっかく怒鳴ったのにちっとも聞いていない。座ったままだ。俺は本当に彼女を死なせないといけないのか?
押したら自分がパッと消えるボタンがあったら、押すかもな~と思う時はあります。




