逢魔ガラジオ
皆さんおはこんばんにちは
風祭 風利で御座います。
今回も小説家になろう様企画の「夏のホラー2022」に参加させて頂きました。
今回のテーマは「ラジオ」。
前回とは変わった小説をお楽しみ下さい。
それではどうぞ。
「・・・んぅ?」
俺は目を覚ます。 ボヤけた目線の先は庭と更に遠くに田園風景が昼間のように明るい月明かりによって見える。
夏休みにお盆休みも兼ねて田舎に住んでいるじいちゃんの家に泊まらさせてもらっている。 ここは都会にはない涼しさがあり、今見ている田園風景も、昼と夜では全く違う景色になる。 そんな景色が見える居間で俺は寝ていたのだ。
「・・・今何時だ?」
そう携帯に手を伸ばそうとした時、手になにか硬いものが当たった。 なにかと思って見てみると、それは小型のラジカセだった。
そこで俺は「あぁ」と納得した。 俺は夕飯を食べ終えて学校の宿題をし終えた後に、じいちゃんが使っていたラジカセを直してもらって、ラジオを流していたのだ。 俺はテレビなんかよりもラジオの方が好きだ。 視覚的に情報が入らない分、想像力が働くし、なによりどんな作業をしていても決して邪魔にならない。 俺が勉強する時のお供としても、自室に置いてある。
それでこの田舎にも電波はあるので、そこから周波数を設定して聞いていたラジオの面白さに夢中になっているうちに寝てしまったようだ。
都会のラジオにはない独特のラジオでの流れや音楽が心を踊らせていた。 これだからラジオは面白い。
そして改めて携帯を見てみると午前2時を差そうとしていた。 どういった経緯で起きたのかは分からなかったが、田舎なのでこの時間帯にラジオはやっていないだろうと、もう一眠り入ろうとした時
『ザザッ・・・ザザザザッ・・・この時間帯に起きている皆様こんばんは。 今宵始まりますは「逢魔ガラジオ」。 パーソナリティーの「時ヶ浜 陽一」で御座います。 今回も様々な怪異に纏わるお話を、私と共に楽しくお送りしていきましょう。 では最初はこの曲から行きましょう・・・』
唐突に始まったラジオに、眠ろうとした目を擦り、俺は台所へ向かい、冷蔵庫に入っている麦茶をコップに注ぎ、机の上にある煎餅を数枚持っていく。
じいちゃんの家は米農家じゃないが、近くで採れる米を使った米菓子の工場を営んでいて、地域性も相まって顧客が多いようで、じいちゃんは地元の知り合いと共同になって、毎日てんてこ舞いだとの事。
そんなじいちゃんの煎餅は俺も大好きで、最初にじいちゃんの家に来た時からずっと食べ続けている。 じいちゃんは「若いから甘いのを用意した方がいいかね。」と言っているが、俺は煎餅の方がいいといつも断ってる。 甘いのは嫌いじゃないが、甘ったるいのが好きじゃない。
ラジオの前にスタンバイして、俺は煎餅を1枚取って食べる。 じいちゃんの煎餅は塩味も醤油味もいい塩梅で、噛み応えもいい。 じいちゃんは次の商品としてザラメを撒くって言ってたっけ。
『それでは最初のお話は、ラジオネーム「大口屋是北」さんから頂きました。 怪異の名前は「ヨモツヘグイ」。 このお話は死者の供物を生きた人間が食べると、死者の人間になり、現代に戻ってこれなくなる、という逸話になっています。 諸説はあるのですが、まあ、死者の供物なんて本当なら食べたくは無いでしょうね。 なにが入っているか分かったものではないですし。』
それは確かに。 想像するだけでもゲテモノのイメージしか湧かない。 そもそも死者の供物って、普通の人間じゃ食べれなくないか? でも面白いなこのラジオ。 怪談話は体温を下げる効果を持ってるとか無いとかで、夏には良く聞く。 これもそう言った類いなのかな?
『因みにヨモツヘグイを漢字で書くと、黄色に泉と書く「黄泉」と、昔使われていた難しい漢字で書く竃に食べると書いて「黄泉竃食」と読みます。 死後の世界の竃で炊いた供物を食べる事からそう言った漢字を使われるようになったそうです。』
漢字の読みが全然違うのにそう言った風に使うのか。 知ってる訳無いな、そんな情報。
『しかしその死者の供物というのは、見た目は食べ物ならなんでもいいのです。 というよりも人の口に入るならば見慣れた形の方がいいですよね。 もしかしたらあなたの食べているものが既に供物かもしれませんよ? それではここで1曲行きましょう! 「大口屋是北」さんのリクエストであります「惰食暴食」!』
そしてそれなりの音楽が流れ始めた。 俺は自分の手に持った煎餅を食べながら、ぼんやりと考えた。 死者の供物は人の口に入るならば見慣れた形の方がいい。
「・・・あり得ないでしょ。」
そうぼやいていると曲が終わったようで、再度パーソナリティーの声が聞こえてくる。
『はい、リクエストありがとうございました。 それでは続いてのお便り。 ラジオネーム「案山子モドキ」さんから頂きました。 怪異の名前は「くねくね」。 良く聞く話なのは、畑の中になにか白いものが見え、なにかを認識した時点でその人物が狂気になってしまう、というお話。 これに関しては諸説あるようで、一番有力なのは今でこそある案山子は、昔は子供を使っていたらしく、その怨念が具現化したもの、というものがあります。 今の現代では考えられない光景だと思いますよね。』
そんなことが昔に行われていたと考えると、正直ゾッとする。 それなら人形なのにも頷けるし、畑の真ん中にある、というのも磔のようで惨たらしい。
チラリと庭の向こうに見える畑を見る。 広大すぎて分かりにくいが、所々で案山子が立っている。 先人の知恵というのは深く根付く物だ。
『しかしその「くねくね」について、一体なにを認識したら狂ってしまうのでしょう? この話に出てくる狂ってしまった人の言葉は支離滅裂になっていくそうです。』
それだけ常軌を逸脱した存在を認識してしまえば、本当に狂ってしまうのかもしれない。 ファンタジーな世界が来たらそれこそ人間は壊れてしまうのではないか?
『そしてくねくねは相手を選ばない。 老若男女、見てしまえば誰も彼もが狂ってしまう。 恐ろしいものの例えの1つなのかもしれませんね。 それではここで一曲、「ホワイトスネイク」。』
音楽が流れ始めたので、畑の方を見てみる。 月明かりに照らされた畑が映し出されている。 本当にそれだけの事の筈だ。
しかし何故だろう。 月明かりのせいなのか、白いなにかが動いているように見えるのは気のせいだろうか? 目を凝らして見ても特になにも変わりはない筈。 なのに擦っても擦っても、白いなにかは消えることはない。 むしろ逆に強調されていくかのように、その姿を鮮明にしていっている気もしなくない。
「・・・あれ、あれ?」
頭がおかしくなりそうだ。 あの白いものはなんだろう? 本当に見て良いものなのだろうか? しかもさっきまで1つしか無かったのに、どんどん増えているようにも見える。 2つから4つ、8つと増えている。 俺は一体なにを見ているのだろうか?
『さて、名残惜しくはありますが、次が最後のお話となります。』
ラジオから音楽が終わり、パーソナリティーの声がしたので意識をそちらに向け直す。 あれ以上見ていたら本当に気がおかしくなりそうだったから。
『では最後のお話、ラジオネーム「匍匐前進」さんから頂きました。 タイトルは「テケテケ」。 こちらは妖怪という類いになるのですが、テケテケには下半身が無く、上半身のみで動く妖怪。 有力説は北国で電車に轢かれて上半身と下半身が分断されて、寒さによってしばらく生きていたが、駅員に助けられること無く息絶えてしまった女の霊。 その女の霊はそんな人間への恨みとして殺戮を繰り返す、というお話です。』
今までの話の中で一番グロテスクな話になってきたな。 聞いていてなんだが気分が悪くなってくる。
『しかしこれはあくまでも有力説の1つ。 中には両足を撃たれた女性や、戦時中に輪姦された女性の怨念なども説にはあるそうです。 恨み連なりが実体とならずとも何かしらに現れる。 怖いものですねぇ。』
それをこの時間帯に言うのか、と思ったのだけれど、ラジオの都合だろうし、そうそう言ってもしょうがないだろうな。
『ところでそのテケテケなのですが、亡霊として現れる理由は先程も申し上げたように無くした下半身を探しているのではなく、見捨てた人間に対して恨みを持って殺戮を繰り返すというものですが、物語にはいくつか派生もあるようで、現代にも残っているようです。 これはあくまでも都市伝説ですので、実際に会うことの方があり得ないですが。』
そりゃそうだよね。 普通は出ないよね。 うん。
『しかし怪異というのは、人々が神を崇拝するのと同じ様に「いると思えばいる」という話にもなります。 言霊や思い込みのような話ですね。 しかし今は丑三つ時。 なにが起きてもおかしくない時間でございます。 それでは曲のリクエストにいきましょう。 「あの日の電車で君は」。』
そう音楽が流れる。 だけど今までとは雰囲気が少し違う気がした。 なんというか、空気が重たくなったような・・・
ズリ・・・ズリ・・・
音楽と共に何かが這ってくる音が聞こえてくる。 まさか・・・いやいやいや、あり得ないあり得ないあり得ないあり得ない! あの話はあくまでも都市伝説。 そんなことがあっていいわけがない。 ラジオから流れてくる音楽の一部に違いないそうだ絶対にそうなのだ。 振り返るな振り返るな、見るな見るな見るな見るな聞くな聞くな聞くな聞くな。
「ぅ・・・あ・・・」
振り返ってしまって見たその先にいたのは髪の長い女の姿。 地面を這いながらこちらに近付いてくる。 来るな、来るな。
来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな
「あ・・・あんた、まだ起きてたの?」
発せられた声に聞き覚えがあった。 というか忘れるわけがない人物の声だったから。
「か、母ちゃん!?」
「夜遅くなるのはいいけど、明日はちゃんと起きなよ? 行くんでしょ? 父さんの煎餅工場。」
そう言って母ちゃんは奥に去っていった。 そしてそのタイミングで曲も鳴り終わった。
『・・・如何だったでしょうか。 まだまだ色々とお便りは届いているのですが、本日はここまでとさせていただきます。 パーソナリティーは時ヶ浜 陽一がお送り致しました。 それではまたどこかで。』
そしてラジオから音が消えたのを確認した後に、俺は深い深い眠りに付いたのだった。
翌日早起きの爺ちゃんに連れられて煎餅工場へと来た俺は、煎餅が出来上がるまでの行程をみつつ、爺ちゃんに夜中にあったことを話した。
「逢魔ガラジオ? 時ヶ浜 陽一? どっちも知らないなぁ。 そもそもこの地域の人間はジジババばかりだから、そもそもそんな時間にラジオなんてやってない筈じゃがのぉ? 年寄りは朝も早けりゃ、夜も早いからな。」
多分これは本当の事だろう。 あのラジオの前後はノイズが走っていたから、本当にやってないのだろう。
ではあの時聞いたラジオはなんだったのだろうか? あのラジオを聞いていたら、あの話が現実っぽくなっていた。 信じ混ませるために流したのだろうか? でも都会では絶対に流れない筈だから、もしかしたら・・・そんなわけ無いよな。
あのラジオを二度と聞くことはないだろう。 だからこそ妙にリアリティーがあったのは印象に残っている。 何かの偶然でもう一度聞くことになった時・・・俺は果たして生きているのだろうか? そして今夜も同じ様な放送が流れるのだろうか? 他人の絵空事のように、青々としている空を見上げるのだった。
如何だったでしょうか。
今回出てきた怪異については、基本的には「都市伝説」もしくは「実話怪談」を元に構築してあります。
ちゃんと調べた上で書いていますので、決して偽りでも空想妄想でもありません。
たまにある自己責任系でも御座いませんので、この小説を見た後に不幸なことが起きる、何て事も御座いませんので安心してください。
それでは引き続き投稿作品をよろしくお願いいたします。
風祭 風利でした。