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アシュリー嬢は呪われてしまった!?  作者: 磨己途
おうちに帰りたい……
28/50

28:二人きり、重なる唇

「そろそろ、その開いたままの口を閉じてくれないか? 自分のそのような間抜けな表情を、直視せねばならんとは趣味の悪い拷問のようだ」


 二人きりになってすぐ、()()()()()()()()()が口にしたのは、先ほどまでのアシュリーとは全く異なる辛辣な言葉だった。

 けれど、驚いてばかりもいられない。

 彼女は()()()じゃない。

 そうと気付いた途端、何が起きているのかが、それこそ天啓のようにわたしの中で閃いた。


「ミ、ミハイル様? ミハイル様なのですか?」

「何故君の方が驚いているのか分からないが、そのとおりだ」


 目の前の女性は少しホッとした表情を作りながら、片手で自分の髪をかき上げる仕草をした。

 ああ、そんなことをされては、折角綺麗に整えられた髪が乱れてしまいます。


 少し残念な自分の姿を目にしたことで、不思議と心に余裕が生まれたらしい。それ以上は動揺せずに済んだ。

 ようやく事態を飲み込めたことで、自分の中に安堵の思いがドッと流れ込んできた。

 暖かな感情に満たされ何故だか涙がこぼれそうになる。

 わたしは開きっ放しだと指摘された口元を隠すようにして、両手で顔のほぼ全体を覆った。


「だって……、驚きます。入れ替わっているなんて。いえ、一度は思い浮かびましたけど、お相手の方は今までずっと眠っていらしたから……。

 そうだ。ミハイル様は、どうしてこの姿のわたしがアシュリーだと?」

「リゼ殿の推論だ。私も随分混乱したが、彼女が目覚めた私に根気良く付き合ってくれてな。二人が意識をなくす前後の情報を突き付き合わせて考え、おそらくそうではないかと」


 リゼが? どうりで訳知り顔だったわけだわ。


「一体いつ、どうやってお目覚めに?」


 あれだけ顔をつねっても起きなかったのに。


「昨日の夜だ。夕食の時間までずっと目を覚まさなかった私……、いや、この場合は君か。眠ったままであったアシュリー嬢に気を揉んで、リゼ殿が身体を揺すっていたところに私が突然目を覚ましたらしい」


 お父様がいらしたときと違い、キビキビと話すアシュリーはまるでミハイル様のようだった。

 そう思って見ているせいもあるとは思うんだけど、目付きや物腰が自分だとは思えないくらい凛々しくて格好良い。


 ……でも、そうか、昨晩の夕飯前か……。

 それってわたしが王宮でヴィタリスと入れ替わった頃合いよね?

 もしかすると、呪いの力で眠ったままになるのは一人だけってこと?

 続けてもう一人と入れ替わると最初の一人は追い出されるようにして目覚めちゃうってことかしら?

 などと、わたしは想像をたくましくする。


「それよりも早く。できるならすぐにでも元の身体に戻りたいのだが……。

 それが可能だからこそ、こうやって無理を押して会いに来たのだろう?」

「も、もちろんです。……多分」


 もちろんそうするつもりでいた。

 けど、それは眠っているわたしに対してそうするつもりだったという話だ。

 まさか、起きている自分に対し……、こうやってお互いに目を合わせて話しているミハイル様を相手にすることだとは思っていなかった。

 心の準備が全然できていない。


 わたしがもじもじとし始めたことにミハイル様が目敏く気づく。


「もしかして、その、元に戻る方法というのは……」

「は、はい……。その……、入れ替わったときと同じで……」


 ミハイル様もそのことは薄々察していたらしい。

 なにしろ昨日意識が途切れる前に、ご自分がわたしに対してなさったことは当然憶えているはずなのだから。

 こうなった切っ掛けが分かれば、元へ戻る方法にも想像が付くというものだ。


 二人して向かい合い、気まずくする。


「君のお父上がお戻りになる。急がなければ」

「はい……」


 そうするために、お互い椅子から立ち上がり距離を詰める。

 だけど、そうやって近付くほどに意識してしまう。


「もし、良ければ、私の方から……、その……」


 言いにくそうにしながら、ミハイル様(アシュリー)わたし(ミハイル様)の顔を見上げた。

 今の彼の背丈では背伸びをしてもわたしの唇に届かないのだ。

 そんな自分を見下ろし、わたしはどこか倒錯的な感覚に陥っていた。

 こんな小さく、か細い女性の姿のミハイル様の唇を、わたしが奪うだなんて……。


「い、いえ。確かなことは分かりませんが、恐らく元の身体に戻る場合は、わたくしのほうから……」

「そ、そうか……。では、頼む……」


「あっ」

「どうした!?」


「元に戻った直後は気を失ってしまいますので、その……、横に……」


 そう言ってわたしはこれまで自分が使っていた長椅子を指差した。


「あ、ああ。分かった」


 その後、どちらがどういった向きで座るのか、あるいは寝転がるのかといった問題について、不器用なやりとりを繰り返しながらも、ようやくその位置を決める。

 結局、二人で並んで座り、わたしが身体を横に回してミハイル様のアシュリーにくちづけすることになった。

 いつ、お父様が入ってくるかも分からないという緊張感も重なって、わたしの後ろめたい気持ちに拍車がかかる。


「あの……」

「何だ?」


「目を……、閉じていただけますか?」

「あ、ああ。これはすまない」


 目をきゅっとつむり、お可愛らしくするミハイル様のお姿を前に、身体の内から堪らない衝動が湧き起こる。

 その衝動に押されるがまま、わたしはずっとこのときを待ちかねていたかのように激しく唇を重ねた。


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