第12話雛乃との初登校と脆い友情(学校編が始まります)
思ったより長くなりました!
遅れてすみません!
「……ぁ、…きて……い」
なんだいパト〇ッシュ、僕はまだ眠いんだ……。
「…司様、…きて下さい」
なんだ?この鈴の転がるような声は。
天使が迎えにきたのか?
「雄司様、学校に遅れますよ。お起きになって下さい」
「……むーん……?、おおっ!?」
僕は目を覚まし、声の主を見ると、一瞬天使だ!と驚いた。
そこには雛乃がいたのだが、窓から差し込む日差しによって髪が煌めき、天使の輪を浮かばせてたのだ。
その神秘的な光景を見てぼーっとしていると、雛乃の心配そうな顔に気づき、ハッと我に返る。
「や、やあ雛乃。おはよう、いい朝だね」
「はい、おはようございます。昨日は夜遅くまで色々と教えて下さって、ありがとうございました」
「いいさ、必要なことだからね」
そうなのだ。
昨日の夜、学校へ行く雛乃の為に、僕式の学校講座を開いた。
まず学校自体を知らない雛乃に、学校とは何かを教え、そこでの生活の仕方、授業を受ける際の注意、祭りのイベント、人との付き合い方等を教えた。
終わる頃には深夜となり、僕はグロッキー状態となったが、雛乃は変わらずニコニコしていた。
そして今、僕は寝不足という状態になっている。
ふあぁ~、あーまだ寝足りないけど、もう起きないとな。
折角の雛乃の初登校だ、遅刻したなんて洒落にならない。
「もう着替えるから、朝食の用意をしておいて」
「はい、分かりました」
雛乃は頷くと、部屋から出ていく。
僕はのそのそと起き上がり、欠伸をしながら着替えた。
き、緊張するな、落ち着け僕!
僕は今、雛乃と一緒に登校しているのだが、ドキドキしながら歩いている。
別に遅刻している訳でも、車が眼前で横切った訳でも、どこかでスナイパーが命を狙っている訳でもない。
最後はまあ有り得ないけどな。
何故緊張しているかというと、隣で歩いている雛乃を意識しているからだ。
だって密かに憧れてた『女の子と一緒に登校』が、どんな形であれ今現実に起きてるんだぞ!
それに制服姿の雛乃が超絶に可愛くて直視出来ないのだ。
ヤバいぞ!早く慣れないとまともに顔が見れない!
下を向いて思いに耽っていると、突然雛乃の叫び声と共に、柔らかい衝撃が僕を襲った。
「雄司様!!」
「……えっ!?」
キキーーーッ!
パフッ!
うおっ!な、なんだ?
もしかして僕、車に引かれたの?
痛くなかったけど、目の前真っ暗だし、痛みを感じる間もなく死んじゃったのか?
それじゃ、ここは天国?
体を包む柔らかい感触は雲の上か……、て感触があるなら僕生きてるよね?
それに、この顔に当たる柔らかい感触にはデジャヴを感じるぞ?
ゆっくり顔を上げてみると、雛乃が右手で体を抱きかかえて心配そうに僕を見ていた。
「雄司様、お怪我はありませんか?」
「う、うん、無いけど……」
「ご無事で良かったです」
雛乃はホッとして微笑みを浮かべる。
でも僕はちょっと罪悪感を感じていた。
ああ、また雛乃の胸に顔を埋めてしまったか。
本当にごめんな。
僕は心の中で謝罪する。
しかし状況からすると、下を向いてた僕が、車に気づかずに飛び出した所を、雛乃が庇ってくれたのか。
でも、あれ?
今いる場所は道路の真ん中。
車が通り過ぎた音はなかった。
よく見れば雛乃の左腕が僕の背後に伸びている。
いやまさか、幾ら雛乃でも片手で車を止めた、なんてことは無いはず。
そう思って恐る恐る振り向くと、
「どわぁぁぁ!!」
その光景は僕の予想の斜め上をいっていた。
雛乃の左腕は岩の籠手で覆われ、手の部分が巨大な岩の義手となっていて、その義手で車を上から持ち上げていたのだ。
わぁー、タイヤが宙に浮いてるよ……、じゃなくて!
早く降ろしてあげないと、なんか運転手がパニックになってるみたいだし。
「雛乃、そろそろ降ろしてあげて。あ、後ろ側にゆっくりね」
「はい、わかりました」
雛乃は頷くと、車を優しく降ろした。
義手を放すと、同時に車はそのまま凄いスピードで走っていき、すぐに見えなくなった。
……逃げたか。
巨大な岩の義手は光となって消え去り、雛乃の手は元に戻る。
「……え~と、助けてくれてありがとな、雛乃」
「いえ、雄司様をお守りするのが私の役目ですから」
そう言って雛乃は微笑む。
いや、まあ、それは嬉しいんだけどね。
……ちょっと待てよ!?
雛乃は僕を守る為に力を使っている。
もし学校で炎や雷や水を使ったり、それを見られたりしたら……。
絶対にダメだ!
変な目で見られるし、雛乃の正体がバレちゃう!
学校にいられなくなるぞ!
もうすぐ着くし、注意しとかないと。
「雛乃、ちょっといいかな?」
「はい、なんでしょう?」
僕の呼びかけに嬉しそうに振り返る。
尻尾があれば元気良く振っていることだろう。
雛乃には犬耳が似合うだろうなーなどと、的外れなことを考える。いかんいかん!
話が脱線するとこだった。
しかしこの笑顔を見ると、言いにくいよな。
でもこれは雛乃の為でもあるんだ。
頑張れ、僕!
「実はね、学校では呉々も力を使わない様にして欲しいんだ」
「どうしてですか?」
雛乃は小首を傾げる。
「ほら、変な目で見られたら困るだろ?」
「いえ、特には」
「……え~とそれに……」
か、考えろ、僕!
え~と、え~と!
「そ、それにね、えー……、っそう!学校は比較的安全だからだよ!」
苦し紛れの言い訳だが、信じてくれるかな?
「雄司様……」
うわっ、真剣な顔になったぞ。
やっぱ駄目か。
「分かりました。安全でしたら使いません」
雛乃はそう言って微笑む。
おお!信じたよ!
流石は雛乃、全く疑っていない。
これで秘密は守られたな。
良かった良かった。
僕は安心して歩を進めた。
校門の近くまで来ると、登校中でもあって生徒の数が増えてくる。
うわ~、凄く見てるな。
主に雛乃への視線が凄いよ。
当の本人は気にしてない、というか気づいてない。
なんか見せ物にしてるみたいで悪いな。
早く職員室に連れて行くか。
「雛乃、急ぐよ!」
「はい!」
そして僕達は一緒に走っ……て、ちょっ、待って!軽々と追い抜かないで!は、速すぎ!追いつけない!
雛乃はそのまま下駄箱前まで行くと、そこで足を止めて待っていてくれた。
僕はやっと追いつき、肩で息をしているが、雛乃は疲れた様子もない。
「大分お疲れのようですが、ここで休まれますか?」
それどころか、こうして心配して労ってくれる。
僕って本当に体力ないよな。
はあぁ~……。
「大丈夫、心配いらないよ。早く職員室に行って先生に挨拶しないとな」
「……はい」
雛乃はまだ心配していたが、僕が歩き出すと素直について来てくれた。
歩いて2分で職員室の扉の前に着く。
「雛乃、ここが職員室といって、色々と教えてくれる先生の集う場所だよ」
「はい、分かりました」
その返事に満足すると、扉を開けて中に入る。
「まあ、とても広いのですね」
「まあね。えーと、先生はっ……と」
雛乃の質問に返事をしながらキョロキョロしてると、僕を呼ぶ野太い声が聞こえた。
「おい天坂、そこで何をしている。テスト用紙でも盗みに来たか?」
「な!何言ってんですか!そんなことしませんよ!変なこと言わんで下さい、鬼瓦先生!」
うぅ、周りの先生が怪訝そうな目で見てるよ。
「冗談はさて置き、お前がここに来るのは珍しいな。何か用か?」
「はい、転入生を連れてきたんです」
僕はそう言って雛乃を促す。
「本日より、転入して参りました、桜花雛乃です。宜しくお願いします」
「ふむ、転入生か。ちょっと待ってろ。えーと……」
先生は書類を取り出し、パラパラと捲る。
「……っと、あったあった。桜花雛乃君だな。ほう、転入試験を全て満点とは凄いな」
あれ?雛乃ってそんなに頭良いの?
爺ちゃんの書いてた手紙を思い出す。
あれはただの嫌みじゃなかったのか。
まあ雛乃の評価が好評なのは良いことだよね、うん。
さてと、そろそろHRが始まるし、後は先生に任せて教室に行くか。
「それじゃ、僕はこれで失礼しますね。雛乃、先生の指示はちゃんと聞くんだよ」
僕は雛乃を預けてさっさと職員室から出ようとすると、急に後ろから手を掴まれて止められてしまった。
振り返ると、そこには雛乃が手を掴んでいた。
「雄司様、行ってしまうのですか?」
「そりゃ、まあ、行かないと遅れちゃうし……」
そ、そんな捨てられた子犬のような目をしなくても。
「すぐにまた会えるから心配ないよ」
「……はい、必ずです」
名残惜しそうに手を放す。
可哀相だが、休み時間でも会えるんだし、我慢して貰わないと。
僕は後ろ髪をひかれる思いで職員室を後にすると、教室へと向かった。
到着して中に入ると、異様な空気に包まれていた。
あれ?昨日の余韻がまだ残ってる?
あっ、ヤバい、こっちに気づいた!
男子達が詰め寄ってくる!
気づけば壁の端に追い込まれた!
「モテる奴は死を!」
「お前は死刑だ!」
「なんでお前なんかに彼女が出来るんだ!」
「テメーは非モテ軍団の一員の筈だろ!」
うわ、なんて言いたい放題。
それに最後の、そんな変な団体に入った覚えないぞ!
早く誤解を解かないと、学校生活が血みどろになっちゃう!
「ち、違う!僕に彼女はいない!」
「じゃあ、昨日の美少女は誰だよ!」
「あ、あの娘は、その、親戚の娘で、ただの知り合いというだけなんだ!」
僕は真剣な顔で伝える。
「ほほ~う、では君には彼女はいない!?」
「うっ……うん」
「すなわちお前はモテていないと!?」
「うん……」
なんか引っかかるが、怖いので首を縦に振る。
「そういうことなら早く言いたまえ。誤解は解けた、俺達は親友だ!」
「………」
180度態度が変わる。
なるほど、これが友情というものか。
世の中の仕組みを垣間見た気がして、少し落ち込んだ。
男子達はバラけ、席についたり、談笑したりして、いつもの生活に戻っている。
僕はホッとして自分の席につくと、一部始終を傍観していた真也がやってきた。
「オッス、雄司!災難だったな!」
「ああ、君のおかげでね……」
僕はキッと睨みつける。
「いや、悪かったって!お詫びに良いこと教えてあげるから、許してくれよ」
「良いこと?」
「ああ、実はな、今日この学校に転入生が来るらしいんだ!」
「なんだって!?」
僕はギクリとした。
なんつー情報の早さ!
ついさっきのことなのに、もう噂になってんの!?
「職員室で見かけた奴の話だと、スッゲー美少女らしいぜ!」
「へ、へぇ~……」
噂の発信源はそいつか!
「クラスが分かったら、休み時間にでも見に行こうな!」
「えっ!?……うん、そーだね(棒読み)」
苦笑いで頷きかけたところで、チャイムが鳴り、先生が入って来た。
「お前達、さっさと席につけーっ!HR始めるぞー」
手で教台をバンバン叩くと、皆あたふたと席に戻る。
全員が席につくが、なんか違和感がある。
あれ?僕の隣が空席だぞ?
一瞬休みなのかと思ったが、後ろの方に移動していた。
うん、まさかそんなことないよね?
漫画やゲームじゃあるまいし。
もしそうだとしたら、あまりにも出来すぎてる!
「えー、HRを始める前に、今日はこのクラスに転入生が来るので紹介するぞ」
いやいや、まだそうと決まった訳じゃない!
もしかしたら男子かもしれない。
「先生ー!転入生って、野郎ですか?美少女ですか?オカマですか?」
クラスに必ず1人はいるお調子者の男子が質問する。
というか、なんて選択のしにくい質問してんだ!
最後のオカマは有り得ないだろ!
「オカマはないが、美少女だな。後20年若けりゃほっとけねー程だ」
先生も何で律儀に答えてんの!?
途端に男子達(非モテ軍団)が騒ぎだしたよ。
女子は……、うわっ、蔑んだ目で男子達(またも非モテ軍団)を見てる!
しかし転入生は女子か。
仕方ない、現実を受け止めよう。
僕は諦めの境地に入った。
「それでは紹介するぞ。入りなさい」
先生の合図に扉が開くと、予想通りの人物が入ってくると同時に、
「「「「「ウオオオオオ!!!!!」」」」」
男子達(しつこい非モテ軍団)の雄叫びが上がった。
「初めまして、桜花雛乃です。皆様宜しくお願い致します」
そう言って、その人物、雛乃はペコリとお辞儀した。