第10話親友の暴走と殺意の視線(男の嫉妬は醜いです)
頑張って更新します。
(ひ、雛乃ぉぉぉおおおおお!!!)
僕は驚天動地の叫び声をどうにか声には出さず、押し殺した。
ど、どういうことだ!?
何で雛乃が学校に来てるんだよ!?
もしかして、僕を捜しにきたのか!?
て、呼んでるからにはそうなんだろうな。
拙い!拙いぞ!
ここで僕と雛乃との関係がバレたりでもしたら、嫉妬の炎を纏った男子達に袋叩きにされてしまう!
考えろ!考えろ!
数少ない知恵を振り絞って、この危険を回避しなければ!!
カラカラカラカラカラ
おおぅ!思考が空回りしている!
僕ってそこまで馬鹿だったか!?
こうしてる間にも、どんどん雛乃が近づいてくる!
僕がその場でオタオタしていると、不審に思ったのか、真也が声をかけてきた。
「雄司、お前何やってんだ?エラく挙動不審だが」
「えっ!?べ、別に、何でもないよー(棒読み)」
「なーんか怪しいな。何か隠してるだろ!?ほら、目を逸らしてないで言ってみろ」
真也は僕の肩を掴み、逃げられないようにヘッドロックをかけてきた。
「ちょっ!?まっ、く、苦し、ギブギブ!!言う!言うから!!」
僕は早々と降参し、締め付けから逃れると、真也から2、3歩距離を取った。
また関節技をかけられちゃかなわんからな。
「いや、実はあの娘のことなんだけど……」
雛乃を指差して説明しようとすると、真也は雛乃を見て何か納得したのか、含みのある笑みを浮かべた。
「あのスゲー可愛い娘か。はは~ん、さてはお前の彼女だな?ああ、皆まで言うな。分かってる分かってる、隠したい気持ちはな」
真也はお前の気持ち分かるぞ、というようにうんうん頷く。
違う!誤解だ!
つーか1人で勝手に納得すんな!
僕はちゃんと説明しようとするが、真也の暴走は止まらない。
「しかし、親友の俺まで内緒にするなんて水くせーぞ!心配すんな、お前の初めての彼女だ、取ったりしねーって。あの娘、お前のこと捜してるみたいだし、連れてきてやっから、紹介してくれよ」
そう言って、真也は僕の話を聞かずに雛乃の方へ行ってしまった。
本当、止めて!お願いだから余計なことしないでーー!!
僕の心の叫びも虚しく、真也は雛乃に話しかけると、あそこにいるぞというように僕を指差した。
僕にはその指が死神の鎌に見えたのは目の錯覚と思いたい。
そうこうしてる間に、真也は雛乃を連れてきてしまった。
「雄司、連れてきてやったぞ。良かったな、愛しい彼女に逢えて」
ニヤニヤと笑いながら肩を叩く。
此奴、絶対面白がってるぞ!チクショー!
僕は睨みつけるが、暖簾に腕押し、糠に釘だ。全く悪いと思っていない。
「雄司様、此方にいらしたのですね。やっと見つけました」
雛乃は雛乃で、あれほど言ったのに結局来てしまい、隣で微笑んでいる。
そして、周りでは主に男子達からの視線がチクチクと刺されて凄く痛い。
僕、何も悪いことしてない筈なのに、なんでこんなに居心地が悪くなるんだろ……?
周囲の視線に耐えながら少し落ち込んでいると、またも真也が楽しそうに指摘してくる。
「へぇ~、雄司、様、ねぇ~?お前の彼女って随分と従順なんだな~。凄い慕われてんじゃねーか。羨ましいね~(笑)」
その言葉を合図に、視線の鋭さがグンと増した。
な、何ちゅーことを!
この馬鹿真也!公衆の面前で余計なこと言うんじゃないよ!
視線が凄く痛くなってるし、これ絶対殺気籠もってるよね!?
「し、真也、もうその辺で……」
僕は状況をこれ以上悪化させないように話を打ち切ろうとすると、またも勘違いしたのか、いい笑顔で言ってきた。
「おっと、気が利かないで悪かったな。彼女と2人になりたいんだろ?屋上空いてるからいってきな。帰ったら結果報告よろしく!」
こうして僕と雛乃は強引に屋上へと行かされてしまった。
雲一つ無い青空、柔らかくそよぐ風、そしてどんよりと沈んだ僕の気持ち。
あぁ、教室に戻りたくない。
「あの……、雄司様、ご気分が優れないのですか……?」
僕の様子に気づいたのか、おずおずと聞いてきた。
「あぁ、いや、大丈夫だよ。ちょっと人生について考えてただけだから。あは…は……」
僕はそう言って苦笑いした。
はぁ、終わったことは仕方ない、雛乃が来た時点で遅かれ早かれバレると思ってたからな。
それよりも、何で雛乃が学校まで来たんだろ?
ちゃんと帰ってくると言っておいた筈なのに。
「ねぇ雛乃、どうして学校に来たんだい?ちゃんと帰ってくるから家で待ってればよかったのに」
「はい、ですが私の目の届かない所で雄司様の身に何か起きたら大変ですから、居ても立ってもいられずに来てしまいました」
やっぱり予想通りの答えか。そんなことだと思ったよ。
ふぅ、と溜め息をつくと、雛乃は怒ってると思ったのか、シュンと落ち込んだ。
「勝手な行動をしてしまい、申し訳ありません。お怒りはごもっともです……」
「い、いや!怒ってないよ!そもそも僕が学校のこととかちゃんと教えなかったのが悪いんだし、気にしないでいいから!」
慌てて弁解するが、雛乃は「でも……」と渋っている。
生真面目なのも時には考えものだな。
「その気持ちは嬉しかったから、雛乃は悪くないよ。ありがとな」
「雄司様……」
ようやく納得したのか、雛乃は笑顔を見せてくれた。
うん、やっぱり笑顔が一番だよね。
さて、時間を見るともうすぐ昼休みが終わってしまう。
雛乃をどうするかな?家に帰らせてもなんかかえって心配だし、放課後まで待ってもらって、一緒に帰るか?
「僕、これから教室に戻るけど、雛乃はどうする?ここで待ってるか、それとも家で……」
「ここで待ちます!」
おお!返答が早いな。
「でもいいのか?家の方が少なくとも退屈しないと思うけど……」
「お傍にいられないのなら、せめて出来るだけ近くにいたいんです!」
グハァ(吐血)!!
僕は雛乃の、その言葉と真剣な瞳に、ノックアウトされてしまった。
あーもう可愛いすぎる!僕は幸せ者かも!
でも雛乃にこんなこと言わせるなんて、僕って駄目な奴だ……。
一緒に学校に行ければいいのに、なんて無理だろな。
とにかくなんとかしてあげないと、駄目元で考えてみるか。
「それじゃ、僕はそろそろ行くよ。今度はちゃんと待ってるように。分かったね?」
「はい、お気をつけて……」
いや、別に戦場に行く兵士じゃないから、そんな心配そうな顔しなくても。
確かに学生にとって教室はある意味戦場だけどね。
僕は屋上を後にし、教室に戻る。扉を開けようとしたとき、中から異様な気を感じた。
意を決して開けると、禍々しいオーラを纏った男子達が揃って睨みつける。
生きて帰れるかな?
僕はそのとき本気でそう思った。