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 神はいつの間にか目の前から消えていた。

 最低最悪の告げ口をしてくれた後、何か色々と喋っていた気がするけれど、全て私の耳には入ってこなかった。


(バレた……バレたバレたバレたバレたバレたバレたバレたッ!!)


 たとえ一時の気の迷いでも「死にたい」と、そう願ったことを。

 馬鹿馬鹿しくも両親が死んだことではなく、姉と離れ離れになるのが嫌で本気で自殺なんか考えたことを。

 そしてなにより最悪なのが、どちらがどちらを巻き込んだかがハッキリしたこと。

 棚町詩織が愚かにも死にたいと願ったから、傍らにいただけの何の罪もない棚町日向はこんなふざけた異世界に連れて来られたのだと。


(本当に最悪……っ、あのクソ野郎!)


 人がせっかく胸にしまい込んだ秘密を暴きやがってと、憤懣やるかたない恨み言が脳内を駆け巡るけれど、それをぶつけるべき相手はどこかへ消えてしまった。

 残されたのは二人だけ、姉と妹であり、被害者と加害者の二人だけだ。

 日向の顔が見れない。

 どんな顔をすれば良いのかわからないし、どんな顔を見せられても堪えられる自信がない。

 怒るだろうか、嫌われただろうか、罵倒されるのだろうか。

 お前のせいでと、言われてしまうのだろうか――


「なあなあ詩織! さっそくやってみよや!」


 ――なんて私の暗澹たる気分を打ち払うかのように、日向はワクワクに満ちた表情でそう笑いかけてきた。


「や、やるって……なにを?」

「え、さっきのあいつの話、聞いとらんかったん?」

「ごめん、途中でぼーっとしちゃって……」

「ははーん……まあ、気持ちはわからんでもないけど、チュートリアルをスキップするとわからん死するから良くなかよ?」

「それは確かに……で、なにをやるの?」

「異世界チートや」

「は?」


 異世界チート、それは異世界に転生・転移するにあたり高位存在から贈られるギフト。大抵の場合、異世界のパワーバランスを崩壊させるような特殊能力や身体能力となっている。

 また、異世界の文明レベルによっては前世の知識や経験の活用も異世界チートに含むこともある。

 ――みたいな感じだと、記憶している。

 

「あー……わたしたち、なにかもらったの?」

「おねえちゃんスイッチや!」

「は?」

「おねえちゃんスイッチや!」

「いや、聞こえなかったわけじゃないんだけど」


 なにその日本の公共放送の子供向け番組みたいな名前。


「ふふふっ、おねえちゃんが説明したるからよく聞くんやで詩織。おねえちゃんスイッチはやな、ウチと詩織がニコイチであることを活かした強力なチートや。まずはやな“セット”って言ってみい」

「せ、セット? って、うわっ――!?」


 突然私の目の前に出現したのは、タイプライターのような不思議な機械。

 しかし、鍵の一つ一つに記されているのはアルファベットではなく五十音。


「なっ、なにこれ!?」

「だからおねえちゃんスイッチや。たとえば『あ』のスイッチを詩織が押したらウチの手元に『あ』から始まる何かが出現するんや。そのとき何が出るかはランダムやけど、思考に占める割合の高いものほど確率が上がるらしい。ちなみに一回押したらその結果が記録されてその後全部同じものが出るんやって」

「な、なるほど……?」


 つまりリンゴを思い浮かべながら『り』のスイッチを押せば高確率でリンゴ、あるいは低確率で『り』から始まる他の何かが出現する。一度出現したものは『り』のスイッチに割り当てられ結果が固定される。

 その後、リンゴが出た場合は『り』からはリンゴしか出なくなる。

 日向が言うにはそういうことだった。


「……なんかまどろっこしくない?」

「あんまり強力なチートはシステムに引っ掛かるから制限を付けて弱体化させている、とか言うとったであいつ」

「ふーん……他に何か言ってた?」

「スイッチは無制限に使えるわけやなくてやな、規模のデカいもんや、質の高いものを出すほど、あとはそれ維持するためのMPみたいなもんがウチの体から持ってかれるそうやで」

「へー……MPとかあるんだこの世界……」

「現地風に言うなら魔力やな」


 普段なら何言ってんだこの姉と言いたいところだけど、もう現実逃避をしている場合でもない。とかく、自分たちは異世界で生きるための力を授かった。

 これを活用して武器、食料、生活必需品などを出現させる必要がある。


「とりあえず一回試しに押してみん?」

「えー……五十音しかないのにそんな気軽に押して良いのかな……」

「どんな感じか一回見てみんことには作戦も立てられんやろ」

「う~ん、一理。じゃあ、どれ押す?」

「適当でええんやない?」

「ん~、じゃあ『さ』で」

「何が出るやろなぁ、砂糖とか?」

「どうだろ、ポチッとな」

「あ――」


 ――閃光。


 私が『さ』のスイッチ押したその瞬間、日向の口から轟音を伴って雷光が奔る。

 光はそのまま一瞬で数十mの距離を突き進むと、途端に力尽きたように霧散した。


「……………」

「……………」


 沈黙する棚町姉妹。

 だって、こんな感じだとは思わないじゃん。


「ザ○ルじゃん」

「ザケ○やったな」


 ――おねえちゃんスイッチ『さ』ザ○ル。


「いや、確かに少し思ったよ? ガ○シュっぽい設定だなって? 最初に“セット”って言っちゃったしね。でもさ、だからっていきなり現実に存在しないもの出てくるとは思わないじゃん。一発目からパロネタってなんなの、やる気あるの。姉の口からいきなり電撃が飛び出したときの妹の気持ちとか考えたことある?」

「せやな、ウチもせっかくならザ○ルガの方が良かったわ」

「そういうことじゃない! 今この瞬間人間辞めた人の言う台詞それ!?」

「いやでもこれ結構強いんちゃう? 電撃やで電撃。おねえちゃんはもうピカ○ュウと言っても差し支えないんやないか?」

「差し支えしかないよ!?」


 いやまあ、冷静になればそう全力で否定することでもないのかもしれないけど、姉が突然人類に退職届提出したら驚くじゃん。ねぇ。

 いきなりそれを受け止められるほど私は心が強くない。

 というより日向のメンタルが強すぎるって。

 最初はなんか落ち着いたモノが出てきて、「わー本当に出てきた、魔法みたーい」みたいなキャッキャウフフをする予定だったのに。だったのに。


「だってこれから異世界で生きなあかんのやろ? ザ○ルでも10まん○ルトでもギガ○インでもジ○ダインでもなんでん使えんと困るで。人間辞めても詩織のおねえちゃんは辞めとうないけんな、もうウチしか守れる人はおらんのやもん」

「……………」


 そう言われてしまうと、反論が出てこない。

 私を守ると、日向は言う。

 守られるのが、当たり前だったけれど。

 日向が私を、守らなければいけないのか。今はそれが少し、わからない。


「とりあえず、ザ○ルだと色々と 拙いからサンダーってことにするね?」

「まあ、しゃあないな」

 

 ――おねえちゃんスイッチ『さ』サンダー。


「そんでな詩織、次に押してほしいスイッチがあるんやけど……」

「あ、うん、どれ?」

「トイレ、行きたい」


 内股で、もじもじする顔の赤い姉。

 とりあえず、次に押すべきスイッチが決まった。

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