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 前回までのあらすじ。

 日向が魔王の手先だった。


「ひどいよおねえちゃん! 信じてたのに!」

「冤罪~、よしんばそうじゃなくても同罪~」


 それはそう。

 私たちこの世界来てまだ三日も経ってないし、ほぼずっと一緒にいたから隠れて何かする隙なんて無かった。つまり私たちはシロ、考えるまでもない。

 というかそもそも魔王を倒すために呼ばれたのが私たちだ。

 つまりアリアナさんの言葉を鵜呑みにするなら――


「ヤコさん、あなたって人は!」

「魔王の手先やなんて失望したで藤見!」

「つい二十四時間前には大蜥蜴の胃の中にいた私に言います?」

「「ごめん」」


 う~ん、どうやらこの中に魔王の手先はいないようです。

 まあ、あの神サーの下っ端がこの世界で魔王と呼称されているなら話は別だけど、さすがにそんなことする理由がないので却下。

 うんうん、結論として――


「違うって」

「ふざけているのか!?」


 グランデさんがバンっと机を拳で叩く。痛そう。

 でもそんなに怒らなくてもいいんじゃないかって思う。


「違うもんは違うんやからしゃーないやろ。ウチらはそこの紫色のアホが道間違えたせいでこの集落に迷い込んだ一般人であって、それ以上でもそれ以下でもない」

「お前たちのような危険な武器を隠し持った人間の言葉を信じろと?」

「…………」


 それもそう。反論の余地がない。

 私たちのような無垢な中学生をつかまえて何て酷いことを。と思ったのも一瞬、鉄の猪に乗って集落に乗り込んできた、面妖な服を着た人間が銃を隠し持ってたらそりゃあ怖いよね、疑うよね、信じろって方が無理がある。


「で、信じんならどないすんの?」


 とはいえ、まあ、私たちも信じてほしいかと言われると別にそんな。こちらにも非があるのは認めるけど、話も聞かずに牢にぶち込まれた相手と仲良くしたいわけではない。


「地図くれんなら、くれんでもええけど。そしたらウチらも譲歩する理由ないし、こんまま帰らせてもらうわ」

「くっ……」


 情報をくれようがくれまいが、アリシアちゃんを担ぎながら集落を出て、適当なところで解放するという方針は変わらない。

 信用に応じて解放地点と集落との距離が前後する程度だろう。


「旅の邪魔やし、ちゃんと娘さんは途中で解放するから安心しいや。まあこの森って大蜥蜴とかおって物騒やし、集落に帰るまでにどうなっても知らんけど」


 へらへら笑いながら日向が言う。性格が悪い、最高。

 もちろん私たちはアリシアちゃんの安全には最大限配慮するつもりだけど、受け取り方によっては「貴方の娘を大蜥蜴の餌にします」と言ってるようにも聞こえる。

 脅迫ってこうやるんですねぇ。


「しかし、魔王軍に聖域の地図を渡すなど……同胞たちを売るわけには……」


 うんうんと唸るアリアナさん。

 魔王軍じゃないけど、何かもう魔王軍ってことでいいや。面倒だし。

 詳しいことは不明だけど、おそらくこの聖域と言われている森には複数のエルフの集落があって、私たちこと魔王軍に狙われているんだと思う。

 しかし、既に手が及んでいるこの集落を除いて、他の集落の位置や経路を魔王軍は把握できていない。だから来るべき侵攻の日に備えて、この聖域の地図を欲している。

 だけど私たちに地図を渡せば、みすみす同胞のエルフを危険に晒すことになるので、そんなことできるわけがない。しかし、従わなければ娘の命が。


 ――と、誤解されているのは理解できた。


「あー、ちゃうちゃう。魔王軍に渡すとちゃうねん。道に迷った善良な一般市民に、エルフが善意で地図を書いて渡してくれるんよ。種族を越えた美しき友情やな。そんな悪用なんてするわけないですやん」

「…………」


 アリアナさん黙っちゃったよ。


「うわぁ……」


 ヤコさんが思わず引くレベル。


「なんか全部おねえちゃんのせいにされとる気がするけど、ほとんど詩織の指示に従って喋っとるやんな」

「おねえちゃん、それは言わない約束でしょ」


 私の好感度が下がっちゃうじゃん。


「つーかウチはあの大蜥蜴にもう一回遭いたくないだけやし、方角とざっくりした地図があれば構わんで」


 最低限、それがあれば大丈夫ではある。

 ある程度譲歩のつもりの発言だったけど、逆にアリアナさんの機嫌を損なってしまったのか、ぷるぷると体を震わせてらっしゃる。


「よくもそこまで嘘を吐けるものだな。あの大蜥蜴を森に放ったのはお前たちだろう、あれのせいで採集ができず、我らがどれだけ苦労していることか……子供たちに満足に食べさせてやることもできていないのだぞ!」

「ん……?」


 ちょっと待って、ちょっと待って。


「ヤコさん、あの大蜥蜴ってこの森の原生物じゃないの?」

「たぶん違うんじゃないですかね……? 少なくともギルドの報告にはなかったので、突然変異種か外来種のどちらかと思われます」


 ヤコさんの返答に、私はあーっと頭を叩く。


「それ早く聞いとけば良かったなー」


 言って、私は荷物がさごそと漁る。

 中身が少ないので目的の品はすぐ見つかった。


「ほい、大蜥蜴の魔石」

「…………は?」


 あとなに?

 大蜥蜴のせいで、集落の外で食料調達できてなかったってことだよね。

 だからみんなモデルばりに痩せてるのかー。

 じゃあ、やることは一つ。


「セット」


 スイッチ出してー。『よ』を押してー。


「洋梨、食べる?」

「…………は?」


 美味しいよ?


いいねくれた人ありがとう。

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― 新着の感想 ―
[一言] 洋梨は美味しい。さすがおねえちゃんだ(脳死判定)
[一言] 梨は洋梨や20世紀系より和梨が好きなんだな!
[良い点] 相変わらずのノリが良いこの姉妹w シリアスさんが息してないですね、AEDはドコかな? [一言] そういえばコレ魔王を倒す物語でしたね... 漫才ばかりで、すっかり忘れてましたw
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