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毎週月曜(余裕があれば週2.3回)を目標に更新します。
できなかったら殴ってください。
武器は言葉がオススメです。
結論から言うと私は動かなかった。
より正確に言うならば動けなかった。
考え得る中で最も卑怯な選択だったろう。
(くっそ、ダサい!)
私は自分とヤコさんの生死を日向に押し付けたのだ。
「追え! 奴らを逃がすな――」
「動くなッ!!!!」
夜の森に日向の絶叫が響く。
同時に数発の発砲音が耳をつんざいた。
日向がベレッタのサイレンサーを外し、上に向けて撃った音だろう。慌ててそちらの方を振り向けば、日向はアリシアちゃんを片腕で抱え、頭部に銃を突きつけていた。
ドラマや映画でよく見る、人質を取る犯人と同じ格好。
「一歩でも動いたらどうなるか分かっとるんやろなぁ!?」
「なにやってんのおねぇちゃん!?」
「うっさいわ! さっさとこっち来んかい! 藤見も!」
「あっ、えっ、あっ、はい!」
言われるがままに再度走り出す私とヤコさん。
それをさせまいとエルフたちが動くけど、日向が銃で牽制する。
適当な木の枝に命中させたところ、追っ手は銃の威力を理解したのか足を止めた。
エルフは目と耳が良いらしいので、自分たちの目を以てしても追えない速度の攻撃と、耳に響く発砲音に、想定以上にビビってくれているらしい。
「助かったよおねえちゃん!」
「なにスイッチ奪われとんねんド阿呆!」
「助かりました日向さん!」
「おのれはなに転けとんねんボケが!」
「「ぐえーっ!」」
二人揃ってチョップされた、痛い。
しかしながら反論の余地がない。辛いね。
「それよりもおねえちゃん! アリシアちゃんを人質に取るなんて――」
「ねぇねぇ! それなに!? すっごい大きい音した! 気になる気になる!」
「――まったくビビってらっしゃらない」
うーん、全然怖がってないなぁ。
日向に拘束されたままジタバタと銃に手を伸ばしている。
好奇心極まってんな、端から見れば命の危機なのに。
「アカンアカン! これは子供が持ったらアカンもんやねん!」
「あたしもう三十歳だよ!」
「「え」」
絶句する。
いや、その可能性は知っていたけども。
実際に言われるとショッキング。
「ねー見せてー! 見せてよー!」
「うぇへへ……センパイ勘弁してくださいよぉ」
「急に媚びるじゃん」
「そら三十歳つったらエマ・ワトソンと同い年(令和2年時点)やで? アリシアちゃんは実質エマ・ワトソンと言っても差し支えないんちゃうか?」
「……一理あるね」
「お二人ともテンパってます?」
そりゃテンパるでしょ。目の前にエマ・ワトソンが……いねぇわ。
いないよ。当たり前じゃん。なに言ってんの馬鹿じゃないの。
テンパってるのは依然として大ピンチの真っ只中だからだよ。
「おねえちゃん! ここからの動きは!?」
「えーっと、水と食料と逃走用の車を用意してもらうんやったっけ?」
「水と食料と逃走用の車ならもう持ってるでしょ!」
「現金とか?」
「エルフに貨幣文化はありませんね」
「くっそ、八方塞がりや!」
「なんでやねん」
おっと、思わず関西弁が伝染っちゃった。
私たちの勝利条件は逃走であって物品じゃない。
真っ先に考えられる手はこのままアリシアちゃんを盾に村の外まで移動して、アリシアちゃんをリリースした瞬間アクセルべた踏みで走り抜けるという方法。
おそらくこれが最適解。ただしエルフたちがアリシアちゃんを気にせずに攻撃を仕掛けてきた場合はほぼ負け確。
相手の反応を見る限り及び腰なので、さすがにそれはないと思う。
だけど問題なのは、私たちにアリシアちゃんを害する勇気が無いということ。
こればかりはどうしようもない。心の準備にはもう少し……いや、どれだけの時間を掛けたとしてもその準備ができることはないと思う。私も、日向も。
(一瞬でも弱気を見せたら死ぬ!)
私たちに人質を害する気が無いとバレた瞬間に形勢は逆転する。
だからこそ、強気の姿勢と緊張感を維持しないといけないのだけど――
「お願いだよー! それ見せてよー! それかさっきのスイッチ貸してよー!」
「アカン、アカンのです……」
「やーだー!」
――この緊張感のNASA。
日向は心身共に強靱だけど、その分弱点も多い。
その一つが子供の駄々だった。アリシアちゃんは年上だけど、人間に換算するとやっぱり十歳ぐらいなんだと思う。小さい子に泣かれると、日向は何もできないのだ。
人質が喚いたり反抗したとき、相手が迂闊に動けなくなるように小突いて黙らせるぐらいの処置が必要なのかもしれない、けども。
(だからって、子供を殴るのはなぁ……)
良心、良心は大事。人生で胸を張って生きるのに良心は欠かせない。
ここでアリシアちゃんを殴って助かっても、たぶん一生夢に見る。今後の人生にデバフがかかる。贖罪の機会なんてものも有り得なさそうだしね。
「……とりあえずおねえちゃん、アリシアちゃんをヤコさんにパスで」
日向の両手が塞がっているのはデメリットでしかない。
私はスイッチの起動があるし、アリシアちゃんに本気で暴れられたらワンチャン取り逃がす可能性もあるので却下。
消去法で手空きのヤコさんにアリシアちゃんを担当してもらう。
ちなみに私のヤコさんの呼び方が藤見からヤコさんに戻ってるのは、無能を晒した者同士仲良くしようねっていうアレなのは内緒。
「ヘイパス」
「な、ないすパス?」
「パスされたー!」
たっはー、って感じで自分の頭を軽く叩くアリシアちゃん。
本当に、随分と余裕なご様子で羨ましい限りです。
「えっとね、とりあえず穏便に話し合いとかできたら嬉しいんだけど――」
――と、私が切り出したその瞬間、森の木々が大きく揺れた。
「忌まわしき人間め! お嬢様を返せ!」
鋭い声と共に、頭上から一人のエルフが急襲してきた。
高い身体能力と木の枝のしなりを活かした速攻に、もちろん私の体は反応できない。狙われたヤコさんも同じで、声の方向に振り向くだけで精一杯って感じ。
しかし、ヤバいと思ったのは一瞬だけだ。
アサシンよろしく、ナイフを振りかぶったエルフさんを――
「あらよっと」
「覚悟し――ぶべらっ!?」
――強烈な右ストレートが襲った。
そしてそのまま地面に叩き付けられるアサシンエルフさん(美女)。
脳が揺れたのかピクピクと震えてらっしゃる。
いやはや、なんというか。
「押してて良かった『フロイド・メイ○ェザー・ジュニア』!」
うーん、穏便な話し合いとは。
まあでも、攻撃方法が近接で良かった。
プロボクサーの反射神経って半端ないね。
「はーい、みなさん動かんといてなー」
そして日向は直後に周囲を銃で牽制するのも忘れない。
まあ、完璧なタイミングだったはずの奇襲が目の前で盛大に失敗したからか、動揺でそれどころじゃなさそうだったけれど。
「わぁ! キュテリちゃんが負けちゃった! 日向ちゃんつよーい!」
「それほどでもないっすよセンパイ!」
「まだそれ続けるの?」
お仲間さんがぶん殴られてもキャッキャしてるアリシアちゃん。
なんだかちょっと怖くなってきた。器が大きすぎやしませんかね。
「って、それはともかく。今この人なんか大事なこと言ってなかった?」
地面で伸びてるエルフさんを指差して二人に聞く。
「確かアリシアさんのことを『お嬢様』と言ってましたね」
そうそう、それそれ。
「え、センパイお嬢様なんすか?」
「そうだよ? あたしこの集落の長の一人娘だもん!」
「なるほど、道理で肝が据わってると」
つまり村長の娘ね。へー。ふーん。いいじゃん。
「詩織、悪いこと考えてへん?」
「やだなぁ、そんなことないよ」
とりま、人質さん新規で一名様入りまーす。
更新サボってる間になろうも色々変わっててビビりますね。




