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エタってないよ!
(三人称の練習に始めた拙作ですがダルくなったので今回から一人称にします。ついては以前の分も一人称に雑に変えておきました。ごめんね)
地の文では日向と書いておねえちゃんと読むよ。
拝啓、天国のお父さんお母さん。
そちらの天気はどうですか、元気にしていますか。
詩織はいま、牢屋にぶち込まれています。おねえちゃんも一緒です。
これから裁判にかけられて、多分死刑になるそうです。
もうすぐまた二人に会えるかと思うと嬉しくてなりません。
お土産話をたくさん持って行くので楽しみに待っていて――
「やめんかい!」
「はっ!?」
と、日向の怒鳴り声で私は現実に引き戻される。
気付けば外はすっかり暗い。時刻にして夜七時くらい?
なんだかんだで結構経ってたみたい。
「藤見ィ! お前もいつまで土下座しとんねん!」
「はひぃ!?」
「ずっとぶつぶつ言いながら地面に落書きしてる女と、ずっと微動だにせず土下座してる女に挟まれる日向ちゃんの身にもなれや、斬新すぎるやろ」
「ひぇぇ……」
続けて藤見も顔を上げる。
敬称は過去に置いてきた。
「脱獄や脱獄! さっさと頭切り替えんか!」
「脱獄って、そんなマイケル・スコ○ィールドでもあるまいし」
「海外ドラマはおねえちゃんわかりません!!」
「じゃあなんでプリ○ン・ブレイクの話ってわかるのさ」
「シーズン1だけ観た」
「はい」
なんて、いつも通りの会話で脳を落ち着ける。
ボケとツッコミは平常心を取り戻すための重要な作業、ということにしておいたらなんかいい感じになったりしないか。しないか。
とりあえず現実逃避は終わり。
立ち向かう準備をしよう。
「状況の整理から始めようか」
「現状を要約すっとエルフの森に迷い込んでもうたら、とっ捕まって牢屋に入れられたで終わりやんな」
なんて単純明快な要約。世界はクソ。
「つまり勝利条件は脱獄。そのために必要なのは牢を出る方法、警備をかいくぐる方法、逃走手段の三つね」
とはいえ、正直に言うと事態はそれほど深刻ではない。
「まず牢屋を出る方法は鍵を盗むか、牢屋自体を蹴破るかの二択。そして後者の難易度はそれほど高くない」
「まあ木製やしな、この牢屋」
牢屋は牢屋でも、鉄製ではなかった。
かなり堅い木で作られているようだけど、これなら銃で鍵穴の部分を何発か撃つだけで開けることが出来るだろう。
問題は、そんなことをすれば確実に音でバレるという点だが。
「ガチャってたらサイレンサー付きのベレッタ出た」
「わたしの指で何かやってると思ったらいつの間に」
なんか解決しちゃった。
「600連ぐらい回してやっとや、これがソシャゲやったら消費者庁が黙っとらんで」
「確率アップしてない最高レアならそんなもんでしょ」
ひとまず牢屋の脱出方法はクリア。
次いで警備をかいくぐる方法だけど、これは問題ではない。
小娘が三人ぽっちというカタログスペックからか、エルフはこちらをあまり警戒していない様子。
見張りのエルフは頻繁に席を外すし、巡回も一時間に一度。
スネークがスニークなダンボール的なあれも必要ない。
「そして逃走手段」
「広い場所に出たらスイッチでキャンピングカー出して証明終了」
「QED」
「「いえーい!」」
わざわざ奪われたキャンピングカーを取り戻す必要だってない。
こういうところがスイッチの良いところ。
「せやかて詩織、舐めプはあかんで?」
「しないよ。おねえちゃんじゃあるまいし」
「え……」
とはいえ、私たちはエルフのことを何も知らない。知ってるのはなんか全体的に顔が良くて動物性食品を口にしない耳と寿命の長い種族、そんでもって人間のことが大嫌いらしいってことぐらい。
あとは弓が上手くて魔法が得意っぽい?
「藤見!」
「ひゃい!?」
「エルフについて知っていることを教えてもらおうか」
知らないことは今からでも知れば良き。
最初に囲まれたときテンパってそのまま車から降りちゃったけど、もしかしたらそのまま車を走らせていたら逃げられていたかもしれない。
「いえ、それは難しかったと思います。エルフはそのほとんどが魔法を使えますから。一人や二人なら平気でしょうが、あれだけの数から一斉に火球でも放たれたりしたら車内で蒸し焼きになっていたはずです」
「え、こわっ」
大人しく従って良かった。
「えっと、その他には目立った特徴はありません。強いて言うなら視力と聴力が良いという点ですが、驚異的とまでは言えない程度なので、サイレンサー付きの銃声ならばさほど問題はないでしょう」
「本当に?」
「私の経験則ではなく本に書いてあった知識なので……」
藤見、あんまり信用できないよ藤見。別に嫌いではないし、好感度も低くはないけど能力に対する評価は限りなく低いよ藤見。
まあでも本に書いていたならそうなんだろうね。
「よーし、じゃあ次の巡回が終わったら動こうか。なんかエルフさんたち、わたしたちにあんま興味なさそうだし、まあ簡単に逃げられるでしょ」
正直に言えば魔法とか怖い、怖いけど。
いざとなればキャンピングカーは盾にもなる。無敵。
さすが私たちのキャンピングカー。チートかな?
チートだった。ナーフされませんように。
「あっ、はいはい! おねえちゃん気付いたことある!」
「どうぞ、期待はしてないけど」
「いやな、さっき囲まれたときのこと思い出しとったんやけど――」
とまあ、そこで日向が口にしたのは。
「「――!」」
私と藤見を驚かせるに足る物で。
こんな粗雑な脱獄計画の成功を保証する物でもあり、同時に新たに疑問を浮かび上がらせる物でもあった。




