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言い忘れていましたが棚町姉妹は美少女、ヤコさんは衛生環境と栄養状態さえ整えば美人。
前回の、ビーストウ○ーズリターンズは!
「まだ産まれてねぇよ!!!」
2004年にはまだ誕生していない私こと棚町詩織十五歳は、現在ファンタジー世界が誇るセクハラ処女厨ユニコーンに拉致誘拐されていた。
「詩織ぃいいいいいいいいいい!!!」
「おねえちゃあああああああん!!!」
その後方からユニコーンを全力で追う棚町日向十五歳、50m走のタイムはだいたい6秒台半ば。悲しきかな、女子中学生としてはかなりの俊足である日向の脚力を以てしても、常識的に考えて人は馬には追いつけない。
ちなみに一応ヤコさんも全裸で車から飛び出しているが足は普通。
「待てやこのロリコンがぁあああああああ!!! 誰の妹に手え出しとる思うとんねん貴様ぁあああああああ!!!」
「おねえちゃんたすけてぇえええええええ!!!」
我がことながら号泣する。貞操が掛かっているようですね。
初めての相手が馬とか洒落にもならない上に、たぶんこいつ処女じゃなくなった瞬間蹴り殺してくるタイプのクズだ。
そういう顔をしている、間違いないね。
ヤコさんが可哀想な人だとわかった瞬間にベレッタを消したのが失策だった。この状況ではスイッチを呼び出して押す余裕もなく、ゆえに日向にも手の出しようがない。
つまり、私が生き残るには自分でどうにかするしかないのだ。
「詩織! 服脱ぎぃ!」
「――ッ! キャストオフ!」
微かに聞こえた姉の指示に従い服をキャストオフ。
ワンピースだから脱ぎやすくて良かった、さすがひとつなぎの大秘宝。
結局ONE PIECEって何なんだろうね、せめて進撃の巨人の最終回くらい読んでから異世界来たかった。
冨樫、働いてるか冨樫。あなたの読者、棚町詩織は死にそうです。
「ぶげっ!?」
そんなことを考えながら乙女が出してはいけない声を伴い地面に転がり落ちる。
とても痛い、インドア派には五点着地の知識はあっても実践するだけのセンスと身体能力がないのであった。
とはいえ、いくら痛かろうとグズグズしている暇はない。
獲物が手元からすり抜けたことに気付いたユニコーンはすぐさまUターン。
再び私を捕らえようと舌を出し唾液をまき散らしながら走ってくる。なにあれすごいキモい。
白地の下着のまま全力疾走(50m走10秒台)すると、そこには最愛の姉の姿。
「詩織ぃいいいいいいいい!」
「おねえちゃん、こわかったよぉぉぉ!」
ヘッスラの要領で胸に飛び込んで無事に棚町姉妹合流。
しかし、それで事態が解決したわけではもちろんない。脅威は未だ、すぐそこにある。
怖い、怖い、怖い。傍目にギャグでも実際怖い。
南無阿弥陀仏。
「もう大丈夫やけんな、詩織」
日向は震える私を安心させるように一度強く抱き締めると、おもむろに立ち上がって迫り来るユニコーンに立ち向かう。
「いけません日向さん! ユニコーンはBランクモンスター、武器も持たずに女の子が戦える相手ではありません!」
「待っておねえちゃん! 早く逃げないと!」
私と後ろからヤコさんが制止の声をかける。
だが日向はそれを聞かずに、多分逆ギレしているユニコーンへと歩を進める。
Bランクモンスターがどれほどのものか不明だけど、おそらく響きからして強いのだろう。
そうでなくともおおよそ時速70kmで突進してくる人間の倍以上の体重を誇る野生動物、まともにぶつかれば命の保証はない。
「ウチの妹に……」
激突の瞬間は、すぐそこだった。
「おねえちゃーん!?」
悲痛な叫びが木霊する。
いくら姉が天才であろうと、その規格は女子中学生。
本物のモンスターであるユニコーン相手に敵うはずが――
「なにしてくれとんじゃこのドブカスがぁあああああああああああ!!!!!」
『ヒヒーン!?!?!?!??!!?!??』
――ワンパンだった。
日向はユニコーンの角による突き上げを軽やかなステップで躱すと、カウンターで見事な右フックを相手の側頭部へと叩き込んだ。
強烈な衝撃でぶち折れたユニコーンの角はくるくると宙を舞い、その真っ白い体躯は地に横たわり土に汚れる。
見れば一撃で脳が揺らされたのか、ユニコーンは完全に気絶していた。
瞬殺、そして圧勝。完膚なきまでに日向の勝利。
「おねえちゃん強ぇええええええええええええ!?」
ユニコーンを倒した。
素手で。
強いとかいうレベルではない。確実に何かがおかしい。
いや異世界に来てから何もかんもおかしいって言われたなら何も言えないけれど、それはそれとしてもこれは確実におかしい。
姉がまた人類に辞表を提出しやがった。
「あのステップ、あのフォーム……間違いありません!」
「知ってるのヤコさん!?」
そうこうしているうちにやっと追いついたヤコさんが、なにやら全裸で唐突に雷電っぽい台詞を放ったので、空気を読んで乗っかておく。
「あれは……」
「あれは……?」
ゴクリと、つばを飲む。
「フロイド・メイ○ェザー・ジュニア!!」
「フロイド・メイウ○ザー・ジュニア!?」
って誰だよ、女子学生の公用語で話せよお前ら。
なんてことは言わない優しい詩織ちゃんである。
感謝しろよ。
「史上初めて無敗のまま5階級制覇を達成したアメリカの伝説的なプロボクサーですよ! いやぁ、すごいなぁ!」
「いや知らないけど」
「大晦日にRIZINでキックボクシングの人をボコってた人です」
「ああ、あれ」
なんかね、紅白の合間に見たよね。
「でもなんでおねえちゃんがそんな凄い人の――」
と、そこでふと気付く。
「ん、ごめんヤコさん。そのボクサーの人の名前もう一回言って」
「フロイド・メ○ウェザー・ジュニアです」
フロイド・メイウ○ザー・ジュニア。
フロイド。
ふろいど。
ふ。
――おねえちゃんスイッチ『ふ』フロイド・メイ○ェザー・ジュニア。
「お前かい!!!!」
「ひえっ!?」
そうはならんやろという気持ちと、なっとるやろがいという気持ち。
でもよく考えたら元ネタであるN○Kのおと○さんスイッチの仕様を考えると、むしろこの方が本来の使い道に近いよねという気持ちが三つ、混ざり合って頭がこんがらがる。
「いや、強いよ? 強いよね? だって世界最強のプロボクサーだもんね、対人戦とかほぼ最強じゃん? 実際こうして助けてもらったわけだし? まあ今回も当たりを引いたと言っても過言じゃないとは思うよ?」
だけど、だけどさ。
厠
キャンピングカー
☆ザ○ル
☆ドラグノフ
☆フロイド・メイ○ェザー・ジュニア
☆ベレッタM92
ラーメン
「殺意が高ぇーんだ!!」
たぶんチャック・ノリスとかも出る。




