73 慮内の一手④
「――ぐはっ」
地面に叩きつけられる衝撃で、僕は目を覚ました。僕の下には、絶命したトロール。さっきまで戦っていた奴だろうか。
顔面は完全に破壊されている。。流石の〈超再生〉様も、30mから落下したらただでは済まなかった、というわけだな。
僕はコイツがクッションになってくれたからなんとかなった、のか?
……素直にお礼は言い辛いが、まぁ、ありがと。
僕らが落ちたのは、戦っていた城壁より少しずれた場所だった。
風でも吹いたのかな?
まぁ、30mもあれば空気抵抗とかで落下地点がずれてもおかしくない……のか?
……理科の授業とか全く覚えてないから、自信ないわ。
なんにせよ、この城壁改めて見るとやっぱデカいなぁ。
……例の『超◯型◯人』とか更にデカいんだろ? よく突っ込んでいけるよな。改めて◯査兵団、尊敬するわ。
しかも、上で戦っていた感じ、高いだけじゃなく相当分厚いし、とても落とせそうにない。
こんなガッチガチに守らないといけないくらいこの世界の軍隊ってのはヤバいのか? まぁヤバそうだな。
なんせ――僕は取得出来なかったけど――〈跳躍〉とか軽く10mくらい跳べるし、〈衝撃付与〉とか生半可な厚さの壁なら一撃で破壊出来そうだ。
極め付けは〈破壊付与〉。
発動したらこっちも粉々になる、っていう重過ぎるデメリットを抜きにしても、ぶっ壊れ性能過ぎる。
……まぁ、これは使ってる奴見たことないから、人族は習得出来ない、とかそんな縛りあんのかもしれない。
僕はレベルアップで呆気なく取得出来たけど、実はレアスキルだったりする?
そこまで考えたところで、置かれた状況を思い出して急いで思考を切り替える。
危ない危ない。
ぼけえー、っとしてる場合じゃないんだった。
……今、戦場にいるんだった。僕。
周囲は……肉が焼けたような、と言うかまさに肉が焼けていた。亜人の。
油が相当強力だったのか、亜人達の蓄えていた脂がなかなかすごかったのか。
……豚脂とか牛脂とか、他にも多種多様な獣の脂が豊富だったし、燃え上がりそうではある。
帝国軍が使っている油もかなり強化されているみたいだな。
まぁ、帝国は魔法の軍事利用も盛んだから、そういう特殊なスキルを持っている奴も多いだろうし、強力な油を大量に有していても驚かない。
周囲には、煤と灰と燃えかす。未だに火がついている元々亜人だったのだろう塊。
……火にあぶられ最期まで苦しんだことが嫌でも分かるその表情に、全く心が動かない自分に気付き、背筋が寒くなった。
そして僕に向けてゆっくりと近付いて来る、未だに燃えているオーガが一体。
「グァ、ゲ、ゴァ、ガァ、ガァーー!!」
なまじ〈火耐性〉を持ってるだけに死にきれなくて苦しんでるようだ。
耐性があるって言っても熱いことに変わりはないし、HPへのダメージが軽減されても精神的には発狂しそうなレベルの苦行だろう。
見てると可哀想になってきた。
仕方ない、トドメを刺してやる……あり? 僕の剣は?
上でトロールに投げつけられた兵士から借りた剣があったはずだ。
その後の記憶がなく、気付いたら下に落ちてたが、その前は確かに剣を持っていた。
周囲の地面を見渡すが、砕けた欠片すら見つからない。
どこいった?
地上の亜人はあらかた燃えたとは言え、目の前のオーガしかり生き残りはいるだろうし、丸腰でうろつくのは危険極まりない。
さっきのトロールとの戦闘も、なんとか勝てた感じになったのは城壁から落ちたからだろう。
たまたまあっちが下だったから、僕の実力によるものじゃない。
その戦闘で受けたダメージもかなりのものだ。
一応身体各所への分体の再配置は完了したが、安心は出来ない。
この身体自体だいぶガタがきてる。
生身でステゴロするのは論外としても、もう一撃デカいのを喰らったらたぶん終わりだ。
せめて何か武器になるものは……
「……あっ」
◇◇◇
「グルォーアァーー!!」
「大人しく、死ねぇ!!」
僕の〝剣〟がオーガの首を刎ね、遂に絶命した。
ふぅ、長かった。
めっちゃ苦しんでるわりに生への執着だけはすごいから最後まで抵抗してきたなぁ。
分からんでもないけど、なんならお気に召したのかは気になるところだ。
苦しみからは早く解放されたいけど、殺されるのは勘弁、とか? どんだけ贅沢なんだよ。ナメてんのか?
……まぁ、既に死んだ奴にもはや用はない。〝剣〟を軽く振って血を飛ばすと、僕は振り向く。
そっちには、しぶとく生き残った――若しくは生き残ってしまった亜人がいた。
ほとんどオーガだが、〈火耐性〉持ちらしいトロールなんかも若干混ざってる。
火がついたままのたうち回ったり、あまりの苦しさからか自分で自分をぶん殴ってる奴までいる始末だ。
僕の視線の先には、そんな、この世の地獄を身をもって体感している亜人――と、それを片っ端から狩りまくってる騎兵がいた。
「そっちに一体行ったぞ!」
「分かっている! 俺が対処する!」
人数は三十騎くらいか。大穴の裏に潜んでいた地上部隊より少ないのは、残りは全滅しちゃった……というわけではなく、残りは都市中央へ既に向かったからだろう。
普段ならいくら騎兵でもここまで一方的にはいかなかっただろう。やはり亜人達は弱りきっていた。
元より亜人の生き残りの数が少なかったのもあって、十分もしないうちに亜人は全滅した。
終わってみれば、案外呆気なかったな、敵さんも。
僕はさっき拾った剣を鞘に納める。
なんのことはない、どこにでもある何の変哲もないただの剣だ。
よく見れば、火攻めをする前は門前の広場で戦っていたのだから、その時の武器が落ちているのは当然だ。そのまま使えるのはあんまりないけど、それでも武器自体はそれなりに散らばっていた。
その中で、比較的損傷が少なかった一本を使わせてもらっている。
恐らく、さっきまでの地上戦の最中に誰かが落としたか、それか……持ち主が戦死した剣だろう。
思い返せば、あの焦熱地獄の中で原形を保っていた剣というのも、なんかご利益ありそうだ。
そのままこちらへ向かってくる騎兵を待つ。
……変に動いて亜人と勘違いされて遠距離から狙撃される、とかシャレにならんからね。
近付いてくるにつれ、それが誰か分かってきた僕は、場違いにも安心してしまった。
「なんだ、ルカイユじゃねぇか!」
「ルカイユ! なんでここに?」
「やぁ、二人とも」
その二人は、カイネとカイゼルだった。
二人とも中隊長率いる地上部隊に配属されていたが、残敵掃討に残されていたようだ。
亜人の生き残りを警戒していた(だろう)だけに、その正体が僕だと知って露骨に安心した様子で近付いてくる。
……別に良いんだけどさ、顔見て安心してもらえるのは普通に嬉しいし。でも、僕がルカイユの皮を被った亜人だったらどうすんだろ、とは思ってしまうな。
――「ルカイユの皮を被っている」ってのは案外間違いでもないんだけど。
「上で指揮を執ってるんじゃなかった?」
「……ははっ、そのはずだったんだけどね」
カイネの疑問はもっともだ。正直僕もなんで自分が地面に落ちてるのかよく分からない。
トロールとの戦闘の末に落ちたんだろう、ってのは分かるんだが、何故そこに至ったのか、っていう肝心の記憶がゴッソリ抜け落ちてるんだよなぁ。
思い出そうとするけど、どうも思い出せない。
「……まぁ、イイじゃねぇか。それよりルカイユ、これからどうすんだ?」
「君達は? 中隊長達と合流するんだろ?」
「そうだけど……ルカイユは馬連れてないの?」
「ああ、残念ながらね」
武器は落ちてても、流石に馬までは落ちてなかった。当たり前か。いたら怖いわ。
徒歩で馬についていく、それも馬に乗ってる方ものんびりしていられる状況じゃなくて急いでるなら余計に無理な話だな。
「僕のことは気にしなくていい。先ずは上に戻るから」
「そう? 大丈夫?」
「……大丈夫だよ」
元々地上部隊な二人と違って、僕は本来ここにいるべきじゃない。城壁から落ちたわけだし、先ずは指揮所に戻る、戻ろうとするべきだろう。
未だ僕のことを心配してくれるカイネを見送り、僕は城壁の上と連絡を取ることにする。
さてと、どうしよっかなぁ。
〈念話〉が通じるか分からん。
ケータイみたくアドレス交換的なものを経ないと通じなさそうだよな。
そうじゃなきゃ、自分宛の〈念話〉か分からなくなるし、知らない誰かの〈念話〉を傍受するのも、知らない誰かに傍受されるのも恐ろし過ぎる。
……国家機密とかにうっかり触れた日には、二度と触れられない身体にされてしまうに違いない。おぉ怖っ。
さっき上に上げてもらった時、どうしてたっけ? たしか、下にいた帝国の下士官が……
「うわっ⁉︎」
「きっ……んなっ⁉︎ ひゃっ⁉︎」
突然目の前におっさんの顔が出現した。
具体的には10cmくらい手前。いきなりこの距離に現れたら漏らすだけじゃ済まないぞ。
もちろん、奮戦虚しく戦死した兵士の生首の幽霊……などではない。城壁から件の魔道具で降りてきたんだろう。背後には、あと数人の帝国兵の姿が見える。
あっちもかなり驚いて、その顔面からは「驚・愕」の二文字しか読み取れない。なかなかに濃ゆいそのソース顔を最大限利用して驚きを表現している。
……髭面に似合わない(めっちゃ失礼)可愛い悲鳴をあげかけたのは、黙っておいてあげよう。
「驚かせてすまない。私はルカイユ六等騎士だ。メルヘン部隊長より一時的に帝国軍歩兵指揮官職を預かっている。貴官らは?」
「……えーごほん。失礼、小官らは部隊長殿の命により地上の残敵を捜索及び掃討すべく参った小隊であります、ルカイユ六等騎士殿、臨時歩兵指揮官殿」
「長ったらしいだろう、私のことは『ルカイユ』で構わない。それと敬語も不要だ。私は単なる六等騎士に過ぎない」
「……了解した、ルカイユ殿。小官はオーフェンだ」
「よろしく、オーフェン殿」
髭面のおっさん――オーフェンの小隊はちょうど二十人だった。馬は二頭だけ。基本は全員重装歩兵だ。小隊長だからか、オーフェンだけ冑を脱いでいた。
とりあえず互いの情報を交換する。
僕はさっきまで地上部隊の掃討班と共に発見出来た限りの敵は全滅させたことを、オーフェン達は側防塔や城門上から見た限り都市内各所で戦闘は終結に向かっているらしいこと、そのことを地上部隊へ伝達する任務も負っており、馬はその為に連れてきたということをそれぞれ話した。
僕が城壁上でトロールと激闘を繰り広げた末に気付いたら地上にいた、と話すと、皆んな明らかに「ウソだぁ」って顔をしていた。
『事実は小説よりも奇なり』とはよく言ったもんだ。疑うのも無理はないが、本当にその通りなのだから。
「良ければ、城壁を昇るための魔道具を呼んでくれないか? 一度指揮所に戻りたいのだが、私は呼び方を知らないのだ」
「分かった。少し待たれよ」
上と交信している(と思われる)オーフェンの様子を見る限り、帝国軍も〈念話〉を使ってるみたいだな。
僕もメルヘン辺りとアドレス交換しとけば良かったか?
……『本体』は勇者とかと交換したみたいで、スキルを共有している僕もその人達になら繋げそうなんだけど、流石に勇者に「城壁の上に上げて(はーと)」してもなぁ。
とりあえず、上に上がったら(どうやるのか知らんが)〈念話〉のパスを繋がせてもらおう。
僕がそう決めて、魔道具が降りてくるのを待っていると、交信を終えたらしいオーフェンが振り向いた。
「呼んでくれたか?」
「ルカイユ殿、部隊長殿は、指揮所への帰還並びに報告は不要、小官らに同行して地上部隊と合流するように、と仰せです」
…………は? マジか?
いや、まぁ別に上にどうしても戻りたいわけではないんだが、それでも僕が落ちた後のことも気になるし、現在の状況も詳しく知りたくはある。
もちろん、指示ならばそれに従う。積極的に逆らう理由もないし。
……モヤモヤせんこともないわけではない。
「……了解した。同行しよう」
「鎧の予備は持ち合わせていないので、お貸しすることは出来ないが……」
「構わない。私は軽装の方が動き易いのでこのままで問題ない」
「了解した。それでは行こうか」
「ああ」
二頭の馬には誰も乗らず、隊員二人が手綱を引いて歩かせている。いざ必要、という時の為になるべく疲れさせたくないのだろう。
しばらく進んでも、僕らが掃討した後なので敵の姿はない。
一応とどめを確実に刺すために死体を見つけたら槍で突くつもりだったみたいだが、あの炎で焼き尽くされた後だ。基本炭みたいな状態の奴しか見つからない。
そんなわけで、何も起きないまま僕らは都市中央へ進んで行った。
あの大炎上によって南門前の広場は当然のことながら、周辺の住宅街も燃えてしまい、視線はかなり通る。
住宅街(跡地)に踏み込むと、重装歩兵達は二頭の馬を中心に、隊長のオーフェン(と僕)を先頭に注意深く進むようになった。
盾をガッチリ構え、家の陰から飛び出してこないか警戒している。
僕の〈探知〉にはなにも引っかかっていない。でも、スキルレベルが低いからか、たまに頼りにならない時がある。
と言うより、多分これは――あるのか知らないけど――〈並列思考〉とかそんな感じのスキル持ちじゃないと使いこなせない代物なんだろう。
かなり意識を〈探知〉に割かないと正確な情報を得られない。
〈探知〉に集中なんかしてたら、この色々と散らばっている場所ではこけてしまうし、戦闘中に〈探知〉に集中するなんて論外だ。
……『本体』には『分体統括』があるから、使いこなせるかもしれないけど、僕には厳しいな。
そんな時だった。正面からこちらへと馬が駆けてくるのを発見したのは。
亜人達は今のところ騎乗している者は確認されていないので、普通に考えればあれは人族の騎兵だろう。
でも、そうだとすればかなりデカいなにかが起こったと考えられる。
なんせ、数が多過ぎる。
ざっと見た感じ、それなりに広い大通りを埋め尽くしているし百や二百じゃきかない、五百くらいはいそうだ。
そんな大部隊が、それも見える範囲では全員騎兵がこちらへ向かってくるのは、只事ではないだろう。
……ううっ、なんとも言えない嫌な予感がする。
◇◇◇
「――来たな」
「ああ……んなっ⁉︎」
「どうした、オーフェン殿?」
オーフェンとも相談の上、僕らは通りのど真ん中で騎兵集団を待ち構えることにした。
その先頭の顔がそろそろはっきり見える、というその時、突然オーフェンが驚きの声をあげ、驚くべきことを言った。
「とっ、都市長閣下⁉︎」
「なにっ⁉︎」
慌てて僕も先頭の奴の顔を見る。
そこにいたのは、都市長――ではなかった。
こっちもだいぶ厳ついが、この都市に到着した時に僕ら――『聖女』様を出迎えたあの大男じゃない。
しかし、そのすぐ背後から来る見覚えのある赤みがかったライオンみたいな金髪の大男、間違いなくあれは都市長、カスト……なんとか・マッケ……なんとかさんだ。
……「メルヘン」なんて強烈な姓を聞いたせいで他の人のフルネームを忘れてしまった。
とにかく、その都市長が直々に兵を率いて南門へ向けてやってきたというわけだ。
明らかにヤバい状況だろう。
都市長が武闘派なのは見れば分かるが、今この都市で最も取られたらヤバい(はずの)中央で防衛の指揮を執ってるんじゃないのか? 何故ここにいる?
疑問だらけのまま混乱している僕まで後少し、というところで、都市長の前にいた厳つい髭――厳髯公と名付けよう。どっちかって言うと◯羽よりも張◯ってイメージだけど――が馬を止め、怒鳴った。
「貴様ら、どこの部隊だ! 何故都市長閣下の行手を塞ぐか!」
「しょっ小官らは、南門の、しゅ守備隊であります! 守備隊長の命により、ざっ残敵の、そ掃討に当たっております!」
「ふんっ」
オーフェンが震える声で答える。
それに鼻を鳴らしただけで、厳髯公は今度は僕の方を見る。
「そこの貴様もか? 何やら面妖な格好をしておるが」
まぁ、そう言うのも分からんではない。
帝国軍の下士官の制服と歩兵用の軽装鎧の上から修道騎士のマントを羽織っているのだ。しかも胸には歩兵指揮官の徽章までつけている。
帝国軍なのか、修道騎士なのか、いまいちよく分からない格好だ。
「教皇国六等騎士、ルカイユと申します。南門守備隊長殿より帝国軍臨時歩兵指揮官を拝命いたしました」
「ほぉ」
コイツ、さっきから自分で聞いておいて心底興味無さそうだな。僕、コイツ嫌いだわ。
まぁ、僕が誰を嫌おうが、そんなことはどうでも良い。
問題は、なんで都市長(と厳髯公)達がわざわざここに来ているのか、ということだ。
「一つ尋ねたいことがある」
ここにきてようやく都市長が口を開いた。
都市長に気付いてからというものガチガチに緊張しきっているオーフェンに視線を向け、他の隊員へと移して、最後に僕へ視線が固定された。
……オーフェンや他の奴らじゃダメだと思ったのか? 可哀想に。
ちょっと申し訳なく思いながら、僕が答える。
「なんなりと、お尋ねください」
「貴様! なんだその無礼n」
「遮るな。私が質問しているのだぞ?」
…………怖っ。都市長、怖っ。
都市長は、ただ僕の物言いに怒った厳髯公の叱責を止めただけだ。
なのになんなの、今の迫力。
別に大声とかじゃない。むしろ声は小さいんだけど、それだけでだけで相手を確実に黙らせる謎の力があった。
言葉のナイフどころじゃない、言葉の村正ぐらいは強いわ。確実に人を殺せそうな威力してる。冗談抜きで心臓が弱い人ならショック死しそうなレベル。
……どうでも良いけど、この衝撃的な出来事でこの人の名前思い出したわ。
カストディオ・マッケロウ。
どこを切り取っても悪口みたいな渾名しか思い浮かばないので、これからも「都市長」と呼ぶことにしよう。
「亜人の姿は見つからなかったのだな?」
「はっ、南門へ攻め寄せた亜人に関しては、全滅したものと思われます」
「ふむ、ここもか」
「……と、仰られますと?」
「我らもな、中央へ攻め寄せた亜人共は全て討ち取ったつもりだ。しかしな、見つからんのだ」
「……なにが、でございますか?」
正直、意味深な物言いでなんとなく察しはついている。
それでも聞いてしまったのは、僕にも怖いもの見たさの感情がある、からではなく認めたくないが故に否定して欲しかったのだ。
――無駄な足掻きだと悟りながらも
「都市内各所で防衛部隊が攻め寄せた亜人を撃退、殲滅している。しかし、相対した敵兵力と、討伐した敵の死体の数が合わないのだ」
そして、都市長の返答は僕の嫌な予感が的中していることを親切にも、嫌というほど分からせてくれた。
「――敵の一部が忽然と姿を消した」