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不死者に平和を  作者: 姫神夜神
4 ヒトツキの戦い
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68 シナラス攻防戦④

「――どけぃ、そこの騎士ぃ!!」

「は? えっ、うおぁ」


 こちらへもみ合いながら突っ込んでくる人族の騎兵と何故か徒歩で並走している亜人達。

 その中の一騎――名前は知らないが見たことはある修道騎士だ――が突撃の勢いのまま、槍をクルサォスに突き出す。

 僕は慌てて後ろへ跳ぶ。下手に止まって巻き込まれたら洒落にならんからね。

 クルサォスの目前に迫っても勢いを弱めることはなく、そのまま突っ込んでいく。相当な胆力の持ち主だし、馬との信頼も深いようだ。

 騎士の槍がクルサォスに届くか、というまさにその瞬間、

 

「邪魔を、するな!!」グジェ

「ごぶほっ」


 クルサォスは左手で槍を掴んだかと思うと、右手一本で大剣を目にも留まらぬ速さで振るい、騎士は馬から滑り落ちた。

 顔の側面を(かぶと)ごと抉られ、首があり得ない角度に曲がり、口からは血泡を吹いている。ほぼ即死だ。

 そのまま突っ込んできた馬の胸に正拳突きをかましてこちらも葬り去ると、クルサォスは近くで戦っているトロール――つまり味方の()()()()()()()()


 正直なところ、あまり驚きはない。

 そんなに関わってきたわけじゃないけど、たぶんコイツはこういう奴なんだろうな、ってのは僕の中にある。

 コイツは〝戦闘狂〟なのだ。病的なまでの。

 ()()()()()()()()()〝戦闘狂〟。それが恐らく最も的確な評価だろう。

 この戦闘が始まる前、僕に目をつけたのに、始まるやアッサリと引いて門攻めを優先したのは、指揮官としての義務感などではない。

 単純にあの場では一対一が出来なかったからだ。邪魔が多い。

 だから部下(邪魔者)に門攻めと防衛部隊(邪魔者)の対処を任せ、なんの邪魔も入らないようにしてから心置きなく一対一をするつもりだったのだろう。

 さっき護衛達に僕の相手をさせたのも、アイツら程度にやられるようなら自分の相手に相応しくない、と僕を見定める意図があったのかもしれない。

 ……下手すれば、ただただ僕の手で護衛達(邪魔者)()()()()()()()()()()かもしれないけど。

 そうやってようやく、待ちに待った、待ち焦がれた、待ち望んでいた、切望した、待望の、念願の一対一が出来る、ってとこを邪魔されたんだ。そりゃキレるわ。

 

 それにしても、僕があんだけ苦労して倒したトロールをこうもアッサリ殺すとはね。改めて絶望的な戦力差よ。

 まぁ分かってはいたけどね。それでも堪えるものはある。

 クルサォスは周囲の邪魔者を文字通り「皆」殺しにするつもりらしい。(人族)味方(亜人)も関係なく手当たり次第に虐殺を開始した。

 このまま座して見ていたらこちら側の騎兵が全滅してしまう。

 僕はとっときの剣は再度納め、目の前で即死した騎士の剣を鞘から抜いて近くのコボルトに向かった。

 目の前で突然繰り広げられた上官の乱心ぶりに気を取られていたコボルトの首を直接狙う。

 血が、飛び散った。


「……ようやく、邪魔はいなくなったな」

「……ああ、そうだな」


 クルサォスや亜人達によって騎兵は僕を残して全滅させられた。

 そして、クルサォスや僕、騎兵らによって亜人もクルサォスを残し全滅。

 僕とクルサォスは再度一対一の状況になった。


 改めて規格外だな、コイツ(クルサォス)

 僕があれだけ苦戦してようやく倒してきた亜人達をほとんど一撃でどんどん葬っていった。正直僕はほぼなにもしてない。

 さっき立てた作戦への自信がどんどん失われていく。

 彼我(ひが)の戦力差を思い知らされればされるほど、勝ち目は薄く感じられる。

 とてもじゃないが、コイツを倒せるビジョンが見えない。

 それでも、やるしかない。

 クルサォスの武力は今体感した通りだ。こんな奴を野放しには出来ない。誰かしらコイツを討伐出来るような人が来るまで誰かが足止めをしておかなくては。

 そして、この場にはもう僕しかいない。

 ルカイユの残滓だろうか。帝国の民に死んでほしくない、という気持ちが溢れてくる。

 例えこの身を打ち捨てようとも、市民に犠牲は出させない。

 やるしか……ない。

 何度目か分からない覚悟を決めた僕は、最後にずっと気になっていたことを質問した。


「……一つ、一つだけ聞かせてくれ」

「なんだ? 申してみよ」

「……何故僕なんだ? いったい僕のどこが君の琴線に触れた?」

「『キンセン』とやらがなにかは知らんが、ヌシをウヌの()()()()()()()()に選んだ理由は簡単なことよ」


 「腹ごしらえ」か。恐ろしいな。

 こんな虐殺劇をそんなことのために行えるとは、改めて生きてる世界が違う。そのことを実感させられるなぁ。

 ……今思えば、なんとなく嫌な予感がしていたのだろう。この後に続くクルサォスの言葉は確実に僕の精神を抉ってくるだろう、という嫌な予感が。

 そんな僕には頓着せず、ニヤリと笑った(ように見える)クルサォスは言い放った。


「ヌシはウヌに最初に斬りかかってきた。その覚悟の強さ、ウヌの相手に相応しいであろう!」


 ……は? なんだ、それは。


◇◇◇

 

 …………嘘だろ?

 本当に、そんなことのために他の奴を悉くぶっ殺したのか? 部下含めて? 

 じゃあなんだ、最初に斬りかかったのが僕じゃなかったら、例えばマークだったり、カイゼルだったり、他の騎士だったら、ここには別の奴がいたってことか?

 その程度の扱いなのか? お前にとって、他者とは。

 ………………それで何人死んだ?


 ざけんなよ。

 なんだよ、それ。


 ちょっと強えのかもしれねぇがよぉ、調子乗ってんじゃねぇぞ?

 謎にブチギレた僕は、全力でクルサォスに接近する。

 〈縮地〉で一瞬で距離を詰め、〈獅子騙し〉の発動と同時に胴を斬り裂く。

 効かなくてもいい。致命傷にならなくてもいい。ただただコイツに一撃をお見舞いしてやりたかった。


 生命を、なんだと思ってやがる。

 

「ハア! そうだ!! それを見たかったのだ! 流石はウヌが見込んだ男よ!!」

「ざけん、なぁあ!!!」


 僕の渾身の一撃は特に驚きなどもなくサラリと受け止められた。

 クルサォスは心底楽しそうだ。僕は心底憎たらしかった。

 コイツを、殺す。

 それしか頭になかった。


 後のことは全く考えず、ひたすらに攻撃を加え続ける。

 〈硬化〉で補強した剣に破壊以外の各種付与と強化を全部乗せし、〈疾風〉と〈縮地〉を最大限活かしてこの身体が出せる最高速度で動き続ける。

 クルサォスの攻撃には一切意識を向けない。〈回避〉任せで、当たれば残念、くらいの思いしかなかった。

 ただひたすらにコイツをぶち殺す、それだけだった。

 

「うあぁーーああ!!!」

「ハア!! 凄まじいなあ!! 楽しいぞ!!」


 全力の脇からの斬り上げも難なくかわされ、代わりにクルサォスの大剣が僕の背中にまたも一本の筋を刻んだ。極度の興奮状態になっていて、痛みはもう感じていない。

 振り向き、反撃しようと一歩踏み出すと、僕は転んだ。足がもつれたのだ。

 全くの思考外だったこともあり、一切受け身がとれず顔面から地面に突っ込んだ。

 アンデッド故に僕に疲労はないが、身体は違うみたいだ。

 酷使した身体のあちこちの動きが鈍くなってきた。今は未だ大丈夫だが、じきに剣も握れなくなるかもしれない。

 ただでさえ薄い勝利の可能性がさらに薄くなった。あまりにも無謀な戦いだ。

 クルサォスの追撃は……ない。コイツは徹頭徹尾僕との一騎討ちを楽しみたいだけなのだ。

 ……本当にふざけてんな、コイツ。

 まぁいい。今頭から無様に転んだことで、逆に冷静になれた。

 コイツが僕で楽しんでなければ、今頃僕もやられてただろう。今はめっちゃ癪だしなけなしのプライドズタボロだけど、この油断を最大限利用しよう。

 幸い、作戦は既に考えてあるのだ。自分に〈鑑定〉をかけて閃いた策。

 クルサォスは僕のスキルを知らないのだから、予想だにしない一手を打つことが出来る。

 適応されたら終わり。それまでのわずかな間に出来るだけ、いや確実にダメージを与え、倒す。

 剣が握れなくなるというのなら、握れているうちにコイツに一撃叩き込むだけだ。


 ゆっくり立ち上がり、剣をクルサォスへ構える。

 〈縮地〉で距離を詰める。

 身体を若干屈め下腹部を目掛け突きを放つ。

 当然の如く大剣で受け止められるが、接触するすんでのところで〈衝撃付与〉を発動させる。

 

「おおっ!!」

「くっ、がぁ!!」


 大剣から突然伝わる想定を上回る衝撃。クルサォスが怯むのがハッキリと分かる。

 僕の腕にも凄まじい衝撃がくるが、そこは〈衝撃耐性〉で抑え込む。ここで畳みかけるしかない。

 コイツの〈衝撃耐性〉はまず間違いなく高レベルだ。普通に使ったところで意味はない。

 それでも、この剛力から繰り出される斬撃に合わせてピンポイントで発動させれば、クルサォスは剣を振りづらくなる、はずだ。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()

 本体(神獣)の〈粘槍〉はあくまで身体の一部扱い、例外中の例外だ。(ルカイユ)の剣も分体を張り付ければ付与可能な例外に含まれるけど、クルサォスの大剣は残念ながら(好都合なことに)例外には含まれない。

 よって、武器に生じた衝撃はクルサォスの腕にあのなんとも言えない不快感として伝わる。外の振動が骨をつたって全身を駆け巡るなんとも言えないあの感触だ。

 一周回って普通にダメージを喰らうよりも嫌な攻撃となる、はずだ。


「ぬっ、くおっ、おぉ」

「あぁっ! たぁ! はあぁあ!!」


 腕、胸、首、太腿などを次々に攻撃する。下手に受けると弾かれるので、クルサォスは明らかにやりづらそうだ。

 こっちの身体の疲労は想定してなかったけど、問題ない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 戦闘中に手が震える経験はなかったのだろう。クルサォスの反撃はなくなり、応戦一方になった上に精度を欠いている。

 コイツの武器は大剣。手元のわずかなブレが切先ではかなり大きくなってしまうだろう。

 それを避けるため、クルサォスは必要以上に慎重にならざるを得ない。

 先程までは軽くいなされていたが、今は違う。精彩を欠くクルサォスの応戦の隙をつき、僕はクルサォスへの直接攻撃に成功していた。

 それは、コイツの巨体からすればほんの小さな傷だが、僕からすれば細い糸のような勝利への大きな(くさび)となる。

 傷口に叩きつけた分体を丸めた団子からありったけの〈麻痺毒〉を流し込む。

 クルサォスは〈麻痺耐性〉も高レベルだろうが、そこは量と勢い、そしてコイツの動揺でカバーする。

 その間もクルサォスの大剣を掻い潜ってあちこちに小さな傷を作り、分体団子を叩きつける。

 〈麻痺毒〉や〈強酸〉を流し込まれ続け、クルサォスの動きが少しずつだが鈍ってくる。

 ……種族的に耐性のレベルは高くとも、実際に受けた経験は少ないだろうという希望的観測に基づく作戦だったが、どうやら上手くいったようだ。

 僕を遊びの相手だと舐めていたその隙につけ込んだ形だが、思ったより本気でこられていたのでだいぶ苦戦した。

 すぐ死なないように攻撃の回数こそ少なかったものの、攻撃自体はいつこっちがまともに喰らったら即死、ってレベルの威力があった。

 油断はあっても、手抜きはあっても、完全にこちらを侮っていたわけではなかった。常に僕に対するある意味過剰とも言える警戒心を持ち続けていた。

 今だって、動きづらくなり精彩を欠いていても一撃喰らえばだいぶヤバそうな攻撃を放ってくる。

 恐ろしいことに、若干だがこちらの〈衝撃付与〉に適応しつつある。

 とんでもない武人だな。

 指揮官としては自らの趣味の為に部下を惨殺したりと、問題があったが、一人の武人としてはあまりにも恐ろしい奴だ。

 この短時間で、しかも攻撃にさらされ続けながら適応してみせるとは。弱体化が失敗していれば、あと数合打ち合った時点で僕がやられていただろう。

 かなりギリギリの戦いとなった。一筋縄ではいかない敵だった。

 腕の力がだんだん抜けてきたし、〈衝撃付与〉した剣の限界も近い。予備の剣を偶然にも手に入れてはいるが、無駄にもしたくないし、このまま完全に適応される前にそろそろ決着をつけたいところだ。

 振り上げられた両腕の間から再度首を狙う。これで最後にする。確実に仕留める。


 ドガァゴガァーーーーンンッ!!!!!!


 そんな覚悟を持った僕の突撃は、突然の轟音と地面の揺れで狙いがそれ、クルサォスの胸甲に阻まれた。


◇◇◇


「なっ、なんだ――なんだと⁉︎」


 思わず声に出てしまった。だって本当に意味分からなかったんだもの。

 何故(なぜ)何故(なにゆえ)、何があったら()()()()()()んだ⁉︎

 ――僕の視線の先、南門から200mほど先の城壁が崩れ、大穴が空いていた。


 いや、まぁ少し冷静になって見れば、崩れたのは一部分だけだ。

 ……それはそれで、意味分からんのだが、今は考えないことにする。

 理由もはっきりしてる。簡単なことだ。


 魔王軍がぶち抜いたのだ。


 問題は、()()()魔王軍がそんなことをしたのか、ってことだ。

 クルサォスは今まさに僕が相対している。

 奴が率いていた亜人達はマーク率いる騎兵と南門の防衛部隊と交戦中のはずだ。

 一撃で城壁をぶち抜けるほどの力を持つ者はいなかったはずだ。

 援軍? このタイミングでか?

 それはある一つの、最悪な状況を意味する。

 出来れば、僕のこの予想は外れてほしい。

 

「――えらく無様な姿よな、クルサォスよ」


 しかし、事実とは時に無情なものだ。

 姿を現した亜人が引きずるモノを見て、僕の予想が的中したことを知った。知ってしまった。

 その亜人が引きずっていたのは、マークとは別の中隊を率いていた中隊長だ。見るからに死んでいる。

 それはつまり、どこかで亜人達と交戦していた人族軍が敗北を喫した、ということを意味している。


 中隊長を引きずっているのは、犬――と言うより狼の頭をした亜人だ。

 右眼に走る傷痕が、只者じゃない感をこれでもかってくらい(かも)し出している。

 装備は毛むくじゃらの上半身に革の胸当てだけ。下半身も腰回りに数枚の板がぶら下がっているだけで、同じく毛むくじゃらの脚はほぼ剥き出しになっている。

 絶対かは分からないけど、壁をぶち抜いたのはたぶんコイツだろうな。

 メイスと言うよりただの鉄の棒、といった様相の武器をこれみよがしに見せつけ、二十人ほどの亜人を引き連れてこちらへ向かってくる。

 ……クルサォス()の次はコイツ()か。とんでもない連戦だな。

 正直に言ってもいい?


 ………………無理に決まってんだろぉがぁ!!!!


 なんでこうなんの? 他の誰か代わりに戦ってくれません?

 ……無理っすよねぇーー。

 ええ知ってますとも。さっき自分で言ったばっかだし、既に全員各々の目前の敵と交戦中で、この場に手の空いてる奴はいない。

 ……アイツら(新手の亜人達)以外。


 こちらの都合などお構いなしに奴らはこっち、正確にはクルサォスを目掛けてどんどん向かってくる。遮るものなど何一つない。

 クソがっ。顔見知りを煽りたいのは分からんでもないが、よそでしてくれ。僕を巻き込むな。

 奴らが空けた穴も塞がないと(外にいるかもしれない)魔王軍が入ってきてしまう。

 てか、わざわざ空けたからには絶対入ってくる。

 早く塞がなきゃ。


「うらあぁああ!!」

「っ⁉ うっ、くあっ」


 そんな僕の背後からクルサォスが斬りかかってきた。もはや最後だ、とたかを括ったのか、〈衝撃付与〉を恐れずに全力の剣撃を繰り出してくる。

 とっさに剣で受けたが、満身創痍とは思えないほど()()一撃だ。

 僕も反撃に出る。狙うは首だ。

 オーガの硬い表皮相手では致命傷は喰らわせられないし、こっちもたいがい満身創痍だ。確実に殺せる首だけに狙いをしぼる。


「はあぁああ!!」

「ぐおぉおおお!!!」


 互いの全力の一振りが激突する。何度も。

 剣が震え、火花が散る。

 もはや周囲の様子などどちらも気に留めていない。この世界に二人だけであるかのように剣を交え続ける。

 クルサォスの大剣はかつての精度を取り戻していた。思い切り振るわれる大剣によって、僕のただでさえボロボロの身体に、いくつもの傷が新たにつけられた。

 しかし、全身が悲鳴をあげているのは奴も同じだ。コチラの攻撃もクルサォスに当たっている。

 さっきまでとは違う。互いにボロボロの身体に鞭打ち、ありとあらゆるものを抑え込んで、相手より一秒でも長くこの世に留まるため、目の前の敵を殺すためだけに全力でぶつかり合う。

 互いに止めの一撃こそ未だ叶わないが、打ち合いから外れた剣は、僕の、クルサォスの身体の至る所に傷を増やしていった。

 腕に、首筋に、頬に、指に、鼻に、顎に、小さな傷が増えていく。それでもお互い一歩も引かず、剣を打ち合わせ続け、外れた剣が身体に一筋の痕を刻む。

 とは言え、やはりクルサォスの方が状態異常を抱えている分少しずつ劣勢となっていく。

 全身に取り付く分体団子がジワジワと身体を蝕む中、クルサォスは全力で戦い続けた。

 いくら追加の団子は投入されないとは言っても、今ついてるやつはドンドン奴の身体の奥深くへと進んでいるはずだ。それでも、クルサォスは闘志を失わない。自分が倒れる前に僕を仕留めようと、全身から力を振り絞り、痛みを抑え込んで大剣を振り続ける。

 しかし、一切の情けをかけずダメージは刻一刻と奴の生命を削っていく。

 そして遂に、僕の剣がクルサォスの喉を捉えた。 

 深く突き刺さっていく感触が腕に伝わってくるのと同時に、クルサォスの身体から力が抜けていくのが分かる。


「ぐ……ごぶ……ぐ、ふ……」

「…………見事だった」


 思わず口からこぼれ落ちたのは、そんな言葉だった。最期まで闘志を鈍らせることはなく、武人として立派に散って逝った。実に天晴な最期だった。

 ……僕が言えることじゃないけど。

 最後に首に剣を突き立て、〈破壊付与〉で首と胴の境目を粉々にする。

 そしてクルサォスの大きな首を両手で持ち上げて宣言した。


「魔王軍第二軍亜人部隊臨時指揮官クルサォス!!神聖アゼルシア教皇国『青海の騎士団』六等騎士、ルカイユが討ち取ったり!!!」


 一瞬の静寂の後、うおおおおおおおおおおおおおお、という歓声が味方(人族軍)から上がった。

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