66 シナラス攻防戦②
「――くっ、どけぇ!」
図らずも先程まで戦っていた亜人達と同じようなことを言いながら、僕は半ばで折れた槍を振るう。
一本目の剣はミノタウロスとの戦いで折れ、戦死した兵士から借りた二本目はさっきトードマンにへし折られた。三本目、四本目の剣も短すぎる寿命を終え、今使っているのは、その前に戦っていたオークが持っていたものだ。
僕の〈打撃付与〉&〈打撃強化〉のかかった槍を難なく受け止め、僕と相対していたトロールはその手に持つ大剣を振り下ろした。その一撃は僕の右の袖を斬り裂き、肌が露出する。
「ウオォーー!! グオォオ!!」
「はあ!」
重そうな大剣を、軽々と持ち上げたトロールの一瞬の隙を突き、僕は懐に飛び込みその胸当てに一撃を叩き込む。効いてない、というより、ダメージに気付いていない感はあるが、ここでやめるわけにはいかない。反撃を喰らう前にもう一発叩き込み、〈回避〉で素早く射程外へ跳び去る。さっきからほとんどこれの繰り返しだ。
周囲には味方はいない。僕は敵陣内に一人取り残され、四方八方を完全に包囲されているかなりヤバい状況にいる。
僕ら人族軍は、南壁を目指すクルサォス達を追おうとするも、逆に亜人達に押し込まれ、大きく戦線を後退させられていた。無理をして少数だけでも突破しようと試みたことが裏目に出てしまったのだ。無理な突撃で兵を無駄に失い、戦線を維持出来なくなった。
……前世で何度も見たあまりにも下らない特攻をしかける愚かな指揮官に僕もなってしまった。クルサォスを止めなくてはいけない、という思いから焦り過ぎてしまったのだ。
陣形を整える前に戦闘が始まってしまい、敵味方入り混じった乱戦にもつれ込んでしまったので、亜人と人族の個々のの戦闘力の差がハッキリと出てしまった。集団戦ならばともかく、一対一の状況になってしまったら人族はかなり不利だ。
単純なステータスの差に加えて、亜人はそれぞれ固有のスキルを持っている。その性能は千差万別だが、人族側はそのような特異なスキルを持っていないことが多いのでその分不利になる。
極めつけは、体格差だ。平均身長が180m弱くらいの人族軍に対して、亜人はどいつもこいつも2mはある。クルサォスやミノタウロスは3m近いし、トロールは4mを超えてる。
こっちが一体倒す間に、あっちは五人は殺してくる。これでは勝負にならない。
後方はあまり見えていないが、最初あった数的有利ももはやなくなっているかもしれない。僕がこっち側に一人で残っていることによって多少は他を楽に出来ているといいんだけど……。
周囲には亜人の死体と、その何倍もの人族の死体がそのまま放置されたままだ。彼らの持っていた武器は、僕に使われるのを防ぐために亜人達によって抜き取られてしまっている。亜人の持つ武器もやられそうになると別の奴に託して僕に奪われないようにしている。敵にも頭の切れる指揮官かなにかがいるらしい。
その指揮官の作戦か、たまたまかは分からないが、僕だけが敵のど真ん中に取り残されて孤軍奮闘中だ。
僕が一人で戦い続けられているのは、僕が純粋な〝人〟じゃないからでしかない。周りに味方がいないので、やけくそでスキルを出し惜しみなく使いまくって何とか戦えている。それでも数の差は如何ともし難い。
「ギュオホッ」
〈獅子騙し〉で作った隙に〈強酸〉をまき散らしながら〈硬化〉〈刺突付与〉〈刺突強化〉をかけた槍で渾身の一撃を首に叩き込み、貫通させる。
血を吹き、変な声をあげてトロールが後ろ向きに倒れる。上手いこと背後にいたトードマンが一体押し潰されて本物の(?)潰れた蛙みたいになってくれた。
しかし、持ってた槍はトロールの喉に刺さったまま抜けなかった。すぐに手を離したが……困ったな、遂に丸腰だ。鎧もボロボロ、全身傷だらけ。〈痛覚耐性〉がなきゃまともに動けない程の重sy
「うあっ、ぐっ」
背後から斬られた。右肩から左脇腹にかけて思いっきり。
地面に落ちた顔を思いっきり踏まれ、背中を突き刺された。何度も。執拗に。反撃することは出来ず、ただただ攻撃を甘んじて受け入れるしかない。
……ヤバいな。流石にこの状況から立ち上がるのは人間離れしすぎだわ。
第一、このまま立ち上がったら身体バラバラになっちゃいそうだ。
……はぁ、この身体ともこれでお別れかぁ。結構気に入ってたんだけど、まぁ、仕方ないよな。また手ごろな世間的に存命の死人見つけないと。
カイネ、カイゼル、ライオネル、ヒネルオン、マーク、ベーコン、勇者――とルーカスは僕の正体知ってるから、別にいいか。あとは……一応『ごれんじゃあ』とか、サイロとか、ナヨマ(仮称)とかかな。お別れは直接言えないけど……なんだ、そこそこ知り合いいるじゃん。ボッチで陰キャだった前世とは大違いだな。
なんにせよ、お別れは(心の中で)済ませた。もう(ルカイユとしては)心残りは、無い。
とりあえず大事な「核」をいつでも脱出出来る状態で待機させる。どこの誰が僕を滅多刺しにしてるのかは知らないが、最後の一撃っぽいやつを喰らうと同時に射出、そのまま身体は力尽きてグッタリ、という流れでいこう。
……よし。さぁ、来い!
…………あり?
………………来ないな。何故だ?
「ナアッ、ガッ」「ゲェ、グアッ」「誰ダ、ヤm」
周囲で亜人達のものと思われる悲鳴が次々に聞こえ、それと共に馬蹄の音が響き渡り、地面が揺れる。そして、その響きは少しずつこちらへ近付いて来る。
◇◇◇
「――ナッ、ナンダ、オm、ギャッ」
地に伏せた僕の後頭部に生暖かいドロッとした液体がかかった。間違えるはずもない。血だ。僕の頭を踏みつけていた力がスッと抜け、楽になった。背中の槍を突き立ててくる力も消えた。
辺りから完全に亜人の気配と悲鳴が消えると、馬の一頭が僕の傍で立ち止まる気配がした。
「――大丈夫か?」
「はぁ、なんとか」
聞き慣れ――るほど聞いちゃいないが、誰かは分かる声でそう尋ねられ、僕は頑張って立ち上がった。
顔を上げた先で僕を馬上から見下ろしていたのは、案の定マークだった。
「槍でそれだけ刺されて、死んだかと思ったぞ」
「それはこっちのセリフですよ。さっきの斬撃で死んだかと思ってました」
「……ああ、まぁそれもあながち間違い、というわけでもないんだが……我々は敵を追わねばならん。詳しく説明している時間はない」
「そうですか」
「ああ、ここは貴様らに任せた。あのオーガは私達が止める。それではな。後は彼に訊いてくれ!」
それだけ言うと、マークは先行していた他の騎馬と合流して走り去っていった。数は四十騎ほど。クルサォスに今から追いつけるかは正直微妙なところだが、南壁陥落を防ぐことは出来るかもな。一度喰らってるんだ。僕が肉薄出来たんだし、彼らも二回目は上手くやるだろう。……たぶん。
それはともかく、こっちは任されたんだ。僕も残敵を掃討しないとな。
その前に、身体の傷は、分体で補完しておく。服は流石に治せないけど、怪我はなんとか誤魔化す。
……冷静に考えたら、僕ってゾンビなわけじゃん? 基本、治癒だの回復だのみたいな魔法って、こういう陰とか死とかそういう系の種族にダメージ与えれるよね。
仮に治癒魔法師とかに瀕死の重傷を治療してもらって、それがトドメとなって死亡、とかシャレにならんから。マジで。
だから、なるたけ治癒魔法師の世話にはならんように自分でなんとか出来るところ――例えば、誰も見てないとこで傷全部分体で塞ぐとか――は自分で先になんとかすることにする。
味方の手、それも攻撃じゃなく治療行為の果てに死亡とか絶対嫌すぎる! 全力で回避する。
……僕がそんな決意を胸に、未だ敵のいる戦線へと戻ろうと歩き出すと、一人の男が目に入った。
奇怪な鎧を着ている魔王軍を含めても、確実にこの場にいる者達の中でぶっちぎりの異様な格好をしているソイツを見て、僕はどうやってマーク達が復活を果たしたのか一瞬で理解した。
敵も味方も怪我と返り血で紅くなっているというのに、一人だけ汚れも皺も何一つない黒い神官服に身を包み、顔だけは赤い、しかし血の紅さとは無縁の清潔さを保つ布で覆われている。
明らかに場違いな雰囲気を身に纏っているのは、そう異端審問官だ。名前は知らない。
神能教が誇る異端審問官は身体への尋問でうっかり死んじゃった時の為に『死者再生』を使える聖職者のみで構成されている。それを使ったんだろう。分かってみれば簡単なことだった。
亜人との戦闘が行われている戦場から少し離れたところで治療に当たっていた審問官に近付くと、あちらから話しかけられた。
「……治癒はいるか?」
「いや、いい」
「……そうか」
口数はこころなしか少ないな。無愛想と言うより疲れてる感じだ。流石に『死者再生』の多用はキツイかったか。
残って戦っている人族軍は五十人ばかし。三十人前後が審問官他数名の治癒魔法師から治療を受けている。
僕は諸事情で治癒魔法をかけてもらう訳にはいかんが、流石にこのまま先頭に復帰出来る状態ではない。一応塞いだけど、分体もだいぶ消耗してるので、完全につくろえたかはちょっと自信ないし、敵陣内部で孤軍奮闘してたわりに傷が少なかったら異常だから、しばらくここで休憩させてもらおっと。
「……それで、あと何回くらい使えるんだ?」
「……兵士くらいなら少しは可能だ。騎士になると難しい」
「……となると、無駄な特攻は避けなくてはな」
『死者再生』は死者を蘇らせる蘇生魔法の中でも上位の魔法で、死亡時に失っていた部位も含めて「再生」させることが出来る。成功率も下位の『死者回帰』や『死者蘇生』よりも高い。しかし当然デメリットもある。再生直後は死ぬ直前の記憶を持ってるので痛みやら恐怖やらに苛まれることになるし、レベルダウンやステータスダウンのペナルティもある上に、何度も使用されると文字通り灰となって完全に消えるはめになる。さらに、当然だがこの魔法をかける側はとんでもない量の魔力を消費させられる。そして、対象が強いほど消費する魔力量は多くなる。
……ただし、蘇生が成功する可能性はレベルの高さと比例する。レベルが低い奴は一発目で灰になる可能性が高い。一応――あまり良い表現ではないが――バランスが取れているのだろう。
クルサォスを追わせるために腕の立つ騎士を中心に生き返らせたんだろう。審問官は何らかの魔力回復手段を持ってはいるだろうが、それでも限度がある。この様子じゃこれ以上は不可能だろう。兵士数人も厳しそうだ。
蘇り直後の弱体化しているマーク達にクルサォスが討てるか心配だし、早く後を追わなければ。
もういけるかな。そう判断した僕は蘇ることが出来なかった兵士の剣を借りて再度敵に挑まんと遺体へと向かう。こっち側の戦場も実情は互いに疲弊した兵士がなんとか戦っている風を装ってる、って感じだ。早く終わらせないと。
◇◇◇
「負傷者は重傷者を連れて屯所へ向かえ。残敵はいないと思うが、仮に生きている敵と遭遇したら無理に戦わず建物に引きずり込んで潰せ」
「はぁ、は、分かった。……頼ん、だぞ」
「ああ」
治癒を受けこの先も戦い続けられる五十二人だけでクルサォス並びにマークを追うことにし、治癒魔法師の魔力は温存することにした。負傷しているエルティヒ五等騎士に残りの兵の指揮は任せ、僕らは出発した。
……階級的には僕はエルティヒへこんなこと言えないんだけど、まぁ戦場だし、勢いでゴリ押す。てかそんなこと言い出したらカイゼルに最初からタメ口だったしね。
生きてる馬はもういなかった。馬に『死者再生』を使う余裕はなかった――意思の疎通がとれない動物やモンスター相手に蘇生魔法は何故か基本効かないので、どっちにしろ使わなかっただろうけど――ので、全員徒歩だ。
カイネやカイゼルなどその時動ける騎士は全員マークと共に行ってしまったので、この集団で一番偉いのは、(たぶん)僕だ。よって、指揮しなくちゃならない。
傷は治ったとは言え、疲労困憊した兵士達だ。今はアドレナリンとか、戦場の高揚感とかでなんとかいけてるけど、じきに脱落者が出るかもしれん。兵力として運用出来るうちに早めに敵に追い付きたい。
「多少の無理はしてもらうことになる。全てはこの都市を魔王軍の手に落とさぬためだ。申し訳ないが付き合ってもらうぞ」
「おうよ」「分かってますよ」「今更そんなこと言わんでください」「俺たち未だいけますぜ」
僕の気弱な考えを吹き飛ばすようななんとも頼もしい答えが返ってきたな。心強いかぎりだ。この士気の高さを維持していきたいものだ。なにせ、これからは今より増して結構厳しい戦いを強いられるだろうからね。
クルサォスらとの戦闘が勃発した地点は南門の付近で、城壁までそれほどの距離はない。恐らく既に門攻めは始まっているだろう。
幸い、シナラスのような「要衝都市」はそれこそ敵国の工作員やら反乱軍やらの手で都市内部で暴動が起きても殲滅出来るように、外からだけでなく内側からの攻撃にも強く各門を造ってある。警備の兵も大勢常駐しているし、今は城壁の補強のために『聖軍』も入ってるはずだ。かなりの時間持ち堪えられるだろう。
敵が出てきた建物の跡地は出発の前に徹底的に破壊し尽くしたから、敵の増援は少なくともこの付近では気にする必要はない。後顧の憂いはしっかり掃ってある。
……たぶん『転移陣』の欠片が埋まってるはずだけど、もう知らん。跡形もなく破壊されてるし、文句のつけようはないだろう。第一、盗まれた方が悪い。
問題は、クルサォスが率いていった部隊の戦力だ。どんくらい連れてったのか分からんが、仮にも大都市の門を陥落させようというのだから、生半可な部隊ではないだろう。場合によっては守備部隊がだいぶやられてるかもしれない。
最悪の場合、こっちが魔王軍の立て籠もる門を攻めるはめになる。それだけは嫌だ。
「グオオオーー!!」「うわぁああ!!」「オワォオ!!」「とぅああ!!」「キュエーー!!」「ぎゃあーー!!」
思ったよりも早く、両軍の激突する声が聞こえてきた。聞いてる感じ、若干人族軍が押され気味のようだ。
僕はなにか言おうとした傍の兵士に静かにするよう小声で指示し、それを全体に回すよう命じた。こうなれば奇襲をかえるべく敵の裏に回り込むことにしよう。
「……私が偵察に行く。周囲を盾で覆うように隊列を組み直せ。なるべく音を立てずに、気取られぬように。指揮は……そこの帝国兵、貴様がとれ」
「りy」
「……黙れ。静かに」
「……了」
近くにいた『聖軍』のなんか影が薄そうで気配消すのが上手そうな兵士一人だけを連れて僕は戦場ににじり寄る。
住民は避難した後だろうか、人の気配がしない住宅地を抜けた広場で予想通り、マークが率いる騎馬隊が敵と激突していた。南門の目の前の広場で、マークらの向こうでは既に門攻めが開始されているようだった。
とりあえず、最悪の事態である「既に門は敵の手に」は避けられたようだ。良かった。
それでも、安心は出来ない。これは要するにマークら騎兵隊と戦っていても門攻めを同時並行できるほどの余力が敵にはある、ということだからね。想定よりも敵の戦力は充実しているらしい。嫌なことに。
少し移動しながら戦場を観察し、どこから攻め込めば敵に最も効果的に打撃を与えられるかを考えていた僕は、あることに気付いてしまった。
こりゃアレだな。上手く突くことが出来れば一気に形勢を逆転出来るかもだが、このまま放置してるとヤバいかもな。
でも、下手に突くと敵に悟られるかもしれない。そうなれば逆にさらなるピンチになってしまう。
……ううーん。
…………よし、ダメで元々だ。やろう。悩んでる時間が勿体ない。
連れてきていた兵士を手招きしてその耳に部隊への指示をささやく。小さくうなずいた彼は部隊へ向けて気配を絶ちながら戻って行く。
……ちょっとこそばゆそうだったのは、ゴメン。我慢してくれ。
これで良い感じに乱入出来るはずだ。あとは僕がなんとかする、しかない。
タイミングを見計らう。変なとこで出て行っても、味方の騎兵に踏み潰されるのが関の山だ。
広場に隣接した建物に身を潜め、機会を伺っていると、遂にその時がきた。体感的には一時間くらい経ったくらいの疲労感だったけど、実は一分も経ってないかもしれない。
味方の騎兵がその騎馬ごとトロールに投げ飛ばされて僕の潜む建物の脇を通り抜けた。それを追って道に踏み込んできたトロールの顔面に飛びつき、眼に一太刀浴びせてその視力を奪う。
「ガオォ、ナニ、スル」
「そりゃ、殺すんだよ!」
逆手に持ち替えた剣を口から喉へと押し込むと、トロールが血を吐いた。それでも倒れたりはしない。恐ろしい生命力と再生力だな。
それでもめげずに首を振り回し、僕を振り解こうとするトロールを避けながら幾度となく喉の奥へと剣を突き立てる。ついでに〈強酸〉も流し込む。
持っていた棍棒を投げ捨てて、僕を引き剥がそうと迫ってくる僕の胴体くらいありそうな太腕に全力蹴り(〈強酸〉放出ブーツ)を喰らわしていると、遂にトロールが膝を地面についた。トードマンみたいに潰されたら堪らないので急いで離れる。
――しかし、それは罠だった。
「うっ、ぐあっ」
「ツカ、マエダ」
太腕がすかさず空中にある僕の胴を掴む。
ヤバい、握り、潰され、そ……o――なんてね!
口からその眼の傷口へ目掛けて〈強酸〉を射つ。さらに口からも出して僕を掴んでいる手にかける。
「ギュアアアアアァ!!!」
傷口に相当効いたらしい。力が抜け、僕は解放された。そのまま地面に叩きつけられる。流石に受け身はとったけど、痛みに悶えるトロールにこのまま踏み潰されそうだ。急いで脱出しないと。
なんとか這って危険地帯を抜け出した僕は、すぐに立ち上がると、未だに眼を押さえて悶えているトロールのアソコ目掛けて〈刺突付与〉&〈刺突強化〉をかけた剣で突き刺す。
流石の巨体だ。的も平常時からだいぶデカく、剣の根本まで突き刺さる。
……うへぇ、変な感触。もう無いけど、前世の記憶から存在しない自分のアソコまで痛んできた。
「グオオオッ、グオッ、グ……オ……ォ、オ……ォ」
上と下が同時に痛んで、トロールは叫び声をあげてさっきとは比べ物にならないほどのたうち回る……かと思えば流石に〝下〟の痛みが優ったようでしゃがみ込んで動かなくなった。
もしかしたら、さっきまでの喉の奥への〈強酸〉攻撃が今になって効いてきたのかも。
まぁ、なんでもいいや。
トロールが投げ捨てていた棍棒を――結構頑張って、結構、頑張って――持ち上げ、〈打撃付与〉〈衝撃付与〉〈破壊付与〉〈打撃強化〉〈衝撃強化〉〈破壊付与〉をかけて、その脳天へ落とした。
直接振り下ろしてないのに手に嫌な感触が伝わり、全身に血となんか分かりたくない〝汁〟と〝ナニカ〟を浴びて、僕はめっちゃ嫌な感じでトロールを討伐した。
「さてと……行くか」
これで終わりじゃない。僕は剣を持ち直すと、場所を変えて再度身を潜めた。上手くいけば、このトロールかさっきの騎士を追って次の敵が来るかもしれない。
指示通りにあの部隊が奇襲を仕掛けるまで、僕はこの芋プレイに徹させてもらう。