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不死者に平和を  作者: 姫神夜神
4 ヒトツキの戦い
82/119

61 盗まれたもの②

「――貴様ァ、ふざけているのかァ⁉︎」


 突然僕の肩を掴んだのは、修道騎士だった。

 ……いや、なんでだよ⁉︎ 僕別にふざけてないぞ!


「貴様、なんだその格好はァ⁉︎ マントを着けろゥ! 騎士の誇りは無いのかァ!!」


 格好に関するお叱りだった。

 そういえば、マントは盗賊を追ってた時に外してからずっと左手に巻いたままだった。

 うわっ、しわくちゃになってる。当たり前だけど。

 こりゃめんどっちぃことになったな。この人さっき『騎士の誇り』とか言ってたし、お説教が長引きそうなよk……ん? なんか、酒臭くね?

 こいつ、さては酔っ払ってんな? からみ酒かよ。

 なんだよ、ビビらせんなよ。そっちも勤務時間に酒飲んでんだからおあいこだな。

 むしろ盗賊逮捕の為に奔走した僕の方が正当性を主張出来るまである。

 まぁ、それは冗談として……


「聞いてるのか、貴様ァ!」

「ええ、聞いておりますよ。ですがここは人目もありますので、ご高説は宿舎でお聞きします。警邏隊の方々、申し訳ありませんが、ここで失礼させていただきます」

「ああ、ご苦労様」

「はい、またお会いするかもしれませんが、その時はよろしくお願いいたします。では、失礼します」


 流石にこの酔っ払いを放置するわけにはいかない。帝国(他所の国)で問題なんか起こすわけにはいかないからね。警邏隊にも迷惑がかかってしまうし。

 名残惜しくも警邏隊と別れ、僕はこの酔っ払いを宿舎まで連れて行く。


「だいたいなあァ、おれが若いころわァ」

「はいはい」


 お説教をほとんど適当に聞き流しながら、肩を貸して道を歩く。

 あっち(地球)にいた時は未成年だったし、当然酒なんて飲んだことないからこんな風に酔っ払ったことなんてないが、皆んなこんなになるまで飲むとは、やっぱり美味しいのか?

 流石に前後不覚に陥るまで飲んだらダメだろ。

 正直この状態の騎士なら、一般人でもいくらでも襲って見ぐるみはげそうだな。

 なんてね。テンプレ的にはそんなこと言ったら出てくるもんだが、何事もなく宿舎に到着した。

 もう日暮れだってのに帝国兵が慌ただしく出入りしている。

 なんかめっちゃ申し訳ないな。

 こっちは酔っ払った奴とそれに肩貸してる修道騎士だからね。後ろめたさが半端ないわ。

 神獣がラポン奪還の為出陣してからそろそろ一週間になる。街道が混み合っているので予定より遅れているらしいが、そろそろ到着する見込みだそうだ。

 奪還の報が届き次第、教皇庁が『転移陣』の使用許可を出す。

 それに合わせてシナラスに残留している『聖軍』一千と修道騎士約百名が『聖女』様に率いられてアサリへ向け出陣する。

 同行する帝国軍の準備にこの帝国兵達は大忙しなのだろう。

 本当に……ごめんなさい。


 とは言え、準備を進めているのは帝国軍だけではない。『聖軍』も着々と準備している。

 普段は商人でもしているのだろうか、かなり手際がいい人が数人いるな。

 元々ここまで遠征してきていて荷物がまとまっているからか、帝国軍よりも慌ててなさそうだな。

 てか、この人どうすればいいんだろ?

 髪色(金髪)的に貴族出身だろうけど、一体どこの中隊の所属だ?

 分かんないし、適当にその辺に放り込んどくか。

 くどくど続けていた説教もやみ、今は居眠りしている。好い気なもんだな。まったく。


「あっ、いた!」

「ん?」


 背後から聞こえた聞き覚えのある声に振り向くと、そこには――


「お前、今までドコ行ってたんだよ⁉︎」

「城に呼び出されてから、なかなか帰ってこないから心配したよ」


 ――こちらを指差すカイゼルとカイネがいた。

 孤児院からちょうど帰ってきたのか、若干くたびれた感じだ。


「ああ、悪かったな。命じられてね、盗賊を追いかけてたんだよ」


 まぁ、嘘は言ってないな。言ってないことが多すぎるけど、嘘は、言ってない。


「とりあえず、メシ食おうぜ! 話はそこで聞く」

「そうだな」


 おっさんをポイっと建物前の草むらに投げ捨て、流石に可哀想だと思い直して壁を背に座らせてから、僕はカイゼルの導きで食堂へと向かった。

 そう言えば、昼食をとった記憶がないな。

 僕はゾンビだからか、スライムだからか、もしくはその両方だからか食事をとる必要がないので、腹も減らない。

 それでも、普通に食事をする人達と暮らしてたからずっとご飯を(一応)食べてたんだけど、今日は聞き込みとかしてたから結局食べなかった。

 まぁ、味覚がないから食べてもなんの味もしないし、必要ないっちゃないんだけど、やっぱ〝人〟として生きてるからには食事しとかないとね。

 ――だんだんかつて人間だったってことを忘れかけてるな。この世界に来てそんな経ってないはずなのに……


 夕飯は美味しかった……らしい、カイゼル曰く。

 その間、僕が城へ行った後孤児院でどれくらい大変だったかを延々と聞かされた。

 そうとうおもちゃにされたみたいだな。カイネの笑顔も心なしか陰がある。

 僕も盗賊を追っていたことを――もちろん『十六階』の件は伏せて――説明した。

 二人――特にカイネ――は手伝う、と言ってくれたが、遠慮しておく。

 そこまでして盗賊を捕まえる気が失せたのもあるが、仮にも『入団試験』だ。捜査の途中で誰かと協力することはあっても他の仕事をしている人をガッツリ巻き込むのはダメだろう。

 今日のところは――(アンデット)には不要ではあるが――しっかり寝て明日に備えよう。

 ベッドに入って僕は寝はせずとも気力の回復を図った。

 今日は色々なことがあった。明日も盗賊を追い回すことになるだろうが、まぁ程々に頑張ろう。


 ……と思っていたのだが、よくよく考えれば盗賊は夜にこそ動き出す夜行性なのが相場じゃないか。

 盗賊の「組合」も夜に開いてる方がイメージに合う。

 どうせベッドに入ってても睡眠なんてとれないし、いっちょ探しに行くか。


「……ん、ルカイユ、出かけるの?」


 なるべく音を立てずにベッドを出て着替えたつもりだったが、カイネを起こしてしまった。

 寝ぼけ眼でこちらを見ているカイネはかなりエロかったが、そんなこと言ってる場合じゃないわな。


「ああ、カイネ、起こしてしまったか。ちょっと寝付けなくてね、散歩がてら見回りにでも行こうかと」

「そうなんだ……気を付けてね」

「大丈夫、すぐに帰ってくるつもりだから。気にせず寝ててくれ」

「うん」


 カイネは素直に僕の言うことを信じ、うなずいた。

 まぁ、一晩中探す気は流石にないが、すぐには帰ってこないだろう。寝ずに待っててもらうのは申し訳ない。

 カイネなら起きたまま待ちかねない気もするが、カイネも疲れているだろうし、それはないか。

 若干後ろ髪を引かれつつ、僕は宿舎を抜け出した。


 夜番の騎士をかわすのは容易かった。

 分体に装備ごとルカイユ(この身体)を丸ごと飲み込ませて夜闇に紛れればよほどの達人以外には悟られない。

 もし達人がいたとしても、まさかルカイユだとは思うまい。

 同じ方法で門衛の帝国兵もやり過ごして僕は夜のシナラスへと出た。

 

◇◇◇


「――さてと、どこから探そうかな」


 なんとなく気分で声に出しつつ、今日追いかけた盗賊――ストにぃを見失った集落を目指して歩き出した。

 何気に夜のシナラスを歩くのは初めてだ。

 夜番に当たったことはあるが、せいぜい宿舎とその周りを巡回して侵入者や脱走者――もはやどの口がそれを、って感じだが――がいないか見ていただけだ。門の外には出ていない。なのでかなり新鮮だ。

 正直、夜のシナラスはイメージと違っていた。

 シナラス含めこの世界は中世――これが中世かにはいささか疑問を感じなくもないが――っぽいから、灯りは火の光がメインとなるだろう。

 少なくとも聖都の夜はかなり静かでほの暗く、それは静寂閑雅って感じで趣がある。趣とかよく分からんが。

 だから、シナラスも結構暗いと思ってたんだよ。灯りが漏れててもさしたる光量ではないだろうと。

 とんだ間違いだったね。

 都市中明るいとは言わない。住宅街は僕の予想通り暗かった。

 でも、繁華街の方向は文字通り〝昼かと思うほど〟明るかった。

 まさかこのセリフを本当に言う日がくるとは。

 騒がしさも昼間と変わらない。多くの人で賑わっている。

 気付けば、集落へ向かう足は自然とそちらへ引き寄せられていた。


 そういや、あの酔っ払いはどうなったかな。ちゃんと自分の小隊なり中隊なりの仲間に拾ってもらえただろうか。

 風邪とかひいてないといいけど。

 そな他適当なことをボーッと考えているうちに繁華街の入り口に着いた。

 

 当たり前だが、そこにある建物は昼間となんら変わらない。でも、そこを行き交う人々は昼間とは少し違っていた。

 その大部分は、見るからにカタギじゃなさそうな厳つい男達と派手な化粧に大胆に胸元が開いたけばけばしい衣装に身を包んだ女。

 要するに盗賊崩れの傭兵が特定職種女性交流所職員――有体に言えば娼婦を連れて歩いていた。

 『十六階』(例の反体制派)のアジトになっていた店と同じ通りにわんさかあった店から連れてきたのだろう。何種類もの強い香水の匂いが混ざり合い、この身体(ゾンビ)に残された嗅覚を刺す――原義的な意味で。

 どうやら、警邏たちがぼやいていた通り貴族どもが連れて来たあまりお行儀のよくない人達向けに商人達が品を揃えたらしいな。

 行ったことはないし、聖都には出回っているはずもないから推測しか出来ないが、主に大陸南方や他の大陸から持ち込まれたと思しきかなりいかがわしいモノも売られてる。

 しかも、なんか地面に散らばってるんですけど。危なそうなやつもあるので、マントに擬態させてる分体に〈空納〉に放り込ませる。

 これは……なかなかヤバいところに来てしまったな。正直めっちゃ後悔してる。

 今は――抜け出してきたのだから当然だけど――制服は着ていない。分体で作ったフード付きの黒いマントの中に剣を持った状態だ。夜闇に紛れる予定だったのだが、この明るさでは逆に目立ってしまっている。

 それにこんなに騒がしくては怪しげな動きをしている盗賊の跡を追って「組合」の場所を見つけるのは難しそうだ。目は二つしかない。この人数から怪しい奴を探し出すのは至難の技だからね。

 面倒そうな酔っ払いや酔っ払って()()に絡まれる前にとっとと退散しよう。


 繁華街から出た僕は都市内を時計回りに歩くことにする。

 まず前提条件として都市中央にそびえる城には賊がいるわけはない。ここにいたらもうどうしようもないし、考えるまでもない。その周囲を固める市庁舎やその他の行政機関も同様の理由で候補から外す。


 北にある軍区画内の宿舎から僕は出てきたわけだが、軍の施設ばかりで盗賊が入り込む隙間のない北側には恐らく「組合」はないだろう。ここは一番後回しだ。


 それから、今通った繁華街。これは東側にある。正直盗賊が一番活動するのはここか住宅街だと思うので、怪しいと思っているのだが、あの状況(乱痴気騒ぎ)では捜索は難しい。後に回す。


 そして、今向かっているのが、南側にあり、都市内最大の面積を誇る住宅街だ。

 今日僕が追い回した盗賊も住宅街を逃げ回って最後は路地に消えたわけだし、ここにある可能性は高い。

 その上、ここの大通りは南の大門に続いている。その先は教皇国へ向かう南北巡礼街道、そして南方都市連合へと続く大陸縦断街道――通称『キムライヤ街道』がある。

 盗品を売り飛ばすには帝国各所へと続く他の街道よりもこっちの方が良さそうだ。

 てなわけで、ここにあるものと考えて探すとしますか!


 まぁ、夜なんだし当たり前だけどこっちは静かだな。

 灯りがついている家なんてほとんどないし、ついていたとしてもほんの少し漏れ出る程度で、全く明るくない。

 元の世界とは違って街灯なんてものは存在しないから、都市の中だってのに光源は月と星だけだ。

 いいねぇ。

 そんな場合じゃないけど、閑静な住宅街が月明かりに照らされているさまは見ていて非常に気分がいい。

 だから許してほしいなぁ――

 

「誰だ⁉︎」

「あ?」


 ――そのいい気分を邪魔されて若干苛立ったことは。

 僕は声の方向へためらうことなく剣を抜きながら迫った。

 あちらも剣を抜いたようだ。鞘から抜く音が複数聞こえたから、どうやら数人いるらしいな。

 周囲に灯りはなく、互いに走って接近する靴音だけが聞こえる。

 まぁどうでもいい。こんな夜中に、しかも灯りを持たずに武装して歩いてる集団がまともなはずはない。死なない程度にボコして情報を吐かせよう。なにかしらは知ってるだろ。


 キンッ、カン、カン、カァン


 剣と剣がぶつかり、甲高い音が立つ。

 怪しげな集団だけに(?)連携はなかなかなものだった。暗くて互いに見えていないはずなのに入れ替わりも同時攻撃もタイミングが完璧だ。

 敵の斬り上げた剣を避けきれず、僕のフードが()かれた。

 このまままともに剣で打ち合い続けていても勝ち目はないだろう。まともに、打ち合えばね。

 暗いし、どうせ()()()()()()()()、もうやっちまうか。

 剣で激しく切り結びながらマント擬態中の分体をすそから少しずつ変形させていく。

 息をつく暇もない連撃でさばくのがやっとになってきた。そろそろやるか。

 すそから地面に垂らした何本もの分体が一斉に所定の行動を開始しようとしたまさにその時――


「待て! なにかおかしい!」

「は?」


 ――敵の一人が突然声を上げた。

 敵の剣が止まり、全員僕から距離をとった。

 僕もなにが起こっているのか分かってないけど、とりあえず分体による攻撃は延期させる。

 僕が敵がいると思われる闇を注視していると、火が起こった。敵の一人が起こしたらしい。

 そこにいたのは、


「なんだ、お前か」

「警邏隊? 何故ここに」


 一緒に盗賊を追った警邏隊だった。

 制服の上から僕と同じように暗いマントを羽織っている。

 数は五人、確か警邏隊の一班は修道騎士団の一小隊と同じく五人一組だったはず。


「それは俺たちのセリフだ。宿舎に戻ったんじゃないのか?」

「抜け出してきたんだよ。夜なら盗賊のアジトを突き止められるかと思って」

「熱心な奴だな。俺たちも盗賊のねぐらを探していた。この辺りに少なくとも一つはある」

「本当か?」

「ああ……こいつには言ってもいいだろ……ああ、何日もかけて警邏隊ほぼ全員で調べたんだ。間違いない」


 それは朗報だ。

 そこが「組合」でなかったとしても、かなり楽になるぞ。すごい成果だな。

 

「お前はどうだ? なにか見つけたか?」

「いや、残念ながらなにも」

「そうか、まぁ仕方ない」


 警邏は既に起こした灯りを再び消していた。どうもこの辺りにあるというねぐらは本当に近くにあるみたいだな。なるべく気取られたくないのだろう。


「なにか手伝えることはあるか?」

「……今日のところは、ない。しかし、この場所が確認出来た後、他の拠点も発見された時は突入する時の手が足りない。協力してもらえると助かる」


 これは僕に、と言うよりも修道騎士団に、ってことだろうな。

 もちろん、僕に断る理由はない。

 

「無論だ」

「ありがたい」


 まぁ、(六等騎士)にそんなこと約束出来る権限なんてないんですけども、最悪カイゼル達だけでも連れてくるか。


「では、今日は帰ってくれ。せっかく取り付けた協力もお前が処分を受けたら取り消されるかもしれないからな」

「はは……確かにな。分かった、余計なことはせずこれで帰るとしよう」

「明日二十五番駐屯所を訪ねてくれ。そこで詳細を詰める」

「分かった。上官を連れて行こう」

「頼む」


 それだけ話したら僕は彼らに背を向け、なるべく音を立てないように全速力で走り出した。

 別れの挨拶は不要だろう。

 それよりも見つかる前に早く帰らないとな。彼の言う通り抜け出したことがバレて謹慎でも喰らったら協力するどころの話しじゃない。


 結局、抜け出したことはバレなかった。

 て言うか、行きと同じことをすれば見咎められるわけはない。

 修学旅行じゃあるまいし、抜け出してないか一部屋一部屋確認して回る教師はいない。

 門衛と夜番さえ出し抜ければ、脱走は容易いものだった。

 問題は、部屋に戻ったらカイネが起きていたことだ。

 ずっと起きていたのか、一度寝てもう一度起きたのかは分からなかったが、ベッドの上にちょこんと座ったカイネに


「遅かったね」


 と言われるのはすごく心臓に悪かった。(アンデット)の心臓は動いてないけど。

 僕はカイネに渾身の土下座をお見せすることしか出来なかった。

 

◇◇◇


「――大変だ!!」


 そう言って一人の修道騎士が飛び込んできたのは、ちょうど僕が朝食をとっていた食堂だった。

 イメージ通り朝が弱かったカイゼルをカイネと二人がかりで叩き起こして他の小隊よりやや遅れて食堂に入り食べ始めたばかりの時だった。

 ――ちなみに、帝国軍の食堂は貴族出身の士官用と平民出身の下士官用で分かれている。僕らは当然「平民用」で食事をとっている。


「なんだなんだ」「どうした朝っぱらから」「騒がしいぞ」


 既に食事を終えていた者たちを中心にその騎士の(もと)へと集まった。

 かなり必死に走ってきたらしい騎士は息も整わないままに叫んだ。


「はぁ、はぁ、シナラスの、はあ警邏隊員が殺された!」

「なっ⁉︎」「は?」「本当か⁉︎」「何故⁉︎」

「おい、詳しく話せ!」


 騎士の言葉に動揺が広がる。

 そんな中、その騎士に詰め寄る者がいた。そう、僕だ。


「はぁ、昨晩、盗賊を、はぁ捜索中だった、はあ警邏が、交代の時間になっても、帰ってこないから、他の、奴が、はぁ探しに行ったら死んでた、そうだ」

「どこだ⁉︎ どこで死んでいた⁉︎」

「南の、大門前の、はぁ広場だ、はあ」

「って、ルカイユ! ドコ行く気だ!!」

「決まってるだろ! その広場だ!! あとは頼んだ!」


 カイゼルにそれだけ告げると僕は食堂を飛び出して宿舎の門も抜け、一路南の大門へと向かう。

 昨日彼らと別れたのは南の住宅街の中でも東寄りのエリアだった。南の大門からは距離がある。

 だが万が一のことはある。僕は必死に走った。

 途中で剣すら持ってないことに気付いたが、気にせず走る。


「とっ止まれぇ! おい、止まれぇ!!」

「うるさい! その馬、貸せ」

「はぁ⁉︎ なにを⁉︎ うわっ!」


 軍区画を出る直前で道に立ち塞がろうとしている騎兵がいたので、飛びかかって蹴り落とし、馬を奪った。

 その後は馬で大通りを駆ける。

 東の繁華街から回った昨晩とは違い、都市の中心部を突き抜ける。

 途中何度も止められそうになったが全て無視してただひたすら馬を走らせた。

 仮に彼らだったとしたら、僕があのまま同行していれば別の未来があったかもしれない。

 思い上がりかもしれないが、そんなことを思ってしまう。考えてしまう。


 広場に入り、僕は馬から飛び降りた。

 野次馬の目を避けるためか現場と思われる場所には幕が張られ、兵士が立っている。

 限界を超えて走らされた馬が倒れ込んだが、それを無視して僕は幕へと走り寄る。

 兵士の制止を振り切り、僕は幕の中に飛び込んだ。

 そこには五人の警邏の遺体が並んでいた。

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