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不死者に平和を  作者: 姫神夜神
1 念願の異世界生活
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幕間 公爵令嬢ととある冒険者

 カイン王子捜索の為に、クロムウェル公バートンが用意した者の中には、冒険者も含まれていた。

 ムスラもその一人である。

 そこまで有名という訳でもないが、仕事はきちんとこなすという事で一部の貴族に重宝されている中堅と言って差し支えない冒険者だ。

 今回の仕事は脅威度C〜AAA相当のモンスターが多数生息する『聖域』での人の捜索。

 『聖域』での捜索には冒険者は必須である。

 その中でもムスラ達は比較的『聖域』慣れしているという事で声が掛かった。


「おいムスラ。クロムウェル公爵家のお嬢様は可愛いと評判だよなぁ」

「……まぁそうだな。でも間違っても変な気起こすなよ。バレたらお前一人の首じゃ済まねぇぞ」

「わぁってるよ、それぐらい」


 仲間の冗談にリーダーでもあるムスラは内心ヒヤヒヤした。

 今回の依頼主は『白銀』の二つ名を持つクロムウェル公爵家長女だ。

 王国有数の大貴族である公爵家の令嬢が自分達を人として扱っているかどうかさえ、ムスラには怪しく感じた。

 些細な事でどんな言い掛かりをつけられるか分かったものではない。

 出来れば仕事だけしてお貴族様と関わりたく無い。

 そう思ったムスラを責める事は誰にも出来ないだろう。

 ――まぁ彼の願いが叶う事は無かったが。


「ご機嫌よう、『蜂蜜よりお酒』の方々ですね」

「「へっ⁉︎」」

「わたくしはクロムウェル公爵家長女、シスベル・レム・クロムウェルですわ」

「あっああ、Cランクパーティ『蜂蜜よりお酒』のリーダー、個人ランクBのムスラです」

「パーティと個人でランクが違うのですね。何故なのですか?」

「えっと、あの、そのですね――」


 冒険者には2つのランクが有る。

 『個人ランク』と『パーティランク』である。

 『個人ランク』は単純な冒険者本人の戦闘能力の事であり、極端な例を挙げれば、連携など出来ずとも一人で脅威度Aのモンスターを討伐すれば個人ランクBは確実に手に入る。

 それに対して『パーティランク』とはパーティで挙げた戦果を使って評価されるランクの事である。

 例えば、『ハナクソの集い』というパーティが有る。このパーティはリーダー以下、最高でも個人ランクCのあまり強くはない冒険者の集まりだが、巧みな戦術と連携により、冒険者最高位のパーティランクSを獲得している。

 つまり一人一人が弱くともパーティとして強ければ正当に評価されるのだ。


「――で冒険者に支払われる報酬はパーティランク×メンバーの個人ランクで支払われます。まぁ一括払いなのでその後メンバーで山分けするんですが、大体個人ランクの高い人が多く報酬を得るようになってます」

「そうなのですね。それとなんでそんな『蜂蜜よりお酒』だとか『ハナクソの集い』だとか、……その……変な?名前なのですか?」

「それは――」


 冒険者には「変な名前のパーティの方が生き残りやすい」という言い伝えが有り、腕に自信の無い者達はパーティ名をわざとカッコ悪くつけることが多いのだ。

 裏を返せば、カッコいいパーティ名を名乗っているパーティは腕に自信が有るという事になる。


「――とまぁこんな感じです。お恥ずかしながらオ……いえ私達は腕にあまり自信が無くてですね……」

「……そうなのですね。ではパーティの構成は――」

「お嬢様! 冒険者の方々が困っておられます、お鎮まりくださいませ」

「あっ、御免なさい。わたくし夢中になると周りが見えなくって……」


 侍女と思わしき少女に嗜められ、令嬢は恥ずかしそうに口を隠した。


(((((可愛い)))))


 『蜂蜜よりお酒』のメンバー全員がそう思ったのは言うまでも無い。


「なんだよ、めっちゃいい子じゃねぇか」

「……そうだな」

(あれが素なのか……それとも……)


「そろそろ出発しましょう」

「はい!」

「あいよ」「うす」「了解です」


 公爵家の騎士の号令で皆が一斉に出発する。


(それにしても貴族って凄いんだな)


 ムスラは集められた人数を見てそう思った。

 何しろ冒険者を五十人近く、それもその殆どがCランクかBランクパーティ。クロムウェル領中の冒険者ギルドから主だったパーティを招集したらしい。

 流石にAランクパーティは居ないとはいえ、これだけの冒険者を集めるのは、多少金を持っている程度の平民には到底出来ない事だ。


「……ここまでして王子ってのは捜さなきゃなんねぇのか……」


 自分を捜すのに一体何人参加してくれるだろうか?

 そう思い、身分の差を痛感したムスラであった。


◇◇◇


「お嬢様! 落ち着いてください」

「分かってるわよエリス。でもやっとカインを捜しに行けるのよ。早く見つけなくちゃ」

「そうで御座いますね」


 馬車の中で年甲斐も無くはしゃぐ主人をエリスは生暖かい目で見ていた。


(これだけの〝兵〟を集めるとは、〝ご主人様〟も思い切った事を……やはり〝あの計画〟を実行なさるつもりだろうか)


 エリスが考え事をしている事に気付かず、シスベルは続ける。


「ああ楽しみだわ。わたくし『聖域』に入るの初めてなのよね」

「そうで御座いますn……えっ⁉︎」

「ん? どうしたのエリス?」

「いいえ、お嬢様。お嬢様は『聖域』にはお入りになれませんよ」

「ええー!」

「危険なので外で私と待機で御座います」

「ええー!!!」


 少女の叫び声が馬車に響いた。





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