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不死者に平和を  作者: 姫神夜神
4 ヒトツキの戦い
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58 ラポンを襲った理不尽④

「――遅れて申し訳ない! 今、加勢する!」


 そう言って僕とナァさん(仮称)の間に上から割り込んできたのは、ウィルなんとかさんだった。

 

「ナァ⁉︎ なんだコイツ⁉︎」

「くっ、外したか⁉︎」


 残念ながらナァさんには避けられてしまったが、なかなかの剣速だった。当たっていればかなりダメージを与えられただろう。

 流石は修道騎士団の大隊長ということだろうか。ウィルなんとかさんの剣の腕も身のこなしも常人離れしていた。

 ナァさんの(まさかり)を足捌きだけで避けつつ、剣で反撃して見事ナァさんと渡り合っている。

 燃えるような赤髪をたなびかせ、ウィルなんとかさんは剣舞を披露するかの如くナァさんを翻弄していた。

 先程からナァさんはそれなりに剣を受けてしまっている。それに対してナァさんの鉞はウィルなんとかさんを捉えられていない。


「くっ、クソがァ、ナァ!」


 振り下ろされた剣をナァさんに当たらないと見るや即座に横に薙ぎ、ウィルなんとかさんはまたもやナァさんに一撃を喰らわせた。

 武器を相手に当てることに関してはウィルなんとかさんに軍配が上がるようだ。

 しかし、先に限界が来るのはウィルなんとかさんだろう。

 戦闘時間自体はそこまで長くはなかったが、相手も最上級の使い手、相当気を張っているのだろう。見るからにウィルなんとかさんは疲労してきている。

 このまま戦っていたらいつかナァさんの鉞を喰らってしまうだろう。

 そして、おそらく喰らってしまえばウィルなんとかさんは……


「大隊長、避けろ!」

「⁉︎ はっ!」

「ナァ⁉︎ あがはっ!!」


 僕の指示にウィルなんとかさんは即座に従い横に避ける。

 その隙間に僕の放ったとっておきの粘槍が突き刺さる――と言うよりそこを通ってナァさんを後方へ吹き飛ばす。

 今の粘槍はナァさんに突き刺すことよりも、ナァさんの肋骨をへし折ることを目的とした特別製だから、かなりのダメージを入れれたはずだ。

 土煙の向こうへ消えたナァさんから、僕はウィルなんとかさんへ向き直り、言いたいことを手短に伝える。


「大隊長。他の騎士達は?」

「はあ、負傷兵の、保護と、敵の増援を、はあ、警戒させて、います」

「分かった。奴の相手は私がする。君はそこに転がってる敵を回収してくれ。息がある奴は後で尋問したい」

「了」


 かなり疲労しているウィルなんとかさんを送り出し、僕は再度ナァさんの方を向く。

 土煙の向こうに変えてから、不自然なほどなんの動きもない。

 さっきの一撃で仕留め……られていたら最高だけど、たぶんそれはない。

 逃走してくれていたら面倒臭いけど、まぁ楽っちゃ楽だ。でも、それもまぁない。

 となれば、可能性は一つだ。


「……どうした? 怖気付いたか?」

「ぐぼは! よくも……やってくれた、ナァ! ごぼっ! これでも、喰らえ!!」


 土煙――これもあまりにも長くたちすぎてる――へ踏み込んだ僕を、ナァさんが奇襲する。

 僕目掛けて飛んできたのは石? と言うより何かの結晶か? なんにせよナァさんが放ったことに間違いはなさそうだ。

 むざむざ大人しく喰らってやる義理はないし、僕は当然避ける。

 

「ぐほっ」


 そこへ鉞が叩き込まれ、僕はくの字に曲がって地面に叩きつけられた。


「はっ、引っかかった、ナァ!」

「はははっ……綺麗に喰らっちゃったね」

「ナァ⁉︎ お前、どうして上から⁉︎」


 タネは極めて単純だ。

 地面に叩きつけられると同時に本体を切り離し、ナァさんの上まで〈浮遊〉で登ってから〈自己治癒〉で身体を元通りにしてそのまま攻撃する。

 元々の身体が鉞をガッチリ掴んでいるので、ナァさんはすぐに反撃出来ない。

 ここで、一気に畳み掛けるしかないね。

 〈斬撃付与〉〈刺突付与〉〈打撃付与〉〈衝撃付与〉〈斬撃強化〉〈刺突強化〉〈打撃強化〉〈衝撃強化〉〈酸攻撃〉〈硬化〉

 モリモリにスキルを載せまくった僕の拳がナァさんを襲う。


「ナァーーーア!!!!」


 しかし、ナァさんは反撃してきた。

 鉞から手を離して素手で立ち向かってくる可能性も考えて〈破壊付与〉と〈破壊強化〉を載せた粘槍も数本展開していたが、ナァさんは僕の予想を裏切る動きを見せた。

 地面とナァさんの鉞を無理矢理繋いでいた僕の元の身体ごと周囲の地面を怪力で抉りそのままぶつけてきたのだ。

 粘槍は全て地面に当たって、その一部を崩しながら砕け散った。

 僕の超・強化拳もナァさん鉞(地面装備ver)によって大ダメージを受ける。

 結局僕の載せまくったスキル群は鉞から邪魔な地面の残骸を取り去る為に使われた……ということになる。


「はっ、残念だった、ナァ!」

「ああ、ここまでやるとは……正直想定外だよ」


 受けた傷はすぐに塞がるし、HPもじきに完全回復するだろう。

 それでも、このまま続けると先に限界が来るのは、下手したら僕の方かもしれないな。

 〈回避〉は持ってるけど、ナァさんに触れなきゃ攻撃出来ない以上僕もダメージを喰らってしまう。

 そして、その一回一回のダメージがバカにならない。

 なんらかのスキルか何かよるものだと思うが、どうもナァさんは――ついでに〝水〟の人も――相手の耐性を貫通してダメージを与えられるらしい。

 このまま喰らい続ければ、身体がボロボロになってしまうだろう。

 再生が間に合わなくなれば僕には手の打ちようがなくなってしまう。

 取り替えれれば良いんだけど、さっきみたいな大きな隙でも作らない限りナァさんと戦える程の強さまで身体を創り上げられない。それでは、せっかく取り替えてもすぐにボロボロにされて終わるだけだ。

 ここはやはり、アレに頼るしかないな。

 スライムの原点にして僕の最初期からの攻撃手段――


「――喰らえ、〈獅子騙し〉!!」


 ――〈強酸〉と見せかけて〈獅子騙し〉!

 一瞬足が止まったナァさんの足を全力でもぎ取りにいく。

 綺麗に切断するよりも、もいだほうがダメージ与えられそう。知らんけど!

 謎にハイテンション化してる今のうちに終わらせにいく!!


「なにしやがる、ナァ!」

「くっ、抵抗力が強すぎるか」


 〈獅子騙し〉を一瞬で抜けたナァさんが鉞で足を狙う僕の粘手を叩き潰す。

 なかなか上手くいかないな。

 まず、こっちの攻撃は当たっているには当たってるんだけど、効いてるのか全く分からん。

 ナァさんの鉞が僕の首を横薙ぎに襲う。

 すかさず空いたその胴を僕の〈刺突付与〉粘手が狙う。

 素早く戻されたナァさんの鉞の石突――鉞のやつもそう呼ぶのかは知らないけど――が僕の粘手を阻み、その間に僕がナァさんの顔面へ〈衝撃付与〉粘手を叩き込む。

 それを鉞で防がれ、互いに多少のダメージを受けながら反対方向に吹き飛び距離が空き、互いに飛び道具――僕なら粘槍、ナァさんはさっきの謎結晶――を放ちながら再度接近して粘手と鉞がぶつかる。

 そんなことの繰り返しだ。

 互いに――少なくとも僕は――ジリジリとダメージが蓄積しているが、決定打となる一撃はどちらも繰り出せていない。

 なにしろ僕の最大の強みである強い再生能力と(文字通りの)手数の多さはナァさん相手には上手く使えていないからね。

 まず、再生能力だが、ナァさんの一撃一撃がかすっただけでもだいぶ重い所為で再生が追いつかない。再生した端からぶっ潰されるのでかなりキツい。普段なら敵との衝突でボロボロになった粘手は自分で斬り落として新しく生やすんだが、そんなことをしている余裕はない。

 そして、(文字通りの)手数の多さは、一本一本ではナァさんと渡り合えないので十本を束ねた特別製でしか戦えない。再生に手間取ってるのもあって実質的に動かせるのは両腕くらいになってしまう。これでは全く(文字通り)手数が多いとは言えない。

 何かこの状況を打開出来る策はないか?


 とは言え、じっくり考える時間があるわけもない。

 ナァさんはこちらの思案になど配慮することもなく鉞を容赦なく振り下ろす。

 粘手で防御するも、その腕ごと顔面が縦に割かれた。

 僕も粘手をナァさんの脇腹に叩き込むが、こちらは相変わらずナァさんに効いているようには見えない。

 ……って言うか、僕の攻撃効かなすぎじゃね?

 さっきから全く効いてる気配がないんだけど。

 それこそ、明確にナァさんがダメージ喰らったのなんて……

 …………ん? 待てよ? もしかして……そういうことか?

 なら、打てる手はあるな。

 あることに気付いた僕は、早速行動に移った。

 時間をかけて気付いたことを悟らせる必要もないしね。


◇◇◇


「〈強酸〉!」

「おおっ、なんだ⁉︎ ナァ⁉︎」


 今度は本当に強酸をナァさんにぶっかける。

 驚いて反射的に避けたナァさんへ粘手を伸ばす。

 当然のことながら今まで通りナァさんのボディを捉えた僕の粘手に手応えはなかった。振り抜いた粘手はその勢いのまま背後の壁を破壊した。

 すぐさまナァさんの反撃がくる。鉞が僕を脳天から一刀両断しようと振り下ろされた。

 壁から引き抜いた数十本を束ねて強化した粘手で鉞を受け止め、そのまま押し合う。

 今回は本数が多かったからか、押し負けずに鉞を退けることが出来た。

 僕が再度〈刺突付与〉粘手を繰り出すも、ナァさんが鉞で弾き飛ばす。それた粘手は地面を大きく抉った。


「テメェ、さっきからおおざっぱになった、ナァ! キモいのも見えてるしよ、そろそろキツくなってきたんじゃねぇのか、ナァ⁉︎⁉︎」

「ははっ、そうかもね」


 実際、かなりヤバい状況に追い込まれているのは事実だ。

 さっきから身体のあちこちが人型を保てなくなってきている。スライムとしての部分を指して『キモいの』と言われたのだろう。

 このままいけば、近いうちに完全に人間態が解けてしまうだろう。スライム態ではナァさんの鉞と打ち合えるか自信がない。

 その間もナァさんと何度も打ち合い、効いていないようでも攻撃を続けなければならない。防戦一方に一度でもなってしまえば、もう立て直しは利かない。

 ナァさんの鉞を掻い潜って伸ばした僕の拳は頬を掠めたものの避けられ、今度は背後の壁にめり込んだ。その衝撃で壁から破片が辺りに撒き散らされる。

 壁にめり込んだ腕はそう易々とは抜けない。その隙に間合いをとったナァさんの鉞が僕に迫ってきた。

 急いで腕を引き抜くも間に合わず、またもや僕は真っ二つに斬り裂かれる。

 かなりの勢いで斬られたので、断片が辺りに散らばった。両切断面から粘体を繋いで時間短縮をしたが、それでも散らばった分の再生が追いつかずスライム態が剥き出しになってしまった。

 いよいよ人間態の部分よりもスライム態の部分の方が多くなってきた。

 でもまぁ、仕込みはもう十分かな。

 ()()()斬られまくるのはもう終わりだ。 


 僕は纏めていた粘手を何千本にも分裂させると、周囲に散らばった壁や地面の破片に突き刺した。


「ナァ? テメェ、何する気だ?」

「何をするかって? こうするんだよ!」


 その破片をナァさんへ向けて〈投擲〉で放り投げる。

 ナァさんも鉞で弾き飛ばすも、何千本もの粘手から繰り出された破片の全てを弾くことは出来ず、何百発と喰らってしまった。


「ナァ⁉︎ ぐぁは!」


 先程の粘手をモロに喰らっても特にダメージを受けていなかったナァさんが呻き声をあげた。

 やはり、僕の読みは正しかったようだな。


 最初におかしいと思ったのは、ウィルなんとかさんとナァさんの激突に割り込んだ時だ。

 ナァさんはあの時大ダメージを受けていた。

 それ自体は別になんてことない。問題はその前後だ。

 僕が割り込む前、ウィルなんとかさんの斬撃を喰らってもナァさんに特にダメージを受けた様子はなかった。

 そして、あの後僕と闘い始めた後も、ダメージを受けていたのは僕だけだ。

 確かに、あの奇襲はかなり上手く刺さった。

 でも、威力だけならその後もいくらでも同じか、更に上の攻撃も当てたはずだ。

 では、何故あの奇襲の時だけナァさんはダメージを受けたのか?

 答えは単純だ。

 ナァさんが僕の奇襲でダメージを喰らったのは、僕の粘槍によってではなく叩きつけられた地面によってだからだ。

 ナァさんは、()()()()()()()()()()()()()()()


「ぐっ、ナァ!」


 またも、ナァさんが苦しげに呻き声をあげる。切れた額からは血がダラダラと流れ、腫れあがった左眼はもう見えていないだろう。

 この機を逃さず、僕は次々に破片を投げ、更に壁をぶち抜いて破片を作っては投げる。

 この時のために気持ちスライム態を増やしておいたのだ。その方が粘手を出し易いからね。

 

「どうした? 急に苦しそうだな?」

「ナァ、テメェ、なに、しやがったァ⁉︎」


 我ながら性格が悪い自覚はある。こうなるように仕向けたのは僕自身だというのに、実に意地の悪いことだ。

 段々とナァさんの鉞を振る速度と精度は落ちてゆき、被弾する割合が増えていく。

 もはや腕を上げるのもかなり苦しそうだ。


「ナアァーー!!」


 ナァさんが渾身の一撃を繰り出してくる。最後の力を振り絞った相打ち覚悟の特攻だろう。

 実際、僕がボロボロで再生もだいぶキツくなってきたのは事実。決まれば相打ちになる可能性は高い。

 上等だ。その勝負乗った!

 悲しいかな、僕には保険がある。仮にここで相打ちどころか僕だけがやられたとしても、()()()()()()保険が。

 残っていた壁を塊ごと地面から引っこ抜き、粘手に装着する。これでナァさんの鉞――ではなく胴を殴り飛ばす。

 本来なら、両者の武器を激突させて押し勝った方がそのまま勝負も制するものなのかもしれないが、ナァさんの渾身の一撃も塊と粘手に威力を殺された後では僕のHPを削りきれない。それじゃあ悲しすぎるだろ?

 それくらいなら、互いに相手の攻撃を受けつつ自分の攻撃も叩き込んで、どっちが先に息の根を止められるか勝負した方がいい……はずだ。


「うぉーーーーお!!! ナァ!!!!」

「うらぁーーーーーーーあぁ!!!!!」


 互いの全力を込めた最後の一撃が、相手を捉えた――



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