47 ◯◯へ続く道
今回、本当に若干のグロ要素を入れました。これからの展開に必要なので、ご容赦ください。
これから、こういう事が増えます。
「――両手両足合計二十本分、全て剥げ」
「んなっ」「まっまさか」「いや……」
「はっ、何を言っておるのだ貴様は! この俺を誰だと思っt」
その言葉に部屋に居た者達がざわめく中、顎で示された金髪のデブはその動きにくそうな腹を揺すりながら妙に甲高い声で吠えた。
「始めろ」
「「「「「御意」」」」」
だが、その声を無視して、命じられた通りに五つの人影が前へ進み出る。
黒い神官服――通常のものより戦闘に向いている神殿兵の制服に酷似したもの――を身に纏い、中心に大きな眼が描かれた赤い布で顔を隠した者達、教団が誇る〝お仕置き人〟――『異端審問官』だ。
返事をすると、無言で豚の両手両足を四人が抱え込んで拘束する。
「おっおい! 貴様ら、離せ! この俺様にこんな事をしてただどぅえぇ」
豚の頬を何かが掠め、豚が言葉を途中で切った。如何やら殴られたようだ。ただでさえ詰め物で膨れ上がっていた頬が赤く腫れ上がっている。
「黙れ……早くやれ」
異端審問官の一人が黒光りする何かを取り出し、他の四人が抑えている豚の右の手を引き寄せた。
「まっ待て、やめろぉ、こっこの俺様に、そっそんなものを……やっやめてくれぇ! たったのむ、たのむぐぁおぁわぇあぉあぁーー!!」
異端審問官はそんな豚の声に耳を貸さず、黙々と右手、左手、左足、右足と順番に一本一本、一枚一枚丁寧に剥いでいく。
「うぐぉあぇおあぁぃぃーー!! ぐほぁぉあぉえゃぃおーーー!!! どぶぉたちつてぇえぇ…………………………」
「……終わったか。では一関節ずつ落とせ。死なないように回復魔法をかけながらな。サルは脆い。未だ殺さぬように」
「「「「「御意」」」」」
恐ろしい命令に従って、異端審問官はテキパキと行動する。
何故こんな事になったのか、それを明らかにする為には少し時間を遡らなければならない――
◇◇◇
「――おおー、どんどん見えて来たなぁ!」
僕の少し前を進むカイゼルが感嘆の声を上げる。そちらに目を向けると、確かに森を抜けて視界が急に開けた事によって続々と人の列が一点へ向けて集まっているのがよく分かる。
そこは帝国でも帝都に次いで有名な都市の一つ、大陸を横断する二つの街道と帝国を縦断して教皇国へと続く街道の三つの大街道と、大小様々な道が交差する大都市『要衝都市シナラス』だ。
僕ら『青海の騎士団』――『神獣様護衛騎士隊』を含む――と道中で集めた『聖軍』に聖女様、カミュ、(偽物の)神獣からなる一団はシナラスから我らが神聖アゼルシア教皇国の首都にして『神能教』の総本山、『聖都アゼルシア』へと続く大街道――通称『南北巡礼街道』の二つある側道のうちの一つを進み、ようやくシナラスが見える所まで来た。今頃勇者、オリヴィア、ブイは『紅空の騎士団』と『聖軍』を連れてもう一つの側道を進んでいるだろう。
……ここまで来るの結構大変だったなぁ。
中々に懐かしい魔物に襲われるわ、張り切るカイネは可愛いわ、目の前で昼ドラばりの修羅場を見せられるわ、馬に乗るカイネは凛々しいわ、馬車は壊れるわ、汗をかいたカイネはエロいわ、家族と一悶着あるわ、水浴びをするカイネは際どいわで本当大変だったわー。
……考えてみたら、半分くらいカイネの事だな。実は言う程大変ではなかったのでは? むしろカイネとタダで旅行出来て役得では?
なんて馬鹿な事を考えつつ、ようやくここまで来たんだな。
――ちなみに、本道を避けてわざわざ側道を二手に分かれてここまで来たのは、巡礼中の教徒達の邪魔にならない為だ。普段側道は早馬を通す為に交通規制が行われていて巡礼者はほとんど使用していない。
「スゲェ数の馬車だな! どんくらいあんだ⁉︎」
「カイゼル五等騎士、落ち着きたまえ。沈静。見た事がない程多量なのは認めるが、そう叫ぶな。注意」
「へっ、あの程度で驚いていたら、都市内に入れば腰を抜かすな」
ヒネルオンの言う通り、側から見ただけでも、途轍もなく大きな都市だと分かる。
そびえ立つ城門も、都市を囲む外壁も見た事がない程に大きい。聖都の外壁はかなり質素で、ここまで立派ではない。
――別の方法で防備されているから外敵の心配はないが。
「でも、今回は中には入らないんですよね?」
「ああ、ここにはあくまで物資を受け取りに来ただけだ。補給。受け取り次第直ちにた……なんだ? 接近」
シナラスの方向から騎馬の小隊がこちらへ向けて走って来た。様子を見るに……シナラスからの早馬か?
中隊長の号令で教皇国一行は一旦停止してその小隊を待つ。
その小隊はそのまま僕ら第一中隊の脇を抜けて聖女様の馬車の前で止まり、全員が馬を降りた。
「自分は都市長の使者としてシナラスより参った者だ。教皇国の責任者殿にお取次を」
「私がこの軍を教皇聖下よりお預かりしております、神聖アゼルシア教皇国第二教皇女、アリーナ・ソファリムと申します」
「同じく教皇国修道騎士団所属、『青海の騎士団』中隊長、マーク・リディアファンだ。他の方々をお呼び致するので、一旦ここでお待ち願いたい」
「いや、それには及ばない。都市長は『直ちにシナラスへ全兵をもってお越し願いたい』と仰せだ。大至急シナラスへ来ていただきたい」
「……少し待たれよ」
中隊長はゴニョゴニョと聖女様や他の聖職者――『火の塔』の軍司祭並びに軍司教達――と相談した後、
「了解した。直ちに軍をまとめ、入城しよう」
「かたじけない。では自分は都市長にそれを伝え、大門を開ける」
小隊の長と思しき者と話をつけた後、中隊長は僕とカイネを含む数名の部下――六等騎士を手招きした。
「お前達は直ちに全軍にシナラスに入城すると触れ回れ。くれぐれも浮き足立たぬように念を押してな」
「「「「「「「御意」」」」」」」
中隊長の命を受け、僕を含めた六等騎士が後続の軍へ向けて馬を走らせ入城について触れ回る。反応はほぼほぼ一致していた。
「うぅ……うう……うぉっしゃ来たぁーーー!!!」
歓喜、である。
ルカイユは行った事が無かったので分からないが、そんなにすごいのだろうか、『要衝都市シナラス』とは。ちょっと気になっちゃうな。
◆◆◆
「――それにしても〝転移〟か。困った事になりましたな」
「ああ、身の安全が脅かされるとまた騒ぎ出すぞ、あの阿呆どもが」
総軍司教――テルワズ・ゾートリアルの声に、総務司教――アバソルト・ソファリムが応える。
この場には彼ら二人の他、志を同じくする〝同志〟達が集まっていた。
……〝同志〟達のみが集まっていた、と言った方が良いか。
何にせよ、ここには野望を抱いた者達が集まっていた。
「早々に手を打たねばなりますまい。既に〝彼ら〟は聖都を発っておるのですな?」
「うむ、二班が既に出撃済みだ。合流次第、奪還に動くだろう。〝彼ら〟なら問題は無いだろう。強力な〝助っ人〟もいる事だしな」
「……だがそれは、残っておらねば、の話であろう? 残っておったらどうするつもりだ? ここでみすみす〝彼ら〟を失うわけにもいくまい」
「ならばどうすると言うのだ? 〝助っ人〟に借りを作るか? あの楽天家どもが思っておる程、奴はお人好しではないぞ」
「そうなれば、それで構わんじゃろう。阿呆どもの肉盾を削るまでのことじゃ。そうであろう? 総愛司教殿よ」
「……そうですわね。誠、悲しい事ですわ。こんなにも世界は――」
水を向けられ、部屋の最奥に座っていた小柄な女性が口を開いた。
彼女こそがここに集う〝同志〟達の纏め役にして、神能教圏内の全ての孤児院を統括し、十人の教皇子達を育て上げた者、
「――平等な命を不平等に奪うだなんて」
先々代神聖アゼルシア教皇国教皇の第一教皇女にして、現教皇の義姉、総愛司教テリーナ・ソファリムその人である。
◆◆◆
――ぶはははは、どの口がそれを? このサイコパスめ!