4 可愛げの無い犬はただの獣②
僕も前世の記憶こそ有るけれど、完全にこの世界に組み込まれてしまったらしい。
その事が分かってもすんなりと受け入れられたのだから。
寧ろ「そうと分かればこの事を利用してやろう」なんて考えている。
周りのゾンビ達のレベルは僕と殆ど変わらない。
前世の知識などを持っている僕が有利なのは言うまでも無いだろう。
世界の基本情報を理解出来る速度は、下地がある僕の方が圧倒的に速い、筈。
レベルアップで全員に同じ情報が開示されているとすれば、少なくともLV4までの相手が今までに何の情報まで得ているのかは分かる。
それが分かっているだけでも、対策の立てようはある。
相手は僕のことを「経験値」としか見ていない。
だから何も考えず突っ込んでくる。
LV4までに開示された情報の中に、「戦略」「戦術」に当たるものは無かった。
つまりLV4以外のゾンビは粘手&麻痺毒のコンボで動きを止めて、酸をぶっかける戦法を理解出来ない。
さっきのハウンドの様子を見るとLV5でも理解出来なさそう。
相手が戦法を理解出来なければ、かなり有利に戦える。
相手は一定のレベルに達するまで「センポウ」が何なのか分からず、僕が如何戦うのかを学習出来ない。同じ手に何度も引っかかる。
こっちは相手が突っ込んでくる事が分かってるんだからな。幾らでも対策出来る。
これは勝ったな。僕はこの世界で無双出来そうだ――
『スキル獲得条件を達成しました。スキル〈幻覚耐性LV1〉を獲得しました』
頭の中に響いたその言葉で、僕は我に帰った。
そして周りの様子のおかしさに気付く。
「ウウウー」「ウワォー!」「グルル」「グワァー!」「グルワァー」「ウワァン」「ウウ――
囲まれていた。
ハウンドに。
えっ? どゆこと? 何この状況、よく理解出来ない。
何でいきなり囲まれてる訳?
こいつらどこから出てきたの?
はっ⁉︎ まさかさっき噛まれた時から幻覚を見せられてた?
さっきも〈幻覚耐性〉を獲得した瞬間に我に帰ったし。
僕が幻覚を見てる間にこいつらが僕を囲んだ訳か。
ヤバくね。
この数を相手に何の下準備も無しに立ち向かうのは無謀だわ。
ざっと見た感じ二十匹前後。
酸を使ってもMPが持つとは思えないが、粘手を使ってまた噛まれたらと思うとそれも出来ない。
詰みやん。
二、三匹くらいなら振り切って逃げれるもだけど、この数は無理。
ヤバい、マジで詰んだ。
こいつらこんな頭回ったのかよ。舐めてたわ。
さっきの幻覚の内容も「あいつら馬鹿」みたいな感じだったし、相手の油断を誘う感じ?
うわー、全く可愛くないわー。
可愛げゼロだわー。