38 五つの「アイ」⑩
「――なるほど、事の顛末は理解したよ。それで? アイリスは何をしたいのかな?」
次の日、呼び出されて教皇庁三階『懺悔の間』に行くと、恐ろしい人物達が僕を待っていた。
僕らを呼び出した聖女様と、その聖女様が報告すると言っていた教皇聖下がいる事までは予想していた。
でも聞いてないよ、こんな大事になってたなんて。
教皇聖下の両隣を、『修道騎士団』を統括する『金槌の塔』の主人、『総法司教』と、教団の教えを教徒が忠実に守れているかを調査する『鮫の塔』の主人、『総律司教』の二人の総司教が固め、僕ら六人の所属する『青海の騎士団』団長や、所属する大隊の大隊長、中隊の中隊長、そして直属の上官である小隊長、僕ならライオネルまで呼び出されている。
それ以外にもそれぞれが連れて来た秘書官やらなんやらで、三十人近い人間が『懺悔の間』に集まっていた。
因みに、勇者も同席している。こいつに関しては何故いるのか疑問だ。
――まぁ十中八九「面白そう」だからだろうな。
「わたくしは、この件以外にも貴族出身者による〝差別〟が行われていると考えます。大規模捜査に踏み切るべきかと」
「ほう……総律司教の意見は?」
「はっ、私は聖女様のご意見に賛成でございます。この機に一度〝大掃除〟をしておくのも良いかと」
聖女様の「教団内の〝差別〟是正の為の大捜査」案に総律司教まで賛成してしまった。
これでは騎士同士の単なる口論程度では済まなくなってしまう。
――元より僕に「口論」をした記憶が無いというのは一旦脇へ避けておく。
とは言っても、僕如きが何か言ってももうこの件をどうこうは出来ないだろう。
……ここは静観が一番だな。
◇◇◇
「――という訳でございます! 我らは決してs――」
「ふむ、よく理解しましたよ。それでトフィン四等騎士はどうしたいのかな?」
……完全に問いかけがガキに対するアレだ。舐められてんな、こいつ。
その後、僕らへの事情聴取が再度行われたが、奴らの主張が変化する事はなかった。
ここまで来ると逆に感心しちゃうな。まさか本当に良い事してると信じていたとは思ってなかったわ。想像の斜め上だ。僕の中では『ごれんじゃあ』の株が少しばかり上がった。
――とは言っても、ー10000000がー9999999になった程度の誤差の範囲でだが。流石の僕も『下民』発言に何も思わなかった訳ではない。
しかしいつまでもこの『愚かな下民を導いているだけだ』という主張を聞き続けるのは苦痛だというのもまた事実だ。
それは教皇聖下も同じなのか、かなり根本的な事を尋ねた。
「で、結局お前は何がしたいん?」と。
それに対する奴らのリーダー格――トフィン四等騎士はどう答えたのかと言うと――
「わっ私は……」
――何も答えなかった。
『わっ私は』と言ったら、それきり黙り込んだのだ。
情けない奴だ。具体的な問題点や改善点、変更後のプランを一切提示せずに文句をつけるなんてもはや『クレーマー』だぞ。
お前いつからそんな偉くなったん? いったいぜんたい何様のつもりや?
とは言っても、このまま黙りこくったままでは埒が明かん。ここは僕が一肌脱ぐとしましょう。
感謝しろよ? 僕が誰かに手を貸すなんて滅多に無いかんな?
「――恐らく、トフィン四等騎士殿は『自分達第二中隊を聖女様の護衛にすべきだ』と仰りたいのだと思います」
「「「「「「「なっなに⁉︎」」」」」」」
「まぁ」
「……へぇ」
僕の放ったこの言葉に、部屋が騒然となる。
そりゃ当然だろう。この発言の裏には勿論「第一中隊を選んだ騎士団上層部への不満」が隠されている。
トフィン一派がこう考えて今回の一件を起こしたとすれば、教皇国への明確な――〝反逆〟だ。
「……ルカイユ六等騎士、その根拠は? 何かありますか?」
「はい」
「「「「「「「っ⁉︎」」」」」」」
教皇聖下の問いかけに僕が即答すると、室内に驚きが広がった。
「……説明していただいても?」
「はっ、先ずは昨日トフィン四等騎士殿が私へ『ご指導』してくださったと主張していらっしゃる時間は、ちょうど市民の終業時間と重なります。しかも場所は中心街と住宅街の間の商店街。あの時間帯では聖都で恐らく一番人が多い場所でしょう。そのような所で話せば、自然と皆の眼を引くのは当然でしょう。にも関わらずわざわざあそこで僕へ『ご指導』くださったのは、教団への不満を煽る為です」
「……と言うと?」
「はっ、恐らくトフィン四等騎士殿は計算尽くだったのでしょう。あの周辺で最も人通りの多い道で、聖女様がお通りになられる時間を狙って塞げば、そこを通れなくなった民衆の不満は道を塞いでいる者、つまり『修道騎士団』へ向きます。そして道を塞いでいる理由が聖女様だと知れば、更に教団上層部へと向くやもしれません」
「それは流石に言い過ぎでは?」
僕のやや根拠に欠ける断言に思わずと言った感じで一人が口を挟んだ。
「いえ、言い過ぎではありません。彼らにとって教団とは『善』の象徴。そして民にとっての『善』とは「自分達にとって良い状態をもたらしてくれるもの」です。よって彼らの行手を塞ぐという行為は、彼らにとって「悪い状態」をもたらす――『悪』なのです」
「それは……勝手すぎやしないかね? その程度のことで……」
「ええ、たまとは本来、「勝手」なものです。その程度で簡単に他者を『悪』と呼べるのです」
僕の発言に、部屋中の視線が若干冷ややかになる。
僕に対して(当然の事だ)だけでなかったのは、意外だった。
――もっとかかると思ってた。予想よりだいぶ早い
「今まで『善』と思っていた教団の裏切りは、今後の教団運営に大きな影響を及ぼすと思います」
「流石にその程度では……大袈裟過ぎやしないしないだろうか?」
「ええ、ここが他国――教皇国以外の国ならなんの問題もございません。ですがここは教皇国です。教皇国は国民を「政治」や「武力」ではなく「信仰心」で治める唯一の国です。その国民の「信仰心」が揺らぐのは勿論大問題ですが、今回の場合揺らぐのは神への「信仰心」ではありません」
「では何がどうなると言うのかね」
ナイス! まさに僕が言って欲しい事を言って欲しいタイミングで言ってくれましたね!
それに対する僕の回答は勿論こうだ。
「現在の教団上層部への「信頼」、それが揺らぐのです」
「「「「「「「教団上層部への「信頼」が揺らぐ?」」」」」」」
「はい、揺らぐのは「信頼」。そこでこう焚き付ける者がいれば、猊下方は辞任に追い込まれるでしょう。
『神の教えを正しく導けない者にこの教団を任せておいて本当に良いのか?』と。
『自らの『剣』たる修道騎士団の手綱すら握れない者に民を導く資格ははたしてあるのだろうか?』と。
そうなれば、恐らく猊下方の辞任という流れになるかと」
「「「「「「「…………」」」」」」」
僕の発言に誰も反応しないのは、僕の言っている事が現実に起こる可能性が各々の頭をよぎるからだろう。
例えそれが1%だとしても、彼ら――『神能教』にとっては何がなんでも避けるべきまさに〝悪夢〟だ。
更にそれを僕――平民が言い出したというのも大きい。
幼い頃から修道院で英才教育を受けて育った上層部は、血筋に関わらず皆「世間知らず」だ。
貴族出身の騎士もまた市井の生活には疎い。
つまりこの部屋で最も民――神より預けられた大切な無垢な魂――に近いのは、つい先日まで平民(だった事になっている)僕という訳だ。
最初は戯言として聞き流せても、ここまで言い切られれば一切の根拠が無かったとしても教団上層部に無視するという選択肢は存在しない。
――『一切の手を打てずに破滅するくらいなら、入念な準備が無駄になった方がマシである』という格言まである神能教に、「敗北」の二文字は許されても、「手遅れ」の三文字は許されていないのだ。
「…………それは本当ですか?」
「そっそんな訳ないではございませんか! その者の言う事などに耳を貸してはなりませぬ!」
教皇聖下の問いかけにトフィンは勿論否定する。
無論ここで離してあげられる程僕は強くない。悪いな。僕を恨まんでくれ。全て僕の身を守る為だ。
――僕のスケープゴートになってくれ。
「……それは僕が『下民』だからですか?」
「「「「「「「っ⁉︎」」」」」」」
「……なるほど」
「…………まぁそうなるよね」
「そっそれは……」
ここでトフィンが何を言っても、もう誰も耳を貸したりしないだろう。
普段ならこうはならなかった、筈だ。
――だが今日は特別。
今日はトフィンの『下民』発言を発端に開かれ、この場でもトフィンは依然として自分の主張を取り下げなかった。
そしてそこに先刻の『耳を貸すな』発言が飛び出した訳だ。
普段なら僕が荒唐無稽な作り話をしていると言えば、多少の疑惑は残っても話くらいは聞いてもらえた筈だ。恐らく場所を改めて取り調べくらいで済んだだろう。
だがこいつは最初から一貫して僕を『下民』と呼び続けた。呼び出されて萎縮していながらも、そこだけは譲らなかった。
それが仇となった。
この点を加味して先程のトフィンの発言を振り返ると、
〝ルカイユが『下民』だから〟『耳を貸してはならない』と言った様に聞こえ、
そこから考えると、その前に黙りこくったのもこの事を隠そうとしたからの様に見えてくる。
――実際は何も考えず、ただ『下民』をいびっていただけだとしてもだ。
「何か弁明はありますか? トフィン四等騎士」
「ちっ違います! 我らは決してその様な事を考えてなどo――」
「いえ、考えていたのはトフィン四等騎士だけだと思います」
トフィンが掴もうとした(彼から見れば)ほぼ唯一の一筋の救いの光を速攻で叩き潰す。
これでもなおトフィンを救おうという奇特な人物は、はなから『下民』への指導へ加担してない。無論トフィンを救おうとする者はいなかった。
「トフィン四等騎士を、『金槌の塔』まで連行しろ。『尋問室』送りだ。ああ無論、『異端審問官も呼び出せ」
「そっそれだけはお許しくだs――」
「連れて行け」
総法司教の命令で、彼が連れて来ていた騎士がトフィンを『金槌の塔』へ連行して行った。
最後までトフィンは何か叫んでいたが、総司教達はそれを無視した。
「さて……トフィン四等騎士の〝尋問結果〟が出るまで一旦解散しましょう」
教皇聖下の言葉を受け、続々と部屋を出て行く。
僕もそのまま退出しようと扉へ向けて歩き出すと、
「ああ、勇者様は少し残ってください。聖女様も」
勇者と聖女様が教皇聖下に呼び止められた。
『アイリス』としてではなく『聖女様』で呼んだ事から、結構真剣な話だろうと予想がつく。
……まぁ僕には関係ないけどね。
◇◇◇
「――肝を冷やしたぞ! 反省! だいいち君はな――」
『懺悔の間』から出た僕は、ルーカスとライオネルに呼び止められて説教を喰らっていた。
ライオネルが僕の事を本気で心配してくれているのは強く伝わってきたが、何かあっても勇者が結局なんとかするだろうし、ぶっちゃけ後先など欠片も考えていなかった事もあって、少し気まずい。今回に限っては素直に反省しよう。
「――と……聞いてるかい? 無視? 未だ分からないのn――」
「――まぁ、そこまでにしておけ。分かり辛いが、ルカイユも反省しているだろう。違うか?」
「その通りであります」
「な? こう言っているし、ここはもう終わりにしよう」
「大隊長殿がそう仰るなら……不承。しぶしぶながらここは引きましょう。不服」
「おっおう……」
ルーカスの言葉に、ライオネルが本当に、ほんとうに渋々ながらといった様子で僕への説教を終えた。
それにしても……ルーカス、ドンマイ。
何がとは言わないけど……元気出せよ? きっといつか何か良い事が起こるかもしれない。たぶん。
――この時、僕は油断していたのだ。失念していた。僕が何故こんな所に呼び出されているのかを。
◇◇◇
「ルカイユ六等騎士! もうしわけございませんが、お時間をちょうだいしてもよろしいでしょうか?」
『懺悔の間』から出るや否や、聖女様はそう言い放って、僕が付いて来ているかを確認もせずに歩き出した。
「「「……」」」
それはそうと、『付いてこい』と言われたのだから、付いていくのが道理なんだろうが……ぶっちゃけ怖い。
一瞬しか顔が見えなかったが、なまじ速度が15000もあるので、表情をくらいなら出来た。
その結果……ありゃたぶん怒っていらっしゃるな。いや「たぶん」じゃない「ほぼ確実に」だ。
伊達に十数年周囲の(保護者以外の)大人という大人を怒らせ続けてない。人が怒っているかどうかぐらいなら簡単に分かる。
――まぁ前世では分かっていてなお一切行動を改めなかったから怒られ続けてたんだけど……
こういう時こそ〝頼れるご主人様〟の出番だ。
[おい勇者、どうすれば良い?]
[素直に付いていく事をおすすめするよ]
〈念話〉で問いかけると、すぐさま返事が返ってきた。「すぐさま」と言うよりむしろ「食い気味に」と表現の方が適切と思える程だ。若干「恐れ」や「同情」を感じた気がするのは僕の気の所為だ……と信じたい。
[じゃあ……いってきます]
[ああ、いってらっしゃい。……大丈夫、骨は拾ってあげるから。……ははは……スライムだから骨、無いか。ははははは……]
……怖えよ。何があったんだよ。勇者さんめっちゃ病んでるんですけど……心配になってきた。僕、何されるんだろ?
◇◇◇
「よく来てくれました」
「はっ、ルカイユ六等騎士、お呼びにつき参上しました」
聖女様は『教皇庁』四階の自分の部屋まで僕を連れて来た。
ああ「自分の部屋」と言っても聖女様の自室ではない。執務室の一つだ。
「掛けてください」
「……」
「掛けてください」
「はっ、失礼します」
怖え、こええよ。全身から怒りが噴き出してるよ。声に温かみを微塵も感じられない。
一体全体僕のどこにそんなに怒っていらっしゃるんだろう?
……駄目だ、心当たりが多過ぎる。コミュ症ボッチには他人の感情は全く理解出来んのだ。奴らと僕らは怒るポイントから笑いのツボまで180度違うのだ。
……どうしよう、『存在自体がウザい。死ね』とか言われたら。
中3で同級生(女子)に言われた時は『は? テメェが死ねよ』とか思ってたけど、聖女様に言われたらダメージも一入だわ。
だって美少女かつ〝聖女〟だよ? 誰でもクリティカルヒットでしょ?
……だがこのままお怒りなご尊顔を眺めていても埒が開かない。面倒事は早々に片付けてしまうに限る。
「それで……何の御用でしょうか?」
「勇者様とはいったいどういう繋がりがあるのですか?」
「……ん? どういう事でしょうか?」
何を言われるのかと戦々恐々としていたら……『勇者とどういう関係だ?』だと? マジでどういう事だ? 皆目検討がつかない。
「お父様が仰っていました。『ルカイユ君はユリシーズ君の推薦で騎士になった』と。こんな事は前代未聞です。何故そんな事になっているのですか?」
ふむ、勇者から推薦をもらったから呼び出されたのか……。
…………これ、呼び出す必要ある? わざわざ個室で二人っきりで聴取する内容か?
「いったいあなたは勇者様とどういう関係なのですか?」
めっちゃ聞いてくるな。なに、そんなに気になるの? たかが推薦状一枚で?
言っちゃ悪いがこちとら勇者が推薦状を書いた事すらさっき初めて知ったんだぞ?
『何故そんな事になったのか』という質問には『分からん』としか答えようがない。
僕と勇者の関係なんて元より有って無い様なものだ。『どんな関係か』なんで質問、答えようがない。
……仕方あるまい、これでいくか。
「自分の故郷が魔族の襲撃で壊滅した時に、勇者様御一行に助けていただいたのです。その際、自分以外の村民を救出出来なかった事を気にしてくださっていたので、強いて言えばその罪滅ぼし、という事ではないでしょうか」
まぁまるっきり嘘ではない。ルカイユ以外の村人の救出には勇者もブイも失敗してる。ルカイユに対する罪滅ぼしという意味合いはあるだろう。知らんけど。
ただし、ルカイユを助け出す事には成功したものの、彼はランペルス領まで保つ事なく息を引き取った。その時に回収した彼の記憶を使って、僕はこの『ルカイユ』という人物を演じているという訳だ。
修道騎士になったのも、『神獣』では動き辛いという理由でしかない。
流石にこれを素直に喋るわけにもいかないので、この嘘とは言い辛いが騙している事だけは確かな回答とあいなった。
これでお気に召したかしら?
「……勇者様がそんな事を…………そんな事でここまでするなんて………………。はあ……」
いやだから怖いって! その心底呆れたというか理解出来ないみたいな顔やめたげて。て言うかやめて。
――前々から思ってたんだけど、聖女様って勇者には当たりキツイよね。今日も隣に立ってたのに、出来る限り勇者から離れようとかなり頑張っていらっしゃったし、教皇聖下に残るよう言われて後から出て来た時も勇者が通るか確認せずにパッパと扉閉めちゃってたし。
僕がそんな事を考えているなんて思いもせずに、何やらブツブツ言っていた聖女様はようやく自分の中で納得出来たみたいで、姿勢を正して僕の方を見た。
「分かりました。あなたの言葉を信じましょう。いきなり呼び出したりして申し訳ございませんでした」
ほんとだよ。
なんて言える筈もなく、僕は丁寧に挨拶をして部屋から退出した。
扉を閉める時に一瞬見たけど、何故か僕を睨んでいた。いや本当になんで?
それにしてもなんでこの程度の事で呼び出したり、あの剣幕で問いただしたりしたんだろ?
勇者が怯える程の怒気をはらんでいた事は僕も確認したが、その怒りに見合うだけの内容だったとは思えない。
まぁ何にせよああいう意味分からん人種とはなるべく関わらなi――
「あっ駄目だわ。僕、あの人の護衛だったわ」
マジかよ、詰んだわ。なんか目付けられてるし。
「はああーー、遠征行きたくねぇ。…………休んでいいかな?」
◆◆◆
「……この騒動では肝を冷やしたな」
「……ああ、まさか彼にそんな一面があるとは……正直想定外だった」
「……だが、一応は自分の手で解決して見せたではないか。……事実かは知らんが」
「……そう言えば、あの四等騎士の取り調べはどうなっているのだ?」
「……今のところ彼の発言を裏付ける証拠は上がっていない」
「……ならばブラフk――」
「……だが、総法司教はクロだと断定した。今頃騎士団が大規模な捜索を始めているだろう」
「……となると……彼の言っていた事は……」
「……まるきりの嘘だとは思えんな」
「……何にせよ恐ろしい男だ。敵に回さずに済んで本当に良かった」
「……全くもってその通りだ」
「……遠征でも我らの肝を冷やさせるのだろうか」
「……分からん。だが、彼が我らの同志となった日以上の驚きはあるまい」
「……全くもってその通りだ。あれ以上はそうない」
「……まったくだ」
五つの「アイ」その五『慨嘆』