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不死者に平和を  作者: 姫神夜神
3 新たな出会い
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31 五つの「アイ」③

「――つまりそういう事か?」

「はい、お願い出来ますか?」

「ああ、それは構わないが……本当に()()やって構わないのか?」

「ええ、貴方様()()()()()()()()()のです」

「……そうか」


 色々()()ってもんがあんのね。まぁ追求はしませんよ。

 ――今()、ね


「……少し話は変わるが、一つ提案なんだが……」

「はい、何でしょうか?」

「敬語、()めないか?」

「よろしいのですか?」

「ああ」

「……では遠慮なく。――お前のことは何と呼べば良い?」


 おお……全く躊躇無いな……。まぁ良い。そうしろと言ったのは僕だし、文句は無い。……無い。


「『神獣』状態は二人の時は『ゲイル』と、皆の前では今まで通り『神獣様』と呼べ。『ルカイユ』の時は当然『ルカイユ』だ」

「了解した。では『ルカイユ』、付いて来い」

「御意、ルーカス()()


 これで僕はルーカス()()の部下『ルカイユ』となった。暫くは隊長の命令に従う必要がある。

 ……あぁ〜、自分の意思とは言え面倒くさいな〜


◇◇◇


「――ここだ、ルカイユ()()()()


 そう言って隊長が示したのは、先程の修練場――ではなく、その外にある別の騎士の修練場だった。


「明日から()()はここでの修練に参加()()。励め」

「御意」


 ……『参加()()』て、本人の意思はガン無視っすか。参加するのは決定事項なんすか。

 まぁ別に構いませんがね。

 ここに来る道中にも騎士について色々聞いたけど、やっぱりキツそうね。

 しかも「これくらい出来て当然だろ?」的なニュアンスを端々に感じたわ。

 ……やっぱ僕こういう体育会系苦手だわ。合わん。

 でも――

 ――これも全て我が〝目的〟の為だ、我慢しよう。


「今日はここへの道を覚えさせる為だけに連れて来たので、解散して構わない」

「了解しました。では失礼いたします」


 隊長に一礼して、僕は修練場を後にする。

 ――正確には後に()()()()


◇◇◇


「あれ? 隊長?」


 ちょうど修練場から僕が出て、隊長が出入り口を施錠していた時だ、誰かが声を掛けてきたからだ。

 どうやら隊長の知り合いの様だな。軽く会釈して僕はその場を立ち去った。

 ――正確には立ち去()()()()()

 だって仕方ないだろ? そこに――


「隊長、こんばんは」

「ああ、こんばんは」


 ――天使が居たんだから。だれも僕を責める事など出来る筈もない。


「こんな所でどうしたんですか……そちらの方は?」

「ああ、紹介しよう。明日からうちの隊に配属になるルカイユだ。ルカイユ、こちらはカイネ、私の隊に所属している騎士だ」

「初めまして、カイネです。明日からよろしくお願いしますね、ルカイユさん」


 首ぐらいで切り揃えられたかなり白の入った水色の髪に、雪の様に真っ白な肌に小ぶりな唇とちょこんとした鼻が乗っかり、髪と同じ色の長いまつ毛が金色の瞳の大きな目を覆っている。

 その大きな瞳がこちらを見上げていた。


「……ルカイユです。……こちらこそ、よろしくお願いします」

「はい、ルカイユさん!」


 ニパッ、という音が似合いそうな満面の笑顔が僕の心臓((ゾンビ)に心臓は無いが)を射抜いた。

 まさに天使。暗属性の代名詞孤高の狼人族(ボッチ)(自慢じゃ無いが僕の友達は片手は勿論、両手でも数えられない。何故なら0だからだ。0は掌をにぎり締める他無いので〝手では〟数えられないだろ?)&陰属性最高峰のシャドーデーモン(カースト最底辺)(影が薄過ぎて、九月くらいに「えっ⁉︎ 君誰⁉︎ 転校生⁉︎」と聞かれた時は泣きたくなってホームセンターでロープ探しに行ったわ)の僕には効果絶大。

 ちょうど超電磁砲(レールガン)で心臓にダイレクトアタックされた感じだね。

 むしろ液状被膜超電磁砲リキッドプルーフレールガン喰らったまである。

 ……ヤバい。何がヤバいってここで◯坂さんの話を始めた事自体ヤバい。大体今ので悲しさが0になったのは「重症だ」と自分でも思うわ。

 ヤバい。


 ……カイネがあまりにも可愛すぎて現実逃避してたわ。

 もうこの可愛さは暴力だね。


「では、また明日」

「はい。ルカイユさんもまた明日」

「え⁉︎ はっはい、また明日……」


 ……ヤベェ、女子と話しちまったぞ(挨拶が会話に入るかはこの際置いておこう)。

 別れるのが名残り惜しい気も、ここで別れとかないと色々(主に僕の心臓と彼女の都合に)悪い気もするんだよなぁ。

 めっちゃ迷う。

 とか言ってる間にカイネは行ってしまった。

 ――後ろ姿まで可愛いとかバケモンかよ


 ……てか『また明日』か。明日も会うんだよな。

 ……グフッ、グフフフ


「――ルカイユ? ルカイユ! 聞こえているかルカイユ⁉︎」

「何ですか? 聞こえてますよ」

「……何故お前が少し怒っているんだ? そんな事よりもだ、明日も早いんだし早く帰って寝ろ」

「いや、僕ゾンビなんで睡眠とか要らないんですけど……」

「それでもだ。別に寝れない訳じゃ無いんだろ? じゃあ寝ておけ」

「……了解しました」


 結構押し強いのね。でも良い上司ではあるのかな? ちょっと押し付けがましいが(部下)な事を考えた発言とも言える。


「それと……一つ聞いても良いか?」

「何です?」

「いや……こんな事聞いて良いのか分からないんだが……」


 結構引っ張るな。逆に何聞きたいのか俄然興味が湧いてきたぞ。


「何ですか? 言ってみてください」

「ああ、じゃあ……何でさっき気持ち悪い声を出して小さく笑っていたんだ?」

「へっ? ……僕、笑ってました?」

「ああ、正直不気味だったが確かに笑っていたぞ」

「……そうですか。でも仕方ないじゃ無いですか。あんな可愛い女の子に会ったら誰だってああなりますよ」

「『可愛い女の子』? 誰だ? そんな奴居たか?」


 ……はぁ⁉︎ 何言ってんだこいつ。テメェの鼻の両斜め上についてる二つの物体は何を見てたんだぁ⁉︎


「何言ってるんですか。カイネさんが居たじゃないですか」

「お前こそ何を言っているのだ?」

「ヘ?」

「ん?」


 一体こいつは何を言ってるんだ? あんな可愛い女の子の魅力が理解出来ないとは、人生損してるぞ。


「カイネは()()()などではなく、れっきとした()だぞ」

「……えっ。えええええーーーーー!!!!!」


 なん、だと。

 カイネが女の子ではなく男だと?

 有り得ん。

 つまり僕が生前携えていたショートソードの親戚をカイネも携えていると? 

 僕は信じないぞ。絶対に。


「……嘘、ですよね?」

「そんなつまらない嘘を吐く筈が無いだろう。真実だ」

「そっそんなぁ〜」


 マジか。マジなのか。

 カイネは、カイネは――


「――男の娘(おとこのこ)だったのかあーーー!!!」


◇◇◇


「……どうした? 妙に表情が暗いな」

「……いえ、何でもありません」


 ……マズい、一睡も出来なかった。

 元より睡眠など不要だが、気持ち的に眠れなかった。

 ……この状態でカイネに会いたくねぇ。


「そうか? なら良いが」

 バレてないみたいだな。隊長が鈍感で良かった。

「何でもないなら始めるぞ」

「はい」


 そう言って隊長は僕を修練場の中に設置されていた舞台に上げた。


◇◇◇


 思ったより人が多いな。百人くらいはいるか?


「皆、今日より我が隊に新しい騎士が入隊する。ルカイユ六等騎士だ。ルカイユ、皆に挨拶を」

「はい。ルカイユです。よろしくお願いします」


 ……皆んなめっちゃこっち睨んでるよ。

 まぁそうだよな、いきなり現れた野郎なんてあっちからしたら「何だよこいつ」って感じだもんな。


「では皆、いつも通り二人一組で修練を始めろ」

「「「「「「「はっ」」」」」」」


 隊長の言葉で一斉に騎士達が二人組を作って散らばりだした。


「ではルカイユ、お前はカイネと組め」


 このクソ鈍感がぁーー!! 空気読めやクソがぁーーー!!!

 

 そうこうしてるうちにカイネがこっちに歩いて来た。

 ヤバい、目も合わせられん。


「……よろしくお願いします、カイネさん」

「『カイネ』で良いよ。君のことも『ルカイユ』って呼んで良いかな?」


 いやぶっちゃけダメですね。主に僕の心臓に特大ダメージだから。

 でもこっちを見てる可愛らしい大きな目がちょっと期待している感じがする(たぶん気の所為)ので断れない。


「……勿論構いません」

「敬語じゃなくても良いよ? たぶん()()と同じ歳くらいじゃないかな?」


 『()()』か。

 やっぱり男の娘なんだよなぁ。

 でもまだボクっ娘の線も……無いわな。

 諦めよう。カイネはとてつもなく可愛い男の娘だ。

 そう思うと普通に接する事が出来そうだ。


◇◇◇


「じゃあ、さっそく始めよっか」

 ……やっぱ無理だ可愛すぎる。


 身長低め(たぶん160cmもない)とは言え見上げる顔がもう。

 ヤバい。目は相変わらず合わせられそうにない。


「ルカイユは剣使えるの?」

「昔嗜んでいた事はある」

「へぇ、それで騎士隊に入ることにしたの?」

「……いや……」


 ……言えねぇ。


『騎士ってやっぱかっこいいよね』

『じゃあなってみる?』


 なんて軽いノリで入ったなんて言えねぇ。

 昨日の隊長の口ぶりから察するに、皆んな『騎士』という職に高い志を持って入隊してるみたいだし、間違っても口に出せん。


「……うん、まぁそんな感じ……かなぁ?」

「ははっ、なんか曖昧だね」


 うん、ちょっと呆れた感じの笑ってる顔も可愛い。


「じゃあ、これ使って」


 そう言ってカイネが差し出したのは練習用だろうか、簡単な作りのシンプルな剣。

 刃は潰してあるし、()()()()人を斬り殺したり、()()()()斬り殺されたりしない様になってるみたい。


「……ふむ、案外軽いな」


 長さは80cmくらいか。思っていたより大分軽い。

 てっきり、持ったら膝から崩れ落ちるレベルの重さかと思っていた。

 ……それくらい重くないと人なんて斬り殺せないと思わない?


「片手剣だからね。片方の手で剣を持って、もう片方で盾を装備するんだよ。今日は初日だから先ずは剣に慣れるところから始めよう」

「分かった」

 

「ふんっ、ふん」


 ……振ってる姿も可愛い。

 頑張って振ってる感じが堪らなく庇護欲をくすぐる。

 ……煩悩に負けてる場合じゃない。僕もしっかりと振らねば。


「はっ、はっ、はっ」


 やはり振ると竹刀より大分重い。柄が擦れて既に豆が出来てしまった。


 ――騎士として活動して、何度怪我をしても傷が一つ残っていないのは人間としてどうかと思ったので、〈自己治癒〉のスキルは切ってある――

 

「ルカイユは筋が良いね。剣筋がきちんと通ってるよ」

「そうか? そんなに良くは無いと思うが……」


 実際周りの奴らの方が僕の何倍も剣を上手く操れてると思うんだが。

 どいつもこいつも美しい所作で剣を振っている。


「そんな事ないよ!」

「おっおおそうか?」


 妙に強く言い切ったな。

 僕そんなに剣の才あったのか? 

 ……いや無いな。無ぇわ。

 じゃあなんでカイネはこんなに強く言い張るんだろう。


「……ボクは剣が下手だから羨ましいな」


 ……成る程、そういう訳か。


「カイネ、何を気にしているのか知らないが、剣を苦手としている事なんてほんの些細な事だぞ」

「えっ?」

「だってそうだろう? 確かに剣を使えないよりは使える方が良いのは僕も認めるが、騎士の仕事はそれだけでは無い。それに、いくら腕が立とうとも剣が苦手()()の事で他者を見下す()()は騎士には向いていない」

「「「「「「「⁉︎」」」」」」」


 ふっ、わざと声を大きくして聞こえる様に言ったからか、身に覚えのある()()共が一斉にこちらを振り向いた。中には露骨に睨んでくる様な奴まで居る。

 勿論この機を逃さず追撃する。


「この程度の()()も聞き流せないような()()()も騎士にはなり得ないな。なれる筈がない」

「「「「「「「……」」」」」」」


 ……ここで目を逸らしちゃ「自分は無能で愚か者です」って言ってる様なものじゃないか。本当バカだなぁ。

 無論手を緩める気は毛頭ない。


「だが、自らの誇りを傷つけられたというのに無視出来るのは騎士としての自らに誇りを持てない()()()か、誇りを傷つけられたことにすら気付かない()()()だがな。当然どちらも騎士としての自覚が足りないので騎士失格だ」

「「「「「「「なっ⁉︎」」」」」」」


 途端にこちらを一斉に睨みつける騎士達(バカ共)

 本当僕に乗せられて右往左往して、可哀想な奴らだな。


「ここは少し居心地が悪いな、移動しよう。カイネ、一緒に来てくれないか?」

「えっ、……うん、良いよ」


 カイネの返事を()()()()、僕は隊長に一言断って修練場を後にした。


◇◇◇


「なんで分かったの⁉︎」


 修練場の少し先にある休憩スペースの様な所に着いた瞬間、カイネは若干食い気味にそう尋ねてきた。


「君が剣の腕の事で虐められてたって事かい? それなら簡単だよ」


 そう言って僕は推理を口にした。


◇◇◇


「先ず君は隊長に僕と組むよう言われる前から()()だった。上から見てた限り皆が二人組を即座に作っていたので、ある程度誰と組むかは決まっているのではないかと推測した。すると一つ疑問点が出てくる」

「疑問点って?」

「何故隊長を除いて()()()()なのに君が余っているのか? という事だよ。そこで、どうやら君は避けられているらしいという仮説を立てた。そして僕の剣を()()に褒めたところから君は自分の剣に自信がないのではないかと思い、周りの騎士の他人からの評価に()()する様な剣裁きを見て確信した。君は剣の腕の件で他の騎士達(クズ共)から嫌がらせ、具体的にはシカトか何かを受けているのだと」

「……よく分かったね。確かにボクは剣の事で皆んなに無視されてる……でも!」

「分かってるよ、それだけじゃ無いんだろ? 君は何か訳があって騎士になった。でもこのままじゃ騎士になれない。それで進退極まって何か条件付きでここに居る……とか」

「……どうしてそこまで分かるの?」

「僕らが昨晩あの修練場の前で初めて会った時、君は街でも騎士団本部でもなく『(14)の塔』から歩いて来た。そこで何かしてたんじゃ無いか? そうじゃないとあんな遅い時間にあそこに居た説明がつかない。更に隊長がその事に対して何も言わなかったのを見て、隊長も知っている事なんだろうと判断したんだが、間違ってた?」

「なんで『男の塔』から来たって分かるの⁉︎」


 その言葉はぼくの推理が正しいと認めるようなものだ。

 やっぱりそうだったのか。

 ――あの〝実験〟にカイネが関わっていたとは、正直信じたくないな


 それは兎も角推理の続きだ。


「あの細い道は『男の塔』から外に出る為の近道だろ? あそこから出て来たって事は少なくとも最後に『男の塔』を通ったって事になるからね」

「……よく知ってるね」

「まぁ数日かけて『アゼルシア大神殿』はあらかた調べ尽くしたからね」

「調べ……尽くした? どうやって? こんなに広いのに、一体なんの為に?」

「本当だよ。自分で道を行ったり戻ったりしながら地道に網羅していったんだよ。全ては僕ら(騎士)が本当に()()()事の為だよ」

「騎士が本当にすべき事? 何それ」


 正確には、騎士として調べてた訳じゃないけど、『ルカイユ(騎士)』も『ゲイル(神獣)』も最終的にやらなきゃならん事は同じ筈だ。


「そりゃあ勿論、僕らの本来の目的――『神に仕える事』だよ」

「『神に仕える事』?」

「そう『神に仕える事』。僕は神殿中の正確な地図を作っていざという時の脱出路を考えていた。本当にヤバい時はこの『アゼルシア大神殿』どころか『聖都アゼルシア』を捨ててでも神への信仰を守るべきだろ? それが僕ら『神聖アゼルシア教皇国修道騎士団』の()()の務めだ。決して自分と他者を比べて、自分より劣る相手を見下す事じゃない」


 正直この世に「正義」など有りはしないとずっと思ってきた。

 この世界に来てもその考えは変わらない。

 独りよがりな「正義」なんて要らないし、なんの価値もない。迷惑なだけだ。

 第一主観的な「正義」は、簡単に他者の「正義」と矛盾する。そんなものは「正義」足り得ない。

 とはいえ、僕個人としては「正義」なんて存在しないと思っていても、自分こそが「正義」だと言う人が居るのは知ってるし、彼らの考えを馬鹿にする気は僕にはない。

 でもこれだけは言える。


「『神に仕える』って事は即ち『「正しい」事をする』って事さ。「正しい」と言っても他人と比べて自分が優位だというだけで自分が「正しい」と思っている世界のゴミカス共の囀り(さえずり)など無視すればいいよ。彼らは「正しく」なんてないからね。聞くだけ無駄だ。強さを基準に「正しさ」を決めている彼らは君より剣の腕が上だろうとも、勇者様やその他の『英雄』には逆立ちしても勝てない。そんな奴らが言う「正しさ」なんて戯言は聞く必要はない。既に彼らの「正しさ」は矛盾してるだろ?」


 この世の真理は常に一つだ。


「この世に本当に〝正しい〟事があるとすればそれは『どれだけ自分だけで立てるか』それだけだ」

「『どれだけ自分だけで立てるか』?」

「そうだよ。他者と比べる事なく、誰に何と言われても自分を信じる事が全てだ。例え自分が間違っていようとも、進んだ道が所謂「悪」だったとしても、自分を信じて突き進む人は「正しい」と僕は思う。剣が苦手だなんて理由だけで自分を安売りしちゃダメだよ。それは自分を自分で貶める事だ。「正しく」ない。君を剣の腕でしか評価出来ない愚物の言葉なんて間に受けなくていい。騎士に重要なのは剣の腕じゃなくて自分を信じる気持ちの強さだって事を忘れた奴らに用なんて無い」

「ルカイユ……」


 いつの間にかカイネの目には涙が浮かんでいた。

 僕はそれに気付かなかったふりをして話を進める。


「君は強い。他の騎士達(世界のカス共)と同じように(新人)をいびったりしなかった。卑屈にはなってたかもしれないけど、君はちゃんと自分の「正しい」と思う事に従っていたじゃないか。そんな君は強いよ。自信を持て。なにも剣の腕や戦闘能力の高さだけが「正しい」訳じゃない。そうだとしたら奴ら(騎士達)は重大な見落としをしてる事になる」

「……重大な見落としって?」

「多分誰でも気付けて、でも誰も見て見ぬ振りをする事だよ」


「仮に強い奴が「正しい」とすれば、魔族は僕ら(人族)よりも「正しい」事になるだろ?」

「あははっ、確かにそうだね」


 そう言ってカイネは目に浮かんだ涙を拭って笑った。

 ――カイネが初めて心から笑った、そんな気がした。



「――まぁどう考えても人族より魔族の方が「正しい」けどね――」


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