26 いや僕「デカブツ」なんて言ってませんって!③
「なっ……」「※※※※ば……」「神よ!」
騎士達が次々にキングトロールを見て絶望した様な声を上げる。
まぁ当然の反応だよね。僕だってあんなの見たらびびっておしっこ漏らしちゃうよ。
……スライムもゾンビもおしっこしないけど。
どれだけびびってるかって、こんな面白くも無いジョークを言っちゃうくらいかな。ヤバい。
見えてる範囲で、少なくともHPは僕が今まで会った中で最も強かったデスナイトを超えてる。
因みに僕は速度以外の全てのステータスで大差で敗北。
一番の問題はそこだね。なんせ――
「ウロォーーーーン!!」
――多分勇者を除けばこの中で最もステータス高いな僕なんだよなぁー
それが大差で敗北したら、もはや勝ち目なんて微塵も無いのでは?
ボサっとしてる間に、トロールがこっちにかなり接近していた。
白い巨人は、革の腰巻きに巨大な剣を帯びて、頭には「キング」の名の通り冠の様な形に編まれた枝を載っけている。
十中八九、見た目通りかそれ以上の〝ふざけた〟野郎だろう(野郎かどうかは知らんけど)。
勿論、強さが〝ふざけてる〟くらいって意味だよ。他意は無い。
腰巻きに王冠だけの格好が、かの有名な王様に見えたとかそんな事は断じて無い。
「ア〜」の『裸〜』みたいだなぁ、なんて考えてない。
童話っぽい見た目なのにあのステータスとかギャップやん、とか1mmも思ってない。
本当だよ。ボクウソツカナイ。
「うわぁー! ※※※t――」
グシュ
最前列の一人がキングに踏み潰された。
ほんの少し前まで人間だった肉片が血と共に飛び散り、兜と鎧の残骸と思わしき金属片が、巨大な足の裏からはみ出している。
その事を意に介さず、キングはそのまま前進を再開させる。
その目の前には、一人の騎士が。何故か彼はキングが迫っているというのに、ピクリとも動かない。
恐らく文字通り“目の”前で同僚が踏み潰されたのだろう。あろう事かキングの目の前で失神したらしい。
気持ちは分からんでも無いが、今は不味い。このままじゃ確実に御陀仏だ。
「※※※るぞ! ※※けー」
「「「「「「「うおー!!」」」」」」」
流石に衝撃から立ち直ったらしい、それを見た他の騎士達が次々にこちらへ向けて走り出した。
凄いな。あんなものを見せられて戦意を喪失せずに立ち向かえるとは。
これぞ信仰心の成せる技だね。
「信仰心が最も恐ろしい」って感じの事をかの有名な織田信長も言ってた気がするけど(多分一向宗か本願寺と戦ってた時だ)、これを見るとまさしくその通りだね。
恐れを通り越して憎悪すら感じるよ。
正直に言うと“異様”だ。
全ての生物に共通する筈の「生存欲求」を上回る程の信仰があるだなんて、とても信じられるものでは無い。
ただし、今は僕がどう思ったかは関係無い。
同胞を救おうと駆け出した彼らの行動は“正しい”。
――が、多分間に合わない。遅過ぎる。
走るのも、動き出すのも――
――と言うのも、キングに匹敵するスピードを出せるのも、既に動き出していたのも僕と勇者だけだからだ。
勇者の話によれば、ここに居る騎士の平均ステータスは500前後。
速度が三倍近い、1452あるキングには当然追い付けない。
勿論、あの騎士達が雑魚いと言いたい訳じゃない。
この世界の人族軍人の平均ステータスは300未満だって言うから、彼らも十分に「精鋭」と呼んでいいレベルの強者だろう。
――でも僕やキングには勝てるかって言うと、可能性はゼロだ。
多分僕には普通に見えてるキングや勇者の動きも、今は碌に見えてないだろう。
〈疾風〉の効果なのか、それともスライムアイだからなのかは知らないけど、僕にはキングの能力値1452の動きも、勇者の能力値2000超えの動きもはっきりと見える。
どんなものでも「達人」と呼ばれるレベルまで鍛え上げれば、例え目が見えなくなろうが、耳が聞こえなくなろうが、感覚だけで動ける様になるらしいけど……
どう好意的に解釈しても、あの騎士達がその領域に達しているとは考えにくい。
そんな訳だから彼らが未だ動けてなかったのも、間に合いそうにないのも彼らの責任ではない。
――正直他人に構ってる余裕は僕もあんまり無いし
僕はさっきからキングの足下に罠を張りながら、様子を伺っている。
勇者が何をしてるのかはよく分かんないけど、取り敢えず彼も機を伺っていて、今直ぐに斬り掛かる気は無いらしい。
「……んん。……ん? なぁ⁉︎」
騎士がようやく気が付いたらしい。
最悪なタイミングで。
勿論、騎士の都合などガン無視でキングは足を上げて、騎士を踏み潰そうとする。
「うわぁー! ※※※※k――」
グシャ
嫌な音がした。
硬い物が圧力に負けて潰される音が辺りに響く。
今度は肉片も血も、破片さえも飛び散らなかった。
何故なら――
「……あ? ※※※だ⁉︎」
――騎士は踏み殺されてないからだ。
キングは確実に踏み潰した。
僕の粘手をね。
正確には〈硬化〉発動状態の〈粘体〉で出来るだけ広げつつ、騎士を守り切れる最低限の厚さを確保した、橋みたいに延ばした僕の粘手だけど、そんな事は些末な問題だ。
「逃ゲロ! 早ク!」
「あっ、※※」
良かった。取り敢えず騎士を救う事には成功したらしい。
ここで殺されてもらっては困るもんでね、悪いが邪魔させてもらったよ。
……と言うのは建前で、本当はキングの意識をこちらに向けたかった。
狙い通りにキングは進行方向をこちらに変更し、ズンズン近付いてくる。
さぁ来い! ここからが本番だ!