25 いや僕「デカブツ」なんて言ってませんって!②
「じゃあ、始め※※か」
「「「「「「「はっ」」」」」」」
勇者の言葉と共に騎士達が謎の杭を抜いていく。
その途端、辺りに何かが腐った様な匂いが広がった。
――まぁ正しく〝腐った〟魔物の肉の匂いなのだから、間違いでも気の所為でも無いのだけれど
どうやらあの杭には消臭効果の様なものがあるらしい。
……僕としては永遠に刺しといて欲しかったけど。……臭い。
[じゃあ、ゲイルも配置について]
[……うい]
僕らは今から、突撃して来るゴブリンの大群と戦う……らしい。
何故そんな事を? と僕は思うけど、勇者が「やれ」と言うので仕方なくやる。
僕の仕事は森から出て来た敵を〈猫騙し〉で足止めして、その後に攻撃を仕掛ける事。
一応は僕のスキルレベル上げにもなる……けど、わざわざ罠まで仕掛けてゴブリンと戦う必要はないと思う。
――それもこれも全て『神能教』なる邪教の所為だ。
誰だよあの変な平和の築き方考案したの。
いや、理解出来ない訳じゃ無いよ。確かに仰る通りではある。
でもさ、普通それやる? 思い付く事はあっても普通はやらなく無い?
――そこでやっちゃうのが『神能教』が『神能教』たる所以なんだろうな……
何故宗教っちゅうもんは、ああも闇の部分を抱えてんのかね? 「清く正しく」は一体何処いったんですかね?
……やっぱり宗教なんてマトモなもんじゃねぇな(偏見)。
「来た※!!」
見ると、森から敵の第一波が押し寄せて来ている。
……なんかあれ見てるとスカベンジャー軍との戦争を思い出すな。
あの戦いでは、僕の味方があんな風に突撃してたなぁ。
――でも目の前の奴らの方が〝軍〟っぽいな。
今回の敵さんは今までと随分違っている点がある。
一つ目はその数だ。
今までもかなり多かったけど、今回は輪をかけて多い。
百や二百は降らないだろう。
かつて出会った中で最大の数を誇る魔物の集団は、ゾンビ軍、次いでスカベンジャー軍だけど、奴らは例外とするなら過去最大規模と言っていい。
あれは別格だ。
――未だに何故起こったのか分かってない謎の戦争だったけど……
その過去最大規模の大軍が森の向こうから我先にと突っ込んで来る。
二つ目はその軍備だ。
今まで僕が遭遇したノーマルな棍棒&腰巻きのゴブリンに加えて、槍や剣、盾、斧、弓などで武装した進化形と思わしきゴブリンや、革と思われる鎧を纏ったゴブリンまでいる。
どう見たって、今までの敵とは段違いの装備だ。
これなら「魔物」ではなく「亜人」と言われて納得出来るな。
もう少し背を伸ばして、肌の色が緑色でさえなければ、人間の軍勢と言われても納得出来そうだ。
……いや出来ないな。せいぜい「盗賊団」、行っても「傭兵団」止まりだ。ガラが悪すぎる。
[予想より多いけど、作戦通りに行くから。よろしくね]
[あいよ]
僕には拒否権は無さそうだし、自分の役目は果たしますかね。
〈猫騙し〉!
「キシャー!」
最前線の一体の足が止まった。
即座に胸を一突きで仕留める。
「このまま全部※※※よう!」
「「「「「「「はっ」」」」」」」
[……うい]
◇◇◇
〈猫騙し〉〈猫騙し〉〈猫騙し〉〈猫騙し〉〈猫騙し〉〈猫騙し〉〈猫騙し〉〈猫騙し〉〈猫騙し〉――
〈刺突付与〉〈斬撃付与〉〈打撃付与〉〈刺突付与〉〈衝撃付与〉〈破壊付与〉〈刺突付与〉〈斬撃付与〉――
「シャアー!」「シー!」「クシャー!」「シャシャー!」「キャガー!」「シャー!」「カシュー!」「シシャー!」「シャーシュ!」――
『スキルレベルアップ条件を達成しました。スキル〈猫騙し〉LV1→LV2にレベルアップしました』
『スキルレベルアップ条件を達成しました。スキル〈打撃付与〉LV1→LV2にレベルアップしました』
『スキルレベルアップ条件を達成しました。スキル〈衝撃付与〉LV1→LV2にレベルアップしました』
『スキルレベルアップ条件を達成しました。スキル〈刺突付与〉LV3→LV4にレベルアップしました』
『スキルレベルアップ条件を達成しました。スキル〈猫騙し〉LV2→LV3にレベルアップしました』――
気付けば、第一波は全滅していた。
僕の前には、死体の山が築かれている。
今まで相手にしてきた敵とは、やはり連携の点でかなり厄介な敵だったな。
ノーマルゴブリンも四方八方から殴ってきて厄介極まりなかったけど、こいつらの練度の高さは正直、正に「軍隊」って感じだな。
指揮官と思わしき鎧を纏ったゴブリンを重点的に狙ってたんだけど、周りの奴らが邪魔ばかりしてなかなか討ち取れなかった。
槍衾が僕の動きを止め、その隙に剣や斧の部隊が何度も斬り付けてくる。
何が怖いって、別に“仕留め”に来てる訳じゃない、って事だよね。
「一撃で確実に仕留める」のではなく、「何度も間断無く斬り付けて、ダメージを蓄積させる」事を狙った攻撃。
「一撃で確実に仕留める為」にはタイミングを合わせて攻撃する必要があるから、こちらがタイミングを図る事さえ出来れば、避けるのも反撃するのも難しくない。
でも「何度も間断無く斬り付けて、ダメージを蓄積させる」方向に持ってこられると、かなりヤバい。
先ず、完全に足が止まる。
確かに槍衾を抜け出す事は出来ない事はない。
でもかなり難しい。
一面を完全に覆われると、どうしても避ける先は限定されてくる。
つまり待ち伏せも容易くなる、って事だ。
だから迂闊には動けない。必然足が止まる。
次に、得意の戦法も封じられる。
僕が最も得意とするのは、「相手を一体ずつに分けて、圧倒的速度差で仕留める」というシンプルな戦法。
足が止まったところに、覆うように上から斬り付けられると、〈粘手〉が完璧に封じられる。
確かに一撃目である程度の敵は弾き飛ばせる。
――でも敵には第二陣が控えてるから、直ぐに補充される。
一度振った粘手を戻すには多少の時間がかかる。
付け加えるなら、敵が身体にびっしりと貼り付いている状態で下手に粘手を戻すのはかなり危険だと本能が告げていた。
酸をばら撒いても、身体にピッタリくっ付かれると全員を一度で満遍なく殺すのは難しい。
しかし、一番の問題はやはり僕が〈猫騙し〉を使いこなせていない事だろう。
一度に、目の前の一体しか動きを止められないので、敵が大量にいるとどうしても全員は止められない。
その上、身体に貼り付いている奴らは対象に指定し辛く、一体に貼り付かれたら最後、次が続々と貼り付いてきて、どんどん身動きが取れなくなり、更に貼り付かれる。その繰り返し。
結局は〈粘体〉に〈刺突付与〉を発動して一体ずつ引き剥がしつつ、周りの敵を〈斬撃付与〉〈打撃付与〉〈衝撃付与〉で僕から遠ざけて、〈破壊付与〉でしつこい奴は粉々にして、なんとか全滅させた。って感じだった。
……殺ってる時は無我夢中だったからいつの間に終わったのかは覚えてないけど。
そう言えばレベルアップしてた気がするようなしないような……まぁ後で確認すれば良いか。
……それよりも、妙に静かな気がする。
そう言えば第一波を殲滅した後、一度も他者を見てない気が……
なんかデジャヴ。
まさかまた何か始まるんじゃ無いだろうな……
「――」「――」
良かった、少し離れた所に騎士がちゃんと居た。
二人の騎士がこちらへ向けて歩いてくる。
……あれおかしいな。もう少し居たような……いや気の所為だ。きっとそうに違いない。
初めから二人しか居なかったor僕から見えてないだけで今から他の奴らも来るのどっちかだな。
うんきっとそうに違いない。絶対そうだ。それしか無い。……無いよね? 無いって言ってよ!
無いよね? ね? 本当のこと言お? 怒らないからさ。
ほら言ってよ「それしか無い」ってさ。
――また面倒事はごめん被る
「※※あれ※※※!」「※※※あれは⁉︎」「※※※※ことだ⁉︎」「※※だ⁉︎」
ほら良かったちゃんと他にも居た。
勇者も居るみたいだし、面倒事は無さそうだ。
……ところで、ちょっと、ほんのちょっとね。本当にちょっと気になっただけなんだけどさ。
――なにゆえ皆さんはそんなに驚いていると言うか、何かを恐れている様なお顔をしていらっしゃるのかしら?
勇者もいつもの笑顔が若干引き攣ってる様な気がするのは気の所為ですよね? よね? ね?
「※※※※※※んだ⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎」
そこへ、勇者達とは逆方向からブイが騎士を引き連れてやって来た。
こういう時は、ブイの大声がなんか安心するな。いつも通りと言うか、何故か落ち着く。
こいつらと一緒に居る事が僕の「日常」になってきた証だね。
これは喜ぶべきところなのだろうか?――
――はい分かってますよ。御免なさい現実逃避してました。
明らかに勇者側に居る騎士達僕の背後を気にしてるもんね。
怖いけど振り向くとしよう。
うんしょっt……
「――※※でだ⁉︎ ※※でこいつが※※んだ⁉︎」
ブイが、驚き過ぎたのかいつもの大声ではなく小声でそう呟いた。
正直僕も同じ気持ちだ。
まさか昨晩の嫌な予感がこんな風に当たるなんて……
僕らの目の前には一体の――
「ギャオーーーーーーン!!!!!」
――が居た。
聳え立つ様なその巨体。
ブイは決して小柄ではないけど、やはりそいつに比べると小さく感じてしまう。
10mはあるだろうか。
――そいつが今、僕らへ向けて歩き出した。
【キングトロールLV29
攻撃能力値:7532
防御能力値:8099
速度能力値:1452
魔法攻撃能力値:1045
魔法防御能力値:5886
抵抗能力値:6801
HP:8569/8603 MP:2870/2870】