24 いや僕「デカブツ」なんて言ってませんって!①
『スキルレベルアップ条件を達成しました。スキル〈吸収〉LV9→LV10にレベルアップしました』
『スキル〈吸収LV10〉がスキル〈吸引LV1〉に進化しました』
『スキル〈吸収LV10〉から〈吸着LV1〉〈擬態LV1〉が派生しました』
遂に〈吸収〉がカンストした。
しかも進化&派生。かなりお得だ。
新たに手に入ったのは〈吸引〉と〈吸着〉、〈擬態〉か。
一度に三つは、転生直後以来じゃ無いか? かなりお得なスキルだったみたいだな〈吸収〉って。
〈吸引〉はその名の通り「吸引」してくれるとして、〈吸着〉も「吸着」してくれるのかな?
正直、「吸着」って言われてもいまいちピンとこない。
壁とかにペッタリ貼り付くやつだと思うんだけど、ぶっちゃけ今も僕それ出来る。
人間の軍隊と遭遇した時とか思っきし天井に貼り付いてたし、〈粘手〉――今は〈粘体〉か――で十分事足りる。
戦闘中に粘手が一本空くのは良い事だけど、今のところそこくらいしか使い道無い。
ついでに言うと、この森で多分〈吸着〉の出番は無い。
だって貼り付く所無いもん。
木に粘手巻き付けて移動くらいはするけど、殆ど地面に足(底面?)つけて戦ってるし、ぶっちゃけ今現在の〈吸着〉の使い道はゼロやも知れん。
……まぁそういう事もあるさ。
なんて言うか、その……ドンマイ。
――誰にともなく慰めてしまった。
最後の一つもやはりその名の通りのスキルだろうな。
今の僕には擬態するものが無いから特に使い道は無い。
でも後でかなり使うと思うね。主に人前に出る時とか。
流石にずっとスライムボディは『神獣』としてあまりにも威厳が無い。
――その時になったら、使い潰してやろう。
考え事はここで終わり! 戦闘は一段落しているけど、次の敵が出る前に出来るだけ前に進まないと。
因みに今僕は一人(一スライム)で森の中を進んでいる。
勿論別に勇者やブイとはぐれた訳じゃ無い。
「今日は最短で奥まで到達する事を目標にして頑張ろう」との勇者のお言葉、もとい命令を受けて、僕は今全速力で森を駆け抜けている。
速度8000超えの僕でもこの森を素早く抜けるのは困難を極める。
なんせ敵も障害物もわんさか出るし、有るのだから。
無視すると、十回に九回どころか百回に九十九回、下手すりゃ千回に万回くらいの確率で行手を遮ってくる。
――つまりクソ邪魔ってこと
全速力で駆けようにも身体に敵がしがみ付いたり、枝がぶっ刺さったりしてるとあちこちに引っ掛かる。
こちとら高速移動してるもんだから、ちょっと引っ掛かっただけでダメージが入る。
――それも結構たくさん
だから敵が出たら皆殺しにしなきゃいけないし、奴らは死体に群がるから、その死体も全部回収しなきゃならん。
木や岩もなるべく避けて通らないと、後々面倒だ。
「吸収すりゃ良いじゃんか」と思うかもしれないが、それは無理な相談だ。
高速移動しながら〈吸収〉――今は〈吸引〉か――を発動すると、恐ろしい激痛がはしるんだよね。
多分、吸い込んだ時にどっかに刺さるんだと思うんだけど、枝なんかは吸い込んで数コンマで動けなくなるくらいの痛みが襲ってくる。
……しかも未だこれでもマシな方だ。
しがみ付いてきたゴブリンをそのまま吸い込むと、体内で暴れるんだよ。
一回腹を切り裂いて出てきやがった。
しかも刃物で切断したんじゃなくて、爪で引き裂いて無理矢理出てきたから痛いのなんのって、言い表せないくらいだったよ。
――イラついて腹から出てきた野郎を突いて突いて突きまくって、滅多刺しにしたのは秘密だ
そんな訳で、一々障害の対処しながら、かなり入り組んでいる森を抜けて漸く開けた場所に出た。
ここが勇者の言う「奥」で合ってるのかな?
[おっ、ようやく来たね。待ってたよ]
見ると勇者が笑いながら手を振ってこっちへ歩いてくる。
背後にはブイと……兵士? 教皇庁に居た兵士と同じ格好の兵士、と言うより騎士が三十人くらい立っている。
なになに何事⁉︎ なんでこんな物々しい集団が居るのさ⁉︎
第一なんで僕があんな酷い目に遭いながらなんとか辿り着いたここにさ、勇者とブイはともかくあの重装備の騎士が先に到着してるんだよ⁉︎
物理法則無視してるよね? どうやんだよ⁉︎
……普通に考えればスキルっすよね。はい知ってます。
僕の知らない何らかのスキルで先回りしたんだろう。僕の知らない。
大事な事だからもう一回言うね。
ぼ・く・の、知らない何らかのスキルで。
……いや別に良いんですよ。スキルレベルも上がったし、経験値も貯まったから。
でもやっぱり嫌じゃん? 自分が頑張ってやった事をさ、「実はもっと簡単に出来ましたぁ〜」って後で言われるの。
本当殴りたくなるじゃん?
今の僕ちょうどそんな感じなんよ。ぶっちゃけ、
――勇者を殴ってやろうと思っている
[ん? どうして彼らがここに居るのか気になるかい?]
そんな僕にとんと気付かずに勇者は無防備に近付いて来る。
しめしめ、一発お見舞いしてやる。
僕の握りしめた拳(粘拳?)は――
[あれを見れば分かってくれるかな?]
――勇者が指差した景色を見て、即座に解かれた。
なっ何だアレは……
――そこには、地獄が広がっていた。
何十何百なんて生易しいものじゃない、何千というモンスターやゴブリンの死体が杭で地面に縫い付けられていた。
本当に何なんだアレは? 誰があんな事を?
……いや愚問だったな。そんなものは決まってるじゃないか。
――間違い無く勇者達だろう
何故そんな事をしたのかは分からないけど、彼らがやったって事は確定だ。
あの状態を僕に見せてなお、何もしようとしてないのがその良い証拠。
[お前ら何する気だ? 悪魔でも召喚するのか?]
[ははは、面白い冗談だね。僕は勇者でこの人達は教皇国の騎士、つまり敬虔な神能教信徒だよ? 悪魔なんて召喚する訳無いじゃないか]
[じゃあアレは一体何なんだ?]
[ん? アレかい? アレはねぇ――]
はぁ? 何言ってんだこいつ、馬鹿じゃねぇの?
そんな理由でこんだけ大量の死体を縫い付けたってのか?
「信徒」って言うか「狂信者」って感じだな。正直狂ってると思う。
それを実行しようとしてる勇者も頭沸いてるわ。
――もしかして僕、ヤバい奴らに捕まっちゃった?