23 キャンプはタノシイナ④
【ゾンビソルジャー(スライム)LV9
攻撃能力値:1195
防御能力値:1193
速度能力値:8501
魔法攻撃能力値:129
魔法防御能力値:125
抵抗能力値:136
HP:258/258 MP260/260】
「おお※※※※な!!!!!!」
[「おお育ったな」だって。一日で本当によくここまで成長したね。すごいと思うよ]
あの後、ブイと共に――もといブイに連れ回されて――連戦した僕は、一日でレベルを3も上げてしまった。
それに伴ってステータスも上昇、いや“大幅に”上昇した。
特に攻撃と防御はいきなり四桁代に到達している。
その鍵を握ってるのは《亜人殺し》と〈剛腕〉〈堅固〉の三つだ。
《亜人殺し》はその名の通り、亜人を一定数殺すと手に入る称号っぽい。
この世界ではゴブリンは亜人に分類されるらしい。モンスターのイメージがあったんだけど、ここでも僕とは解釈が違うみたい。
それはどうでも良いとして、〈剛腕〉と〈堅固〉はそれに伴って手に入れたスキルだ。
称号にはスキルが付随するらしい。
思い返せば、《卑怯者》の時も〈猫騙し〉と〈偽証〉手に入れてたな。完全に忘れてたわ。
なんなら〈猫騙し〉一回も使って無いまである。
……今度使おーっと
それはそれとして、この〈剛腕〉と〈堅固〉は〈疾風〉と同じ系列のスキルらしい。
〈疾風〉で速度が爆上がりして、名前的に〈剛腕〉で攻撃、〈堅固〉で防御かな? 一つのスキルで一つのステータスを上げてくれるみたい。
夢の様なスキルだな。かなり戦って碌に上げられたいなかったステータスがほんの一日で四倍以上になるとは。
……他のステータスを上げるスキルも早く欲しいなぁ〜。
この感じだと有るっぽいよね。「攻撃」「防御」「速度」と来たら他のステータスを上げるスキルも絶対有るよ! 多分。
「※※※貴様※は※※※が※※※※だな!!!!!!」
[「やはり貴様には素質がある様だな」だって。ベタ褒めだねぇ。僕もそう思うけど]
さっきから妙に勇者はテンションが高い。
いつも何考えてんのか分かんない笑みを浮かべてるけど、今日はいつもより楽しそうだ。
まさか酔ってんのかこいつ? 酒らしき物を飲んだ様子は無かったけど……
仮に酔ってんだとしたら、こいつは所謂「絡み酒」タイプか。
……面倒なタイプだ。絡み酒には良い思い出が無い。
と言うか「酒」に良い思い出は無い。
「酒」と聞けば、常に不機嫌だった男と、その男にやられた事を僕にぶつけていた女の姿が思い出される。
にも関わらず、僕は奴らの顔も声も覚えていない……
後はあの塵糞粕共に無理矢理飲まされた記憶しか無ぇな。
ガハハハハ……って笑い事じゃねぇ!
マジであの時は酷い目に遭ったわ! ボケが!
何にせよ勇者の様子がいつもと違う事だけは確かだ。
何かあったんだろうか? そう言えばこいつ昼間居なかったな。あの時にどこかに行ってたみたいだけど、そこでなんかあったんかね?
まぁ僕にどうこう出来る筈も無いし、中途半端に手を出したら余計酷い事になると思う。
……ここはほっておいた方が良いな。お互いの為にも。
まぁこの世には「知らぬが仏」って言葉もあるし、今はほっとこう。
……暇だし、スキルの確認でもしよっかな。
今日手に入れた〈粘体〉のスキル。
〈粘手〉から進化したし、名前的にも〈粘手〉の上位互換で間違いないだろう。
何にせよ、先ずは試してみない事には何も言えん。一回使ってみよう。
んー、んっ。ん? こうかな? ん、これでどうだ!
身体を伸ばそうと試行錯誤してたら、身体が心なしか大きくなった気がする。
次は腕を増やしてみるか。
今までの〈粘手〉はLV×1本ずつしか出てこなかったけど、〈粘体〉はちょっと気張っただけで何十本も出てきた。
流石にちゃんと動かせるのは一度につき十本だけみたいだけど、簡単な動きなら全部にさせれるらしい。
結構使えそうだな。流石は進化形、能力が大幅に上昇しとる。
何よりLV1でこれって事だよね。夢がある。
早く他のスキルもカンストしないかなぁ〜。
僕の記憶が正しければ、次にカンストしそうなのは〈吸収〉〈酸〉〈貯蓄〉〈自己再生〉あたりかな?
特に〈吸収〉は今日だけでかなり吸い込んだし、今現在はLV9。
一番の有望株と言えるだろう。
明日か明後日くらいにはカンストするかな?まぁ気長に待つとしよう。
……それはそれとしてなんか静か過ぎやしないか?
いつの間にか二人とも寝ちゃったみたいだから彼らの音が聞こえないのはいいとして、森からも一切音がしない。
動物の鳴き声や地面を踏む音、風で木の葉が揺れる音すらしない。
何も無きゃいいけど、嫌な予感がするな――
「――※※でた⁉︎ ※※でこいつが※※んだ⁉︎」
ブイが、驚き過ぎたのかいつもの大声ではなく小声でそう呟いた。
正直僕も同じ気持ちだ。
まさか昨晩の嫌な予感がこんな風に当たるなんて……
僕らの目の前には一体の――
「ギャオーーーーーーン!!!!!」
――が居た。
聳え立つ様なその巨体。
ブイは決して小柄ではないけど、やはりそいつに比べると小さく感じてしまう。
10mはあるだろうか。
――そいつが今、僕らへ向けて歩き出した。
◆◆◆
「――くしゅん!」
「「「⁉︎」」」
「……」
急にくしゃみをした主人に、部屋に居た四人は一斉に主人の方を仰ぎ見た。
「どうなさいました、主よ。お風邪でもお召しになられましたか?」
「いや、なんでもない。気にするな」
代表して主人に問いかけたのは、主人に最も近い位置に陣取っていた青髪の老人だった。
その老人を一言で言うなら「磨き抜かれた玉」である。
顔には皺が刻まれているものの、身体の端々から漂う歴戦の猛者の風格故か、どこにも老いを感じさせ無い力強さが彼にはあった。
「宜しければ、お話を元に戻して頂いても?」
二人目は赤髪の青年。
長い髪と整った顔立ちから、女と間違えられそうだが立派な男である。
先程の老人程では無いものの、彼もまた強者の風格を持っていた。
「その通りだ! 一体我等はいつになったら出陣なの説明してくれ! 主殿よ!」
次の白髪の大男は、大声で主人にそう尋ねた。
顔には無数の傷があり、着ている白い服も歴戦の生々しい跡が残っている。
彼も幾多の戦場を潜り抜けてきた猛者であると思われた。
「……私も同意いたします、主君。……出来得るならば、私も早く戦いたく思います」
最後は黒髪の大男。
彼を一言で表すならばやはり「大岩」だろうか。
目を閉じて腕を組んだその姿からは、頼もしさしか感じない。
「ああ、分かっている。が、もう少し待ってくれ。“イヌ”に加えて、〝セキガン〟も失態を犯したらしくてな。準備が未だ整っていない」
「……また第二軍ですか」
「ええ、本当に無能で困ってしまいますな」
「全員纏めてこの我が引き裂いてやろうか!」
「物騒な事を仰らないでください。第一、貴方が手を下せば主様にご迷惑をおかけする事になります。やるならば、我等の犯行と分からない様に手を下すべきです」
「お前さんの方がよっぽど物騒じゃのう」
主人の言葉に、四人はそれぞれ思い思いに発言を繰り返す。
全員に共通しているのは、主人への敬意と第二軍への苛立ち及び侮蔑。
彼らにとって、主人より与えられた任務で失敗るなどあってはならない失態に他ならない。
――彼らにとってはこの考えこそが“普通”なのだ。
「だから、君達にはもう少し待ってもらいたい。だが約束しよう。必ず――」
主人の言葉に四人全員が真剣な表情で耳を傾ける。
その姿は、まるで主人の言葉を一言一句違わず暗記しようとしているかの様だった。
――実際そうなのであるが……
「――私は必ず悲願を達成する」
「おお! 遂にですな!」
「楽しみです」
「遂にだな! 遂にきたんだな!」
「……悲願の成就は我等一同の願い」
一度部下の顔を見回した後、主人は言葉を続けた。
「私は必ずこの世界から『神』『勇者』そして――」
そこで一度、主人は言葉を切って息を吸う。
そして、力強く宣言した。
「――『魔王』という存在を抹殺する!」
「「「「おおおおお!!!!!!」」」」
魔王軍第七軍長の口から放たれたその言葉に、異を唱える者は少なくともその部屋には居なかった――