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不死者に平和を  作者: 姫神夜神
2 外へ
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幕間 援軍到着

 横穴を何とか塞ぎ、最低限の見張りを残して地上へ戻った冒険者達は、シスベルから既に、王都エレンファソへ知らせたと報告を受けた。

 直ちに近隣の冒険者や貴族の私兵を掻き集め、『聖域』の入り口の有る街として栄えるルルーシュの中央教会に本陣が置かれた。

 通常王都エレンファソからルルーシュまでは馬で約一ヶ月かかるが、今回は緊急事態として各中央教会にある魔法具『転移陣』を使用し、発見の次の日には王命により王国第三軍が到着した。


「王国第三軍の指揮官を務めます、ユリアス・バン・ディファットと申します。シスベル・レム・クロムウェル様でいらっしゃいますね」

「はい、ディファット将軍も第三軍の方々も御苦労でした」


 出迎えたシスベルの笑顔に、ディファットは思わず緩みそうになった頬を気力で引き締め直す。


(噂以上の美貌だな。『白銀』も頷ける)

「冒険者の方々と此処ルルーシュの監督官であるダマス卿は司教様のお部屋に居られます」

「はっ、了解致しました。部下に指示を出した後、直ぐに伺います」

「はい、分かりました」


 そう言うと、シスベルは教会へ入っていった。

 流石に教会内に一万の第三軍を入れるわけにもいかず、転移点は急遽教会の前の広場に設置されていたのだ。


「全騎士隊は直ちに出撃出来る準備を整えろ。第一騎士隊から順に砦へ進み、状況によっては見張りの任務を交代せよ」

「「「「「「「はっ!」」」」」」」

「歩兵は砦前に陣を張れ。砦の増強も急がせよ」

「「「「「「はっ!」」」」」」

「幕僚団は私に続け。本陣での作戦会議に参加する」


 そう言ってディファットは教会へ足を踏み入れた。



「――では、将軍も到着された事ですし、作戦会議を始めましょうか。シンガさん、お願いしますね」

「はい、畏まりました」


 シスベルに指名されて、前に貼られた地図の前に若い男が出て来る。

 歳はディファットの嫡男より少し上、十八、九だと思われる。

 シンガと呼ばれた男は円卓を囲む者達を見渡して、口を開いた。


「私はBランクパーティ『耄碌爺』の参謀を務めております、Bランク冒険者のシンガと申します。今回、お嬢様に地龍討伐の為に改めて雇って頂きました」


 物腰は柔らかく、早口にも関わらず聞き取りやすい奇妙な声をした若者だった。


「さて、本題です。敵である地龍は、我々が最後に確認した際のレベル、ステータスはお手元の資料の通りですが、戦ってみた感触として相当に弱っている様に見受けられました」


 生還した冒険者が持ち帰った情報によると地龍のレベルは17、王国の騎士の中では比較的上位に位置する者や近衛騎士程度のレベルとなる。

 ……と言ってもLV17でステータスが四桁に到達する騎士など王国どころか人界中探しても見つかりはしないだろうから、比べるのも烏滸がましいが。


「我々は『低能の幽霊』か、それと似た能力を持つ魔物が近くにいると予想しています」

「「「なっ何だと!!!」」」


 ディファットを含め、貴族達が驚き慌ているのと対照的に、新たに集められたという冒険者の代表は冷静だった。


「……つまりあれか。ステータスが正常に機能していなかったと?」

「はい、平均ステータス四桁の龍種の推定脅威度はオーバーSランクの災害〜天災級ですが、奴の推定脅威度は体感的にはAA〜AAAといった感じでした。Sは有りません」

「……そうか……。ありがとう、続けてくれ」

「はい。皆さんもご存知と思いますが、『低能の幽霊』はかの有名な『聖域の千人喰い事件』を引き起こした魔物です。脅威度は最高の神話級、伝説の『龍王』『古の盾』『万裂きの大虎』『業火の不死鳥』と並び立つ最強の魔物で、恐らく大陸中のSランク冒険者を集めて互角と言ったところでしょうか」

「そんなにか!」


 シンガの発言に再び貴族側は騒然となる。

 そこへディファットの副官の一人が疑問を投げ掛けた。


「だが、奴はカミラ会戦で死んだのでは無いのか?」

「そうなっておりますが、神話級の魔物があの程度で死ぬとは考え辛く……」

「きっ貴様ぁ! 我が王国も第二、第五軍を失ったあの戦を「あの程度」だと!」


 王国軍への侮辱とも取れるシンガの発言に咄嗟に噛み付いた副官を、ディファットは慌てて止めた。


「落ち着かれよ! ……話を続けてくれ」

「はっ、……申し訳御座いません」


 そう言いながら今吠えた副官を睨むシンガの姿を見てディファットは深く理解した。

 この国には身分差という大きな壁が有る――という事を。

 なにかと言えば「誇りだ」「名誉だ」と口を挟み、水を差す。

 冒険者を厚く遇する国の方針により、ラルファス王国には冒険者が多い。

 それでも貴族の中には平民出身の冒険者への蔑視が残っている。

 騎士爵を冒険者に与える事に抵抗する貴族もいる程だ。


(下らん。誇りでは命は買えんのに)


 ディファット自身はかつて平民出身の冒険者に救われた経験から冒険者への蔑視は捨てたつもりだ。

 今回、国王が第三軍にこの任務を命じたのは冒険者と最も上手くやれそうだと判断したからでもあった。

 とは言え、一万いる部下全員がディファットと同じ考えという訳ではない。


「――という訳で、我等冒険者ギルドでは対神話戦の準備を進めておりますが、Sランクパーティを集結させるのには時間がかかります。その間に『聖域』外に出られては我等だけで対処出来るかは、危ういところです。そこで貴方様方お貴族様にご足労願った訳です」


 言葉の端々に貴族への皮肉が籠っているのは目を瞑るとしても、このシンガという青年の話は纏まっており、とても理解し易い。

 ――『白銀』が作戦会議に呼んだだけの事はある。

 そう納得したディファットは軍側の責任者として口を開いた。


「次に我が――」


◇◇◇


 その後も時にはシスベルの取りなしを挟みつつも、シンガ達冒険者とディファット率いる第三軍を中心とする貴族軍との擦り合わせはある程度は済んだ。

 平民である冒険者が参加しているからか、面倒な言い回しが延々と続く軍議とは比べ物にならない程の短時間で、軍議の二倍以上の内容が決定してそろそろ会議が終わる、というところに一つの知らせがもたらされた。

 ――第三王子カインが帰還した

という知らせである。







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