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不死者に平和を  作者: 姫神夜神
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幕間 ある老剣士と若盗賊

 第三王子捜索の為に『聖域』へと入った冒険者の中に一風変わった二人組がいた。

 親子どころか下手すれば祖父と孫程歳の離れた二人は、皆より少し離れた所に二人でしゃがみ込んでいた。


「のう、ボウズよ。これ本当にワシがやらなきゃいけん仕事かね?」

「そうですよ師匠。師匠はAランク冒険者として今回の任務に来たのですから、これは師匠がやらなくてはならない仕事です」

「本当にそうかのー」

「本当にそうです」


 ブツブツと文句を言っているのは背中の中程まである長い髪を束ねた白髪の老人。

 ダブッとした服で分かり辛いが、老人とは思えない若々しく引き締まった身体をしている。

 そして背に背負っているのは「カタナ」と呼ばれる特殊な剣の中でも特に「マヤトウ」と呼ばれる物。

 ラルファス王国やその周辺諸国があるフラルガン大陸の東側の海にあるマヤ皇国で生産されているかなり希少な武器である。

 マヤ皇国の宗主国であるレン天帝国とはこの辺りの国々は仲があまり良く無い事もあって、レン天帝国やマヤ皇国、トネリ王国などの物品を手に入れるのは容易なことでは無い。

 そんな貴重品を持っている事からも、この老人が只者で無い事がよく分かる。

 もう一方の少年は、腰に短剣と言う程では無いがあまり長く無い二本の剣を差し、背中には矢筒を背負っている。

 その格好から想像するに「盗賊」といったところか。

 その後暫く、二人は黙々と作業を進めていた。


「……のうボウズよ」

「……何です、師匠」

「……気付いておるか」

「……はい。師匠もですか。やはり僕のこと気の所為では無かったのですね」

「……うむ。……他の者は気付いておらぬのか」

「……如何やらその様です。……気付いて尚この雰囲気を保てる程の強者は居なかったと思われます」

「……やはりの。……仕方あるまい、ワシらだけで片付けるぞ」

「……はい」


 老人の合図で立ち上がった二人は、今回の指揮をとっているクロムウェル公爵家の騎士に近付いた。


「のう騎士殿よ。ちょっと良いかの」

「おお、これはルクセン翁。如何なされました」

「うむ、それはの――」

 老人――ルクセンが騎士と話している間に少年は自分の弓に弦を張る。

 自分には師程剣の才が無い事は分かっていた。

 だから他の武器の腕も磨いた。

 器用貧乏でも構わない。

 師匠と――恩人と並んで戦えさえすれば。


「――師匠、来ます」

「うむ」

「えっ――」


 驚く騎士を無視して、ルクセンはいつの間にか抜いていた刀で騎士の図上を薙ぐ。


「ウキャン」


 突然何も居なかった筈の空中から猿が現れた。

 首から血を噴き出しながら地面に落ちていく猿の額を撃ち抜いた少年は、矢を次々と何も居ない空中へ放つ。


「なっ!」


 矢が通る度に空中から現れる猿――オッポタットという魔物に、騎士達は戸惑うばかりだった。

 が、冒険者は違う。


「うりゃー!」


 即座にパーティ毎にオッポタットに襲い掛かり、着実に数を削っていく。


「おい、ゴリゾウとワリモとムスラのクソガキ共! ワシはシンガと群れのボスを潰しに行く。おぬしらはここで猿共の相手をしておれ!」

「皆さん、お願いします」


 そう言ってルクセンと少年――シンガはオッポタットの群れが来た方向へと駆け出した――


◇◇◇


「はっ! 〈空斬〉!」


 二人が行った後、残された冒険者は襲って来たあらかたのオッポタットの撃退に成功していた。

 が、これで終わりでは無い。


「悪いが俺達はルクセン爺さん達を追わせてもらう。後は頼んだぞゴリゾウ」

「別に構わねぇが、本当に大丈夫かお前ら。未だCランクだろ?」

「はぁあ、何言ってんだよ。俺達が何でCランクかお前知ってんだろ」

「ふっ、まぁな」

「んな事はどうでも良いんだよ。親達は爺さんの所行くから後は頼んだからな」

「あいよ。任せとけ」


 Bランクパーティ『酒盛の戦士団』リーダー、ゴリゾウに後を託してムスラはルクセンとシンガの後を追った。


(頼むから未だボスとはぶつかるなよ。二人はヤバいぞマジで)


 二人の無事を願いながらムスラは『蜂蜜よりお酒』の仲間と共に走る。


「おい見ろよムスラ」

「あっ? ……んなバカな」

「本当スゲェよなあの二人」


彼らの目の前には道の両端に並べられた猿の死体がズラリと目の届く限り連なっていた。

それもどれもこれも一太刀で斬り伏せられている。


「いつ見てもスゲェ腕だよな、あの爺さん」

「……そうだな」

「それにシンガもヤベェ。どの死体も正確に一本ずつで仕留めてるぜ」


 その者の言う通り、シンガが放ったと思わしき矢は、どれも一本ずつしか死体に刺さっていない。一本だけで正確に急所を撃ち抜いている。


 その後、暫く走った所で、パーティの盗賊が何かに気付いた。


「ムスラ! 約三十に四匹!」

「おう! いつも通り行くぞ!」

「「「おう!」」」


 新たに現れた四匹のオッポタットにこちらも四人で対応する。


(間に合うと良いけど……)


◇◇◇


「――師匠!近くにいます!」

「うむ、その様じゃな」

 暫く進んだ所にあった横穴の前で足を止めた二人は持っていたポーションでHPとMPを回復させる。


「……では行くかの」

「……はい」


 ルクセンとシンガは横穴へ同時に飛び込んだ。


◇◇◇


「――ここだな。行くぞ!」

「「「おう!」」」


 漸く二人に追い付いた『蜂蜜よりお酒』はシンガが目印に残していた緑の布を留めていたダガーを引き抜き、自分達のハンカチを新たに差し込んだ。


「おい! 爺さん! シンガ! 生きてるか……」

「おいどおしたムスラ……んなどういう事だ⁉︎」

「……何でこいつが居るんだよ⁉︎」


 横穴に踏み込んだ彼らがそこで見たのは――


◆◆◆


「――そうよ。貴族は平民から税を取る代わりに平民を守る義務があるの。だからわたくし達のステータスは……」

「お嬢様! 急報です!」

「どうしたのよエリス。そんなに慌てて」

「竜です。竜が出ました」

「えっ⁉︎」

「『聖域』上層で殿下を捜索中だった冒険者が地竜と遭遇したとの事です」










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