12 戦争勃発③
開戦の合図はキングが天井へ放ったブレスだった。
天井をぶち抜く様なそのブレスと共に両軍一斉に敵に襲い掛かる。
僕は高台に陣取って暫く様子を見る。
スカベンジャー軍は戦力を温存するつもりらしい。
スカベンジャーを先頭に、キングを後ろに配置して逆三角形みたいな形の陣を形成している。
「逆魚鱗」とでも呼べばいいかな。
反対にゾンビ軍はハウンドが一目散に中央目掛けて突撃を敢行。
一点集中で本陣を落とすつもり…なのかは分からないけど無闇矢鱈に攻撃する気は無いらしい。
そろそろ両軍の第一陣が接触する、という時に突如スカベンジャー軍が一斉に口を開いた。
次の瞬間ゾンビ軍へ無数の針が襲い掛かる。
どうでもいいけど、スカベンジャーのは針って感じだけど、キングが放った特大のやつは宛ら槍って感じだな。
そんなどうでもいい事を考えている間に戦況はガラリと変化していた。
ゾンビ軍の先鋒だったハウンドの一団が消え失せたのだ。
文字通り消え失せたハウンド達の代わりに第二陣に控えていた蜥蜴集団がスカベンジャー軍へ突撃する。
何故ハウンドが消えたのか? とか一切考えて無さそうだなあいつら。
まぁ何でなのかは僕にもさっぱり分からない事もないんですけどね。
いやだってアレ僕一回見た事ありますもん。
ヘルハウンド戦の時に奴が放っていた灰弾。
その針版ですわアレは。
このままだと蜥蜴集団もハウンドと同じ道を歩んでしまう。
圧倒的兵力差があるとは言え、兵を無駄に死なせるわけにはいかない。
先程から準備していたのを一つぶっ込みますかな。
喰らえ! 酸!
デジャヴなセリフと共に僕はスカベンジャー軍の上に酸を投げ付ける。
但しただの酸じゃない。
さっきから溜めに溜めた特大の酸だ。
〈吸収〉を使い続けて新しく生えてきた〈貯蓄〉というスキル。
簡単に言うとこれは何でもかんでも体内に「貯蓄」出来る名前そのまんまのスキルだ。
こいつを発動しながらさっきから酸をせっせと体内に溜め込んでいたのだ。
それを今思いっきり敵軍上空にぶち撒けたと。
「ギュワォー!」「グワァー!」「グホッ!」「ギャオン」「グブブブ」「ギャワォ――
宛ら酸の海に放り込まれたスカベンジャー共が呻き声を上げる。
あれだけHPがある奴らだから即死なんて有り得ないけど、一瞬の隙は作れた筈。
そこに襲い掛かるは蜥蜴集団。
奴らが酸耐性持ちだって事は確認済み。
動揺してるスカベンジャー共にまともに太刀打ち出来る筈が無い。
「ギョエー!」
一体やられた。
スカベンジャー軍が混乱から立ち直るまでの暫くの間、ゾンビ軍蜥蜴集団による蹂躙は続いた。
「グルワァー!」
そこにハウンドの第三陣が追撃を掛ける。
数だけは腐る程ある(ゾンビだけに)ゾンビ軍は開戦早々スカベンジャー軍を窮地に追いやった。
酸の海に流された奴や、蜥蜴やハウンドから逃げる奴、逆に戦う奴などスカベンジャー軍内にも色んな奴がいて、既にスカベンジャー軍の隊列は完全に乱れている。
無我夢中で目の前の敵を喰らいまくるハウンド達は気付いてないだろうが、現在我がゾンビ軍はかなり敵本陣近くへ切り込んでる。
元々二百かそこらしか居なかったのだ。
隊列さえ乱せば本陣なんて直ぐそこだ。
……と思っていた時期が僕にもありました。
「ギャワォーーーン!」
スカベンジャーキングの中でも一番奥に陣取っていた一番でかい奴が吠えた。
それだけでスカベンジャー軍の混乱は収まり、即座に隊列を整え出す。
一方のゾンビ軍は完全に足が止まってしまった。
勿論その隙を敵が見逃す筈もなく、素早く隊列を整えたスカベンジャー軍がゾンビ軍に襲い掛かる。
圧倒的ステータスの差に今度はゾンビ軍が押されている。
しかもかなりのスピードで。
あの近距離で灰針を喰らえば即御陀仏。
他のゾンビは僕と違って〈自己再生〉なんて持ってないから一度灰針喰らえばたとえ即死を免れても身体の一部を失った状態で戦わなくちゃいけなくなる。そんな状態で格上のスカベンジャーに叶う筈もなく結局死ぬ。
しかもスカベンジャーが脚を振っただけで数匹のゾンビが宙を舞い、落ちて死亡。
スカベンジャーがぶつかっただけで死亡。
踏み潰されても死亡。
噛み砕かれても死亡。
本当にステータスの差は圧倒的数の有利を覆すものだった。
勿論僕も味方がやられていくのをただ黙って見ていた訳じゃない。
手は考えてたさ。
その瞬間、後ろに控えていたグレータースカベンジャーの一体の首が吹き飛んだ。
――文字通り、吹き飛んだ。