9 謎の光に包まれて
「ルワォーン」
広い大路から枝分かれした細道を魔物の悲鳴が響き渡る。
『スキルレベルアップ条件を達成しました。スキル〈酸〉LV4→LV5にレベルアップしました』
それと同時に〈酸〉のレベルも上がる。
先のオッポタット戦より、僕は様々な事を調べながら戦っていた。
かなりの情報を得られたと思う。
先ず一つ目は「吸収で倒した敵を取り込んだらHPとMPを吸収して回復出来る」って事。
これでMP切れを心配せずにスキルを使える様になった。
そのお陰で〈酸〉はLV5、〈麻痺毒〉はLV3まで上がった。
ついでに使いまくった〈吸収〉もLV5になった。
いやー、MP切れを心配しないで良いだけでスキルのレベル上げがこんなに楽だったなんて。
もっと早く気づきたかったなぁー。
まぁ今言っても無駄だけど。
取り敢えずこれからはかなり有利に戦闘を出来ると思うね。
で二つ目が「ゾンビは進化する」だ。
オッポタット戦の後ホームに帰還して暫くの時、下をこんな奴が通ったんだよ。
【グレーターゾンビ(ムシリト)LV3
HP:34/98 MP14/50】
ムシリトって魔物は一言で言うと「背中からも脚が生えた八本脚のヤモリ?みたいな奴」だね。
何かトカゲって感じじゃ無かった。
まぁ何にせよ「グレーター」ってついてるって事はこいつはゾンビの進化系と見て間違い無いだろう。
ああ勿論弱ってたんでこいつは酸で瞬殺しましたよ。はい。
だからまぁ本調子のグレーターゾンビとは戦った事無いけど、概ねゾンビがそのままレベルを上げたって感じかな。
後、如何も進化したらレベルは1からやり直しっぽいね。
で最後はフレンドリーファイアは有効」って事。
いや〈酸〉のレベルが上がって敵倒した後ちょっと酸が余ってたのね。
で、それに気付かずに酸溜りにドボンッっていっちゃって。
まぁ大した事は無かったけど自分にダメージ入ったみたいでさ。
で、それで僕は閃いた訳。「これ、スキルレベル上げるのに最適でね?」って。
で試しに酸の風呂に浸かりながらボーッとしてたら〈酸耐性LV1〉が手に入ったんだよ。
で麻痺毒発動状態の粘手で触って〈麻痺耐性LV1〉ゲット。
それから暇な時はずっと酸溜りに浸かりながら麻痺毒粘手で頭触ってる。
側から見たらヤバい奴だけどまぁ問題無いでしょ。
「キュン」
恋に落ちた様な声と共に新たな獲物が現れた。
ニュー、バシッ、ブシャー。
『経験値が一定に達しました。個体ゾンビ(スライム)LV14→LV15にレベルアップしました』
『各種基礎能力値が上昇しました』
『レベルアップボーナスを獲得しました。スキル〈鑑定〉LV2→LV3にレベルアップしました』
『条件を達成しました。個体ゾンビ(スライム)LV15は進化可能です』
『進化先の候補は
・グレーターゾンビ
・ゾンビソルジャー
の二つです』
レベルアップして遂にこの時が来た。
LV10の時だと思ってたからその時はガッカリしたけどLV15だったとはね。
遂に魔物転生に不可欠な一大イベント「進化」が始まる訳だよ。
その前にレベルアップした鑑定でゾンビとして最後のステータス確認しとこうかな。
【ゾンビ(スライム)LV15
攻撃能力値:29
防御能力値:25
速度能力値:2661
魔法攻撃能力値:28
魔法防御能力値:23
抵抗能力値:31
HP:39/57 MP:49/60】
結構見れるもん増えてる。
てか速度だけ異次元でね?四桁て。
一個だけずば抜けてる。2661てヤバくね。
いや「この頃フレンドリーファイア以外でダメージ喰らう事ないなぁ」とか思ってたけど他者が追い付けない程速かったからなのか?
まぁそう言う事なんだろう。知らんけど。
転生特典様々だな。何となく速い事は分かってたが、いざ数値として見るとヤベぇな。
〈疾風〉マジでスゴい。
まぁステータスの事は一旦置いといて、先ずは進化してしまおう。
候補は「グレーターゾンビ」と「ゾンビソルジャー」の二つ。
まぁ速攻ソルジャーを取るね僕は。
だって名前からして戦闘特化型じゃん。
それにグレーターはもう進化しなさそうだけど、ソルジャーはコマンダーにもジェネラルにもなれそうだし将来有望だからね。
ここは是非ソルジャーにすべきだと僕の直感が告げているよ。
良し、じゃあまぁそういう事で「ゾンビソルジャー」でオネシャス!
……ところででどうやって進化するんだろう?
結論を言うと身体が突如謎の光に包まれだした。
全身が光出すのと宙から謎の光が出現して僕を包むのはほぼ同時くらい。
何か進化っぽい。
……でも暇だな。やる事ない。
ポ◯モンの進化とかものの数秒で終わるのに長いな。
しかも何故か身体がピクリとも動かん。
何故だ。
一体僕はいつまで光ってりゃ良いんだ?
この間に敵に襲われたら死にそう。
えっ⁉︎ それはヤバくね⁉︎
いやヤバいよね。いやヤバいってマジで。
早く終わってくれーーー――
◆◆◆
「――侵攻準備整いました御座います」
「御苦労」
跪きながらワタシは考える。
――これに一体何の意味があるのか、と。
同輩達の目の前で命じられては逆らえんが一体これは何の嫌がらせだ。
“あのお方”がワタシを嫌っていらっしゃるのは分かっていた。
今もまるで犬を見る様な眼でワタシを御覧になられている。
あの程度の敵を相手にこのワタシを差し向けられるとは。
確かにあの“アルジ”なる者は強敵だ。
あの忌々しき第七軍長と同じ『護人』たる奴にはその辺の雑魚では勝てないだろう。
だが何もワタシを名指しする必要はないだろう。
それこそ同じ『護人』である第七軍長や、お気に入りの第二、第五軍長で良かろう。
あの席で皆の前で名指しする必要は無かった筈だ。
くそ、忌々しいやはりあの件か――
「――これをもって出陣式を終わる。閣下、最後に陛下へ忠誠の儀を」
「はっ。この不肖ベルゼ――」
城代の合図と共に“あのお方”への忠誠を誓いながらワタシの心はある感情で満たされていた。
コロシテヤル。スベテヲ。
絶対に赦しはしない。奴らに生まれてきた事を後悔させてやろう。
「――わたくしの忠誠を御身に捧げます。陛下に一日の栄光を」
「貴様の忠誠に感謝する」
「はっ、勿体無き御言葉」
“あのお方”へ最後に大きく礼をしてワタシは部屋を出る。
先ずは目の前の任務に集中しよう。
奴らに見に物見せてやるのは帰ってからだ。
ふっ、今から楽しみだ。奴らの泣き顔はさぞかし面白い事だろう――
「出てったね」
「ああ、罠とも知らずにな」
“イヌ”の退出した部屋には“あのお方”と腹心が残った。
「うん……まぁ期待してるよ、第六階層の主人♪」
楽しそうに笑う主人の姿に腹心達は“イヌ”への同情を感じ得なかった。
無論今から殺されてしまう“イヌ”では無く、
その“イヌ”――雑魚の相手を態々しなければならない憐れな敵に彼等は同情したのだが――