間章 主人無き玉座の間
「――へぇそのスライムちゃん面白いね〜」
「……正確にはスライムゾンビ体。スライムでは無い。……種族名はきちんと呼ぶべき」
「も〜、分かってるよ〜。ターニャちゃんは細かいなぁ〜」
「……その名で呼ぶな。……不快」
「はいはいごめんなさ〜い」
全体的に暗いその部屋には灯りと呼べる様な物は無く、僅かに大きな窓から差し込む月明かりが四つの人影を見せていた。
一つは、頭から黒いマントを被っている。
どちらかと言えば小柄なその人影は、男にしては高い声でもう一方の影と会話していた。
もう一方の全身を覆う黒い鎧を見に纏った大きな人影は感情が計りづらい低い声で返事をする。如何やら片割れの発言に不満があるらしい。
「まぁまぁ、第三軍長一旦落ち着きましょう。第五軍長も相手を不快にさせる言い回しは避けてください。第三軍長がそこ気にしてるの分かってるでしょうに」
二人の間に割り込んだ三つ目の影は場を和ませる心地良い声で両者に呼び掛ける。
「ほら第七軍長も何か言ってくださいよ」
「スライムだろうがゾンビだろうが大差は無いだろう。いずれにしても第六階層に居た魔物だって事に変わりは無い。第一そんな事を論じる為にこの話をした訳では無い」
「は〜い」「……分かった」「了解です」
最後の一人は淡々と返事をしつつ、場を収束させる。彼(彼女)がこの場を仕切っている事は明白であった。
その後も話は続く。
「フェリちゃんがこの話したのって、この中の誰かが第六階層に行かなきゃ行けないから?」
「ああその通りだ。私としては自分で行きたいところだが、全ては陛下のご意志で決まる訳だし如何しようも無い」
「……同意。……陛下の御勅命に従うが我等臣下の務め」
「ところでその陛下は何処にいらっしゃるのでしょうかね……」
「さぁ〜?」「知らん」「……知らぬ」
「ですよね……」
主人無き玉座の間に集いし四つの人影は、玉座を一斉に仰ぎ見る。
――本来彼等の主人である『魔王』が座っている筈の空の玉座を――