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笑かせ!紺高第二演劇部!  作者: 椎家 友妻
第一話 彼女までの距離
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4 旧校舎の占い師

 と、いう訳で俺と正樹は、紺高の本校舎からやや離れた所に申し訳なさそうに佇む、木造二階建ての旧校舎前にやって来た。

この校舎は築五十年を超えるかなり古い建物で、もう何年も前から使われていないらしい。

台風でも来たら丸ごと吹き飛ばされそうな程ボロイから、さっさと取り壊した方がエエと思うんやけど、学校側はその金をケチってるんかして、未だにこうして残っているのやった。

校舎の窓はのきなみ木の板が打ち付けられ、中の様子は殆ど見えない。

まだ昼間やというのに、妙に不気味な雰囲気を醸し出していた。

 「何か、思ったより不気味な場所やね・・・・・・」

 隣に立つ正樹が、肩をすくめながら言った。

こいつは昔からこういうお化け屋敷的な雰囲気の場所はすこぶる苦手なのや。

 「ビビってるんやったら、ここで引き返した方がええんとちゃうか?」

 俺はそう言うたが、正樹はそれに反発する様に、

 「いや!ここまで来たからには、もう後戻りは出来へん!」

 と言い、気を持ち直した様子で旧校舎の玄関の前に立った。

そして木製の引き戸をガラッと一気に開け、その勢いでスタスタと中に入って行った。

仕方ないので俺もその後に続く。

 校舎の中は、外見に負けず劣らずボロかった。

壁や天井は傷みがひどく、床にはガラクタや木のクズが、所々に散らばっている。

おまけに窓を木の板で塞いでいるせいで、昼やというのにかなり暗い。

お化け屋敷と例えるには、あまりにハマリ過ぎな所や。

そんな中正樹の奴が、へっぴり腰で俺の右腕にしがみついてきた。

 「どうしたんや正樹。お化けでも出たか?」

 俺がそう言うと、正樹は若干声を震わせながら答えた。

 「い、いや、出てないけどっ、何か、そういうのが出てもおかしくない雰囲気やからっ」

 「それやったらもう出ようや。男のお前にしがみつかれても、俺は何にも嬉しくないし」

 「あかんて!僕らは何としても、この校舎に居るという謎の占い師さんに会わなあかんねん!」

 「ビビりまくってんのにえらい気合やなぁ。もしかしてお前もその占い師に何か占って欲しいんか?」

 「う、うん。僕はどうすればもっと男らしくなれるのか、このひ弱な性格を直すにはどうすればええのか、それを占って欲しいねん」

 「そういうのは占いどうこうやなくて、自分の心掛け次第やと思うんやけど」

 「僕一人じゃどうしてええのか分かれへんねん!だから早く、占い師さんが居るっていう資料室に行こう?」

 そう言って正樹はより強く俺の腕にしがみついてきた。

男らしくなりたいんなら、まずそういう所から直した方がええと思うんやけど。

 俺はひとつ溜息をつき、校舎の奥へ歩き出した。

懐中電灯は持って来てないので、視界はあまり良くないけど、窓の隙間から幾分かの光は差し込んでくるので、全く何も見えへんという程でもなかった。

そんな中、床に落ちているガラクタ等に気をつけながら歩を進めていると、一階にあった職員室の隣に、資料室のプレートが貼られた部屋を見つけた。

 「あそこか」

 と俺が言うと、隣で正樹がゴグリと生唾を飲んだ。

この期に及んでまだビビッてるみたいや。

しかしそんな事にいちいち構ってられへんので、俺はさっさと資料室のすぐ前まで行き、その引き戸の取っ手に手をかけた。

すると正樹が、両手を被せてそれを制した。

その正樹に俺は眉間にシワを寄せて言った。

 「何やねんな?」

 「ほ、ほ、ホンマに開けるの?」

 「当たり前やないか。その為にここまで来たんやろうが」

 「で、でも、ここに占い師が居るなんていうのは実は大嘘で、ホンマはメッチャ恐ろしいお化けが居るとか・・・・・・」

 「そんなん言うたかてお前がここに来たいって言うから来たんやろうがい!」

 「うぅ・・・・・・そうやけどぉ・・・・・・」

 「男らしくなりたいんやったら、まずそのヘッピリ腰を何とかせんかい!」

 と、俺が正樹に怒りの声を上げていた、その時やった。

俺は引き戸を開けてないのに、勝手にガラッとそれが開いた。

いきなりの事やったので思わずそっちに目をやると、そこに、頭から全身にかけて黒色の装束(童話とかで出てくる悪い魔法使いの様な格好を想像して欲しい)を身にまとった人物(人なんか?)が立っていた。

 「ぎゃあああああっ!」

 それを見て間髪入れずに悲鳴を上げたのは正樹やった。

普段から高い正樹の声が更に1オクターブ上がったそれが耳に響き、キーンと痛かった。

それに続いて正面の布ずくめの男(か、女か、顔まで布を被ってるので分からんけど)が、

 「うきゃぁあああっ!」

 と驚いたような声を上げて後ろにひっくり返った。

一方の正樹も気を失ったんかして、その場にガクンと座り込み、そのままコテンと床に倒れこんでしまった。

こういう場合、俺はどうすればええんやろう?

と一人で途方に暮れていると、黒ずくめのそいつが身を起こし、

 「あ~、びっくりした~」

と言いながら、ポリポリと頭をかいた。

少し高いトーンのかすれた(ハスキー)感じ(ボイ)の(ス)声なんやけど、声だけでこいつの性別を判断するのは難しかった。

一体どっちや?

とか考えていると、布ずくめのこいつは立ち上がってこう言った。

 「あの~、ワタクシに何か、御用の方、ですか?」

 「おうそうや。俺らはこの旧校舎に住み着いてるっちゅう噂がある、謎の占い師に会いに来たんや」

 「ああ、謎の占い師、ですか。それは多分、ワタクシの事ですね」

 「やっぱりあんたかいな。それにしてもけったいな(おかしなという意味)格好やな」

 「これ、ワタクシの一張羅(いっちょうら)なんです」

 「いかにもそんな感じやな。で、会っていきなりで何やけど、あんたは一体何者なんや?」

 「はい、まあワタクシは謎の占い師なので、多くの事は語れませんが、去年住んでいたアパートの家賃が払えなくなってしまって途方に暮れていた所、ちょうど住み心地の良さそうなこの校舎を見つけまして、それでここに住まわせてもらう事にしたんです。夜は隣街のスナックで占いのアルバイトをして小銭を稼ぎ、帰りにその小銭でワンカップのお酒とおつまみを買ってここで一杯やるのが今のワタクシの生きがいです。あと、好きなおつまみはイカの燻製です・・・・・・おおっと、これ以上の事は話せませんよ?何せワタクシ、謎の占い師ですから」

 「謎という割には、あんたの日頃の生活がのきなみ分かったんやけど」

 「ですが、ワタクシの年齢や性別は、謎に包まれたままです」

 「その頭に被った布を取ってくれたら、性別や年齢も分かるんとちゃうの?」

 「きぇえエッ!」

 「な、何やねんいきなり⁉」

 「それだけは!絶対にできません!絶対に!絶対に!絶対にぃっ!」

 「分かった分かった!そこまで言うなら見せろとか言わんから!じゃあとりあえず名前だけでも教えてくれや。俺は桂木敬介。で、ここで失神してる奴は田名沢正樹。あんたの名前は?」

 「残念ながら、本名も教える事は出来ませんので、ワタクシの事は、『ミスターベロベロ』とお呼びください」

 「何か『ザ・酔っ払い』みたいな名前やな。しかもミスターっていうたら、男の人を呼ぶ時に付けるモンやんけ。あんた男なんか?」

 「え⁉ち、違うわよ⁉ミスターは!関係ないのよ⁉」

 「そやからって何でいきなり女言葉になるねん。まああんたが男やろうが女やろうが、正直どうでもええねん。それより俺らは、あんたに用があって来たんや」

 「やっぱり、ウラナイ、ですか?」

 「そうや」

 「ウラ(・・)物の、ナイ(・・)スなDVD」

 「違うわ!何やねんナイスなDVDって⁉」

 「それはもう、世間の男達が毎度お世話になっている内容のDVDです」

 「違う!お世話とか言うな!そうやなくて、人の未来を透視したりするアレや!」

 「あぁ、そっちのウラナイでしたか」

 「そっちしかないやろ普通!占い師のお前が何で分かれへんねん⁉」

 「だって、占い師と言いましても、ワタクシ、占い師として全然売れないし」

 「そういう問題とちゃうやろ」

 「占い師、売れないし」

 「そんなダジャレはええねん!お前はお笑い芸人か⁉」

 「ええ、実はワタクシ若い頃、お笑い芸人を目指していた事がありまして」

 「ほぉ、そうなんかいな」

 「ですが、お笑いの世界は厳しい。ワタクシみたいな者では、どうせ芸人として売れないし

ウレナイシ

ウラナイシ。

そしてワタクシは、占い師になろうと、決意したのです」

 「どんな経緯やねんそれ⁉そんなしょうもない事はええねん!とにかくお前は占い師なんやろ⁉」

 「占い師です」

 「それやったら俺の恋愛運とかを占えやボケコラ!」

 「あの、あなたは暴力団の方ですか?」

 「お前のせいでこういう言葉遣いになっとるんじゃ!」

 「わ、分かりました。それでは、占いをさせて頂きます。敬介さんの恋愛運を占えば、いいんですね?」

 「そうや!俺は今、ある人に片思いをしてるんやけど、その人と俺は結ばれる事が出来るんか、もし出来るなら、そうなるにはどうすればええのか?それを聞きたいんや!」

 「なるほど、かなり切実なご相談ですね」

 「おう、でもあんたみたいな人にこんな事を相談して大丈夫なんか、目茶苦茶不安やけどな」

 「あ、その点はご心配なく。これでも、ワタクシの占いは、よく当たるんです」

 「全く信用出来へん」

 「本当ですよ。今日でもワタクシの所に、『この前の占い大当たりやったよ!』と言いに来てくれた、女子生徒さんが居ましたし」

 「え?ここにあんたに会いに来た生徒って、俺らが初めてやなかったんか?」

 「はい。と、言っても、その女子生徒さん一人だけですけど」

 「物好きな奴も()るんやなあ」

 「今では、ワタクシの唯一のお友達でもあります。尤も、その数は今日で三人になりましたが」

 「勝手に俺と正樹を、あんたのお友達リストに入れてくれるなよ」

 「ワタクシのお友達になって頂ければ、占いのお代は無料にさせて頂きます」

 「そこまでして友達が欲しいんか」

 「ワタクシの唯一の悩みは貧乏な事よりも、お友達が殆ど居ない事なんです。だからどうか、お願いします。幸いな事に、ワタクシとあなたは、とても気が合うみたいなので」

 「気が合うかどうか知らんけど(むしろ合ってない気がするけど)、まあ、友達くらいなら何ぼでもなりますがな」

 「ありがとう、ハマ○ラジュンです」

 「ホンマに感謝しとんのかっ。まあええわ、とりあえずそういう訳やから、俺の恋愛運を占ってくれや」

 「分かりました。では早速、この透明の球体を用いまして――――――」

 「おお、水晶占いか。思ったより本格的やな」

 「いえ、これは水晶の形をした水飴(みずあめ)です」

 「何でやねんオイ!お前は俺をナメとんのか⁉」

 「はい、水飴だけに」

 「言うてる場合か!そんなんでホンマにちゃんとした占いが出来るんか⁉」

 「これは心外ですね。ワタクシの水飴占いの凄さは、バイト先の『スナックお浜』でも有名ですよ?」

 「いや、『スナックお浜』ではどうか知らんけどやな。まあ、それならそのやり方で占ってくれ」

 「それでは、いきます」

 「おう」

 「んん~ダバダぁ~」

 「百パーセント外れそうな呪文やな」

 「『崇高なるぅ~水飴のぉ精霊よぉ~、このぉ少年のぉ片思いのぉ行方をぉ教えぇたまへ~。うぅううう~、ウォーターキャンディーッ!』」

 「水飴の英訳はウォーターキャンディーではないけどな」

 「はい!出ました!」

 「お、占いの結果が出たんか?嘘くさ過ぎて信じる気にならんのやけど」

 「大丈夫です!さて、水飴の精霊が教えてくれた、敬介さんの片思いの行方は・・・・・・」

 「おう!片思いの行方は⁉」

「ズバリ!のど飴です!」

 「飴の種類を言われても全く結果が分からんのやけど⁉」

 「つまり、うまく行くでしょうという事です」

 「ああ、のど飴ってそういう意味なん?ていうか、ええっ⁉今言うた事はホンマなんか⁉」

 「本当です。水飴の精霊のお告げは、全て真実です」

 「いや~、でも、俺があの人と結ばれるっちゅうのは、やっぱりどうにも信じられへんな~。嬉しいのは嬉しいんやけど」

 「勿論、このまま何もせずに敬介さんの片思いが実るという訳ではありません。その為に必要な行動を起こして、初めてこの結果が導き出されるのです」

 「ああ、そうなんか。まああの人の方から俺に言い寄って来てくれるなんて事はありえへんやろうしな。で、具体的に俺はどういう行動を起こせばええんや?」

 「え~、水飴の精霊が言うには、その片思いの相手と同じ部活に入れば、見事に結ばれるそうです」

 「同じ部に入って、その後はどうすればええんや?」

 「さあ、その後の事については、水飴の精霊は何も言っていません」

 「一番肝心な所を教えてくれへんのやな~」

 「とにかく、同じ部活に入れば、その人との距離も、自然と縮まるという事ではないでしょうか」

 「そういう事なんかなぁ」

 「とりあえず、行動してみてください。何事も行動を起こさなければ、何も始まらないのですから」

 「・・・・・・まあ、そうやな。頑張ってみるわ」

 「ご健闘を、お祈りして、います」

 「おう。ところでもう一人、占って欲しい奴が居るんやけど」

 「ああ、そちらで失神していらっしゃる方ですね?名前は確か、正樹さんと仰いましたね」

 「そうや。おい正樹、いつまで気ぃ失っとんねん?早く目を覚まさんかい」

 俺はそう言って、失神している正樹の上半身を抱き起こし、その頬をペシペシと叩いた。

すると数回叩いた所で正樹は、

 「う、うぅん・・・・・・」

 という声とともに、ようやく目を覚ました。

そして寝ぼけ(まなこ)でベロベロの方を見やり、再び、

 「ぎゃあああっ!」

 と悲鳴を上げ、そして、失神した。

そんな正樹の姿を眺めながら、俺はベロベロに問うた。

 「なぁ、こいつが将来男らしくなれるかどうか、占ったってくれへんか?」

 するとベロベロは、水飴の精霊に訊くまでもなく、キッパリとこう答えた。

 「男らしくなるのは、無理、でしょうね」

 俺はその言葉に、深く頷いた。


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