3 上演開始 4 そして幕が開く
紺高第二演劇部作品『ウンコ漏れかけ探偵の冒険』
脚本・演出・舞台監督 糸山美千
出演
ウンコ漏れかけ探偵・敬介 桂木敬介
箱ティッシュのお松 田名沢正樹
謎の占い師・ウスターソースベチョベチョ ミスターベロベロ
ポラギノールS子 菅道翔子
オードリー・ヘップバーン 糸山美千
語り部 ナニワのシェークスピアこと、椎家友妻
それでは始まります。
ビィイイイイッ!(劇の上演前に鳴るブザーの音)
ズビビィイッ!(著者が鼻をかむ音)
4 そして幕が開く
ある都会の片隅に、小さな探偵事務所があった。
その事務所で探偵業を営む男が一人。
名前を、桂木敬介といった。
彼は探偵という職業に励む一方、ある悩みを抱えていた。それは、
『常にウンコが漏れかけになっている』
というものだった。
彼は幼少の頃から、とても胃腸が弱かったのだ。
なので、ちょっとした刺激(あくびをする程度)で、ウンコをブリブリとやってしまいそうになるのであった。
そんな彼が小学生の時につけられていたあだ名は『ミスターウンコ』。
侮辱の中にも親しみと、そこはかとない優しさが詰め込まれたあだ名だった。
と、彼は思い込もうとしていた。
ちなみに彼は高校生の時、ロックバンドを結成し、そこでボーカルをやっていたのだが、文化祭でライブをやって最後の曲を歌い終えた時、沸き起こったコールが『アンコール』ではなく『ウンコール』であった事は、彼が通っていた学校では伝説となっている。
それ程に彼はウンコと縁が深かったのだ。
そんなこんなで、彼は探偵の道を選んだ。
まともに就職出来なかったというのもあるが。
そんな彼にも恋人は居た。
名前は、『箱ティッシュのお松』。
彼女は子供の頃から極度の鼻炎で、常に箱ティッシュを持ち歩かなければ、顔が鼻水まみれになってしまうという体質であった。
彼女の通り名はそこから来ているのだ。
敬介は探偵としてもウンコ並みの稼ぎしか得る事が出来なかったが、それでも傍らに、常に鼻水をズルズルいわせているお松が居てくれたので、幸せだった。
・・・・・・かどうかはさて置き、少なくとも孤独ではなかった。五目でもなかった。
「アハハ」敬介の笑い声。
「ウフフ」お松の笑い声。
「鼻血で枕が血まみれになってる!」著者のある朝の風景。
そんなある日、敬介の身に悲劇が起こった。
念の為に断っておくが、ヒデキが怒ったのではない。
常日頃からウンコを漏らしそうな体質をしているというだけでも充分悲劇的な敬介だったが、その事よりももう少しばかり悲劇的な出来事が起こったのだ。
何と、お松が姿を消した。
ある日の昼下がり、お松が近くのイズ○ヤに箱ティッシュを買いに行くと言って出掛けたきり、そのまま帰って来ないのだ。
敬介はこの時、直感的にこう悟った。
『ウ、ウンコが漏れそうだ』
そう、彼はこの時、お松が姿を消した理由よりも先に、自分がウンコを漏らしそうな事を悟ったのだ。
流石はウンコ漏れかけ探偵の敬介。その通り名は伊達ではない。
かくして彼は、トイレに駆け込んだ。
そして、排泄・・・・・・・。
「ふぉっふぅ~♡」
至福のひと時。
そして、その後始末の作業に移ろうとしたその時、彼は重大な事に気づいた。
「ト、トイレットペーパーが切れている!」
そして更に気づいた。
「お松が、居ない!」
いつもならこういう場合、常に箱ティッシュ(トイレに流しても大丈夫なタイプ)を持ち歩いているお松が助けてくれるのだが、この時ばかりはそうはいかなかった。
「お松は誰かにさらわれたのではないか?」
敬介は便座に座ったままそう考えた。
ちなみに余談だが、『河童がさらわれた』という文章は、河童の皿が割れたのか、それとも河童が誰かに連れて行かれたのか、どちらの意味にも取れる。
だから、河童の皿が割れた場合には、
『河童が皿割れた』と記し、誰かに連れて行かれた場合には、
『河童が攫われた』と、漢字で記すべきではないか?
これはつまり、何が言いたいかというと、別に何が言いたい訳でもない。
ただ何となく、思いついただけだべさ。
だべさ~♪
という訳で、敬介はお松をさらった犯人を捜すべく、事務所を出た。
行方知れずの人探し。
探偵である彼の血が騒いだ。
人探しといえば、探偵業ではオーソドックスな仕事である。
なので敬介はこれまでの探偵経験をフルに活用し、
迷わず警察に届けた。
そう、敬介は探偵でありながら、人探しや身元調査といった類の仕事は苦手だった。
その一方、郵便ハガキの区分け作業は抜群に速かった。
だがその能力が、探偵業では全く役に立たないのが惜しい所であった。