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笑かせ!紺高第二演劇部!  作者: 椎家 友妻
第一話 彼女までの距離
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1 いつもの朝

1 いつもの朝


 ちゅんちゅん、ちゅんちゅん。

 外の雀の鳴き声で、俺は目を覚ました。

今は午前七時。窓から差し込む日の光が眩しい。

むくっと身を起こして大きなあくびをひとつ。

さて、学校に行く準備をするか。とか思っていると、部屋の扉の外から、

 「(けい)(すけ)、もう起きてんの?」

 という声がした。俺が、

 「お~う」

 とあくび交じりに返事をすると、扉の外から、

 「あいよ~」

 という声の後に、スタスタと階段を下りて行く足音がした。

俺はベッドから下りて、パジャマから制服に着替えた。

そして勉強机の横にある姿見の前に立つ。

するとそこに、白いカッターシャツの上に赤いネクタイを締め、グレイのズボンとブレザーを身に着けた、ちょっと小粋なナイスガイが立っていた。

ショートのツンツンヘアーをソフトモヒカン風に立たせ、目は切れ長で鋭く、パッと見た感じ、テキサス帰りのワイルドガンマンの雰囲気を醸し出している(テキサス帰りのワイルドガンマンがどんな雰囲気かは知らんけど)。

それが俺、桂木(かつらぎ)(けい)(すけ)、十五歳なのやった。

 「敬介、朝食できたから()よ下りといで」

 俺が誰にでもなく自己紹介をしていると、階段の下からさっきと同じ声がした。

俺は学生鞄を持って、そそくさと一階の台所へ向かった。

そして階段を下りて台所に行くとそこに、さっき俺を呼んでいた声の主が居た。

肩まである黒髪を後ろでひとつにまとめ、俺と同じ様な顔立ちをし、グレーのブレザーとスカートを身にまとっている女子。

そんな彼女の名前は桂木時子(ときこ)。俺より二つ年上の姉や。

性格は清楚でおしとやかでたおやかで優しさに満ちあふれているかと言うと全くそうではなく、ガサツで怒りっぽくて凶暴で優しさの欠片もない。

俺は幼い頃からこの姉に虐められまくってきた。

そして身長も未だに姉ちゃんの方が高いので、その事でもよくおちょくられる。

まさに俺の天敵。

しかもよりにもよってこの姉は俺と同じ紺戸高校の生徒で、おまけにそこで生徒会長をやっている。

この女に生徒会長なんかさせて、紺戸高校は大丈夫なんか?

そんな心配がよぎる今日この頃。

ちなみに今この台所には俺とこの姉ちゃんしか()らん。

父ちゃんと母ちゃんはどうしたのかというと、同じ食品関係の工場で働いていて、しかもその職場は家からかなり遠いので、毎朝俺らよりも早く職場に出掛けて行くのや。

だから俺は毎朝この姉ちゃんと二人で顔をつき合わせ、朝食を食べんとあかんのやった。

 「何をボーっとしてんの?そんな所に突っ立っとらんと、早く朝ごはんを食べたら?」

 台所の入口の所で文字通りボーっと突っ立っていた俺に、姉ちゃんが言った。

俺はハッと我に返り、食卓を挟んで姉ちゃんと向き合って座る。

目の前には俺の分の朝食の、白飯と味噌汁とスクランブルエッグとウインナーが置かれている。

これを準備したのは姉ちゃん。

平日は両親が殆ど家に居らんので、食事の用意は大概姉ちゃんがやってくれる。

そしてそれ以外の洗濯や掃除全般は、大概俺がせんとあかんのやった。

仕事の量に偏りがある気がするのは俺だけやろうか?

まあとにかく、俺はそんな家庭環境の中で暮らしている。

 「いただきます」

 とりあえず俺は、目の前の朝食を頂く事にした。

 「私によく感謝して食べや?」

 目の前の姉ちゃんが偉そうな口調で言う。

ちなみにこの食事の材料を買いに行くのはいつも俺やし、食器の後片付けをするのも俺や。

しかしその事で文句を言うと、後で十倍以上の理不尽な文句を言い返されてしまうので、俺は素直に「はい」と頷いて味噌汁をすすった。

 「どう?私の作った味噌汁の味は?」

 「はい、おいしいです」

 ここで『マズイ!』なんて言うた日には、間違いなく殺されてしまうやろう。

まあ、おいしいっちゅうのはホンマの事やからええんやけどね。

そして俺がそう言うと姉ちゃんは、

 「そうやろそうやろ」

 と得意げに言い、その後にフフンと鼻で笑うのやった。

相変わらず態度のデカイお人や。

とか考えていると、朝食を食べ終えた姉ちゃんが、ひとつ息をついてから俺にこう言った。

 「ところであんた、何で私と同じ高校に入ったん?高校でも私に遊んで欲しいんか?」 

ちなみに姉ちゃんの言う所の『遊ぶ』とは、『虐める』と同じ意味のそれや。

なので俺はこう答えた。

「そんな訳ないやろ」

「じゃあ何で?あんたの中学の時の学力やと、紺戸高校に受かるのはしんどかったやろ?それをあんたは猛烈に勉強を頑張って紺戸高校に合格して。そんなに紺戸高校に入りたかった理由は何なんよ?」

「う・・・・・・」

俺は言葉に詰まった。

ここで姉ちゃんに、俺が紺戸高校に入りたかった本当の理由を知られる訳にはいかんかった。

もし知られてしもうたら、それをネタにどれ程おちょくられるか分かったモンやない。

ここは上手い事誤魔化さんと。

と、頭を悩ませていると、姉ちゃんはニヤリと笑い、

「はっは~ん」

と呟いた。

その仕草を見て、俺は全身が凍りついた。

姉ちゃんが俺の前でこう言った時は、必ずと言っていいほど、俺の心が見透かされているのや。

そして姉ちゃんはその期待(?)に応えるかの様に、確信した口調でこう言った。

「あんたもしかして、紺高に好きな子でも()るんとちゃうの?」

「ゴッホォッ!」

 画家の名前ではない。味噌汁が器官に入ってむせたんや。

「な、何を言い出すねん!」

 俺はすかさず言い返すが、姉ちゃんはひるまずこう返す。

「そんだけ焦る所を見ると、どうやら図星の様やな」

 一体どういうカラクリか分からんけど、この姉ちゃんは昔から、俺が考えている事をことごとく見透かす事が出来るのや。

俺は姉ちゃんが何を考えてるのかが全く分からんというのに、これは一体どうして事なのやろう?

多分、一生解けない謎やろう。

それはともかく、このままでは俺のこれからの高校生活が危険にさらされてしまうので、俺は咄嗟にこう言った。

 「そんな訳あっかい!」

 しかし姉ちゃんは、そんな俺の心の中をも見透かした様にこう続ける。

 「恋の相談やったら、いつでも私が乗ったるからな」

 ちなみに俺が中一の時にあのA子さんに告白をした時、例のセリフ(『好きだよ、ハニー』)で告白すれば絶対にうまくいくとアドバイスしてくださったのが、他でもないこの姉ちゃんやった。

そしてそのセリフで告白してフラれた事をその晩姉ちゃんに報告したら、姉ちゃんは笑い転げながらこう言った。

 『ホンマにあのセリフで告白したん⁉ギャーッハッハッハ!そりゃ傑作や!』

 少年のいたいけな恋心を(もてあそ)ぶ女、時子。俺はこの出来事以来、この手の相談は絶対この姉にはすまいと心に決めた。

だから、俺があの(・・・)に想いを寄せている事だけは、絶対にこの女に知られたらあかんのや!

神よ!どうか俺をこのピンチからお救いください!

 その時やった。

俺の祈りが神に届いたのかして、姉ちゃんが、

 「あ、そろそろ学校に行かんとあかんわ」

 と言って席を立った。

内心ホッとした俺は、さりげなく話題を変える為にこう言った。

 「もう行くんか?今日はいつもより早いやんか」

 「うん、今日は朝から生徒会の仕事があってな、早く行かなあかんのよ」

 「さいでっか、ほんなら気をつけて行ってらっしゃいませ」

 「あんたが誰に片思いをしてるのかは、また今度じっくり聞かせてもらうわ」

 「ぐ・・・・・・」

 「あと、私の自転車昨日パンクしてもうたから、あんたの自転車を貸してもらうで?」

 「は?じゃあ俺はどうやって学校に行ったらええねん?」

 「あんたの下半身には、その短い足が二本付いてるやないの」

 「短いは余計や!ていうか学校までチャリンコでも二十分はかかるのに、歩いたら間に合わへんやないか!」

 「走ったらええやないの」

 「じゃあ姉ちゃんが走って行けや!」

 「だって私、こう見えて納豆嫌いなんやもん」

 「そんなん知るか!いや、姉ちゃんが納豆嫌いなのは知ってるけど、今は関係ないやろ!」

 「まあそういう訳やから借りるわな」

 「おい!」

 「あと、食器の片付けもよろしく~♡」

 「うぉい!」

俺が呼び止めるのも構わず、姉ちゃんはさっさと家を出て行ってしもうた。

まあ、あの強引さは今に始まった事やないけど。それにしても、もうちょっと弟をいたわる気持ちとかを持たれへんもんやろうか?

まあ、あの人にそれを求めるのは無理なんやろうけど・・・・・・。ひとつ大きく溜息をついた俺は、このままゆっくりしている訳にもいかんので、急いで朝食の後片付けをする事にした。


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