5 菊井先生は高見の見物
放課後になった。
俺は、非常に疲れていた。
今日の第二演劇部員のスカウトで、多分に精神的体力を消費させられた。
出来る事なら、このまま家に帰ってさっさと寝たい。
むしろ第二演劇部を辞めてしまいたい。
なんて事を考えながら、俺は放課後の校舎の裏庭で、掃除に勤しんでいた。
するとたまたまそこに通りかかった菊井先生に、声を掛けられた。
「あらあなた・・・・・・名前何だっけ?」
相変わらず冷たいお人や。俺は苦笑しながら答えた。
「桂木敬介です。その節はどうも」
「ああそうそう、桂木君だったわね。何やら美千と、面白い事を企んでいるそうね」
「はあ、まあ、企むというか、結果的にこうなってしまったというか」
「全国レベルのウチの部に演劇対決を申し込むなんて。見上げた根性だわ」
「俺も、無謀だとは思いますよ」
「で?部員はもう集まったの?」
「今の時点では俺と美千を含めて四人。残る一人は、この後スカウトに行く事になってます」
「そんな寄せ集めのメンバーで、ウチに勝てると思ってるの?」
「う・・・・・・分かりません。何しろ美千がやろうとしてるのはお笑い劇らしいんで、一体どんな劇になるのやら、見当もつきません」
「へぇ、あの子はそういう劇がやりたかったんだ。それで月と衝突したのね」
「あの、月さんは今、部活ではどんな感じですか?」
「張り切ってるわよ。第二演劇部には絶対負ける訳には行かないって、対決に向けて猛特訓してるわ」
「ハハハ・・・・・・もうちょっとお手柔らかに来て欲しいなぁ・・・・・・」
「ウチにとってはいい刺激だけどね。この時期にはこれといったコンクールもないから、気持ちに張りを持たせるには持って来いのイベントだわ」
「もしかして先生、楽しんでます?」
「ええ、この対決に関して私はノータッチだからね。高みの見物で、あなた達がどんな劇を作るのか、楽しみにしてるわ」
「はぁ」
「そしてあの子がどれだけ気合の入った演技を見せてくれるかのかも、ね」
そう言って菊井先生は、俺の背後に視線を移す。
その方向に振り向くと、少し離れたそこに、両手にゴミ箱を抱えた月さんが、鋭い目つきで俺を睨みつけていた。
ああ、先が思いやられる・・・・・・。