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Way War  作者: 中国産日本人
第一章 親友編
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第六話 『巨大ビルと巨体』

 真っ赤なビルからレーダーを回収したノアクラ達はそのまま歩き、巨大ビルに辿り着いた。ノアクラ達のレーダーは二十個ものレーダーを察知しており、それはビル内が戦場と化していることを示していた。


「ねぇ…流石にここは不味いんじゃないの…?」


 まるは涙目で訴える。


「安心しなよまる。レーダーの数が直接人数を示すわけじゃない。自分のも含めて五個レーダーを所持している個人が四人と考えれば、そこまで多いわけではないでしょ」


 反応がバラけているしそんなパターンはないと思うけど、とノアクラは付け足す。


「それじゃあさっき話したとおり、エンドロとまるのレーダーは預かるよ」 


 さっき、とは巨大ビルにくる道中での会話を指す。ビルに入る前のわずかな作戦会議をしていたのだ。

 ノアクラが差し出した手にエンドロとまるはレーダーを預ける。ノアクラがレーダーを身につけると、そのままノアクラ達は堂々とビルの正面入り口から侵入した。


「正面から入るバカは僕たちだけだろうね」


 エンドロはクスクスと笑う。

 他の参加者は巨大ビルの横から壁や窓を壊して侵入しているらしく、その痕跡がビルにある。しかし正面玄関は全くそんな痕跡がなく、罠も存在しない。つまりノアクラ達は「どうせ誰も正面から入らないだろう」という先入観の裏をかくことに成功したのだ。

 巨大ビルのロビーはまるで死んでいるかのように静かである。しかしレーダーの反応は確かにある。全員息を潜めていることがうかがえた。


「いちばん近くにある反応は四階か。階段を登ろう」


 そういってノアクラが階段方向に進もうとした瞬間、


「ノアクラ、まる。三秒後に後ろへ飛んで」


 エンドロが冷静に指示を出した。エンドロの能力で何かを予知したのだとノアクラとまるは即座に理解し、ピッタリ三秒経つと三人は後ろへと距離をとった。それと同時に、ノアクラの頭上にあった天井が壮大な音を立て勢いよく砕け落ち、何かが勢いよく床に衝突する。そして砂煙が晴れると、突き飛ばされる前にノアクラが立っていた場所には巨大な体躯を持つ男が一人、右手が床にめり込んだまましゃがんでいた。


「あれぇ〜、骨の感触がしねぇなぁ…なんで俺の攻撃が分かったんだ〜?わざわざレーダーを置いてきたのによぉー」


 巨大な男は軽口を叩きながら右手を地面から引っこ抜く。引っこ抜いた右手は傷一つ付いていない様子だった。


「まさか床を殴って一階に…?」


 ノアクラは冷や汗をかく。まるにも負けない身体能力のポテンシャルである。


「つーかテメェらチームかよぉ〜…一人だけだと思って派手に壊しちまったじゃねぇか〜、めんどくせぇなぁ〜!!」


 ビルに入る前にノアクラがエンドロとまるのレーダーを預かっておいたことで、ノアクラ達がチームであることを相手に知られなかったのだ。チームと知られていれば相手にチーム対策をされていたかもしれない。その可能性を事前に潰しておける、有効な策である。


「私、あの人知ってる…確かウェイの音楽部門でのワールドランカーだよ!名前はbeep(ビープ)だったはず!」


「へぇ、俺を知ってんのか女」


 まるの言葉に巨大な男は嬉しそうに反応する。しかしノアクラはbeep(ビープ)を鼻で笑った。


「その見た目で音楽かよ。拍子抜けだな」


「あぁ…?んだテメぇ〜!!」


 beepは血管を浮かび上がらせてノアクラに勢いよく殴りかかる。

 が、ノアクラに殴りかかる前にまるに横から蹴り飛ばされ、ロビーに置いてあるソファに勢いよく衝突した。


「ハハハ!!痛くねぇなぁ〜!」


 しかしbeepは全くダメージを与えられた様子がなく、笑いながらゆっくりと起き上がった。まるはbeepに向かい合うようにして構える。


「私が相手だよ!ふん!」


「相手の能力分析は頼んだよノアクラ。僕は能力使ってまるのサポートをするから」


 ノアクラはエンドロの言葉に「あぁ」と短く返事をすませる。そしてまるとbeepの一進一退の攻防の最中にノアクラはある疑問点について考察した。

 それは先ほど天井からピンポイントでノアクラ達を狙って攻撃してきたbeepの手口についてである。beepはレーダーは置いてきたにも関わらず、ノアクラ達の座標を正確に把握していたのである。


「身体強化で聴覚も強化したのか…?あるいは…」


 しばらくするとノアクラは階段に向かって走り出した。


「エンドロ、まる!beepを止めておいて!」


「…!行かせるかよぉ!!!」


 beepはノアクラを止めようと走り出すが、まるの蹴りによって後退する。


「そんなに焦っちゃってどうしたの。トイレはこっちじゃないよ」


「クソガキテメぇ〜…!!!」


 エンドロは余裕そうに笑みを浮かべbeepを煽る。


「…まぁいい…どうせ見つけることなんて不可能なんだからよぉ〜!テメェらをぶっ殺してからゆっくり探すとするぜぇ〜!!」


 beepはそう叫びながらまるに突進した。


 その頃、ノアクラは階段を駆け上がり、既に2階へ到着していた。


「俺の推測が外れていたらタイムロスがヤバいし急がないとな…」


 ノアクラは拳銃を手に持ちながら二階を駆け回る。


「さすが巨大ビル、広すぎるな…」


 膨大な数の部屋を一つ一つ確認し回るが、何も発見はない。時間は刻々と過ぎていく。持久戦になってしまうとまるとエンドロは不利であるとノアクラは睨んでいたため、額には冷や汗が滲む。

 そしてしばらくすると、ついにノアクラは決心した。


「…能力はいざって時のためにとっておきたかったんだけど、仕方ないか」


ノアクラは手を空中にかざす。


「一人使用」


 そう呟きゆっくりと手を下ろすと、ノアクラはそのまま歩き出した。




 同時刻、エンドロとまるは苦戦をしていた。


「おいおいぃ…最初の勢いはどこにいったんだぁ〜?」


「右側殴り!」


 エンドロが攻撃の方向を予知し教えることによってbeepの殴りをまるはギリギリでかわすが、まるの表情には疲れが滲み出ていた。


「お前らの能力、そして代償は分かってきたぜぇ〜…女の方は身体強化をする際に自身の血を消耗するんだろぉ〜?」


 まるは異常なほどの冷や汗を垂れ流しており、足元もふらついている。これらは血を急速に抜かれた際に起こる症状である。beepはそんなまるの様子をみて判断したのだ。


「そしてクソガキぃ…テメェは能力使用時、時速三キロ以内でしか行動が出来ない…つまりこの女が貧血で自滅しちまえば、逃げる最中は能力を使えねぇ雑魚を殺してチェックメイトなんだよぉ〜!!」


「…それはどうだろうね」


 エンドロはポーカーフェイスで受け流すが、実際のところは焦りを覚えていた。beepの推測は全てが正解なのである。このまま長期戦にもっていかれたら明らかに不利なのはエンドロ達なのだ。


「オラよォ〜っと!!」


「左側蹴り!」


 まるに向けたbeepの攻撃をエンドロは予知する。が、


「うっ…!!」


 まるはかわしきれずモロにダメージを受けてしまう。そのまま吹き飛ばされて壁にぶつかるが、身体強化のおかげで致命傷にはなっていない。まるはゆっくりと立ち上がるが、しかし確実な痛みがまるを蝕んでおり、貧血も相まってまるはフラフラである。

 beepはゆっくりとまるに近づき、大きく殴る構えをする。


「クソ女ぁ…これでトドメだぜぇ〜!!」


 そしてbeepの拳はまるの顔面に直撃した───────


が、まるは吹き飛ばされずにそこに立っていた。


「あれ…?痛くない…」


 まるの口からそんな言葉がこぼれおちた。beepはそんな様子を見て、冷や汗をかきながら後ずさりをする。


「お、おいぃ〜…嘘だろぉ…まさか()()()()()っていうのかぁ…?」


「どうやら間に合ったみたいだね、ノアクラ」


 焦り出すbeepをみてエンドロは安堵した表情を浮かべる。そしてまるに語りかけた。


「まる、今のbeepはただの一般人と変わらないよ。死なない程度に思いっきり殴り飛ばしてあげて」


「…!分かった!いくよ〜!!」


 まるは右腕を回しながら殴る構えをとる。


「ま、ま、まて…助けてくれぇ…」


「おいしょ〜!!!」


 命乞いも虚しく、まるの渾身のパンチがbeepの巨体にのめり込み、beepは気絶した。





 少し時を遡る。

 歩き出したノアクラは二階の東部にある部屋に入り、迷わず部屋の右隅に向かって銃を構えた。


「降参しなよ。レーダーの場所さえ教えてくれれば命は助けるからさ」


 しかし何も返事が返ってこない。客観的に見たらノアクラは何も無いところに話しかけているイカれた人間である。だがノアクラは何も疑わず、返事がないことを確認すると引き金を引いた。乾いた音が部屋に響き、さっきまで何も無かったように見えた右隅にはノアクラによって頭を撃ち抜かれた死体と、もう一人ノアクラをジッと見据える金髪の男が現れた。


「…どうして俺達のいる場所が分かった。今お前が撃った男は触れたものを知覚不可能にする能力だ。つまり触れられていた俺も含めてお前には知覚できないはずだ。もしかすると探知能力でも持っているのか?」


「間違ってはいないけど正解でもないかな。…それよりどうする?レーダーの場所を教えるか、それともこのまま死ぬか」


 ノアクラは金髪の男に銃口を向ける。部屋にはピリッとした空気が張り詰める。


「…教えても殺すつもりだろ。無駄死にするつもりはないね」


「一定範囲内にいる任意の対象の身体強化、これがお前の能力でしょ。beep自身はそれこそ周囲の生物を探知する能力の持ち主…だからレーダーもないのに俺達の場所を探知できたんだ。つまりお前が死ねば能力が解除されて、beepはただの生身に戻るし、簡単に殺されちゃうだろうな。そこでどう?大人しくレーダーを渡すと約束してくれるんならbeepとお前の命を保証するってのは」


「人質をとって脅すとは趣味がいいな」


「そう解釈して貰って構わないよ。もしbeepを助けたいんなら、少しでも可能性のある方に賭けた方が賢明だと思うけど?」


 金髪の男の頬から汗が一滴流れる。数秒すると、金髪の男は口を開いた。


「………分かった、俺がレーダーの場所へ案内しよう」


「おっけー。じゃあ今すぐbeepにかけた身体強化を外して」


 金髪の男は少し怪訝な表情で躊躇う様子を見せる。心中を察したノアクラは弁明をする。


「あぁ、能力解除と同時に殺されるのが怖いのか。安心しなよ、俺の仲間は勝手に殺しはしないし。なんならbeepと合流して一緒に案内してもらって構わないよ」


「……分かった。いま能力を解除した」


「ありがとな、それじゃあ合流しに行くか。前歩いて」


 ノアクラは銃口を向けたままのため、金髪の男は両手を上げながらゆっくりと立ち上がって部屋を出た。そしてノアクラは銃口を向けながら後ろからついていく。


「そういえば自己紹介がまだだったな。俺はノアクラって名前でウェイをやっていた。お前の名前は?」


 歩きながらノアクラは金髪の男に問いかける。


「ノアクラ、か。有名ユーザーだな。…俺は鎖骨というユーザーネームを使用していた」


「鎖骨ね、了解。いい関係性を築いていきたいもんだな」


 ノアクラのその言葉を鎖骨は鼻で笑った。


「銃口を向けたままでか?冗談も休み休みに言え」


 そんな軽口を叩き合いながら、歪な契約関係の二人は一階へと向かった。

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