第四話 『幕開け』
タイマーは残り10分を示しており、未だにチームを作れない人の中には焦りを見せる者、諦めた者、未だに様子を見ている者などが居た。しかし大半の参加者はチームを作れており、順調なゲームスタートを切っているともいえる。
そしてノアクラはウェイワールドランカー。様々な競走ゲームでコミュニケーション能力や洞察力を身につけた強者。更にゲーム序盤でまるという相性のいいメンバーをゲットし、時間にも余裕がある。
そんな優遇された能力と環境を持つノアクラは当然…
死ぬほど焦っていた。
「いやいや本気でマズイって…」
「うえーーーん!もうダメだよぉー!!」
ノアクラは額に手を当てて悩み、まるは泣き喚いていた。世界でも滅亡するかのような雰囲気である。もう既に十人以上に当たっているが、未だにサポートに適しているような人材が見つからない。
「ねぇノアクラぁー!さっきの人でいいじゃん!なんか強そうだったし!」
騒がしくまるは駄々を捏ねる。
因みに"さっきの人"とはノアクラが無差別に話しかけた男の一人のことである。
「ダメだ、命を預ける上で妥協は許されないだろ」
その男はボディビルダーをやっていたのだが、体力面はまるに任せることに決めていたためノアクラは却下した。しかしまるは危機感がないため、非常に不服そうな態度をとっていた。
「でも残り10分もないじゃん!あと一人仲間欲しいんでしょ?」
「いや、たぶん残り2分くらいだ」
まるの言葉をノアクラは否定した。その言葉を聞いてまるはタイマーに目線を移すが、タイマーには09:23と示されている。まるの頭にはハテナマークが浮かんだ。
「すぐに分かる」
ノアクラはそう言い捨て、残り一人を探すために周りを見渡す。そんなノアクラの言葉を聞いたのか、一人の男性が背後からノアクラに話しかけた。
「キミ、タイマーのこと気付いてたんだ。やるじゃん」
「まぁな。お前はもう仲間見つけたのか?」
ノアクラは男の方に視線を向ける。そこには前髪で目が隠れている、パーカーを着た少年がいた。
「無能なヤツらばかりなら一人でもいいと思っていたんだけどね…どうやらキミは中々面白そうだから」
少年はニヒルな笑いを浮べながら口を開く。
「サポート役が欲しいんだろ?それなら僕は適任だよ」
「どうして分かった?」
ノアクラが聞く。
「簡単な話だよ。まず、そこの女は筋肉が引き締まっているじゃん。特に足の筋肉が発達している」
そういって少年はまるの方を指す。
「そこの女じゃないし!私はまーるー!」
そんなまるの自己紹介を歯牙にもかけず、少年はノアクラへの言葉を続ける。
「キミも別に悪い身体付きをしている訳じゃないけど、たぶん裏で操りたいタイプでしょ?そのヨレヨレの服、手入れのない顔と髪、日焼けのない肌…たぶん面倒くさがりな引きこもり。そこからキミが参謀をやりたがることは推測でき、そこの女は前線で戦う人員だと分かる」
ノアクラは驚いた。あくまで推測から推測に繋げて結論を導き出しただけ。それなのにも関わらず、非常に正確な情報をたたき出した少年は明らかに異常だった。
「そして残り一人はどんな人がいいかってなれば、そりゃあ戦場で何かあった時に尻拭いできる機転の利いた人間…つまりサポート役でしょ?」
ノアクラは迷う。目の前の少年は明らかに頭が回る。しかし果たしてサポートに向いているのかが分からないのだ。だが情報を引き出すにも、時間は残り少ない。
刹那の間に考えた結果、ノアクラは答えを提示した。
「…俺はノアクラ。これからよろしく」
そういってノアクラは少年に手を差し伸べる。少年はそんなノアクラの手をとって名乗る。
「僕はエンドロール…エンドロでいいよ」
ノアクラはエンドロを一瞥すると、まるにも手を差し伸べた。
「ほら、まるも」
まるは戸惑いながらもノアクラの手を取った。
「で、でもノアクラ…流石に手を繋ぐには早過ぎない?まだ7分も残ってるよ?」
確かにタイマーには07:19と示されていた。
しかしまるが発言した数秒後に、部屋中に大きくビーーーーーーーーーーーッッッとブザーが鳴り、舞台にはジョーカーが瞬く間に現れた。
「ファーストゲーム終了でございます。参加者の皆様はお疲れ様でした。ブザーが鳴った時点で手を繋いでいない方はチームとして成立しませんのでご了承ください。それでは後ほどメンバー表の記入をお願いいたします」
その言葉を聞いて、参加者からジョーカーに文句を言い出す男が出てきた。
「おいおかしいだろ!7分残ってるだろうが!タイマーよく見ろよ!ほら!」
そういって男はタイマーを指さし、参加者達もタイマーに目を向ける。しかしタイマーにはしっかりと00:00と刻まれていた。
「…あ、あれ?」
文句を言い出した男は動揺し、会場は次第にザワザワと騒ぎ出した。ジョーカーはひたすらニヤニヤとしている。
「ねぇノアクラ、これってどういうこと?」
まるはノアクラに尋ねる。まるは先程までタイマーを確かに見ており、7分以上残っていたことを確認している。しかし現状タイマーは0分を示しているのだ。
ノアクラはまるを諭すかのように語り出した。
「このゲームは終了時に手を繋いでいなければチームとして成立しないんだよな?つまりチームを組むメンバーを決めても、手を繋いでいなければいけないだろ。でもチームは全体的に少ない方が、チームを組んでいる人にとっても、ソロプレイヤーにとっても都合がいい。少なければ少ないほど、チームを組んでいる人ならチームという利点が光るし、ソロプレイヤーなら他ユーザーと同じ条件で戦える。それなら制限時間の目安であるタイマーに細工をする参加者が出てきてもおかしくはないだろ?」
「で、でもどうやって細工を?タイマーに近づいていた人はいなかったよ?」
まるは困惑する。そんなまるの質問に答えるようにエンドロは話し出す。
「たぶん幻覚系の特殊能力かな、対象物を誤認させる感じの。タイマーは正常に動いていたけど、バレない程度にズレた秒針を参加者に認識させた…それも最初から能力を使用して少しずつだから、持続性もある能力だね」
実際のところ、ブザーが鳴るまでに手を繋いでいるチームは数える程しかいなかった。これは要するにゲームを根底から揺るがしたということであり、まさに革命の一手である。
「なるほど…でもどうして二人はそれに気づけてたの?」
まるはノアクラとエンドロに聞く。そしてノアクラとエンドロは口を揃えてこういった。
「「数えてたから」」
最初からね、とエンドロは補足する。数えていた、というのはつまり秒数のことである。それはルールを聞いた瞬間に、タイマーを偽られるという可能性を想定したことによる神業であった。高度な頭脳戦は既に最初から始まっていたのである。
そして補足に続いてエンドロはノアクラに質問をする。
「ところでチームリーダーはどうするの?僕はノアクラでいいと思うけど」
「私もさんせーい!」
ハイハイ!とまるも手を挙げて便乗する。そんな二人にノアクラは少し微笑む。
「ありがと二人とも」
チームのメンバー表を全員が書き終え提出すると、ジョーカーは全体に向けて話し始めた。
「お待たせいたしました。それでは次のゲームに進みましょう…名付けて、レーダッシュゲーム」
ジョーカーがパチンっと指を鳴らすと、参加者の全員が瞬間移動し、景色が真昼間の都会に一変した。高層ビルやお店が山ほどあるのに比べ、辺りには参加者以外の人間はいない。その上、エリアの四方には何十メートルにも及ぶであろう壁が聳え立っており、完全に閉じられていた。
そして何よりも目立つのは、参加者全員の手首にいつの間にか付けられている腕時計型の電子画面である。
「その腕につけられているものはレーダーです。半径50メートル以内にある他ユーザーのレーダーの座標を示します。そして、レーダッシュゲームではそのレーダーを奪い合っていただきます。ゲーム終了時に他チームのレーダーを五つ以上所持しているチームが次のゲームに進めることができるといったルールです。レーダッシュゲームでレーダーを集めきれなかったチームは次のゲームに進めず、次のレーダッシュゲームまでこのエリアで待機していただきますのでご了承ください」
ノアクラは自身のレーダーをまじまじと見ている。
そしてジョーカーは言葉を続けた。
「ちなみに前回のレーダッシュゲームに参加した人もこの会場に残っていますのでお気をつけください。また、レーダーの保有数が一位のチームには豪華景品がございますので、どうぞ最後までお楽しみください」
(豪華賞品か…どんなものなのか気になるな)
ノアクラは心の中でそう呟いた。
「豪華景品ってなんだろ!めちゃくちゃ気になる!」
まるは普通に声に出していた。
「それでは只今よりチームごとエリアの何処かにランダムでワープさせます。それをゲームスタートの合図だと思ってください。ご健闘をお祈りします」
そう言ってジョーカーが指をパチンっと鳴らした瞬間、参加者は全員ジョーカーの周りから消えた。こうして、血の匂いがするゲームの火蓋が切って落とされた。