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Way War  作者: 中国産日本人
第一章 親友編
3/6

第三話 『自己紹介』

 ウェイの身体関連の競走ゲームは、実際に集まって競われる。格闘技から持久走までありとあらゆるスポーツを競い合う大会が半年に一回開かれるのだ。

 その数々の厳しい大会においてほともとは優勝を複数回とりポイントを稼いでいた。数え切れないほどの競技で成績を残すことでワールドランカーになったノアクラとは違い、ボクシングや空手などの有名で優勝しにくい格闘技で一位をとることでくい込んだ"身体能力部門"でのワールドランカーなので、ほともとは何個も競技を習得しているわけではない。

 それでも何千人もの中で勝ち抜いた腕は本物であり、戦いの中で必要とされる頭のキレもほともとにはあった。


 つまり、今こうしてほともとに力が敗れるのも必然なのである。


「どうしてだよ…こっちは能力使ってんだぞ…!」


 ポワはほともとに蹴られた片腹を土下座の姿勢で抱える。そんなポワの頭をほともとは足で踏みつけた。


「俺に傷をつけるとは思わなかったぜ、少しばかりは認めてやるよ」


 ほともとの右肩には、先程の戦いで力に付けられた火傷が痛々しく刻まれていた。

 その火傷を手で押えながらほともとは言葉を続ける。


「けどよぉ、オメェは能力の代償が分かりやすすぎんだよ。炎を使用した後、炎を出した手は使用できないのがお前の制約だろ?炎の使用可能時間は十秒、手の使用禁止時間は五秒ってとこか?」


 ほともとの述べた数値はピンポイントで当たっており、ポワは固唾を飲んだ。


「なら手の使用禁止時間中に、オメェの使用できない手を攻撃すれば良いだけの話だよなぁ?ヒットアンドアウェイが出来ねぇ上に能力ありきの戦闘…それがオメェの敗因だ陰キャ」


 ほともとはより強くポワの頭を踏み付ける。


「ぐ…うぉおおおぉおおっ!!!」


 ポワは咆哮しながらほともとに掴みかかるが、掴む寸前でほともとに顔面を蹴られ二、三メートル吹っ飛んだ。そして力は気絶し、そのまま動くことはなかった。


「格上だと分かっていながらも立ち向かえる度胸、そしてある程度の戦闘センスは認めてやる。だが命を預ける仲間としては不採用だ…さて」


 ほともとはポワから目を離し、辺りを見渡す。しかし周りには北島ただ一人しかいなかった。


「流石にギャラリーは逃げたか。んで、どうしてお前が残ってんだ?」


 その言葉に反応して北島はポケットから紙を取り出し、ほともとに見せつける。能力内容を一読すると、ほともとは少し目を見開いた。


「不本意だけど、俺の能力はお前と相性がいいんだ。本当はお前みたいな性格の奴とは組みたくないけど、俺一人じゃこの先のゲームは勝ち上がれない。だから仲間に申し込むのさ」


 ほともとの口が歪む。笑顔とは言えない狂気に満ちた顔で、北島の肩を組んだ。


「オマエいい度胸だな、気に入った。俺とお前の二人でチームは決定だ。当然リーダーは俺だけどいいよな?」


「異論はないよ。よろしく」


 こうして一番最初のチームが出来上がった。

 周りの参加者達はその様子を見て当然焦る。タイマーに示されている時間は残り45分を切っているのにも関わらず、未だに情報が一つも得れない人間が大半であるためだ。


 しかしそんな中一人、ノアクラは冷静に動いていた。


(俺の能力を使用すれば簡単に情報収集は出来るけど…能力の代償を払うための行動にリスクがあり過ぎる。だからといって保身の為にソロプレイヤーになるのも悪手。確かにソロなら強敵に出会っても逃げやすい上に、行動にも融通が効きやすい。だけど、あくまで俺の目的はカノンの救済だ。カノンの敵が強力である可能性がある以上、真っ向から立ち向かえる力を得なきゃ詰む。つまりチームにはあと二人が絶対に必要だ)


 高速でそんな思考をしながらノアクラは辺りを見渡す。そして視界に入ったセミロングの女性に話しかけた。


「あのさ、ちょっといい?」


「ヒッ!な、ナンパはダメです!」


 セミロングの女性はノアクラの声に過剰に反応する。そんな女性の反応にノアクラは焦る。


「違う!ナンパじゃないよ!俺はノアクラって名前でウェイをやっているユーザーなんだけどさ、実は仲間が欲しいんだ。君はソロでやっていくの?」


 女性は怪訝な顔をしながらノアクラに返事をする。


「…私の名前はまるです。確かに仲間は欲しいですけど、アナタに能力を教える気はありませんからね!」


 まるは声色を強くして言い放つ。この人どうして怒っているんだろう、とノアクラは少し困りながら口を開いた。


「そう、まさにそこだ。このゲームで仲間を作りたくても、参加者同士で警戒している状況だと、自分と相性がいい特殊能力を持つ参加者が誰なのか分からない。だからといって自分から動くにもリスクがある。そんなジレンマに悩まされている内に刻々と時間は過ぎていく…完全に手詰まりだ。


そこでどう?特殊能力のことを一回忘れてみない?」


 ノアクラが何を言っているのか分からないのか、まるは首をかしげる。そんなまるの様子を見て、ノアクラは言葉を続けた。


「ここにはウェイで成績を残した様々なスペシャリストが集められているんだよね。だったら互いの得意な競走ゲームや長所を述べあって、自分と相性のいい特技を持つ人と組めばいいんだよ。特殊能力に関してはギャンブルになっちゃうけど、このまま何もせずにゲームが終わるよりかはいいでしょ?」


 これがノアクラの編み出したゲームの攻略法だった。ほともとのように相手が特殊能力を出すまで攻撃することもノアクラは考えたが、チームワークを大切にするノアクラにとっては悪手である。それならば特殊能力以外に重点を置き、チームの完成度を高めようという考えだ。

 ノアクラの言葉を聞いてまるは「なるほどぉ…」とアホそうに関心する。ノアクラの行おうとしていることは『ただの自己紹介』という当たり前のことだ。しかし特殊能力という大きなアドバンテージが全員に与えられたことで、参加者のほとんどは特殊能力に意識を集中してしまっていた。この先のゲームを左右する要因が特殊能力の強さのみだという先入観によって、『ただの自己紹介』の重要性が意識の外にあったのだ。

 だからこそノアクラの攻略法は刺さる。視野の広さを活かした合理的な解決法なのだ。


「分かった!じゃあ私から教えるね。私はね、こう見えてアスリートだよ!マラソンも100m走もウェイで世界一位!走ることなら誰にも負けないよ!」


 エッヘン、とまるは胸を張る。そんなまるを見てノアクラは驚愕していた。


「いやいや、サラッと凄いこと言ったな」


 まるが世界一位を取った競技は王道中の王道である。つまり成績を残すことは非常に難しい競技であり、その中で世界一位に輝くまるは、ほともととジャンルは全く違うが、一種の化け物であった。

 そしてフィジカル面でサポートしてくれる仲間をノアクラは探していたため、まるは非常にノアクラのニーズに合った相手と言える。制限時間のあるこのゲームで一発目から当たりを引くのは運がいい。よって嬉しみのあまりノアクラは小さく拳を握った。


「次は俺だな。俺は運動以外なら基本的に得意だよ。チェス、オセロ、裁縫、絵画、FPS、大富豪、料理、論争、その他諸々…この先のウェイウォーに使えなさそうなものばかりだけど、一応今挙げたものはワールドランキングTOP10に入ったことのあるものだよ」


 スポーツに関してもノアクラはいくつかの大会で好成績を残しているが、ボードゲームなどの文化系に比べると些細なものである。あくまで総合ポイントでウェイワールドランカーになるために習得した身体能力であり、本業の人と比較するとどうしても色落ちするのだ。


 しかしそんなノアクラに、まるは目をキラキラさせる。


「すごい…!ノアクラって多才なんだね!私ってあんま頭良くないからチェス出来る人とか尊敬する!」


 その言葉に、あまり人から素直に褒められたことのないノアクラは少し照れる。


「…なら、よかったら俺と組む?俺も体力面でサポートしてくれる仲間が欲しかったんだ。それが走ることのスペシャリストなら文句ないよ」


「うんいいよ!よろしくね!」


 笑顔でまるはノアクラの手を握った。もう少し性格を吟味するべきかノアクラは迷ったが、まるの純粋な笑顔を見て無粋だと思い、切り捨てた。人を疑うことを知らなそうなまるに少しの心配を覚えながらも、新たな仲間ができた事に少しばかりの安堵を感じた。


(あと一人サポートが得意な人間が欲しいな…前線でまるが戦い、まるのサポートであと一人…そして後方で俺が指示を出す。理想の陣形だ)


 ノアクラはそんなことを考えていた。後方で指示を出そうとしているのは、決して臆病なのではなく、面倒くさがりな点に起因する。人に使われるよりも人を使い、出来るだけ自分は楽をしたいという傲慢な願いが深く根付いているのだ。


「よし…さて、あと一人も同じ方法で探すか。まる、行こう」


「うん!」


 ノアクラの言葉にまるは大きく頷く。そしてノアクラ達は次の仲間を探すために移動した。

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