第一話『暗がりから暗がりへ』
暗い部屋の中で彼は携帯を見ていた。肌に合わなかったという理由で彼は高校を中退し、今では四六時中あるアプリにのめり込んでいる。
───────『ウェイ』。
一見馬鹿らしい名前だが、名前に目を瞑れば非常に面白いアプリである。様々な人達と交流を築くためのシステムが複数組み込まれており、時間の許す限り様々な人と話せる。
更にユーザー同士で能力を競い合うゲームシステムがあった。審査員が付いたりなど勝負を決める様々な形式があり、競争ゲームは論争、ボードゲーム、画力などの様々なジャンルが存在する。ノアクラはその様々なジャンルの競争で上位になる、いわゆるガチ勢だった。
彼の携帯画面にはウェイと、彼が使っているユーザーネーム『ノアクラ』が記載されている。他ユーザーとのゲームを、いつものように淡々とノアクラは処理する。しばらくすると画面にはオセロの一面黒に染まった盤面と、winという一言が出た。
「…何やってんだ俺」
ノアクラは部屋の片隅で小さく呟く。時々蘇る正気は、齢17歳という若い彼を苦しめるには十分だった。
そんなノアクラが枕に顔をうずめていると、唐突にピロンっと携帯が鳴った。携帯画面には『無害』というユーザーからのメッセージが表記されている。
無害はノアクラのネットで出来た親友であり、いつも通話をしていた仲である。しかしそれは数ヶ月前までの話だ。ある日、なんの前触れもなく無害はウェイから消えた。ノアクラが他のSNSを駆使しても無害を見つけることは出来なかった。よってノアクラはかつての親友からのメッセージに驚きながらも、携帯を手に取る。
「なんだこれ…」
メッセージを開くと、そこにはこう書かれていた。
『何があってもゲームに参加するな』
ノアクラは困った顔をする。それも当然だ、ただゲームといわれても情報が少なすぎるのだから。
『どういうこと?』と無害に返信すると同時に、ノアクラの家にはピンポーン、とインターホンが鳴り響いた。家には誰もいない。時刻は深夜二時を指しているが、親は基本的に出張をしている。つまり一人暮らしなのだ。ノアクラは面倒くさがりながらもドアを開けに行く。
「は〜い誰ですかー」
そう言いながらドアを開けると、そこには赤髪で長身の男がたっていた。タキシードを着ており、まるで何かの司会者のような格好だ。
「夜分に失礼します。私の名前はジョーカー、あるゲームの仲介人を努めさせていただいております」
ジョーカーはノアクラに一礼をする。ノアクラは無害からのメッセージを思い出し、ジョーカーが出したゲームという単語に警戒をする。
「ゲームってのは?」
「ノアクラ様はウェイをご利用ですね。そしてユーザー同士の競争で上位成績を収めています。数あるウェイユーザーの中でも、ノアクラ様の総合能力は上位0.01パーセントにくい込むほどの勢いですね。ノアクラ様のようなオールラウンダーとは違い、専門的に一つの分野でしか成績を残していない人もおりますが、此度はそのようなウェイの有能ユーザーを集めて、あるゲームが企画されました。
その名も『ウェイウォー』。
少々名前は不細工ですが、内容は至って簡単。参加ユーザーには一人ずつ特殊能力が一つ付与されます。ユーザーにはその特殊能力を使用して、様々なゲーム形式の中で殺しあっていただきます。そして最後に残った十名が勝者となり、好きな願いを一つだけ叶えることが出来るといったゲームでございます」
「いやいやいやいや」
どう考えてもやばいゲームじゃん、典型的なデスゲームじゃん、とノアクラは心の中でツッコミを入れる。全く包み隠そうとしないジョーカーに面白さすら覚えはじめた。無害からの忠告通り、参加は断ることにしようとノアクラは決めた。
「そんな危ないゲームは参加しないよ、お断りだ」
そもそも特殊能力だのが胡散臭いのだ。大方、そういって何かしらの犯罪とかに加担させようとしているのだろう。そう思いノアクラはドアを閉じようとしたが、ジョーカーの一言でその手は止まった。
「カノン様が助けを求めていますよ」
「は?カノンも参加…してるの?」
「えぇ」
カノンは無害と同じように絡んでいたノアクラの親友だ。しかし無害とは違って昨日まで普通に話していた。確かに今日はウェイに浮上している様子はなかったが、ジョーカーのハッタリだという可能性も十分にある。
「こちらをご覧ください」
ジョーカーはそのようにノアクラが考えていることを察知し、携帯画面を提示してきた。そこには、全身から血を流しているカノンの動画が流れていた。苦しそうな表情でのたうち回っていた。
「こちらの動画はリアルタイムでございます。本来であればゲーム中のユーザーを部外者に見せることは禁止されているのですが、ノアクラ様はゲーム主催者のお気に入りでございますので特別です…それで、いかがなされますか?」
「クズだな、お前ら」
ニコニコしているジョーカーをノアクラは睨む。
「…わかった、参加するよ」
元々誰にも好かれないような無価値な人生だ。それならせめて、親友を助けるために有意義に過ごそう。そうノアクラは決心した。
「かしこまりました。それではノアクラ様には少々眠っていただきます」
ジョーカーはそう言って指をパチンっと鳴らす。
「!?…これ…は…!」
その瞬間にノアクラは急激な睡魔に襲われ、抵抗も虚しくその場に倒れこんだ。
「ノアクラ様、どうか心ゆくまでお楽しみください」
そんなジョーカーの声と共にノアクラは眠った。