宝物
それは晴天で夏の終わりを感じる日であった。
高校の帰りに河川敷を歩いていると、俺は小学校高学年くらいの男の子に会った。
その男の子はうずくまって泣いていた。
「どぉーしたの?」
俺はそっと声をかけ、その男の子の隣に座った。
その男の子は驚いた様子だったが、しばらくすると話し始めた。
「友達と...ヒク...ケンカしてぇぇ...」
男の子は泣きながら事情を話してくれた。
どうやらあだ名の件で友達とケンカになったらしい。
俺は話を聞き終わってしばらくして言った。
「ケンカして、泣くってことは。仲直りしたいってことだろ?」
「やだよ、もう会いたくない...」
「そうだね、それも道のひとつだ。」
男の子はまた驚いた顔をした。
多分、想定外の返答だったのだろう。
「人は世界に山ほど居るから、自分とは上手く付き合えないような人も出てくる。
そんな人と仲良くする必要は無い。」
少年は黙ったままだったが、俺は続けて言った。
「でも、その子は友達なのだろ?
喧嘩したくらいじゃ縁は絶対に切れなし、
そんな事も全部、いずれ自分の宝物になるから。
蛇足かもしれないが、仲良い友ほどあだ名は酷いものだからw」
「お兄さんのあだ名はなんなの?」
「ハゲ」
男の子はケラケラと笑った。
気づくと男の子の顔からは涙は消えていた。
「明日学校で会うんだろ?
その時にさり気ない感じに仲直りすれば大丈夫だから、
ほら立ちな!」
「お兄さんありがと」
「おぉ、また会った時には!
そうだ、まだ名前聞いてなかったね。
俺は陽太だ、君は?」
「僕は隼人だよ。じゃあお兄さんまたねぇー!」
男の子は走って帰っていった。
その姿を見送った後、ため息をつき家に帰った。
お兄さんに会ってから1ヶ月が経った。
友達としっかりと仲直り出来た事をお兄さんに報告したく、この河川敷でずっとお兄さんを探している。
そんな高校生の会話である事を聞いてしまった。
「自殺とかマジキモイよな」
「それな、黙祷とかさせられたけど陽太とか知らねぇよw」
「あの崖の近く、怖くて寄れねぇよw」
寝耳に水だった。
しばらくの間その場に立ちつくしたあと。その崖に走って向かった。
崖に着くと、そこには花束が飾らられていた。
そして、その前に1人の男性がいた。
「あのハゲ馬鹿かよ」
そう言うと後ろに居る僕に気づいた。
「珍しいな、あいつの知り合いか?」
僕は首を縦に振った。
「そうか、御免な。あいつの死は俺のせいだ」
意味が分からず首を傾けるとその男は続けた。
「俺はあいつと昔からの友達だった。
んで、喧嘩しちまったんだ。
けど喧嘩なんかはしょっちゅうあって、大体は次の日の学校で仲直り出来たんだが、その喧嘩の時には、次の日が無かった。
俺たちは別々の高校に行ったからだ。
あいつはそもそも友達を作るのが苦手だった。
俺の前では周りに明るく接しているのに、いつもはそっと息を潜めながら過ごしていることはお見通しだった。
そんなあいつは高校でも友達が出来なかったのだろう。
学校帰りの生徒の態度、見舞いの数を見れば、それは決定的に明らかだ。
そして、すがる友も居ないとなると....
辛かったよな...」
その話を聞くと、僕は泣いていた。
そして後悔し始めた
あの時、一人で帰ってる時点でこの事に気づいていれば、何か変えれたかもしれない。
泣いているとその男性はそっと頭を撫でで言った
「人生において大切なものは2つある。
1つは宝物を作ること。
友達と遊びに行ったり、ケンカしたり、馬鹿言い合いまくるんだ。
そして2つ目は...
その大事な思い出という宝物を大事にして生きる事。
君もこれから色んなことを経験すると思うけど、
そんなことも全部、いずれ自分の宝物になるから。
だから、こんな所で泣いてないで、友達との大切な時間を過ごしてきな!」
僕はその男性に背を向けて、走り出した。
僕自身を題材にしたとか、してないとか。