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NPCが友達の私は幸せ極振りです。  作者: 二葉ベス
第5章 あの子の感情が花開くまで
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第91話:素材を持ってきた私はメイドが分からない。

そろそろシリアスが近い

「ひーふーみー……素材の数はバッチリだ」

「やった!」


 素材が揃ったのでアレクさんのお店へとやって来た私たち。まぁそれほど時間は経ってなくて、その日の内にもう1回訪問したようなものなんだけど。


「しかしお前ら早かったな。もう数日はかかるもんだと」

「アザレアも手伝ってくれたしね」

「そうなのか?」


 コクリと首を縦に動かしながら返事をするアザレア。実際彼女の功績もなかなかのもので、1/3はアザレアが回収したものだ。もう2/3はツツジのもので、私はと言えば、ほんのちょこっとだけしか素材を手に入れることはできなかった。何たる雑魚。でも素早い敵って対応しづらくて嫌なんだよね。


「確かにちょこっと多かったと思うけど、それでもじゃない?」

「分かってますよ、パーティの足手まといが私なのぐらい……」

「もう、凹まないでよー!」


 ツツジがちょっとだけ背伸びして私の頭を撫でてくる。撫で慣れてないのか、それとも身長差がちょこっとあるからなのか、少しだけ髪の毛がボサボサに荒れてしまう。そのくせちょっとくすぐったいんだから恥ずかしいというか、男の子に撫でられてるみたいで照れてしまう。


「ちょっと、やめてよ」

「あれ、嫌だった?」

「嫌じゃ、ないけど……」

「けど?」

「みんな見てる……」


 アレクさんのお店にたまたま居たお客さんや店主に青髪のメイドが私たちのことを見ていた。正直女の子同士で頭を撫で合うってちょっと友達の感性からずれていなくもない。


「ほう、あれがツツレア……」

「見守りましょう、神は細部に宿るのです……」


 お客さんにキッときつい目で睨んでも、にこやかに笑っているだけで逃げも隠れもしないご様子。や、やめてくれ。それが一番心にキてつらい。


「じゃあ公認ってことで」

「い、いやですー! アザレアからもなんか言ってよ!」

「え」


 ハッと我に返ったように意識を戻す。なに、何かあったの?

 何かは分からないけど、アザレアがなんか考え事をしているなんて珍しい。何か思うことがあったのだろう。なら遠慮なく言っちゃえ!


「いえ、私はふとイベントの素材が2人分だったのかが気になったので」

「どういうこと?」

「レアネラさんも参加なされるのかなと思いまして」

「まーね。ほとんどツツジの手伝いだけど」


 手伝いですか、と1つ小さく声をこぼすと、それ以降彼女が何か話すことはなかった。何がいったいどうしたと言うんだろうか。ツツジに頭を撫でられながら、考えていると小さく、そして確かにアザレアの声が聞こえた気がした。


「…………でしたら、私のお願いも」

「なにか言った?」

「っ! い、いえ。私はそのような立場ではないので」


 ホントに一体何がどうしたというのだろうか。疲れているってわけでもないだろう。てか、そもそもIPCが疲れるなんて表現を使った覚えがない。肉体がないのだから精神的なものしか感じないし、人工知能が疲れというものを感じるのかすら怪しい。

 でも今日のアザレアは妙にツツジのことを見ているというか、剣の捌き方も見様見真似だけど、ツツジに合わせようとしてたし、何より私の好みにあわせようと頑張っているような気がする。気がするだけで、確信は得てないんだけど。

 だからちょっとだけ気になって、私は聞いてみたくなった。


「何かあった?」

「な、なんでもありません! 本当に、なんでもありませんから!」


 でも帰ってきた返答は明確な拒絶だった。何故だろう、私の中で少し揺れ動くものがあった。ズキリと胸の奥で何かが走る痛み。何とは言い難いその痛みは曖昧でぼやけていて、でもハッキリとしっかりと何かが流れたと感じる痛み。私はその正体がわからない。いわゆるショックだったというものなんだろうけど、アザレアがそんな否定をするだなんて考えてなかったのだろう。

 動揺する私はなんとか体裁を整えようと、口をパクパク動かして何か声を発しようとする。何か、何でもいい。なんでもいいから私に何かを言わせてくれ。


「そ、そっかぁ。まぁそんなこともあるよね」


 そうして出てきた言葉は特に脈絡もなく、どんなときでも使える曖昧な言葉で、胸の痛みと同じだなと、私は思った。


「そ、そうですね。本当に何でもありませんから……」

「…………」


 そうやってお互いにぎこちない会話が交わされている中、ツツジはじっとアザレアを観察していたみたいだ。その会話に参加せず、ただじっと表情を見て、何かを感じ取るように。


「そういうこと」

「……ツツジ?」

「ん、呼んだ?」

「いや、なんでもないけど」


 それならいいじゃん、なんてそれまでの真剣な表情とは打って変わって明るい夏の太陽のような笑顔が私に向けられる。まるで何かを誤魔化すようにただひたすらニッコリ張り付いた笑顔が私を見ていた。分からないけど、触れてはいけないんだろうかという不愉快な気分といつもの彼女だという安心感が入り混じった不安感が胸の中でうごめく。

 言うべきか言わないべきか。踏み込むべきか否か。多分それは触れないほうが楽だろう。人間は常に楽な方へ行く習性があるという。だから今日はそれに従った。別に怖かったわけじゃない。今はその時ではないと思っただけだ。


「そうだ! この後なにか食べに行かない?」

「夕飯食べたばっかりじゃん」

「何言ってるの。それはもう4時間前でしょ、おばあちゃん」

「そんな経ってた?!」


 だから私はくだらない話に乗ることにした。今は踏み込むべきじゃないと感じたから。それでも気になりはするので、今度改めて探ってみることにしよう。


「そういえばアレクの奥さんって料理作るの?」

「あぁ作るぞ。とても美味い」

「いーなー、レアもなんか作ってよ」

「ツツジのあれに比べたらなんだって美味しく作れるよ」

「うぅ、やめて……」


 ほらいつもどおり。だからアザレアはそんな顔しないでよ。何かを思い詰めたような内側で何かを必死に隠すようなその態度は、どこか昔のツツジに似てるんだ。あの時の、ゴエモン戦の翌日のあの顔に。

 私は私の好きな人にそんな顔はしてほしくない。できるだけ力になりたいし、なれなくても気が済むなら私にいくらでも言っていいと思ってる。だけど、このタイミングでは言えないわけで。


「アザレアー、なにか作ってー」

「……あ! はい。何にしましょうか」

「炊き込みご飯辺りはどうだ? 秋の味覚を堪能できる」

「いいねそれ! 今日は炊き込みご飯!」


 どこかで何かがずれた日常で、私は生きる。アザレア、何かあるなら私に言っていいんだよ?

本章も3話ぐらいで終わりです

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