第87話:暇な私たちは怖いものは怖い。
引き続きホラー回。
一応ホラー注意です。
私は今、暗くて怖い墓地を《超加速》のスキルで一気に駆け抜けていた。
理由は単純でただ帰りたくて、前に進んだほうがワープゾーンと言うのでダンジョン入り口まで帰ってこれるからだ。
だから私は全力で突き進むし、ビターも必死で腰回りにくっついている。この光景だけ見たらただのギャグシーンだけど、周りがホラーなのでホラーです。
と、くだらないことを考えていたら、体の力が抜けていく。恐らく《超加速》のスキル効果時間が切れたようだった。それまではやぶさのように軽かった自分の身体が急に鉛でも身につけたのかと言わんばかりに重たくなった。この感覚、ちょっと嫌だな。今後《超加速》を使うことはあるだろうから、慣れとかないと。
「お、終わったか?」
「っぽい」
その言葉を聞き入れて、安心したビターが私にくっついていた腕を解く。場所としてはよく分かってないけど、多分最深部まではほど近い場所だろう。
「《ライト》」
プレイヤー全員が持っている日用魔法である《ライト》を唱えると、光の球体がポォーっと光り始め、周囲に明かりを拡散させていく。
周りを見渡してみると、雰囲気は最悪で、ひび割れた壁に土丸出しの天井。床も結構欠けているように見えるし、何よりジメジメしていて気分が悪い。ここはまだ通路の途中なんだろうということが分かる一本道だった。
「敵とか追ってきてないよね」
「まぁ大丈夫だろう。いざとなればレアネラを盾にして逃げればいい」
「それ拷問か何か?!」
冗談だというビターだけど、それだけは、それだけはご勘弁いただきたい。私はこのまま緊急脱出機能を使ってすぐさま逃げるレベルだから。ダンジョン報酬とかいらない。安住の地が、私には欲しいんだ。
「素材もそこそこ回収できたところだ。助かったよ」
「ありがと。私はもう二度と爆走したくない」
やっぱりおばけ屋敷は苦手だ。いつ出るかも分からない恐怖。未知の生命体とのコンタクト。そして何故か脅かすという敵意を示してくる奴ら。特に最後がよく分からなくて怖い。
だって人間さんと出会ったら「あー、オレオレ! オレだけださ! 人間サン? はじめましてーオレ骸骨! カタカタ言わせちゃってごめんねー!」みたいなことぐらいしてもおかしくないと思うのに、創作上で出てくるのは大抵何故か出会ったら即終了。襲われたらそのままお陀仏&仲間入りな世界観だ。まったくやめてほしい。
時々出てくる骸骨やゾンビたちに超絶びっくりしながら、槍で迎撃したり、ビターの弓で射抜いていく。落ちた素材はせっせと回収して、ビターの宝物庫へと投げ入れていった。こんなところで落とした素材なんて、微塵も使いたくなくて、困る。
そうやってダンジョンを進んでいくと、やがて大きく開けた場所へとたどり着く。間違いない、ボス戦だ。
「来るな」
「来ちゃうね……」
そもそもボスをこの2人で戦えるのだろうか。そこはちょっと疑問ではあるけど、やらなきゃやられてしまう。だったら全力で戦うのが吉だろう。
地面がこんもりと盛り上がっている場所がやや震え始める。
固められた土は震えに同調して、徐々にヒビが割れていく。封印されていた何かが今、解放されようとしているのだ。その様子を見守っていると、突如黒い右腕が地面を貫通して現界する。その手は5本の指はつながっていても、纏う肉がなければ、その骨ですら少し欠けているように見える。
両腕が出現すると、自身の体を起き上がらせるように地面に手を付き、力を入れる。現れたのは黒い頭蓋骨でケタケタと笑う骸骨だった。
「ぎゃあああああああ! 出たーーー!!」
「落ち着け! あれは殺せる!」
「何笑ってるのさ! ふざけんな!」
刃こぼれした剣と盾を持ち、骸骨は攻撃を仕掛けてくる。対象は私。振り下ろした剣を私の盾を使って隠れるように防ぐ。
「無理無理無理! 超怖いんだけどぉ!」
「だったらさっさと倒してここから出るぞ!」
「そうは言ってもぉ!」
骸骨の連続攻撃は全て盾で受け止めると、敵はそれを察知したようにまた別の行動を始める。刃こぼれした剣でトントンと叩く。すると地面から這い出るように現れたのは腐った肉の死体たち。これは俗に言う仲間を呼ぶというやつなのだろう。いや、それにしたってホントに悪趣味すぎる!
「そうだ! 奴らは全員かぼちゃだと思え! それなら怖くないぞ!」
「かぼちゃ……っ! ビター天才だ! かぼちゃかぼちゃ」
かぼちゃになんとなく見えてきた気がする。黒いかぼちゃと、身が腐ったかぼちゃが私に向かって歩いてくる。
「やっぱり怖いよ!」
「ダメか……」
最終手段で目をつむりながら、盾を構えて槍で突いてみるけど、当たってる感じがしない。どうしよう、完全に八方塞がりだ。いや、私がおばけ克服すればいいんだけどね。
「……試しに使ってみるか」
「何が?」
「レアネラ下がれ、うちの後ろまでな」
「う、うん」
逃げるようにボスたちから遠ざかる私。ビターの後ろにぴったりと隠れて、その様子を見守る。
ビターの手には魔法陣が手乗りサイズで厚さ薄めで表示されている。有り体に言ってしまえばフリスビーみたいな形なんだけど、それを正面のボスたちに投げ込む。
「《アイテム:疑似高等儀式アブソリュート・ゼロ》!」
魔法陣は骸骨たちを覆うように上空に展開されると、魔法陣から白い粉のようなものが無数に降り注ぐ。ゆっくりと落ちていく雪のようなそれが骸骨の肩に触れる。すると、雪が溶けるのではなく、身体が凍ったのだ。雪のような粉が降り注いだ場所は全て凍りつく。抵抗しようとする骸骨たちだが、既に足場は凍って動けない。身動きのできないボスたちはそのまま氷像へと姿を変えていった。
「ほら、さっさと倒すぞ」
「ビター、今のって」
「後で言う。今は凍結状態の奴らを叩き割ってやれ」
そういうなら、と《連槍》と《アンブレイカブル・リベリオン》を使ってバリンバリンと、ボスだった氷像を壊していく。全部粉微塵に消し飛んだ辺りで、ダンジョンクリアのテロップが表示される。お、終わった。やっと帰れる……。
「さっきのはあれが使ってる《高等儀式魔術》の疑似再現アイテムだ」
「え、なにそれ。すごくない?! 私にも使えたり!」
「いや、これは錬金術師にしか扱えないタイプらしい。それに使い切りみたいだしな」
すごくはあるけど、連発するならノイヤーの方が便利ってことか。使い切りだったらここぞってときしか使えないもんね。
「てことはノイヤーの十八番も?」
「多分な。《カース・オブ・ブレイク》はなかなかの難易度だから、再現できてもアイテム渋るかもな」
「ケチくさい」
「うるさい。こっちだって素材がかかってるんだ」
それはそれとして。ビターは疑似アイテムの話を棚上げすると、ボス討伐の達成報酬である宝箱を開く。私はいらないと思うし、私はワープがあればそれでいいや。
ところで、ワープの魔法陣って緑色の光って表示されると思うんだけど、なんでかどこにも見当たらない。
「ねぇ、ビター。魔法陣は?」
「……ないな」
「ないな、じゃないよ! なんでないのさ!」
「ひょっとしたら、バグか?」
「え?」
バグってあの虫のほうじゃなくて、ゲームの不具合とかの方だよね。今こんなところで出されても超困るんですけど!
ビターが言うには、疑似アイテムを使った影響なんじゃないかって考えているみたいだけど、そんなことより私ここからどう出ればいいの!
「まぁ、来た道を戻るしかないな」
「…………死にたい」
もうすぐ日付も変わろうという時間。私の今日イチで地獄めいた一言が、辺りを支配したのだった。
今更ですが、
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とか言ってみたり。




