第85話:お姉さんと一緒に私はプレゼントを贈りたい。
「ここよ!」
3人でやってきたアクセサリー店はちょっとだけ高級そうなお店だった。
白色を基調としたお店で、店名は上の方に表示されているみたい。何しろ英語で書かれているから私にはどう読むのかさっぱり分からないのだ。
扉とショーケースはガラスになっていて、ショーケースからは店内の様子を見ることができる。飾られているアクセサリーもネックレスやイヤリングなど、幅広く選べるようで、探す側としては嬉しいような、困るような。
「すごいですね、アクセサリーがこんなにも……」
「だったら早くお店の中に入りましょう。中はもっと素敵よ!」
私よりもティアの方がワクワクしているように見えるんだけど、気のせいかな。ティアみたいな女性女性している人なら当然なのかな。私にはやっぱりおしゃれが分からない、私は雰囲気で女子をしている……。
中も綺麗で、アクセサリー1点1点がとても丁寧に飾られている。これを触って見ていかなきゃいけないのは、ちょっと気が引けてしまう。
と思ったらティアは当然の権利のようにアクセサリーに触れてるし。そういうの気にしないタイプか、それとも慣れているからか。
「見て見て、このアクセサリー可愛いと思わないかしら?」
「ティアも買う予定なの?」
「買わないわよ。でも見るだけならただなのよー」
ウィンドウショッピングウーマンであったか。
私も気にせずアクセを探すことにしよーっと。でもアザレアに似合うアクセサリーってなんだろう。前に言ったけど、ネックレスとか腕輪、指輪も割と違う気がする。家事をするんだから指輪を常に外しているだろうし、腕輪も同様。ネックレスは、痛そうってだけ。
「あ、このヘアピンかわいい」
「レアネラさん、なにか見つけましたか?」
「これ! 猫の顔したヘアピン! にゃーお」
ふふ、と私の一発芸に笑ってくれたようだ。
試しに髪の毛にヘアピンを合わせてみるけど、やっぱり似合う。なまじツツジとアザレアって姉妹みたいでそっくりだから、ツツジに合うものはアザレアにも合うんだよね。でもアザレアってツツジより、数歳大人に見えるんだよね。ツツジももうちょっと成長したら同じぐらいになると思うけど、見た目年齢21歳ぐらいかな。私の見立てはそんな感じ。
ということで、これは子供っぽいので却下。あとはシュシュとか。髪まとめるのに便利だけど、アザレアはそのまま下ろしててほしいからこれもないかな。
「こうしてみると、アザレアにこれって言うの、思いつかない」
「え?!」
「え? ……あ! アザレアに似合うものがないってわけじゃなくて」
分かってます。とは言ってるけど、ちょっと表情が暗い。落ち込んでるなこの子。私はよしよし、と頭をなでてあげることにした。彼女の髪の毛はサラサラしていて、髪の太さも細いから撫でている側も心地が良い。頭の天辺から下まで撫でていくと、少しだけくすぐったいような声を出すアザレアがちょっと可愛らしい。
「あらあら……」
「はっ! ち、違うんですよ! アザレアが落ち込んでたから」
「いいのよ、あたしはそういうのも好きだから」
「どういうのですか!」
顔を真っ赤にして怒る私がそんなに面白いのかケタケタと笑うティアにちょっとだけ不満を覚える。今度なにかしてやる。その何かはきっと未来永劫思いつかないだろうけど、なにかしてやりたい。
「ティアは何か見つかったの?」
「大人っぽいアクセサリーなら、イヤリングよね」
そう言って、彼女はイヤリングを一セットつまんで見せてくれた。シンプルなもので、表に該当する部分に小さな宝石みたいな塊が付いている。あとは耳に身につける用のものだけで、基本的にはそれだけ。でも大人なら、こういうのがふさわしいのかも知れない。
試しにアザレアが鏡の前まで行って、耳たぶにそのイヤリングを添えてみる。
「うん、似合ってるよ」
「そうね。あたしの見立てに狂いはなかったわね!」
まさにキラリーンみたいな効果音すら聞こえる気がした。ドヤ顔したい気持ちもわかるけど、今は私がプレゼントする予定だったのに。
「少し大人っぽくありませんか?」
「乙女はこのぐらいオシャレしてなんぼよ。耳元なら髪の毛で隠れてあまり見えないし」
「そんなものでしょうか」
ただ当のアザレアはあんまり乗り気ではない模様。見せる相手もいないし、みたいなことを言ってイヤリングは一旦保留となった。
「難しいわ、アザレアちゃんの好みが」
「そうだねー」
昔だったら、勧められたら多分そのまま身につけてただろうに。アザレアは変わった。もちろんいい方向にだとは思うけど。このままご主人さまの魔の手に引っかかることなく、平和に過ごせたらいいのに。
「ん?」
そんな未来のことを考えていると、とあるアクセサリーが目についた。
黒い首輪でちょうど正面のところには花の形をした銀色の細工が目立つ。試しに手にとってみると、意外と軽い。首輪の部分は革になっているのか、ちょっとやそっとのことじゃ外れないみたいだ。
妙に私の中でしっくりくるので、アザレアを呼んで身に付けさせてみた。
ゲームだから試着モードにして、ボタン一つで身につけることができる。
「おぉ……」
白い肌に黒い革の首輪。そして花形の銀色細工が大人らしさと乙女らしさが混合したように違和感なくアザレアと溶け込んでいた。青い髪ともコントラストが似合っているみたいで、とてもいい。
「ど、どうでしょうか?」
不安そうに私の顔を見るアザレアに私は元気よく返事した。
「うん、似合ってる!」
「本当ですか? そうですか……」
嬉しさを押し殺した彼女の微笑みはとてもかわいらしい。控えめなその笑顔こそがやっぱりアザレアなんだなって思うし、この笑みはきっと私にしか見せたことがないんだろうと思ったら、自分の中の独占欲が刺激された。
あれ、なんでこんな事思ったんだろう。独占欲なんて、そんな事ないのに。
「すみませーん、これ買います!」
「え、先越された?!」
衝撃そうな顔で私を見ていたティアの顔がドンドン悔しそうな表情へと変わっていく。はっはっは、私の勝ちだねティア!
そんなこんなで私たちのアザレアにアクセサリーを買ってあげよう作戦は幕を閉じた。
◇
「ねぇレア」
「ん?」
「アザレアに首輪買ったでしょ」
別に隠す必要もないので二つ返事で事をばらした。ちょっとツツジのテンションが低めだったのと、声色がちょっと怒り気味だったのが気になるところではあったが。
だからツツジと同じように、と付け加えることにした。彼女はそれ以上何も言わなかった。
「楽しそうだね」
「みたいだねー。1時間に1回は鏡を見てる気がするよ」
しばらくしたらやめるだろうけど、買ってからここ数日はずっとそんな調子だった。ウキウキワクワクで、とても可愛らしいと思うんだけど、ツツジはそんな様子がちょっと気に入らないらしい。
「なんか負けた気分」
「なんでさ」
「なーんも。レアがにぶちんで鈍感なだけだよ」
「すごくディスられてるし」
「なら私の告白の返事は『私も好きだよ!』とかになると思うんだよ」
「そのイマジナリーレアネラ、すごくツツジに都合がよさそう」
ツツジが私のこと好きなのは知ってるけど、告白してからというもの憑き物が取れたように私のことを好き好き言ってくれる。一度口にしてしまったから隠している意味もないから、っていうことだろう。
でも隠し事していた頃よりも、そうやって私に好きって言ってくれるツツジが今は扱いやすいし、それはそれで好きだ。私の好きを待っていてくれるし、やっぱりツツジは私に対して優しすぎる。
「ツツジって、優しいよね」
「……私に惚れた?」
「そうじゃなくて。私に特別優しいなって思って」
そうかな、なんてとぼけてるけど、私だってツツジのことは見てる。言わないだけ。だから他の人と私に対しての反応は結構違ったりするんだ。
「それはレアだからだよ」
「私?」
「好きな人に対してだけ優しいのは普通のことじゃないかな」
「そういうもん?」
「レアも私に対しては特別優しいと思うけどね」
私もそうかな、なんて考えてもみるけど、その様子はきっとさっきのツツジと一緒だ。多分無意識にやっていることだから、自分で気づけていないんだろう。
「アザレアにもそう。だから今回はアザレアに嫉妬してる」
ツツジはそう言いながら遠い目でアザレアを見ていた。確かにアザレアにも優しいと思うけど、それはご主人さまとやらに追われているからであって、そんな事微塵も……。
「あ、そろそろ夕飯だ。また数時間後ね!」
「ん。私もログアウトしなきゃなー」
ツツジがポリゴンの破片となってその場からログアウトすると、私もログアウトしようとする。その前にアザレアに一言言っていくかな。
「アザレア、私も夕飯作るからログアウトするね」
「もうそんな時間でしたか。いってらっしゃいませ」
「うん、いってくる!」
願わくば、こんないってらっしゃいとおかえりが言える日々がずっと続きますように。
心の中でふんわりと思いながら、私はログアウトした。




