第83話:修羅場な私はとても気まずい。
ひっそり活動報告でメインキャラ紹介をしてます。よかったら見てね
「レ、レアネラさんは私の友達です。ツツジさんなんかに任せられません!」
「友達は私もだし! いや、私はそれよりも一歩上に行ってるしー!」
ど、どうしよう。私を取り合って戦いが始めてしまった。
こういうときって「私で争わないで!」って言ったら絶対もっとややこしいことになりそうだよね。絶対言わないでおこうっと。
「そもそも、レアが一人ぼっちだったから声をかけたんだから、私が初めての友達だし!」
「うっ!」
「レアネラが胸を抑えて1人でもがいている!」
「このひとでなしー!」
そ、そうだよ。出会いは確かに向こうからだった。元はと言えば私がツツジを見ていたところに机をぶつけて笑われたのがきっかけだった。はっず。
「わ、私はご主人さまから逃げてきたところを、レアネラさんに助けてもらいました。これは運命的だと思われます」
「運命的な出会い。なるほど」
「ヴァレスト、お前面白がってないか?」
バカ2人はほっておくとして、確かにあの出会い方は運命的と言っても過言ではないと思う。倒れているところに手を差し伸べて、それから一緒に行動する。うん、運命的だ。
「そ、そんなの偶然に決まってるじゃん! 言うんだったら私のだって運命的だし」
「そうなのですか?」
「なんでそこで張り合いなく疑問符叩きつけるかなぁ。まいいや。目と目があったら、それはもう2人の間には愛が溢れているんだよ」
「それはないな」
「流石に俺もないと思う」
「ありえませんね」
「ねぇーーーー!!!」
3人に総否定されて悔しがる姿はなかなかかわいらしいけど、それはそれとして私もそれはないと思う。目と目があっただけなら、きっと私だってごまんとあるし、その殆どがどうでもいい赤の他人だった覚えがある。
ツツジって、意外と乙女思想だなぁ。
「と、とにかく! 私とレアの間にはビビッときたの!」
「と言っておりますが解説のレアネラさん。今の心境は」
「友達がそんな乙女思想だったなんて、恥ずかしくて表を歩けません」
「だそうです。引き続き実況ヴァレストがお送りいたします」
いつの間にかヴァレストが黒縁のメガネを掛けて解説していた。
詳しくは分からない。分からないけど、妙にしっくり来るのは何故だろう。ヴァレストからオタク感がにじみ出ているからなのかな。
「私だって、抱きしめられましたし……」
「なん……だと……?!」
「ヴァレストがショートしてる! なんとかしろ、レアネラ!」
「いやだって、あれはほら。その……」
それって友達になった時の話だよね?
え、その話しちゃうの。私、あの時は無我夢中っていうか、嬉しくってつい、といいますか。
「そのくらいレアだったらしますー! 私だってさっきあすなろ抱きされたし」
「あすなろ抱き、聞いたことのないワードです。検索します」
シュルシュルと、久々に脳内をハードディスクが動いている音を出す。AIだからって、別にそんなところまで再現しなくても、というのは前から思ってたけど、なんでハードディスク音なんだろう。
しばらくすると、検索を終えたのかアザレアの頭の中の音は消えていった。
その代わり、彼女の顔がみるみるうちに赤くなっていくのを感じる。
「理解できたようだね。私はレアの豊満な胸の中に抱かれたんだよ」
「なっ?!」
「また成長したっぽいし、今度探しに行こうね!」
「ちょ、っと! 男もいるのにそんな約束は」
「ヴァレストが光になったぞ」
気づけばヴァレストがまた死んでいた。特に気にすることはないけど、面倒なことをしてくれたな、とは少し思うわけで。
「で、ですがそれは後ろからの話。私は正面で抱き合いました。冷たい雨の中、レアネラさんの身体は暖かくて、安心できて、今でもあの感触は忘れられません!」
「お前、どんな激しいことしたんだよ」
「してませんってば! ホントに、その。嬉しくて抱きしめただけです……」
あーもう、私も釣られて恥ずかしくなってきた。もう早いとこ終わって欲しい。
「で、レアはどっちの味方なわけ?」
「へ?」
「私とツツジさん、どっちのほうが好きなんですか?」
「いや、あの……」
まさかそこで私に無茶振りが来るとは思ってなかった。
え、そういう話? てかツツジはこの前言ったよね、好きな人はまだいないって。
「告白したときにも思ったけど、レアは優柔不断!」
「考えすぎとも言います」
「いやだって、そんな。恋ってよくわからないし……」
よくわからないものをどうやって理解できようものか。
歌の歌詞や漫画のセリフならいくらでも読んでみせるけど、そんな胸がキュッとなったり、この人といたら思考がざわつくとか、そんなことなかった、と思う。
「恋。恋とはなんですか?」
そんな事を考えていると、アザレアから突拍子もない一言が飛んでくる。
え、さっきからその話をしているんじゃないの。困惑が思考に追いつかない。ハイペースで周りが過ぎ去っていくのを感じる。助けて。
「あ、あのさ。アザレアってレアのこと好きなんだよね?」
「好き。好意を示しているということですか? それでしたら、好きだと思います」
「そ、それはどういう意味で?」
「好きに意味などあるんですか? 待ってください、検索します」
アザレアが検索している間、思わずツツジとアレクさんと顔を見合わせる。
その顔は信じられないとか、嘘だろとか、そんな驚愕な表情を浮かべていた。
いや、この結果も確かに予想できることだろう。何故なら彼女は私たち人間とは違う人工知能だから。だからって差別はしないけど、時々理解できない場面が出てくる。
「好き とは気に入ること。心が惹きつけられること。だと言います。はい。確かに気に入っています!」
「……あ、あのさ」
唖然とする3人を代表して、ツツジが一言物申す。
「じゃあ、さっきまでの言い合いはなんだったの?」
「……言われてみれば何故でしょうか。何故か胸の心臓部が信じられないほど熱くなって、オーバーヒート寸前でした。俗に言う必死になっていた、ということですか?」
「…………あー、あほらし。マジかぁ……」
ツツジの熱が急激に冷めていくのを感じる。信じられないわけではないけど、呆れてものも言えない、という状態だろう。
その様子を見て、アザレアが不安そうに、自分に落ち度がなかったかと問いかけてくる。
「あー、ないない。強いて言えばアザレアが鈍感なだけだから」
「鈍感……」
「ほら、自分のサンドイッチでも食べなさいな」
口に強引に押し込まれるサンドイッチを最初は抵抗しながらも、口にしていく。
私もそうだけど、アザレアもきっと恋を知らない。でも好きは知っている。いいな、羨ましい。
私だって2人のことは好きだけど、多分あんなに張り合ったり熱くなったりなんてできない。
……いつか出来るといいなぁ、何かを好き狂うことを。




