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NPCが友達の私は幸せ極振りです。  作者: 二葉ベス
第5章 あの子の感情が花開くまで
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第81話:カレーの匂いがした私は料理が食べたい。

飯回

「♪~~」


 もうすぐで夏休みも終わりというところ。

 私はいつものようにエクシード・AIランドにログインして、暇を謳歌していた。

 いや、ちゃんといろいろやることはあるんだよ。夏休み明けの小テストがどうこうとか、家の家事をやらなきゃいけないとか。そんなの色々と。

 でもそんなことは今は後回しでいい。今はこのギルドホームのひんやりとした空間を愛しているから。あー、日陰にいるから、外よりめっちゃ涼しい。最高。


 そんなご機嫌気分で今日の夕飯を考えていたときだった。

 この日のツツジは何故か工作をしている。分からないけど、多分自由研究とか、そういった類のものだろう。もちろん私たちの学校に自由研究なんてものは今更存在しない。

 じゃあ何作ってるんだろう。これは布と糸と、あれは綿かな?


「ツツジ、何作ってるの?」

「んー? ぬいぐるみ」


 よく見れば赤と肌色と、あとはオレンジ色だろうか。どっかで見たことのある配色だが気のせいだろう。今の私の配色だというのは気のせいだろう。

 それはさておき、スイスイと布と糸を縫い合わせて縫合していく姿は、まるで専門の職人みたいで惚れ惚れしてしまう。

 しばらく見ていると、ついに皮の部分ができたのか、綿を詰めて、最後に空いていた箇所を縫い合わせたらはい完成。やっぱり私のぬいぐるみだった。


「ツツジ器用だね」

「昔から指先は器用でさー」


 ワキワキと片手を動かしながら、私を襲うように見せびらかす。変なの。


「てか、そのぬいぐるみは?」

「レアちゃん。この子を抱いて寝るの」

「友達を抱くとか、おっもい」

「大丈夫だって、ゲーム上だけだから」


 なら一安心、なのか?

 私、今得体のしれない恐怖を目の前に表示している気がするんだけど、気のせいかな。気のせいだといいなぁ。


 ツツジは私に好きと伝えてからの愛が重い気がする。

 先日のお泊り会とか、私が許容しなかったら重たいエナメルバッグを持って家の前に放り投げていたところだ。

 私の温情にぜひ感謝してほしいけど、やっぱり今日のぬいぐるみの件は結構胸の底に響きそう。言ってないだけで、実はリアルにあったりしたら、私はどんな顔でその『レアちゃん』を見ればいいのか分からなくなる。できれば知りたくない。


 だから話題を急いで変更することにしよう。

 せっかくだから今日の晩御飯でも聞いてみよう。何か参考になるかもだし。


「ところで、今日は夕飯何にするの?」

「カレーだけど、レア突然どうしたのさ」

「夕飯どうしようかなーって。でもカレーかぁ……」


 万物の基本。インド人が編み出し、日本がそれを元に錬金術したまさしく日本のジャンクフードの1つ。

 スパイシーで匂いをかぐだけでお腹の中がすっからかんになるようなカレールーと、ちょっとだけ水分多めの白米を一緒に食べる。想像すればするほど、今日の夕飯はカレーにしようか迷ってしまうほどだ。というか、今日はカレーにする。


「ならうちに来る?」

「流石にそれは」

「いいよ、大歓迎だから!」


 それは、どっちの意味でなんだろう。実は両親にはもう既成事実として、私とツツジが付き合っていて……。

 いやいや、流石のツツジもそこまではやらないだろう。やらないよね?


「じゃあツツジがカレー作ってくれるなら、付き合ってあげようかな」


 冗談で言った話題だった。カレーだって一から作れば結構時間もお金もかかるし、何よりツツジの料理の話題を一切聞かない。家庭科の授業でさえ、その日いたはずなのに、何故かその時間だけいないという徹底っぷり。

 もしかしたら、料理は下手くそなんじゃなーい、笑笑。みたいなことを考えたことはあった。

 でもその可能性は今日のぬいぐるみを作った手先から感じて、結構上手いと思ったんだ。


 ――ツツジが持っていたぬいぐるみを落とすまでは。


「もちろん冗談だよ? ジョーダン! あはは」


 踏み込んではいけない何かを感じた。

 感じただけで、それが何なのかは分からない。いや、分かっちゃいけない。

 それまで夏のひまわりみたいに元気に笑っていたツツジの顔が、一気に氷点下に急降下。私が察することができなかったら、瞬間冷凍されて、そのまま明日のお昼ごはんのちょっと冷たいおかず、ぐらいになるところだった。


「今、ちょっとだけレアのこと嫌いになりそうだった」

「なんで?!」

「お、冷戦勃発か?」

「アレクさん。と、ヴァレストも、どうしたの」

「暇だったからな。アレクさんと一緒にクエストを終えてきたところなんだよ」


 突然現れた2人の男勢にちょっとだけびっくりしたけど、それより今飛び出したツツジのセリフがちょっと信じられなかった。


「料理の話かー。俺はからっきしだし、嫁が作ってくれるからな」

「お嫁さんいたんですか?!」

「あー、この前言ってたね」

「もう結構長い間付き添ってるけど、アツアツだぜ」


 キラーン、と言わんばかりのおっさんの笑顔は鬱陶しく思ったけど、それはいいんだ。ヴァレストがフッフッフッ、と不敵でうざい企み声を出している。どうしてだろう、この後の展開が手に取るように分かる。


「俺はちゃんと作れるぜ! ハンバーグにカレーに揚げ物!」

「それ、結構簡単なやつじゃん」

「いーんだよ、食えれば何でも!」


 わっはっはと笑う姿に肝が冷える。

 大丈夫だろうか。ツツジ傷ついてないだろうか。

 そんな不安と、何かこれから起きそうな恐怖を胸に視界の片隅にいるツツジを見る。


「…………れるよ……」

「はっはっ……、なんか言ったか?」

「私だって作れるよ! ふざけんな!!」


 あー、ツツジの何か分からない負けず嫌いに火が点いたみたいだ。

 どうしよう。私、こうなったツツジを知らないから、止め方分からない。

 もーどーにでもなれー。


「レア、厨房借りるよ!」


 そう言ってツツジはその場からキッチンへと走り去っていった。

 それはもう《超加速》とも言わんばかりの速さで、料理への苦手意識とか、多分下手くそなんだろうな、とかいう不安から逃げるようにも見えた。


「な、なぁ。俺帰っていいか?」

「ギルマス権限で、ヴァレストにはここに留まってもらいます」

「嫌だーーーーーーー!!!!!!」


 キッチンの方からめちゃくちゃガチャガチャと音を立てている。

 私はというと、あとでアザレアに怒られるだろうなぁ、と現実逃避していた。

 アレクさんはまぁそんな大事にならないだろう、と高をくくってナイフを磨いている。

 ヴァレストは、今から処刑台へ行って、首を落とされますよ、といった絶望の表情で机に首を差し出している。そこまで本格的にしなくてもいいのに。


「ぎゃー!」


「えー。強火でいっか」


「隠し味は~……」


 料理は科学である。誰かが言っていた言葉だ。

 その出来上がった調理方法と言う名のレシピは、きっと誰かが1つ1つ丁寧にノートなんかに書き出しながら、作り上げた奇跡。

 順番や投入する調味料の量は、美味しいという結論を生み出すために計算尽くされた、まさしく努力の結晶である。

 私たち凡人は、それをレシピ通り作れれば、美味しく作ることができるんだ。


 でも「天才」たちは違う。

 彼らは自ら編み出した目分量とお得意の直感で、レシピを錬成する。

 錬金術と科学は違う。科学は積み重ねた結果を提示してくれるが、錬金術は時に何故か上手く作れたり、時には爆発する時だってある。ビターが言っていた。

 天才たちは錬金術をする。


 ――そして完成した料理の9割は、爆発による失敗だ。


「できたよー」

「お、グリーンカレーか。上手く出来てるじゃねぇか。いただきま~す」


 男はスプーンを手にとった。藻みたいに緑色に濁ったルーと思われるものに手を付け、ご飯と一緒に口の中に入れた。


「それチャーハンだけど」

「「え?」」


 アレクさんと口を揃えて意外すぎる返答に慄いた。

 その無慈悲で理不尽な言葉を、きっと数秒前、いや。数コンマ秒前に聞いていれば、目の前でヴァレストがスプーンを落として、悶え苦しみながら光に消えていくことはなかっただろうに。


「「え?」」


 目の前の光景にアレクさんと二度目のシンクロを果たす。

 皿に盛られた普通盛り程度のカレーもどきが私たちをせせら笑っているような気がした。


 ――ダークマター。


 噂では聞いたことがあった。よく創作世界のメシマズヒロインがその魔の手で作り上げるこの世ならざる存在。

 理解してもいけないし、食べてはいけない。だが、それを差し出されたら最後、食べなくてはいけない。そんな魔の料理。

 ダークマター。それがメシマズヒロインの二つ名だ。


「……やっぱ私、料理作らないほうがいいんだ」


 元気が取り柄のツツジはどこへやら。今は部屋の片隅でダンゴムシみたいに丸まっている。

 落ち込ませるのは簡単だ。きっとツツジだって分かっててこの結果にたどり着いたんだ。

 何でもできるツツジの唯一の弱点。それは料理だった。

 彼女の中には絶望や後悔という言葉が脳を埋め尽くしているに違いない。

 あんなに落ち込むツツジの姿を見たのは、まぁ2度目だけど、容易に見たくないものでもある。


 私だって、ツツジのあんな顔を見たくない。

 私の中で思いつく全てのツツジが元気になる手段を考えた。

 考えた末に、私はヴァレストが落としたスプーンを拾い上げる。


「レアネラ、何をしようとしているんだ?!」

「……この世界はゲームなんだよ」

「だからって精神ダメージは……ッ!」

「分かってるッ!」


 その叫びに気づいたツツジがこちらをゆっくりと振り向く。

 酷い顔だ。今にも泣き出しそうなほど、歪んだ表情をしている。

 だけど、私だってそんな顔のツツジはもう見たくない。


 私は極力、そう極力最大限の笑顔パワーをひねり上げて、ニッコリと笑う。


「いただきます!」


 これは聖戦だ。

 私が食われるか、私が食べきるか。勝負だグリーンチャーハン。

 お前の皿の上に、完食という二文字を刻んでやるッ!!


「ありがとう、レア……。ますます好きになっちゃった」

《折れぬ闘志が発動しました》


 私は光となって消えた。

 お皿の上にはカレーのルーと思われたもので完食とデカデカと刻んでやった。

 はっは、ざまぁないよ。


 なんせわたしは、不可能を……可能に…………。


《レアネラが死亡しました》


 私の名前を呼ぶツツジの叫びが聞こえる。

 私、やったよ。やったんだよ。

 これで、ツツジ、笑顔になってくれたかな?


 …………



 ……



 最後に1つ良いかな。




 めっちゃまずかった。

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