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NPCが友達の私は幸せ極振りです。  作者: 二葉ベス
第5章 あの子の感情が花開くまで
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第80話:悪役魔嬢のわたくしはあれと2人でいたくない。

「ありがとう、じいや」

「では……」


 パタンと、静かに閉められたドアを見るなり、わたしはベッドに座って窓から夜空を見上げる。

 多分数十分前のことだろう。わたしはレアネラとツツジと思しきリアルと出会った。

 レアネラは髪の色を変えているだけ、ツツジはそのまんまの見た目をしていて、VRMMO特有のなりたい自分になる、という概念がまるでない。

 だからすぐに見つけられたんだけど、まさかあそこまでそのまんまだとは思わなくて、心の中で笑っていた。


 まぁでも、今日のは本当に助かった。

 実は、なんて言うつもりはなく、わたしはあそこで迷子になっていた。理由は久々の学校以外の外にはしゃいだから、っていう子供らしい理由。

 ノイヤー家の次期当主になるわたしが、何故そんな子供っぽいことをしていたのかは分からない。だけど胸がそうやって踊ったからしょうがないんだ。


「でも、あの2人といる間は、結構強気でしたわね、わたし」


 ネットのわたしとリアルのわたしは相当違う。

 強気なネットに対して、わたしはというと一時期学校に行けなかった程度には人見知りをしていた。

 人が怖くて、わたしを見る色目が怖くて仕方がなかった。

 次期当主になるのだから、とかなりきつめにお稽古事をされた結果が成果として現れたのだろう。知らないけど、鬱憤は爆発するものだと聞いたことがある。

 気づけば、お稽古事には行かずにドアに鍵を閉めて、心を閉ざして、何もかも見ないようにした。

 社交界デビューなんて夢のまた夢。決してありえない話だと思っても、無理やり連れて行かれるのがやっぱり怖いから、より引きこもりの生活が加速していった。


 結果として出来上がったのは自堕落な箱入り姫。せめて朝起きて夜寝る生活は送っていたけど、だいたいはネットかゲームかのどっちかだった。

 そんな時に手に入れたVRMMOはわたしを変えた。

 お父様が言う、なりたい自分になれる、という売り文句にわたしは惹かれていったのだ。

 こんな私でもお父様やお母様のお役に立ちたいとは思っていた。だから迷わずゴーグルを身につけてダイブした。


 臆病な自分を変えるために、強いわたくしになるために。


 ◇


「あら、レアネラとツツジは居りませんのね」


 時間を空けてギルドホームにやってきたけど、そこにいたのはビターだけ。しかもお茶を飲んでゆっくりしているときだった。


「げっ」

「なんだそのセリフは。うちの方が嫌な顔をするべきだろ」

「嫌な顔に特権なんてありませんわ! それよりレアネラとツツジはどこに?」

「あぁ。ツツジが『今日は泊まりだからログインしないからー』って言ってたな」

「お泊り会……」


 リアルで見たレアネラとツツジが夜に一緒にいた理由がこれでようやく分かった。あの2人は今日お泊り会でしたのね。いいなー。わたくしもやってみたい。

 妄想の中に何故かビターと夜中までゲームするという構図が浮かんだが、さっさと消しゴムで消す。想像してた相手が違う。わたくしはもっと親しい間柄の人とお泊りしたいのですわ。


「いないなら特にログインしている理由はありませんわね」

「ん。ログアウトするのか?」

「今日は2人にお礼が言いたかったところですから、さっさとログアウトしてゴーストオブシマズでもしますわ」


 最近発売したゲーム。なにやら和風の雰囲気がとてもいい和ゲーらしく、評価が高いらしい。わたくしは西洋派の人間だけど、日本のサムライにも興味があるのだ。だから迷わずログアウトするはずだったが、ビターが待ったをかけた。


「なんですの?」

「今日はキミを待ってたんだよ。ほら、座りなよ」

「……ホント、今日はなんなんですの」


 脳内で繰り広げられるビターとのゲームも不愉快極まりなかったが、今日の改まった彼女の態度も、それはそれで気に入らなかった。

 いいじゃないの。しばらく付き合って差し上げますわ。

 今はアザレアがいないからお茶は自分で汲むしかない。ですがわたくし、こう見えても紅茶にはうるさいのです。自分でお茶を入れて嗜むこともあるのだから、それ相応のこだわりがあってよ。

 いつもより丁寧めに入れた紅茶は、それはそれは芳しい香りで、やはり自分が入れた紅茶こそが一番だと自覚できる。わたしの数少ない才能の1つだとも思ってる。


「それでなんですの、急に改まって」

「…………まぁなんだ。アップルパイでも食べるか?」

「気遣い無用ですわ。施しを受けるなんてありえません」

「……うちなりの謝罪のつもりだったんだがな」


 本当にどうしたんですの今日は。これが謝罪だなんて、明日は槍でも降るんじゃなかろうか。できれば家に突き刺さらない方がいい。


「この間な。高等儀式魔術を再現できるレシピを見つけたんだ」


 高等儀式魔術の再現レシピ。なるほどね。わたくしの中で納得がいった。

 誠に不服ながら、アイテムと魔法の実力差は恐らくほとんどないと思う。

 岩盤障壁に対応する魔法もあれば、ファイアエフェクトに対応するアイテムもある。

 なら、高等儀式魔術に対応したアイテムもあるだろう。わたくしはそう睨んでいた。本当にあるとは思ってもみなかったが。


「キミの十八番を再現できるレシピがあると気づいてね。それを作れば、キミの株を潰してしまうと思ったんだ」

「それで、謝罪ですの?」


 コクリと、小さな顔が縦に揺れる。

 それを見た途端、わたくしは心の底からの深い溜め息をビターに浴びせた。

 まったく、なんなんですの。律儀のバケモノなんですの?


「別に、わたくしは一切構いませんわ」

「だがそれでは」

「高等儀式魔術はわたくし1人のものではありません。みなさんが使って初めてわたくしの勝ちでしたの。だから誰が使おうだなんて、そんなの他愛ない話ですわ」


 それにらしくない。ビターはもっとわたくしに対して堂々としていればいい。

 もっと邪険にあしらってくれないと、張り合いがないんですの。

 わたくしはさも面倒くさそうにそれを言う。張り合いがないビターなんて、存在価値などないのですから。


「……まったく、キミというやつはつくづく」

「なんですの、ケンカなら買いますわよ」

「呆れているんだよ。うちがこんなに下手から出てやったのに、キミは真面目な顔で……。まったく煽り甲斐がない」

「なんですの?! 表出やがれですわ!」


 いつものように大げさなくらい大きな声で反論を重ねる。

 ビターもノッてきたのか、その減らない口をどんどん回していく。

 まったく。これがわたくしの日常なんだと思うと、ちょっとだけ口元が上に向いてしまうのだった。

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