第8話:食欲旺盛の私はそれでも諦めきれない。
獣狩りの夜、決着
明らかに格上の敵を倒すため。
あれやこれやと作戦を練った結果、出てきた答えはこれだった。
「罠?」
「非力な人間が獰猛な野獣に対しての有効的な手段の1つとして、罠を仕掛けましょう。身動きが取れなくなった相手にダメージを与え続ければいずれ勝てるはずです」
「なるほどー」
畑を荒らす熊やイノシシを撃退するのに、何も武器で制圧するだけが狩りじゃない。罠を予め仕掛けておいて、かかった相手を狩猟する。リアルでもやっていることだけど、一般人である私にとっては馴染みのないことだった。さすがアザレアだ。
「ちなみにレアネラ様は罠の知識は?」
「お恥ずかしながら、落とし穴ぐらいしか」
肝心の私の知識が乏しいばかりに……。
仕方ないって。一般人の罠の知識なんて、ふんちゃらの森にある落とし穴のタネぐらいしかないでしょ、普通は。
「落とし穴でしたら、スコップと蓋をする木材があれば……」
「スコップに木材かー……」
手持ちのアイテムにそんなものはなかった気がする。なにか代用できるようなものがあれば……。蓋をする木材でスコップにもなりそうな、そんな便利な……。
「これだー!」
「レ、レアネラ様?!」
私は盾を持ってこう叫ぶ。これほど適した木材は絶対にないと信じるぐらいには。
◇
「よし、こんなもんかなー」
盾を使って、私の2倍ほどの穴を掘っておく。これだけあれば熊が登ってくることもないだろう。ただ不安なのでもう一回りぐらいは掘っておこう。
「えっさらほいさー! どどさらどいさー!」
盾で土を掘って、上に放り投げてー。掘ってー、放り投げてー。
「……これ、どうやって戻ろう」
熊ですら登れなさそうな縦穴なのに、私が登れるわけもなく。手に持っているのはスコップ代わりの盾と、刃物である槍……。
これは、そういうことなのだろう。だ、大丈夫。これはそういう実験。自害とかできるのかという実験なんだ……ッ!
「はっ!」
「おかえりなさいませ」
幾度かのおかえりなさいませが心に沁みる。今回は自害してきただけなんだけども。
ともかく死に戻りは成功。盾も槍も無事だし、縦穴も後で見に行くと、ちゃんと出来上がっていた。よしよし、準備は着々と進んでいる。後は盾を蓋代わりにして……。ごめんよぉ、盾くん。後でちゃんと綺麗にするから。
土で盾が落ちない程度に隠すと準備は万端だ。
「さぁ来い熊さん! 私が相手になってやる!」
もう何十回かの対面となる熊を見つけると、私はその足で走り始める。
ちょっと前に聞いたアドバイスである、熊は人間を見つけると追いかけ続けるという特性を生かして、罠の方まで誘導する。
「鬼さんこちらー、手の鳴る方へー」
パチンパチンと手を鳴らしながら、私は走る。正直穴掘りやら、数十回にも及ぶ探索で足はボロボロなんだけど、熊鍋への食欲がそのすべてを支えてくれる。
イケる。今の私なら何だってやれる気がする!
後ろを見ると、猛ダッシュでこちらに追いつこうと、両手を広げて熊が追いかけてくる。もう少し、後少しだ。クタクタな足を奮い立たせて、罠の場所まで走っていく。
「もうすぐ!」
熊が雄叫びを上げると、更に速度を上げてくる。まだ体力あるの?! 動物さん怖っ!
「ひぃ! もう少し速度緩めてよー!」
走る私。追う熊さん。その距離は徐々に縮まっていく。本当にやばい。落とし穴まであとちょっとなんだってば! もうちょっと緩めて! ハリーアップ! いや、それじゃあもっと走れじゃん! 私が走れよ!
「うー、ここだぁ!」
ついに現れた落とし穴を飛び越すように、向こう側にダイブする。熊さんは盾が割れる音とともに、巨大な縦穴に吸い込まれていった。
「やった? やったー! へっへー、ざまぁみろー!」
熊が這い上がろうと勢いよく縦穴を登ろうとしてきた時はびっくりしたが、槍でチクチクと刺していると、そのまま落ちていく。
これを繰り返していると、熊のHPがどんどん減っていき、やがて熊は力尽きた。
データの破片のエフェクトとなった熊さんは私の中へと吸収されていく。
《レベルが上がりました》
《称号【将軍殺し】を手に入れました》
《熊肉を手に入れました》
《クエストをクリアしました》
「やった熊肉! あと称号って、昨日アザレアが言ってたやつだっけ。後で確認すればいいや! 早くキャンプに戻って、アザレアに作ってもらおー」
あ、アレクさんも呼ばなきゃ。ふふ、熊鍋楽しみだなー。