第75話:勝った私たちは打ち上げがしたい。
「やっっっっったーーーーー!」
「レア、ハイタッチ!」
パチンと手のひらを2人で鳴らす。鳴らした音はちょっと痛いけど、その痛みも今は嬉しかったりする。
大ボスを倒して、お金やアイテムが懐に収まる。中身は大したことはないけど、お金は結構なものだった。これで新しい武器を買えってことだろうか。流石にそろそろ防具も新調したいんだよね。
あっと、それよりお礼を言わなきゃいけない相手がいるんだった。
私は茶色い髪をした騎士の前に立つと、今日のお礼を告げる。
「さっきはありがとね、熊野」
「なんてことありません。誰かさんのせいでいつもやっていることですので」
ちらりと横目でティアの方を見て、鋭い眼光で睨む。これは相当ストレスが溜まってるんだろうなぁ。なんて思ってはいる。
視線に気づいた肝心のティアはそんな事つゆ知らず、手を振ってニコニコ笑っていた。おぉ、なんという心の強さ。私、感服してしまう。
熊野も割と不服そうな雰囲気をしているけど、表情が笑顔だからなんだかんだティアのこと好きなんだなって思ってしまう。相思相愛っぽくて、かわいいな。
「何ニヤニヤしてるんですか」
「いーや、なんでもないよー」
「まったく、なんなんですか……」
不服そうにしている熊野もかわいい。ティアの気持ちがちょっと分かった気がした。
そういえばスキルチケットがもらえるとか言ってたのに、まだアイテムが来てない気がする。どこにあるんだろう。メニュー画面か、アイテム画面に勝手に入ってたり、はしてない。どこだ?
「レア、何してるの」
「スキルチケット、どこでもらえるのかなって」
「そりゃメール画面でしょ。何言ってるのさ」
「メール?」
そういえば倒した後に通知が来ていた気がする。開けてみると、確かに運営からのメールが1件。中身はシャークラーケンを撃破した際の報酬として、スキルチケットが1枚届いていた。
「ホントだ、届いてる!」
早速チケットを受け取って、スキル選択画面まで飛ぶ。
目的は《超加速》のスキルなんだけど、その前に色々見ておきたいよね。えーっと《サイコキネシス》に《ロケットパンチ》。《光の結界》など、多種多彩のスキル群。これはちょっと迷ってしまうのも無理はない。
でも私が選ぶのは夢の《超加速》。突進して、相手を轢き殺したい。そのためだけに私はこのクエストに挑戦したんだから! えいっ!
《超加速を取得しました》
「よっし! 超加速げっとー!」
「本気だったんだ、それ」
本気も本気だよ、何いってんのさ。早速使ってみたいけど、それは明日以降のお楽しみってことでいいか。
スキルを手に入れてホクホクだった私たちのもとに、ティアが歩いてやってきた。
「くまちゃん、そろそろ時間じゃないかしら?」
「え、もうそんな時間ですか」
「なにかあるの?」
「くまちゃんの家、真面目だから10時以降はゲームで遊べないのよ」
「門限みたいだ……」
そうですね、なんて熊野は言いながら、メニュー画面を操作する。
ログアウトボタン直前までやってくると、指の動きをふと止めて、私たちの方を向く。
「あの、また遊んでくれますか?」
「……どうしたのさ」
「どうもありません。私たちはいわゆる臨時のパーティです。なのでこのイベントが終わったら、と思うと」
ちょっとだけ物悲しそうな表情を顔に出しながら、うつむきがちに口にする。やれやれ、熊野も堅物だけど、こうやって素直な気持ちを口に出してくれるから嬉しい。だから私も口に出すことにした。
「もちろん、また遊ぼうよ! 今度はPVPでもクエストでも、ダンジョン攻略でも!」
「っ! あ、ありがとうございます!」
「よかったわね、くまちゃん」
「はい!」
その笑顔は私が知り合ってから最も輝いてた気がする。ひまわりみたいにパーッと光って、見るもの全てに笑顔が伝播するような、そんな素敵な笑顔。だから私もツツジも、ティアもみんなみんな笑顔になった。
そうやって熊野はお礼をした後に、ゲームをログアウトした。
「なるほどねー。ティアが惚れるわけだ」
「ちょ、ちょっと!」
「え、ティアって熊野に惚れてるの?」
「そ、そんなことないわよー?」
下手な口笛をひゅーひゅー吹きながら誤魔化そうとしてるけど、それ意味ないからね。ツツジはニヤニヤしてるし、いつの間に仲良くなったんだこの人たち。
「そんなこと言ったらあたしもツツジちゃんの秘密を言ってあげようか?」
「テ、ティア!」
「ふふ、じょーだんよ。じょーだん」
口元は笑ってるけど、目が笑ってない。怖い。超怖い。思わずツツジもガクブルしてるし。かわいそうに。
でもツツジの秘密も気になる。もしかしたら私を好きっていうことだろうか。それはそれで、なんか私まで恥ずかしくなってしまう気がする。なので、話を変えることにした。
「ツツジとティアはスキル、何にするの?」
「攻撃系かなぁ。回避系はいっぱいあるし」
「あたしは回避系ね。ツツジちゃんの鬼神の如き強さに、お姉さんびっくりしちゃったもの」
「えへへ、ありがと」
あれはホントにすごかった。まるで攻撃全てが避けていくよう、なんて表現をしても過剰ではないだろう。特に振り下ろした触手を1本1本丁寧に避けていく様はアクション映画としても映える代物だろう。あれだけできればハリウッドデビューも夢じゃない。
「最後のスキル、あれなんだったの?」
でも最後に気になったのはあのスキル《無中のカウンター》だったっけ。あれがホントに意味不明で。通常のツツジの打点ではあの威力は出せない。せいぜい頑張っても2割削れたらすごくいい方だろう。でもあれがほぼすべてのHPを刈り尽くした。だからあれが異常すぎるんだ。どんなステ振りしたらそうなるんだか。
「あー、あれね。秘密」
「えー?!」
「いつかレアと戦う日が来たら、嫌じゃんネタが割れてるの」
「……まーね」
できれば来てほしくない。というかもう二度と戦いたくない。攻撃の厄介度、あれだけの攻撃力を加味して、ツツジとはゲーム内ではできるだけ穏便な関係でありたいものだ。
「おーい、そろそろ行くぞー!」
「アレクさん、ちょっとまっててー」
そんな会話を知ってか知らずか。まぁ聞こえてないだろうけど。アレクさんが大きな声で呼びかけてくる。確かにいい加減ここでもたついているのも時間の無駄かもしれない。
「ティアはどうする? この後打ち上げっぽいけど」
「そうね。お誘いは歓迎するけど、遠慮しておくわ」
「そんな遠慮なんていいのに」
「そうだよ。ティアだって私たちのフレンドなんだから!」
「まぁ、そう言っていただけるのはとても嬉しいわね。ギルドメンバーじゃないけど、よくしてくれる?」
「「もちろん!」」
ツツジと顔を見合わせて、親指を上に立ててGOODポーズを取る。そんな息ぴったりな姿がツボに入ったのか、ティアが吹き出すように笑う。そんな面白かった?
「あーほんと。くまちゃんを見つけられてよかったわ」
「そうだねー」
「どういうこと?」
「秘密よ! ほら行きましょう?」
手を引っ張るようにして、私はツツジとティアに連れていかれる。待ってって言ってもそんな事お構い無しでぐんぐん引っ張っていくんだから、ホント強引だなもう。
そうして私たちはイベントの打ち上げをヴェネチードのレストランで行った。そこでの食べ物はすごく美味しかったし、みんなとの会話もとても楽しかった。
でもそんなことより気になったのは、ツツジが妙にソワソワしていたこと。頻繁にティアと内緒話してたりして、声をかけても何も言ってくれない。いったいどうしたっていうんだろう。
なんか、胸の中がザワザワして、ちょっと嫌な感じがした。なんだろう、この感じ前にも感じたことがある気がする。
次回で4章も終わりです




