第74話:合流する私たちは大ボスに勝ちたい。
ボス戦!
ツツジの新スキルも炸裂です!
鮫タコの鱗を手に入れた私たちは、手はず通りに教会へと戻ってきた。
すると、私たちが最後だったのか、他の2組が既に戻ってきていたみたいだ。
「余裕でしたわね!」
「いやそんなことはなかったぞ……。あれは険しく苦しい道をただひたすらに……」
「そんな事してませんから、少し静かにしていてください」
「あっはい」
しょぼーんと意気消沈するヴァレストに草を生やす。酷くね? などといいながらも、一緒に笑っている彼はきっといい人だろう。そんなこと前から知っていたけど。
「ツツジの方も?」
「もっちろーん」
「一時はどうなるかと思ったがな」
「どういうこと?」
「まぁそれは後ででいいじゃない。お待ちかねのボス戦に行きましょう」
それもそうか。私たちは教会を後にすると、ボスが現れるポイントである海辺にやってきた。ザザーンザザーンと波の音が静かに鳴り響く。
ホントにこんなところでモンスターが出てくるのかな。正直怪しいところだけど、やったみないことにはわからない。
えーっと、説明には……。
『時は来た……』
「うわっ!」
「どうしたの、レア」
ほんっと、急に《天命》が来るからびっくりしちゃうんだけど。ねぇこれホントにつけてなくちゃいけないかな。確かに雷魔法使いたいんだけど、この急に来る《天命》にビクビクしながらプレイしなくちゃいけないのきっついんだけど。
しばらく考えた後、私は【将軍殺し】に称号チェンジした。やっぱり私には《天命》の荷が重すぎる。
鮫タコの鱗を手に持つ。どうやらこれと残り2つのアイテムを天に掲げる必要があるらしい。
「準備はいいかしら」
「全体バフかけるからちょっとお待ちくださいまし。《オールアップ》!」
「こっちは鮫タコの歯ね」
「俺のは鮫タコの皮だな。いったいどんなのが出てくるんだか」
逆にその鮫タコってのはどんなものか気になってくる。スクショとか撮ってみても悪くないかな。なんて思っていると他の2人はもう掲げていたようだ。私も忘れずに掲げると、3つのアイテムから光の柱が生み出される。柱は海上の方へ伸びていき、そしてフッと消えた。
「ど、どうなってるの?」
「レア、熊野! 盾構えて!」
「へ?」
私が間抜けな声を出したその時だった。突如周りからBGMが流れる。それはまるでサメ映画を彷彿とさせるタイプのBGM。今からサメが現れるっていう、その兆候。
慌てて盾を海辺に構える。するとどうだろう。海から触手が2本飛んでくる。対象はツツジとティアだ。
私の頭上を通り過ぎ、2人を海に引きずらんと掴もうとしてくる。
ツツジは前に前進して回避し、事なきを得る。だがティアはというと、避けきれず、触手が足に絡まる。
「やばいわね」
「落ち着いている場合ですか!」
「ったくしょうがねぇなぁ! 《聖剣抜刀》!」
ヴァレストのとっさの機転で引き抜いた聖剣で風を起こす。風は刃となって、ティアを掴んだ触手に直撃、亀裂が入って血のようなデータが噴出するエフェクトが発生する。
「今のうちだ!」
「《スラッシュ》!」
ティアの斬撃が触手にヒットする。掴まれていた足がゆるくなっていき、そのままティアの足が解放。触手は引っ込んでいった。
そして、それを待っていたがごとく、海辺の方からヒレが一本近づいてくる。鮫タコってもしかして、そういう?
高らかにボス名がウィンドウ上部に表示される。その名もシャークラーケン。
「シャークラーケン」
「そのまんまかよ!」
「名前に突っ込んでいる場合じゃない、来るぞ!」
大きな口を開けてこちらに迫ってくる。間違いない、こっちを食べようとしている。慌てて盾を構えて、スキルを宣言する。
「《ブロック》!」
ガゴン、という分厚い音ともに衝撃波が盾を超えてこちらまでやってくる。これはいつぞやのゴーレムパンチと同じぐらいやばいかも。
「《視線集中》!」
「熊野?!」
もうひとりの騎士である熊野が《視線集中》でターゲットを独り占めする。
「大丈夫です。これでも私は強いので」
「そうよ、なにせあたしをかばっているんだもの」
「それはあなたが前に出るから仕方なくそれより前でなくてはいけなくて」
「痴話喧嘩なら後でにしてくださいまし!」
体当たりに混じって噛み付く攻撃が熊野に襲いかかる。だが、確実に最大のインパクト部分を避けて、最小限でブロックしている。すごい、あんな芸当できるんだ熊野って。
「見惚れてないでこっちも攻めるよ、レア!」
「わ、分かってるって。《エンチャント【雷電】》!」
腕から魔力を吐き出して槍に雷の属性を付与する。バチバチと震える矛先はシャークラーケンに向ける。こいつは絶対雷弱いでしょ。
「足を止める。《投擲》《茨の牢獄》!」
「そしてわたくしが攻撃ですわ! 《ライトニングブラスト》!」
触手に茨が絡みついて身動きが取れなくなったシャークラーケンに対し、ノイヤーの雷撃砲が決まる。やはり効いているみたいだ。なら遠慮は無用。
「タゲ集中切れました! レアネラさん、お願いします!」
「りょーかい! 《視線集中》!」
盾を叩いて、今度は私の方にターゲットが集中するように仕向ける。だけど私の前の人間はそんな事お構いなしで攻撃しまくっている。
「ツツジ! そんなに攻撃したら……」
「だいじょーぶ! ちょっと試したいことがあるから」
「あ、タゲそっち行ったよ!」
言わんこっちゃない。バーサーカーのように攻撃するツツジの方へターゲットが移動する。アレクやヴァレスト、ティアなどの前衛勢も手伝いながら、ターゲットを消すようにしてるけど、どうにもツツジの手数が多すぎるのだ。
でもまぁ見ようじゃないか、ツツジがそういうのであれば。
「《朧影》!」
ツツジは何らかの新しいスキルを発動すると、そのまま攻撃しながら回避行動をする。逆手に持った短刀を握りながら、円を描くように斬りつける。その攻撃の中で触手攻撃やら噛みつき攻撃など多彩な攻撃パターンを見せるシャークラーケンだけど、その全てをギリギリのラインで回避する。
掬っても流れていく水のような感覚。掴もうにも掴めない。そんなもどかしさが、今は心強すぎる。
「こんなもんかな。さぁこい!」
しびれを切らしたシャークラーケンは天高く掲げると、ツツジに向かって8本の触手が1本ずつ振り下ろす。次々と襲いかかる触手だったが、そんな大振りの攻撃はツツジには届かない。間一髪、というには余裕すぎるほど、どんどん避けていく。
最後の1本が振り下ろされた後、彼女の周りには強大なオーラのようなものが漂う。なにあれ、めっちゃかっこいい。
「これでおしまい! 《無中のカウンター》!」
その一撃はただの斬りつけ、のように見えた。なんてことないただの横薙ぎ。だがその攻撃は残りのHPを7割から1割まで持っていくようなほどの強大で、同時に意味不明な威力だった。削りきらずとも一気に刈り取ったHPに満足したのか、Vピースの笑顔でこちらを見る。
「って! 今度は全体攻撃じゃん!」
「あ、やば」
HPが1割を切ったことで強制的に特殊行動が始まる。触手をビタンと思いっきり砂場に叩きつけると、シャークラーケンの身体が空へと打ち上がる。そしてターゲット表示が赤く表示された。効果範囲は私たち全員。どんな攻撃をしてくるかわからないけど、こんなところで負けるわけにはいかない!
「レアネラさん!」
「分かってる」
「「《視線集中》!」」
2人で盾を上空に構えて、シャークラーケンの攻撃を待つ。
すると、8本の触手が槍のように天から降り注ぐ。その全ては私と熊野に向けられている。よし、これなら私たちが耐えることができれば、勝てる。
それはまるでラッシュ攻撃8本もの槍が私たちの盾を貫かんと攻め立てている。確かにこれは、重たい……っ!
「《ブロック》!」
対物理シールドもすぐさま砕け散り、徐々にHPがイエローゾーンを超えて、レッドゾーンに突入する。いつ終わるともしれない攻撃に、私の心は折れそうになっていた。
「やばい!」
「私の後ろに隠れてください!」
「でも」
「でももだってもありません! みんなで勝つんです!」
熊野の言葉が励みになった。きっと熊野だってもうHPが消えそうなのに。でも多分私のほうがこのままだと先にやられる。無理をする場面じゃない。
「分かった、後は任せた!」
お言葉に甘えて、熊野の背中に潜り込む。後は熊野だけのオンステージ。残りのラッシュ攻撃を彼女だけが防がなくてはならない。
「……みんな、攻撃の準備をするわよ」
「おい、それって」
「くまちゃんを見捨てるなんてことしないわ。彼女だけが持つユニークスキルがあたしたちを勝利に導いてくれるんだから」
熊野が息を思いっきり吸い込む。今から何をすると言うんだろうか。
「《牙城のガーディアン》!」
《牙城のガーディアンが発動しました》
盾を構えながらも、ダメージを受けていた熊野のHPがスキル使用を皮切りに岩のように動かなくなっている。どういうこと。今でも攻撃を受けきっているのに。
「私のたった1つのユニークスキルです。相手の攻撃を一切受けない、いわゆる無敵モードですね」
「そんなのデタラメな!」
そして10秒、20秒と時間が過ぎていくと、力を失ったのか、ラッシュ攻撃が終わり、ビタンビタンと水を失った魚のように砂場に落ちてくる。
「ふぅ、なんとかなりました」
「あとは」
「あたしたちの出番ね」
その後、私を含めた全員の一斉攻撃によってシャークラーケンは細切れになり、消滅していった。
あと2話程度で4章も終わりです。
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